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03 国王

注意

アリスコンプレックス(7~12歳がお好き)な方のお話です。

虫(軟体系)な描写があります。



 白くすべらかな肌。

 女の匂いのする前の体。

 どこもかしこも小さく、美しい。



 光を失くしたうつろな目。

 だらりと投げ出し、動かぬ手足。

 ああ、やはり女はこうでなくてはな。



 自室のベッドで最近のお気に入りをかき抱く。







 妃とは王族としての義務で子を成した。

 儂もあやつも結婚したのは互いに義務だ。義務を果たした後は互いに好きにやっておる。公務の際だけ仲睦まじく、後は余計な子さえなさねば良い。そこさえ守れておれば、互いに好きにしてようが、どうとでもなるのだ。

 そもそも妃の顔は好みではないのだ。幼い頃から大人のように可愛げのない顔をして、儂の食指が僅かたりとも反応できなかった。それでも、妃になるには十分な素質を持っておったから迎えたまで。義務以上の何かをしようとは思えぬ。

 近頃は公務の際に顔を合わせれば、更に老けた顔。いや、四十も越えれば互いに老けるのは当然か。それでも、あの顔でよくまぁ男に抱かれようなどと思えるものだな。


 腕の中の寵姫を見る。

 ああ愛しい。


 美しい時期はあっという間に過ぎるから、これは、と思えば手を出す。

 常に50人以上の寵姫を後宮に抱える。

 毎夜複数人を寝所に呼ぶ。

 何もわかっていない状態から、自分好みに育て上げる。

 何もわからぬまま、痛みに、恐怖に、泣きわめく姿が、だんだんと絶望から諦め、無気力になっていく姿は、何度見ても、それだけで興奮する。

 組み敷き、尊厳を奪い、反射的に喉の奥から音が零れるのを聞き、満足する。





 ああ、そういえば、息子の婚約者だった女も、美しかったな。

 王妃教育の一環としては呼び出し、手を出した。とはいえ、将来息子の妃になる予定だったから、最後までは手を出せなんだ。その代り、歴代寵姫の誰よりも力を入れ、育て上げた。

 アレは、実に極上の女に育った。

 儂の最高傑作と言える。

 あれだけ完璧にしてやったというのに、馬鹿な息子だ。そうそうにメスの臭いを撒き散らし、どこの男の臭いとも言えぬような臭いをつけた女に現を抜かすとはな。

 結局手も出さずに無実の罪で殺しおった。

 少し見ればわかるだろうに。

 あの光のない目。

 死んだ魚のように、淀んだ目。

 抗う事を許されず、諦念と無気力の中、言われるがままただ手足を動かしているだけ。誰かに心を許すことなく、凪いだ水面のごとく、ただ全てが素通りしていくのを待っている。




 アレは、誰かに嫉妬することはない。

 アレは、誰かに何かしようとする情熱など、持ち合わせていない。

 アレは、馬鹿な息子とメスに成り下がった娘がどうなろうと、何も思わん。




 そんな簡単なことさえわからず、自らの欲で腐った頭で判断し、儂に相談もせず、勝手に殺しおった。

 幸いにして、公爵はあの娘を嫌っておった。いや、憎んでおった。息子が気に入った娘は公爵が溺愛しておる。おかげで王家との関係がこじれることがなかったが、面倒事の責任はとらせねばな。

 何よりも忌々しいのは、儂が我慢してまで譲ってやったものを、使いもしなかったことだ。それならば儂の寵姫にしたものを!

 どうせ棄てられるにしても、王太子の手つきなしより、王である儂の寵姫だったことのほうが、娘にとっては誇らしかろうに。




 ああ、忌々しい。

 あれほど完璧に仕上がった者はいなかった。

 今のお気に入りの寵姫とて、アレに比べれば見劣りする。

 手に入らなかったせいか、余計にそう思えた。




 ああ、忌々しい。

 要らぬのなら、初めからそう言え。そうすれば秘密裏に儂の後宮に召し上げられたものを!

 苛立ちを紛らわせようと、寵姫の背に指先を這わした。







 ぬめり……






 な、んだ……?

