表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるコワ! ~無敵の女子高生二人がただひたすら心霊スポットに凸しまくる!~  作者: 谷尾銀
【File52】忌山

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

774/852

【07】奇妙な石碑


 柏崎操は膝を抱えたまま視線を上にあげる。

 すると茅葺(かやぶき)の軒と軒の間から見える空は分厚い黒雲に覆われていた。蛇腹のように不気味に(うご)めきながら、かなりの速さで風に流されているようだったが、いっこうに雲間は現れない。

 柏崎は己の膝に額を載せて、目を閉じた。もう何も考えたくない。急激に疲労感と倦怠感が込み上げてくる。

「うううっ……」

 絶望が嗚咽(おえつ)となって漏れる。父親、母親、大切な人の顔が頭を過る。その直後だった。

「あ、いた!」

 場にそぐわない明るい声が響いた。反射的に顔をあげ、声の聞こえた方へと視線を向ける。すると、あの二人の少女が表通りから路地を覗き込んでいた。柏崎は顔を引き()らせる。

「あ、あなたたち……」

「あとの四人は?」

 と、気軽な調子で言い、小柄な少女が路地に足を踏み入れる。

 柏崎は「ひっ」と悲鳴をあげると、壁伝いに立ち上がった。その脅えた顔つきを見て、小柄な少女は苦笑する。

「だいじょぶ。だいじょーぶ」

 そして、迷子になった子猫に対してそうするように、ゆっくりと迫って来た。

 柏崎は更に表情を恐怖に歪ませ、壁を背にしたまま奥へと後退りする。

「こわくなーい、こわくなーい……」

「……大丈夫よ。ここから帰る方法を私たちは知っている」

 その背の高い少女の言葉は、本当なのだろうか。確かに、この二人は訳知りの様子だった。しかし、それにしても、なぜ、そんな事を知っているのか。

 柏崎の心に疑念が渦を巻き始める。

 すると、その次の瞬間だった。少女たちのいる表通りとは反対方向から物音がした。

「ひっ!」

 驚いて、柏崎は背筋を震わせながら、そちらの方を向いた。すると、ざんばら髪の小面が、反対側の路地の入り口からこちらへと向かってくるではないか。

 柏崎は絶叫した。小面が首を振りながら右手を振りかぶった。そこに握られていたのは、五十センチ近い長さがありそうな金属製の叩き(のみ)であった。

 柏崎は身体を硬直させ身を縮める。そして、叩き鑿が振り下ろされようとした正にその瞬間だった。右手を掴まれて表通りの方へと引っ張られる。

「こっち! 早く!」

 あの小柄な少女だった。その身体に似合わない力強さで、柏崎は路地から表通りの路上へと連れ出される。

「大丈夫かしら? 邪魔になるといけないわ」

 と、言われ、背の高い少女に腕を掴まれて、路地の入り口から反対の沿道に移動させられる。

 そこで小柄な少女の方を再び見ると豪快な一本背負いで、路地から小面を引っこ抜くように投げ飛ばしていた。

「うりゃー!」

 路上に背中を打ちつける小面は、すぐに起きあがろうと後頭部を浮かせるが……。

「はい」

 小柄な少女は両足を揃えて跳びあがると、小面の顔面に着地する。

 ばきん……という乾いた破壊音。柏崎はぎゅっと目を瞑った。

 近くにいた背の高い少女が忌々しげに声をあげる。

「……不味いわね。あの一匹だけじゃなかったなんて」

「循、やっぱり、こいつ、仮面が弱点みたい」

 その声を耳にした後、柏崎は恐る恐る目を開いた。

 すると、そこで襲い掛かってきた者の正体が、のっぺらぼうの人形である事に気がついた。

「人形が……ど、どういう事なの?」

 柏崎は双眸(そうぼう)(またた)かせる。

 すると、背の高い少女が不敵な笑みを浮かべながら言う。

「……兎に角、私たちといれば安全よ」

 柏崎には、この二人が何者なのかはさっぱり見当がつかなかった。それでも今の言葉が真実であるというのはよく解った。

 少しの恐怖感は残っていたが、この二人と行動を共にする事にした。



 小面は村内の到るところに彷徨(うろつ)いていた。しかし、茅野の的確な指示で見つからずに移動する事ができた。

 一度だけ狭い路地を通り抜けるとき、勝手口の板戸を突き破って現れた小面に急襲を受けるも、これを桜井が難なく退ける。

 この二人はいったい何なのか。柏崎の脳裏から、その疑問が消える事はなかった。自己紹介によると、県内の学校に通う普通の(・・・)女子高校生で、オカルト研究会に所属しているとの事だった。

