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ゆるコワ! ~無敵の女子高生二人がただひたすら心霊スポットに凸しまくる!~  作者: 谷尾銀
【File20】自殺団地

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【09】USBの中身


 雨は既にやんでいたが、都心上空には依然として重々しい黒雲が渦を巻いていた。

『という訳で、九尾先生。僕の体験した出来事はいったい何だったのでしょう? 納得のゆく解釈をつけていただきたいのですが』

「うーん……」

 九尾天全は腕組んで思案する。

 桃田の失踪は単なる逃亡であろう。もう搾取(さくしゅ)しきって用済みとなった畠野を見切ったのだ。

 しかし、鎌田絵美を名乗る人物の目的は、いったい何だったのか。

 そもそも金に困った畠野の前にタイミングよく現れたのは、偶然だったのか。彼女は何者だったのか。

 畠野が預かったUSBには、いったい何のデータが入っていたのか。

「うーん……」

『どうでしょう? 先生』

 まずは、その一本松団地について調べてみるべきかもしれない。

 スマホを手に取る。しかし検索エンジンに“一本松だん”まで入力したところで手を止める。 

「まあ……直接(・・)訊いて(・・・)みた方が早いか(・・・・・・・)

『はい? 何がです?』

 画面の向こうで首を傾げる畠野。九尾は苦笑しながら断りを入れる。

「あ、いや……ちょっと待ってくださいね」

 そう断って再びスマホに指を走らせ、桜井梨沙と茅野循にメッセージを送った。




『九尾センセ。お久し振り』

『お元気そうで何よりだわ。先生』

「貴女たちも、相変わらずね」

 九尾のノートパソコンの画面には、三人の映像が並んでいた。

 右から畠野俊郎、桜井梨沙、茅野循である。

『九尾先生。この二人ですよ! あの廃墟で出会った女の子っていうのは!』

 興奮した様子の畠野。

『ああ、誰かと思ったら、あのときのおじさんじゃーん』

『こちらも元気そうね』

 桜井と茅野の方も彼に気がついたようである。

『んで、あたしたちに話したい事って何なの? 九尾センセ』

 桜井が首を傾げる。

「貴女たち、今年の二月一日に、一本松団地の廃墟に行ったでしょう?」

『そちらの畠野さんから聞いたのね?』

「そうよ。それでなんだけど……あ、畠野さん」

『何でしょう?』

「この子らに、貴方から聞いた事を話すけれど、大丈夫かしら?」

 畠野は逡巡(しゅんじゅん)しながらも『それが必要な事なら』と言って了承する。

 九尾天全は桜井と茅野に、畠野の体験した出来事の要点をかいつまんで話して聞かせた――


『なるほど。そんな面白……いや、奇妙な背景があったとは驚きね』

 茅野は得心した様子で頷く。

『じゃあ、おじさんは、あの団地へ自殺しにきたわけじゃないんだね』

 その桜井の言葉に畠野は苦笑しながら首を振る。

『いやいや、自殺なんて、そんな……』

『でも、おじさん、あのB222のベランダから首を吊ろうとしていたじゃん』

『え!?』

『私と梨沙さんで助けたのだけれど、覚えていないという事は、どうやらあれは霊障らしいわね』

『ええっ!?』

 畠野は目を見開き驚愕(きょうがく)する。

 今度は二人が、あの団地で二月一日に彼と遭遇したときの事を話す――


「成る程……」

 九尾は納得した様子だったが、畠野の方はやはり困惑気味だった。

 そんな彼の心情などお構いなしに桜井が得意気な顔で胸を張る。

『あたしの腹パンのお陰だよ。正気に戻れたのは』

『は、はあ……あ、ありがとうごさいます?』

 曖昧な笑みを浮かべながら首を傾げる畠野。

 次に桜井は九尾に向かって問う。

『やっぱ、腹パンって霊に効くの?』

「身体の中の物を吐き出させるのは、効果がない訳ではないけど、根本的な解決にならない場合が多いわね」

『ふうん』

 と、いつもの話を聞いているのかいないのかよく解らない返事をする桜井だった。

「 恐らく一本松団地で畠野さんの意識を操作していた霊は、その土地に縛られていた。だから、腹パンで一時的に正気に返っている間に土地を離れた事で、畠野さんにその力が及ばなくなっただけだと思うわ。だから、あまり腹パンを過信しちゃ駄目よ?」

 忠告したあと、九尾は内心で、腹パンを過信するとかしないって何だよ……と、自分が口にした言葉のイカれ具合に辟易(へきえき)する。

 ともあれ、話を本題に戻した。

「……で、畠野さんに起こった一連の出来事なんだけど……」

 すると茅野は確信に満ちた表情で、その言葉を口にした。


『それなら、だいたい(・・・・)解ったわ(・・・・)


 そこで茅野は『ちょっと、待っていて頂戴(ちょうだい)』と断りをいれて、画面をそのままにして離席する。

 一分程度で戻ってくると、右手で摘まんだそれをウェブカメラにかざした。

 それは何の変哲もない一本のUSBである。

『それはもしかして……』

 畠野が目を見張り、茅野は首肯する。

『そうよ。これは、あの日、一本松団地B棟の花壇に落ちていた物』

『帰り際に目についたから拾ってきたんだ』

 と、桜井。

 茅野は念を押すように畠野へと確認する。

『貴方が鎌田を名乗る人物から預かったUSBはこれね?』

『ええ。その通りです』

 やはり、気になるのは中身である。九尾は茅野に問う。

「そのUSBには何が入っていたの?」

 茅野は聞き流しそうなくらい、あっさりと答える。

何も入って(・・・・・)いなかったわ(・・・・・・)

 九尾と畠野の目が点になる。

「何もない?」

『そんな馬鹿な……何もないって、データが空って事ですか?』

『ロックはかかっていたけれど、中身のデータは何の意味もなさない瓦落多(がらくた)だった』

 茅野はきっぱりと答える。

『い、いったい、どういう事なんですか……そのUSBはいったい……』

 すると茅野は悪魔のように微笑んで、真相を語り始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] これから毎日除霊(物理)行こうぜ!(腹パン
[一言] あー、保険金目的か…… 自殺だと一年前から準備しないと降りないからマジに悪質な犯人だな 桜井「私の腹パンはクリティカル判定が出ると除霊効果がでます!」 九尾「クリティカルしたら物理ダメージ…
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