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「お疲れさま、飲み行く?」
席を立ちながら、同僚が言った。
「お疲れさま。ううん、今日は帰る。」
「分かった、また明日。」
「うん、また明日。」
会社から出てバス停まで2、3分。
今日、あった事を振り返る。
ライン…来てるかな。
バス停前に立つ。
鞄からスマホを取り出す。
右横にあるボタンを押す。
真っ黒だった画面が明るくなる。
[ライン、新着メッセージあり。]
そう通知がきていて、少しだけ緊張しながら
画面をトンッ、とタップする。
[元気?今日、荷物送ったからね。]
あの子、"かえで"じゃなかった。
母から。
[うん、元気。ありがとう!]
そう打って送信した。
……送って、みようかな。
[こんばんは]
後の文章が思い浮かばない。
考えていると、バスが来てしまった。
乗車して座る。
暗くなり始めている街をボーッと眺める。
ー((ブルブル))
鞄に入れたスマホが震えた。
母からの返信かな。
ラインのアプリを開く。
母の場所には受信のマークは付いていなかった。
あれ?
かえでの場所にマークが付いている。
ふぅ…、
息を吐いて開く。
[こんばんは(^_^)]
ん?
よく見るとさっき打っていた文章が送信されていた。
やってしまった。
ラインの画面をそのままの状態にして、
鞄の中に入れてしまっていた。
急いで返信を打つ。
[こんばんは。ごめんなさい。]
[なんで、謝るんですか?]
[あの…、文章を考えていて、"こんばんは"だけ、
送ってしまいました。]
[ダメなんですか?それだけじゃ。]
[何か他に会話しなきゃいけないのかと思いまして。]
[あまり深く考えないで送ってもらって、いいですよ。
普通に話しするみたいに。]
[それで、いいんですか?]
[はい、いいですよ。…ところで、1つ提案があるんですけど]
[なんでしょう?]
[あの、敬語、やめませんか?]
[はい、すぐには難しいかも、しれませんが。]
[それで大丈夫。あの、年齢を聞いても?]
[25です。]
[同じじゃん。]
[え、そうなの?]
[敬語やめてくれた。笑]
驚いて思わず。
[驚いちゃって。]
[明日も、いつもと同じバス?]
[うん、そう。]
[分かった、じゃあ、また明日、バスで。]
[また、明日。]
ライン上での会話が、終わった。
同じ年齢。
また、バスで。
乗車した時とは違う、
楽しい気持ちでバスを降りる。
明日、気になっていた事が聞けるかな。
少し、ワクワクした気分で自宅の鍵を開け、入る。
「ただいま。」
誰も居ないけど、言いたくなった。