06 閑話
とある民の独り言。
空を見上げ、ふと、気づいた。
空が、暗い。
変だな?
今は昼。確かに青空が広がっているのに、なんだか、どんよりとした曇り、というよりも、雨の日のように薄暗い。
皆は気づいていないのか?
道行く人々の視線は、下を向いていて、気づく様子はない。
何だか、近頃奇妙な事ばかりだ。
今日の薄暗さだってそうだが、つい先週の話だ。東を流れるフルス川。そこで、魚の死体が上がった。いや、死体が一つ二つなら話題にならないのだが、そんな話じゃなかったんだ。
橋をかけるほど幅のある川一面にびっしりと。川の流れが止まっているのかと疑いたくなるほど、流れる事もなくぷかぷかと浮かんでいたそうだ。
毒か病気か。
何があったのかわからない。
量が量で簡単に破棄する場所もなく、どうしたものかと派遣した兵士が悩んでいた。そこにスラムの連中があらわれ、止めるのも聞かずにかっぱらっていったんだと。まぁ、相手はスラムの連中だ。アイツらがどうこうなっても、誰も関与しない。兵士たちもそう強くは止めなかったそうだ。一応、体裁をとった、という程度だったとか。
で、だ。何も起きないわけもなく。
魚を食ったスラムの連中は、全員死んだ。それも、奇妙な死体だったそうだ。
頭が内側から腫れ上がり、目が飛び出し、歯が奇妙な牙のような形に変わり、吐血していた。何があったのか、全身をかきむしり、血まみれだったそうだ。
死因は失血死。
つまり、失血して死ぬほどの傷を、自らの爪でつくった、ということだな。
聞くだけで恐ろしい。
結局、魚も死んだスラムの連中もまとめて火葬。
それで事態は収拾した、らしい。
けど、俺は知っている。他にも色々と問題が起きているのだ、と。
近頃、森の奥が枯れている。
今は夏で、冬じゃない。木々が枯れるわけではないのに。表面上、森は何ともない。奥の方、一部だけが枯れている。それに、森の獣が減っているらしい。これは狩人を生業にしている奴らが、その日の獲物を肉屋に卸している時に話しているのを聞いたから、間違いない。
どうしたものか。
こうも奇妙なことが連続していると、何か良くないことが起きているような気がする。
家には年老いた母がいる。早々引っ越しなど考えたくもない。それも、他国なんて。けれども考えてしまう。このままこの国にいて、大丈夫なのか? 何か良くないことが起きているのか、これから起きるのか……それはわからないが、本当に、この国は大丈夫なのか?
国民が不安をかかえるほどの変異があってなお、貴族や王が何も言わないのも、不審を増長させている。
どんよりとした青空を見上げ、俺は溜息を零した。
ああ、やっぱ今日仕事辞めて、明日には引っ越そうかなぁ……。