 いつもならすべすべとした、瑞々しい張りのある肌の感触が返る。

 寵姫たちは殆ど汗をかくことがないが……もしや儂の汗か? それにしては、なんだか粘ついておる……。

 寵姫に目を向け、儂は声にならない悲鳴を上げた。






 化け物だ。







 化け物の顔がそこにあった。










 髪は全てむしりとられ、右目は抉られたのか空洞、顔の左半分は酷い火傷痕。引き攣るような皮は醜く歪んでいる。アレの、顔。

 にたにたと笑っていた。





「な、何故貴様がここにおるのだ!」

 振り払うように投げ捨てる。

 軽い。

 簡単に吹き飛び、壁にびたん、と当たった。そのまま床に落ちる。

 確かにアレは若い頃よりは肥えた。それは成長故、仕方のない範囲に収まっていた。それでも片手一本でベッドから壁まで投げ飛ばせるほどではない。

 異常な事態に、何があったのかわからぬまま、投げ飛ばしたはずの化け物のようなアレを見た。

 老婆のような顔に、相変わらずにたにたとした不気味な笑みを貼り付けている。その体は、ぬめりとした体液を身にまとった、肌色っぽい、何か。

 手足はない。

 裾の方が奇妙にうごめき、這いずってくる。






「うわぁあああああ!!!」

 ベッドの上。裸でいたとしても、手の届く範囲には常に護身用の剣を置いてある。

 咄嗟に掴み、鞘から抜き放つと、うごうごと近づいてくるそれを切り伏せた。

 鮮血が飛び散る。

 勢いよく噴出したそれは、壁や絨毯を禍々しく汚していくが、それどころではない。

 なんだ、この化け物は!

 なんだ、この化け物は!

 嫌悪しか覚えないその体に、何度も剣を突き立てた。

 にたにたと笑うその顔も。

 子供のようなサイズの、そのぬめる体も。

 何度も切り伏せ、ぴくりとも動かなくなって、ようやく一息ついた。

 いったい、なんだったのだ……?

 この気持ち悪さをどうにかしようと、ベッドを振り返った儂は、ぎょっとした。










 化け物が、まだ、いる。










 三体もの化け物が、にたにたと笑いながら儂の方を見ている。

「あああああ!!!」

 気づいた時には剣を振り上げ、駆け寄っていた。

 にたにたと笑いながら儂の方を見るだけの化け物。剣を前にしても、笑うだけで特に何もしないそれを、ただただ斬った。

 寝所中が赤くけがれていく。

 むせ返るほどの臭いに、吐き気がした。

「陛下! 陛下! 何があったのですか!? お気を確かに!」

 いつの間に部屋に入ってきたのか、不敬にも儂を羽交い絞めにする護衛。

 遅い!

 遅すぎる!

 何をしておったのだ、こやつは!

 化け物が、化け物があらわれたのだぞ!?

 儂に何かあったらどうするというのだ!

「陛下? 寵姫達が何かしたのですか? すぐに背後関係を洗います」

 待て。

 何だと?

 寵姫?

 そうだ、寵姫!

 儂が丹精込めて育てた寵姫達は無事か!?

 慌てて室内を見渡し、愕然とした。

 寝所に転がる複数の死体。

 その顔は、儂の可愛い寵姫達。

 だとすれば、あの、壁際にある、顔の分からぬ者は、儂のお気に入りの……

 あっああああっ

 どういうことだ!?

 何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!?

 何故寵姫達が!?

 嘘だ!

 儂が殺したのは化け物だ!

 アレの顔をした、化け物だ!

 だが、現実にあるのは寵姫達の死体。

 何が、何があったのだ……

 何故、こんな……





「なんでも、ない。粗相があった故、手打ちにした」

 必死に言葉を絞り出す。

「左様でございますか。それでは片づけますゆえ、陛下は本日は別の場所でお休みください」

 そっと肩にかけられるガウン。

 身支度を済ませると、護衛に守られ、部屋を離れる。

 大急ぎで整えられた室内。ベッドに腰掛け、護衛たちがバルコニーと廊下へ出て行くのを確認すると大きく息を吐く。

 気に入っていた寵姫達だが、別に惜しくはない。まだ、寵姫は沢山いる。これからも、増える。

 問題はない。

 少しずつ気持ちが落ち着いてきた。

 今日の悪夢は忘れよう。

 そう思った矢先――









 ぼとっ










 天井から何かが落ちてきた。

 目を見開く。

 アレ、だ!!

 あの、化け物が、また儂の前に!!





 ぼとぼとぼとっ







 次々天井から落ちてくる!!

 ああああっなんだこれは!!






 ぼとぼとぼとぼとぼとっ







 止まらない。

 止まらないっ。

 化け物が、部屋に溢れる!!

 誰かっ誰かっ!

 今すぐ化け物を斬るのだ!!

 化け物に埋まりそうになりながら、必死に声を上げるも、誰かが駆けつけてくることは――無かった。

今回の話、作者の心が折れる音が何度もした。

なんで、自分が無理な話を書いたんだろう……

そっちの方がホラーだ……

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