【02】資料②
◇チャットルーム『有閑Chat』のログ
【No.】【time】【name】【message】
【01】【2020/08/04/15:59】【システム】【あねもねさんが入室しました】
【02】【2020/08/04/16:01】【システム】【Ω230601さんが入室しました】
【03】【2020/08/04/16:01】【システム】【カニコロさんが入室しました】
【04】【2020/08/04/16:02】【システム】【首なし王さんが入室しました】
【05.】【2020/08/04/16:03】【システム】【ドクママさんが入室しました】
【06】【2020/08/04/16:04】【あねもね】【ドクママさん襲い】
【07】【2020/08/04/16:04】【首なし王】【こんにちは】
【08】【2020/08/04/16:04】【カニコロ】【(・ω・)ノシ】
【09】【2020/08/04/16:05】【ドクママ】【遅くねーだろ。他の連中だって1分か2分オーバーしているだろ】
【10】【2020/08/04/16:05】【Ω230601】【みなさんこんにちは】
【11】【2020/08/04/16:07】【あねもね】【3分は許容範囲外】
【12】【2020/08/04/16:09】【Ω230601】【まあまあ、ケンカはやめましょうよ。一緒に人生を終える仲なんですから】
【13】【2020/08/04/16:12】【首なし王】【そうそう。茶番はいいとして、車は出せるの?】
【14】【2020/08/04/16:13】【Ω230601】【いけます】
【15】【2020/08/04/16:14】【あねもね】【じゃあ、決行日や場所はどうするの?】
【16】【2020/08/04/16:15】【ドクママ】【ならさ、どうせなら、この五人の誰とも無関係な場所にしない? その方が、なんか平等だろ?】
【17】【2020/08/04/16:17】【Ω230601】 【悪くないですね。それ】
◇遺族へのインタビュー(インタビュアー・竹中好文)
――では、もう録音してるんで。
遺族「あ、はい」
――改めまして、本日はインタビューに応じていただきありがとうございます。
遺族「いえ」
――では、小笠原達也さんの生前についてお伺いしたいのですけど。
遺族「そんな事より」
(ガサガサという紙束の鳴る音)
遺族「これを見て欲しいのですけど」
――何ですか? これは。
遺族「これが残ってたチャットのログです。その……自殺の直前の……。この“首なし王”ていうのが達也みたいです」
――拝見させてもらっても?
遺族「どうぞ」
(9秒ほど沈黙。紙を捲る音がわずかに聞こえる)
遺族「達也と一緒に見つかったのは三人。でもここには首なし王の他に四人います」
――ですね。います。
遺族「一人いないんですよ。このログを読む限り、五人で死のうって事になっているのに。見つかったのは達也も合わせて四人」
(5秒ほど沈黙)
遺族「おかしくないですか?」
◇竹中好文の取材メモ(1)
・茂刈山集団自殺者一覧
①Ω230601=岸和田常文(48)
自殺の動機はチャットログなどから、事業に失敗し多額の借金を負った事だと思われる。現場となった茂刈山の駐車場までは、彼の車でやって来たようだ。なお車内ではなく、わさわざテントを自殺する場所に選んだ理由については、後述の小笠原達也のスマートフォンに残されていた動画内で語られる。自殺者が集まっていたチャットルームを立てたのは彼である。
②首なし王=小笠原達也(21)
自殺の動機は、漠然とした未来への不安や孤独感。就職活動が上手くいかない事への焦り。大学生。死亡前、茂刈山の駐車場から死の直前までスマートフォンで動画撮影を行っていた。
③あねもね=酒井美由利(19)
自殺の動機はチャットで様々に語られているが、その時々で言ってる事に矛盾があり、どこまでが本当かは解らない。ただ高校を二年で退学し、家出をして新宿の違法風俗店で働いていた事は判明している。神奈川県出身。
自殺方法を提案したのは彼女である。
④カニコロ=豊田祥子(37)
自殺の動機はチャットログによれば夫のDVと浮気であったが、実際は浮気したのは自身であり、それが原因で1年前に離婚している。三鷹市出身。
⑤ドクママ=?