 どう考えても普通じゃないだろ……と、心の中で突っ込みつつも、柏崎は二人と行動を共にし続ける。

 彼女たちの話では、この場所に来たときと同じように七人じゃないと帰れないらしい。残りの四人を探しながら、村の外をいったん目指しているのだという。

 そうして、柏崎は二人の少女と共に、その場所へと辿り着いた。

 そこは三叉路で、うろのある大きな柿の木が中央にあった。ちょうど金槌を手にした小面が、その前を横切ったあとだった。

 建物の影から様子を(うかが)っていた茅野が、何かに気がついた様子で小声をあげた。

「あのうろの中に何かがあるわ」

 その直後、小面は立ち止まり周囲を見回すと、茅野たちが身を潜めた場所に背を向けて、その場から立ち去ろうとした。

「梨沙さん!」

「らじゃー」

 桜井が勢い良く返事をして飛び出す。小面が振り向く。金槌を振りあげるが、その次の瞬間に飛び膝蹴りが顎を跳ねあげた。

 大きく仰け反る小面を、そのまま押し倒す桜井。即座に立ちあがると、小面の(めん)を踏み割った。

「よし……」

 桜井は一仕事終えた職人の顔つきで、額に滲んだ汗を右手の甲でぬぐう。すると、茅野が路地から出て三叉路の中央へと近づいていった。柏崎も後に続く。

 そして、柿の木のうろを覗き込んだ茅野は神妙な声をあげる。

「……これは」

 そこにあったのは一枚の石碑であった。

 プールで使うビート板程度の大きさで、表面には奇妙なヒトガタが浮き彫りにされていた。

 それは着物をまとい、烏帽子(えぼし)を被り、御幣(ごへい)のぶら下がった棒を左肩に担いで、右手で扇を開いている。片足をあげており、祭りか何かで踊っているように見えなくもない。

 しかし、何よりも奇妙で目をひいたのは、その顔が描かれていない事だった。

 それは他の部位の描かれ方と比べるに、デフォルメされ、省略されている訳ではない事が窺いしれた。

「循、これは、いったい……」

 桜井が茅野の顔を見た。すると、彼女は鋭い眼差しを石碑に向けたまま答える。

「……ぱっと、思い付いたのは申八梵王(さるはちぼんのう)ね」

「さるはち……ぼんのう?」

 桜井が首を傾げ、茅野は解説を始める。

「柳田國男先生によれば、農村部には古来より、春になると山の神が里へと降りてきて田の神となり、恵みをもたらし、秋になると里を離れて山へと戻り、再び山の神になるという信仰があったというわ。その神様の使いとされたのが、山から里にやって来た動物だったと言われているの」

 ここまで一気に語った茅野に対して、話をまったく聞いてなさそうに桜井が「ふうん」と相づちを打つ。

 柏崎は不安にかられたが、茅野は気にした様子もなく言葉を続けた。

「そうした動物の中で、猿を描いたものが申八梵王と呼ばれているわ。これと似た石碑が埼玉の慈光寺にあるのだけれど……」

 そこで茅野は言葉を詰まらせる。桜井が(いぶか)しげな様子で口を開いた。

「これ、猿じゃないよね……」

「ええ」

 茅野は同意して頷く。柏崎も同感だった。

 そのヒトガタは顔が描かれていない事を差し引いても、猿には見えなかった。

 細長い枯れ木のような手足。そして、顔のない頭部は異様に大きい。

 これが、山から下りてきた動物を描いたものだとしたら、いったい何だというのか。

 柏崎にはまったく見当もつかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 王大人「柏崎、生存確認」 生きて帰れるけどSAN値が無事かは保証外ですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