表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

13 義妹



 綺麗なドレス。

 毎日私を褒め称え、傅く使用人たち。

 高価な家具に囲まれ、他人が羨むような宝石を身にまとう。

 麗らかな昼下がりに、美しく整えられた庭園を眺めながら優雅にお茶を飲み、一流のシェフが作った繊細なケーキを楽しむ。

 この国の王太子の婚約者で、格好良くて強い恋人を持つお姫様。それがわたくし。








 初めはこことは雲泥の差の、小さなお屋敷だけがわたくしの世界だった。

 優しいお母様と、毎日通ってくるお父様。

 二人が教えてくれたの。

 お父様には他に結婚している相手がいるけど、本当に愛し合っているのはお母様。お父様とお母様はずっと愛し合っていた。でも、悪い魔女のような女が、お金に物を言わせてお父様と無理矢理結婚したんですって。それでお母様は日陰者になった。

 わたくしは本当はこんな狭い場所ではなくて、もっと広くて素敵なお家があるの。それに、もっとずっと美しいドレス、綺麗な宝石、美味しいご飯があるんですって。

 魔女と魔女の娘が占拠しているけど、本当は全てお母様とわたくしのもの。

 お父様に連れられて行く『おじい様』のお家以外、こうやってお屋敷の外に一歩も出ない生活ではなく、お茶会やパーティ、素敵な場所に行くことができる。それが、わたくしの本当の生活。

 魔女さえいなくなれば、わたくしは本当の姿に、本来在るべき場所に戻れる。





 ずっとそう言われてきた。





 そしてそれは、案外早く訪れたの。





 五歳の時、お父様は魔女を殺すのに成功したんですって。それでお母様とわたくしは、本当のお屋敷に帰れたの。

 お屋敷にはまだ魔女の娘が残っていたけど、無害な家畜だってお父様は仰ったわ。そしてそのとおりだったの。だってあの子、あんなみすぼらしい姿で、お父様に何を言われてもぼんやり立っているだけだったもの。




 アレは、家畜。




 でも、家畜のくせに生意気にも反抗してきた。だから、躾けてあげたの。お父様やお母様に言いつけて。

 アレは二人に叩かれ、殴られ、だんだん抵抗をやめたわ。




 お父様もお母様も言っていた。

 アレの持ち物は本来全てわたくしのものだった。だから何でも奪ってやったわ。でも、あんな家畜が使ったものなんて、わたくしには相応しくないわよね? だから、ね? 奪ったものは一つを除き、全部ゴミとして棄てたの。

 教えてあげた時のアレの顔ったら。

 不細工な顔が、余計不細工になってたから笑っちゃったわね。




 家畜のくせに涙を零すことが許されるなんて、思っていたのかしら? 本当に馬鹿な子。




 それにしても、家畜のくせに、この国の王太子と婚約者だなんんて……生意気でなくて?

 王太子と婚約ってことは、結婚すれば王子妃。王太子が王となれば王妃。あの家畜が、わたくしより上?

 馬鹿じゃなくて?

 ありえないでしょう?

 魔女の娘。ただの家畜風情が、父である公爵に愛される公爵令嬢であるわたくしよりも上?

 そんなこと、許されて?

 そうは思っても、もう決まったこと。わたくしの力で覆されることはない。

 お父様はどうしてアレを王太子の婚約者にしたのかしら?

 まぁ確かに、今となっては王子なんかと婚約しなくて良かったとは思うわ。だって、そのおかげでロス様に出会えたんですもの。




 ロス様。

 とっても素敵な御方。

 男らしくて、優しくて、わたくしのことをとても大切にしてくれるの。

 ロス様はわたくしより五つも上で、大人の方だから、わたくしなんてただの小娘としか思われないかと思ったけど……あの方はわたくしを一人前の淑女(レディ)として扱ってくださったわ。






 そう、一人の、女性として。






 王太子様は確かに綺麗な顔をしていらっしゃるけど、ロス様のような魅力はないもの。ロス様と違ってまだまだ子供だし。わたくしはいらないわ。

 でも、ロス様が仰ったの。

 ロス様はただの一騎士で終わるような方ではない。そして、わたくしも。ただの公爵家令嬢で終わるような器じゃないって。

 そうは言ってもわたくしにできることはない。

 だって、わたくしはただの公爵家令嬢。王家は流石に遠いわ。その血の流れをこの身に抱いていたとしても。





 そうしたらロス様が教えてくれたの。どうすればいいか。





 わたくしと王太子様が仲良くする。その後、婚約者で邪魔なアレを処分。後釜にわたくしが収まる。そしてロス様はわたくしの近衛になって、折を見て王太子様には病死していただく。





 わたくしは公爵令嬢。わたくしにも王家の血は流れている。わたくしが産む子は、間違いなく王家の血筋。運よく王太子様とロス様は同じ色をしていらっしゃるから、きっとバレることはない。ロス様の子が王となる。

 本当は、一秒でもロス様以外の男のモノでいるのは嫌だったわ。でも、完璧じゃない?

