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ゆるコワ! ~無敵の女子高生二人がただひたすら心霊スポットに凸しまくる!~  作者: 谷尾銀
【File50】薔薇屋敷

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【12】後日譚


 夫を殺した女が隣家の引きこもり少女になり代わって、彼女の部屋に潜伏していた。この異常な事件は、全国で大々的に報道された。

 犯人の女は警察の取り調べに対して「金目当てではない。隣の家の少女に(のぞ)かれたから殺した」などと答え、他にも支離滅裂な言動を繰り返しているのだという。

 さておき、その週の日曜日の昼過ぎだった。

 『洋食、喫茶うさぎの家』のランチタイムが終わった後の閑散とした店内での事だった。

「……くっ、やっぱり、梨沙ちゃんの料理、美味しい」

 粉チーズをたっぷりかけたナポリタンを味わい、カウンター席に腰を掛けた九尾が言った。

 カウンターの中で、その言葉を満足げな表情で受けとめる桜井。そして、九尾の右隣でたっぷりと甘くした珈琲(コーヒー)を済まし顔で(すす)る茅野が口を開いた。

「それで、先生はいつまでこっちに?」

「うーん、どれくらいになるかはちょっと解らないけど、たぶん今月一杯くらいは……」

 と、九尾が茅野の質問に答えると、桜井が満面の笑顔で諸手をあげた。

「わーい。なら、また食べに来てよ」

 その誘いの言葉に、九尾は悔しそうな顔つきで「そ、そうね。また来るわ」と言った。

 すると、茅野が例の一件について話を切り出す。

「それで、犯人の榊原についてだけれど……」

「ああ、篠原さんの話だと、ほとんど循ちゃんの想像通りで間違いないみたい」

 あの桜井梨沙と茅野循が関わっているという事もあり、その辺りの事情を知る刑事が篠原の元に話を通したのだそうだ。

 それによると、彼女は本棚の薔薇について以下のような話をしたのだという。

「彼女、荒井陽希子の部屋に潜伏中、殺したはずの彼女が窓の外に立つ姿を目にしたみたい」

 その陽希子の亡霊は、だいたい彼女を殺した時間に毎夜現れたのだそうだ。

 しかし、陽希子は怨念の籠った眼差しで、佇むばかりで、何もして来なかったのだという。夜が白み掛かる頃に、いつの間にか消え失せる。

「……それで、榊原はなぜ被害者の少女の霊が何もしてこないのか、不思議に感じたそうよ」

 考えた末に、彼女は祖母の言葉を思い出す。それは窓辺に吊るしたドライフラワーの薔薇冠のお陰ではないのか、と……。


 『……瑞江ちゃん、薔薇の花にはね、良くないモノを退ける力が宿っているんだよ』 


 どうやら、その薔薇冠は瑞江が幼い頃に祖母からもらい、ずっとお守り代わりにしていた大切なものらしい。普段は自室の壁に掛けて飾っていたのだという。

「彼女によれば、家族で自分だけが無事だったのは、この薔薇のお守りのお陰なんだっていう話だけど……」

「何の事やら」

 桜井が眉間にしわを寄せて小首を傾げた。

「まあ、その辺りは彼女の生い立ちに関係がある事っぽいんだけど、そこは事件とは無関係だから、はしょるわね」

 と、九尾は言って話を続けた。

 それから瑞江は、人目のない明け方、例の薔薇冠を手に、再びガレージの屋根を伝って榊原邸に戻った。そして、温室で摘んだ薔薇を例の棚に納めたのだという。

「そのあと、被害者の霊が窓辺に立つ事はなくなったそうよ」

「薔薇って、対心霊の効果が凄いんだね」

 と、桜井が言うと九尾は苦笑する。

「まあ、けっきょく、“相性”次第なんだけどね。効かないときは、効かないわよ」

 万物には“相性”があり、それが合わない存在に霊は干渉できない。

 霊に縁が深い者は“相性”も近くなりやすい。また“相性”は生者が霊と関わりのある言動を取る事でも近くなる。

 例えば、その人物が死んだ場所に(おもむ)く、その人物の生前所持していた物に触れる、その人物の事を口にする、などなど……。

 そうして“相性”が死者と近づき、その霊に干渉を受ける事を“祟り”や“呪い”という。

 そして、これは除霊をする側も同じである。“相性”が近くない霊を祓う事はできない。