小笠原達也撮影の動画によると、白髪交じりの長髪、やせ形で落ち窪んだ目、浅黒い肌と痩けた頬。歳は岸和田と同年代か少し上ぐらい。自殺の動機は不明だが、ベシミストらしく、政権や有名企業、有名人などをかなり激しい調子で批判していた。
*四人に着衣の乱れはなく、現金やカードなどの貴重品も残されていた。
◇対応に当たった所轄の警察関係者のインタビュー(インタビュアー・竹中好文)
(酔客の喧騒、店員の声、食器やグラスの音が重なって聞こえている)
警察関係者「東京のライターさんなんだっけ? これ、もう録音してる?」
――はい。それでは、さっそくなんですけど
警察関係者「あー、ちょっと、待って」
(百円ライターのホイールを回す音 18秒ほど沈黙)
警察関係者「で、あのおかしな自殺の話だっけ?」
――はい。被害者の身元は判明しているんですか? 新聞に名前のあった2人以外のも。
警察関係者「ああ、うん……女2人は」
(ここで、岸和田、小笠原、酒井、豊田の詳細な情報を聞く)
警察関係者「ただ、最後の一人は、まだ解ってない」
――という事は、やっぱり5人目がいたっていう事ですか?
警察関係者「うん。そう。いた。現場に5人目が。これはちゃんと裏が取れてる。若い男……小笠原がさ、死ぬまでの様子をスマホで撮影しててさ。そこに映ってたから間違いない。その動画、見たい?」
――見せていただけるなら。
警察関係者「じゃあ、もう少し、こっちの方、はずんでくれる? あと、これだけ」
(3秒ほど沈黙)
――良いですよ。では、このアドレスに送っていただけると。
警察関係者「いや。直接コピー渡すよ。そっちの方がバレない」
――解りました。
警察関係者「じゃあ、後日連絡するから」
――それで、その5人目はどういう人物だったんですか?
(ここでドクママの風体などの情報が語られる)
警察関係者「一応、行方は追ってるみたいだけど、この自殺、いろいろとおかしいらしいんだよ」
――というと?
警察関係者「まず、現場の状況だけど、四人が死んでいたテントは内側から貼られた目張りがされてたんだけど、発見時には剥がされて入り口が開いてた」
――その五人目は死の直前でテントから脱出したという事ですか?
警察関係者「ああ」
――その脱出するところは、さっきの動画に映ってなかったんですか?
警察関係者「そう。映ってない。少なくとも、動画のバッテリーだかストレージだかがなくなるまでの間は、その男はテントから出てない。で、検死結果によると、四人の死因は一酸化炭素中毒。睡眠薬も飲んでたらしいけど、そっちで死んだ訳ではないらしい。おかしいだろ?」
(5秒ほど沈黙)
――どういう事ですか?
警察関係者「いや。もしも5人目が死ぬ前に目張りを破ってテントの外に出たんだとしたら、そのときにテントの中は換気されるだろ? それで一酸化炭素中毒になるのはおかしい」
――ああ。確かにそうですね。
警察関係者「もちろん、四人が死ぬギリギリに5人目がテントから脱出したのかもしれない。だが、そんなタイミングよくいくか? それに、さっき言った小笠原の動画でも確認できるが、その5人目も、しっかり睡眠薬を飲んでいる。動画を見る限りじゃ、たぶんその男は死んでもおかしくない時間、テントの中にいた事は解っている」
――確かに、言われてみればおかしいですね。
警察関係者「たぶん、この事件はまともじゃあない。何か裏がある。そもそも、あの山はおかしいんだよ。昔から色々とな」
――と、言いますと?
警察関係者「いや。くだらん怪談話の類いだ。もっとも、この集団自殺もその類いかもしれないけどな。まあ調べてみたらいい。いろいろと出てくる」
(17秒ほど沈黙。そのあと、警察関係者が何かを思い出した様子で吹き出す)
――どうしたんですか?
警察関係者「いや。ちょっと前に聞いた別な怪談話を思い出しちまってさ。同業者から」
――え? どんな話ですか?
警察関係者「なあ、あんた。この一件を追うのは勝手だが、2人の少女を見たら、もう深入りしない方がいいかもしれん」
――どういう事ですか?
警察関係者「俺らの県の警察関係者の間ではあるんだよ。変な噂が」
――変な噂?
警察関係者「不気味な事件が起こって、妙な2人組の女子高生と出くわしたら、その事件は本物だってな」
――本物? その2人組の女子高生って、何なんですか?
警察関係者「さあ。俺も話に聞いただけだからな。たぶん、幽霊みたいなやつだろ。くだらん怪談話みたいなもんだろうけど。忘れてくれ」




