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ゆるコワ! ~無敵の女子高生二人がただひたすら心霊スポットに凸しまくる!~  作者: 谷尾銀
【File54】錬金術師の家

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【12】後日譚


 あのあと桜井と茅野は、連絡を受けて駆け付けた県警の篠原に盛大に呆れられて怒られたが、完全に馬耳東風であった。

 それはさておき、連休明けだった。

 如何なる怪異にも動じない桜井と茅野であったが、いつも通り登校した藤見女子高校で、大いに驚く事態となった。それは、昼休みの事だった。

 例の高柳邸こと錬金術師の家について、情報提供をしてくれた二堂凪と上野貞子の所属する一年三組の教室へと向かった。

 その西校舎一階にある教室内には、二堂の姿はあったが、上野が見当たらなかった。そこで二堂に上野の事を尋ねると、次のような予想外の答えが帰ってきた。


「……ウエノサダコ? 誰ですか? それ」


 教室後部の戸口で二堂が首を傾げた。

 桜井と茅野は大きく目を見開く。

「いや、あの金髪で(・・・・・)青い目の子(・・・・・)。留学生っぽい外見だけど、実は群馬生まれだっていう……」

 桜井の言葉に、二堂はきょとんとした後、盛大に吹き出す。

「え、本当に何の話なんですか? 先輩」

 訳が解らないといった様子の二堂に茅野が質問を重ねる。

「いや、貴女、私たちの部室に来たじゃない」

「ええ。行きましたけど」

「そのとき、クラスメイトの上野貞子さんから聞いたっていう“錬金術師の家”っていう心霊スポットの話をしてくれたわよね?」

 二堂は「は?」と驚いた様子で声をあげて苦笑する。

「本当に何を言ってるんですか先輩。錬金術師の家? 私、そんな話、知らないです。部室に伺ったのも、先輩たちが文化祭のとき公開してたゆっくり怪談動画が面白かったから、その感想を伝えにいっただけですし」

「えっ、え……本当に、それだけ?」

 目を白黒させる桜井の言葉に、二堂は「はい。そうですよ。そんな心霊スポットの話なんかしてませんけど」と言った。

 どう見ても、二堂は嘘や冗談を言ってるようには思えなかった。

 桜井は茅野と顔を見合わせる。

「循、これは……」

 茅野は神妙な表情で桜井に頷き返すと、二堂に向かって言った。

「おかしな事を言って、ごめんなさい。こちらの勘違いだったみたい。邪魔したわね」

「え? いいえ。別にいいんですけど……」

「気にしないで。忘れて頂戴。梨沙さん、行きましょう」

「あー、そだね」

「えっ、え?」

 桜井と茅野は、困惑する二堂の視線を背に受けて部室へと戻ろうとする。一階の廊下を渡り生徒玄関を目指す。その途中で桜井が難しげな顔つきで声をあげた。

「確か前にも、似たような話がなかったっけ。友だちが実はいなかったっていう……」

「“禁后(パンドラ)”の一件のときね。菅野亮さんと一緒に湖畔の家に行った友人とその恋人が実は存在しなかったっていう……自分が体験するとなかなか不気味ね」

 と、言いつつ、茅野の顔は楽しげだった。

「上野さんの事、金髪だったのと、眼が青かった事以外、全然思い出せないや」

 桜井は両腕を組み合わせて唸る。すると茅野が何事かを閃いた様子で口を開く。

「梨沙さん」

「何?」

「上野貞子さんの“(さだ)”という字は“てい”とも読めるわよね?」

「それがどうしたの?」

「上野貞子さんの貞を“てい”と読んで、すべて平仮名にして並べ変えると“えいこうのて”になるわ」

「栄光の手……」

 桜井がはっとして目を見開く。茅野は深々と頷いて言葉を続けた。

「今回の一件には、あの魔術師が関わっているのかもしれないわね」

 そんな二人の様子を、一匹の鼠が廊下の角からじっと見つめていた。




 部屋の片隅では蓄音器ちくおんきがモーツァルトの『死者のためのミサ曲』を奏でていた。

 中東の意匠が施された絨毯、悪魔の口のような仄暗い暖炉とマントルピース、エミール・ガレを思わせる捻れたランプシェード……。

 緑がかった毒々しい色合いの照明が室内の不気味な調度類を照らしている。

 奥の壁にかけられた大きな額縁に納められているのは、ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』であった。

 その応接の革製のソファーで、テーブルに置かれた水晶球をサファイアのような碧眼で見つめるのは、流れるような金髪の少女であった。

 魔術師hogである。

 彼女の視線の先にある水晶球には、使い魔である鼠の目を通して映された桜井梨沙と茅野循の姿があった。どうやらグラウンド脇の部室棟に戻るところらしく、生徒玄関で靴を履き替えている。

 その二人の会話を耳にしたhogは口角をわずかに釣りあげて、感情の籠らない機械のような声音で呟く。

「……気がついたようだな」

 彼女が桜井と茅野を高柳邸へと向かわせた動機は非常にシンプルで“むしゃくしゃしたから”であった。

 やっと探し出したと思った賢者の石があんなものだったなんて……オカ研の二人に先んじて、あの地下室に辿り着いていたhogは大きく失望した。求めていた賢者の石は錬金術の奥義などではなく、忘れ去られた技術をそう例えただけであった。

 ここで、hogは自分自身の考察の甘さに腹が立った。ハロウィンでのお菓子を期待していた子供のように、賢者の石が高柳邸の地下にあると疑っていなかった自分自身に嫌悪感を覚えた。

 彼女は魔道の深淵を歩き、人間を超越した価値観を持ってはいるが、その一方でまだこうなる前の少女だった頃の未熟な感情も持ち合わせていた。

 その精神性がhogの脳裏に恐るべき天啓をもたらした。

 それは(・・・)奴らを(・・・)あの地下室に(・・・・・・)向かわせる事(・・・・・・)だった(・・・)

 奴らをけしかければ、きっと好き放題やらかしてすべて無茶苦茶になるに違いない。

 hogはさっそく奴らに高柳邸の情報を与えた。その結果は大満足であった。




 それは生徒玄関だった。

 靴を履き替えようとしていた桜井は、下駄箱の上から自分を見下ろす一匹の鼠に気がついた。

「おっ、ねずみさんだ」

 すでに靴を履き替えた茅野もその鼠に気がつく。

「珍しいわね。校舎内でお目に掛かるなんて」

 鼠がくるりと背を見せて、桜井がいる方向とは反対側へと逃げようとした。普通ならばすばしっこくて小さい鼠をとらえる事など常人には難しい。しかし、桜井は爪先立ちになって手を伸ばし「てりゃ!」と、気合いの声をあげて、その尻尾をつまんだ。

 右手の指先できーきーと鳴き声をあげる鼠を、桜井は鼻先で見つめた。

「こんなところにいると危ないよ。外へとお逃げ」

 そう言って、生徒玄関の外へと鼠を逃がしたのだった。






(了)

Next haunted point『八十上村』


次の話投稿まで、また少しお時間ください。また近いうちに再開します。

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― 新着の感想 ―
hogは八つ当たり出来てスッキリ 二人は心霊スポット行けてニッコリ ……WinWinだな!
[良い点] 2人の所に来た二堂凪がhogの擬態だと思っていましたが、外れていました。 [一言] 次の話も待っています。 この作品とは関係ないですが、賢者の石で昔に読んだ『鋼の』の二次創作小説を思い出し…
[良い点] アイツら(二人)ぶつけとけば良い感じになるやろ って認識されてんのかww 鉄砲玉かな?w
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