 今回の場合であると、荒井陽希子の霊と薔薇の“相性”が偶然にも近かったため、榊原瑞江は霊障に見舞われる難を逃れる事ができたのだ。

「……そういえばさあ」

 と、桜井が何事かを思い出した様子で言葉を発した。

「……循は、何であの腐乱死体が陽希子さんだって気がついたの?」

 茅野循も荒井陽希子の外見を知らなかったはずである。その質問に彼女は不敵な微笑みを浮かべながら答えた。

「それは、身長よ。あの死体はどう見ても、梨沙さんと同じくらいか、それよりも小柄だった」

「それがどうかしたの?」

 九尾はそう言って、ナポリタンをずるずると(すす)る。

 茅野は右手の人差し指を立てて、答えの続きを述べた。

あの家にあった(・・・・・・・)フライパン(・・・・・)……梨沙さんは手に(・・・・・・・)取ろうとして(・・・・・・)届かなかった(・・・・・・)でしょう(・・・・)?」

「あー、バーミキュラの……」

「だから、あれで、あの家の住人はかなり身長が高いんじゃないかと思ったのよ。もちろん、旦那が高身長で、榊原瑞江の方はまったく料理をしないっていう可能性もあるわ。でも、あの棚には薬缶(やかん)もあったわよね?」

「なるほど。料理しない人でもヤカンぐらいは使うしね」

 桜井が得心した様子で頷く。

「……それと、車庫の梯子。あれを使えば、陽希子さんの部屋と榊原邸を簡単に行き来できると思ったの。そして緊急事態宣言下ともなれば、深夜に帰宅する人も、出掛ける人もいないだろうし、あの手の住宅街だったら人目につく事もない」

 そこで、茅野は珈琲を一口含むと、憂いを帯びた顔つきで続けた。

「……そんな事より、高阪さんが心配ね」

 現在、高阪美子は一連の報道を受けて、かなりのショックを受けているらしい。学校も休んでいる。

「まさか、このまま、不登校になるなんて事は流石にないと思うけど……」

「今度、お菓子を持っていってあげよう」

 桜井がそう言った直後だった。

 からん……とカウベルの音が鳴った。客が来たらしい。

「いらっしゃーい」

 桜井が少し間延びした声をあげ入り口を見ると、そこに立っていたのは、今話にあった高阪美子本人であった。

 高阪は力のない微笑みを浮かべて言う。

「……ごめん。とつぜん。二人にお礼を言ってなかったなって、思い出して……」

「お礼なんて良いわ。レア物の報酬はすでに受け取っているし」

 その茅野の言葉に桜井が同意する。

「そうそう。それより、美味しいものでも食べて行きなよ。珈琲つきで一品サービスするから」

「うん……」

 と、頷き、高阪は茅野の隣に腰をおろした。そこで九尾の方を見て桜井に尋ねる。

「この方は……?」

「九尾センセだよ」

「キュウビセンセ……この人が……」

 その高阪の言葉を聞いた九尾が眉を釣り上げる。

「……ちょっと! わたしの事を、またポンコツとか、変な風に言ってないでしょうね?」

「別に何にも言ってないよ」

「ええ。でも、それは墓穴よ、先生」

 桜井と茅野が笑い、九尾が「しまった」と言って目を丸くした。

 そのやり取りを見た高阪は、ほんの少しだけ微笑む。




 ……この数年後だった。

 今回の事件の舞台となった榊原邸は『薔薇屋敷』などと呼ばれ、有名な心霊スポットとなる。






(了)

Next haunted point 鉄砲坂の家


※またスケジュールの都合でお時間をいただきたいです。次回の投稿に関してはTwitterや活動報告でお知らせいたします。

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― 新着の感想 ―
2話?辺りのはそういうことだったのね。てっきり本当に入れ替われたと思った。 今回はちょとあっさりめのビタースイートだね。高坂さんと荒井さんはあまり描写されてないから思い入れあまりないけど、結構惨い状…
[気になる点] 「瑞江」と「瑞枝」が混在しています。 [一言] 九尾先生の餌付け完了ですね!
[良い点] 九尾たんは思った。この二人と私は絶対に相性が悪いは……。 怪異達も思った。あんさんよりもうちらの方が絶対に相性が悪いは(なんで物理でしとめられるん?) [気になる点] 桜井「珈琲付きで一…
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