 わたくしはこの国の女性の頂点に立ち、ロス様も、表には出られなくとも、王の実父となり、事実上この国を裏で操る影の王となられる。

 正直、王太子様のように志だけ高い、というよりも志が高そうな事を口にしていらっしゃるだけの方より、ロス様のように沢山の事を知っていらっしゃる方の方が為政者として相応しいわ。

 その証拠に、ロス様が仰るとおりになったもの。








 王太子様は簡単にわたくしに夢中になられたわ。そして、アレを疎むようになったの。








 うふふ。当然ね。

 あんなのとわたくしなら、当然わたくしよね。

 貧相な体。

 無愛想な顔。

 殆ど口も利かない。利いたと思ったら小言ばかりの女より、わたくしの方がもっとずっと魅力的。

 発育の良い体。

 美しい微笑み。

 殿方を褒め、癒せる話題。

 ロス様もわたくしは素敵っていつも褒めてくださるもの。




 不思議なことにあの家畜、わたくしが王太子様を奪い取っても気にも留めていなかったわ。

 それはそれで腹が立つ。





 わたくしを見なさないよ。

 わたくしにあの無様な顔を見せなさい。

 わたくしを無視して良いと思っているの。

 家畜のくせに生意気だわ!





 でも計画していることをお父様やお母様には言えない。だから、ロス様にお願いしたの。たっぷり痛めつけてって。

 ロス様は本当に素敵な方。

 わたくしの願い事は何でも叶えてくださるの。

 振るわれる容赦のない拳は、わたくしのお腹の下のあたりをとっても震わせたわ。

 ふふっ本当に素敵だったわ。

 ああ、思い出すだけでも痺れるような感覚が全身を駆け巡る。

 でも残念なのはあの家畜の反応よ。泣くどころか、痛がることさえしなかったわ。




 つまらない。

 だからね、泣きながら王太子様に言ったの。







 わたくし、とんでもない虐めにあっていて、何度も死にかけたのって。







 王太子様はわたくしの言葉なら疑いもなさらない。わたくしにはアレへの憤りを見せられただけだったけど、どうなるかなんてわかるわよ。

 この目で見ることができないのは残念だけど、精々苦しんで苦しんで死ねばいいのよ。わたくしにあんな無駄な五年を過ごさせてたんだから、当然の報いよ。






 でも、思ったより長持ちしなかったわ。

 わりとあっさり死んじゃったのよね。

 つまらないこと。

 もっと何年も苦しめば良かったのに。そうね、せめて五年は苦しめば良かったのよ。

 ああ、本当につまらない子。

 まぁいいわ。

 ロス様の立てた計画は順調。

 楽しみね。








 それにしても……どうしてロス様はお戻りなられないのかしら?







 王太子様が病に臥せられた途端、わたくしの護衛から外されてしまったのよね。

 ロス様が仰るには、出世を妬まれたってことだったわね。

 まったく!

 己の才能の無さを恨む愚か者なんて本当にどこにでもいるのね!

 羨む暇があればロス様のようになれるよう、努力でもすればいいものを!

 ああ、どうにかしてロス様がわたくしの護衛に戻れるよう手を回さなくては……。

 でもロス様とのお付き合いはお父様にもお母様にも内緒だし……お願いはできないわよね?

 王太子様が元気なら簡単にお願いできたのに。



 ふぅ、と一つ溜息を零し、カップに口をつける。



 あらいやだ。

 色々と考えているうちに随分時間が経っていたのね。

 白いテーブルの上に置かれた小さなベルを鳴らす。

 今日は考え事がしたい、と呼ぶまでは控えているように言ったから、わたくしの侍女は少し離れたところで待機している。そのせいで、いつもならわたくしが言わなくても、タイミングを見計らって温かいお茶に入れ替えてくれるのに、冷たいお茶を飲まなくてはならなかった。

 ダメね。

 気が散るかもと思ったけど、こうして声をかけなくてはならないのも面倒だわ。

 はぁ……気分が優れないわ……。

 ロス様は護衛を外されたせいで、遠征の任務が与えられたそうだし……しばらくはお会いできないって仰ってたわね……。

 しばらくってどれくらいかしら?

 もう半月もお会いできていないわ。

 王太子様の御見舞は面倒だと思っていたら、面会謝絶で、贈り物とメッセージカードというもっと面倒なものになったし……。

 王子妃教育は王妃様がお忙しいからってしばらくお休み。でも、これが完了しないとわたくしが王太子様と結婚できないのよね。ロス様の為にも頑張らないといけないのに……。




 何故かしら?

 近頃色んなことが上手くいかなくなっているようだわ。

 お父様もなんだか顔色悪く、執務室にこもりきりだし……。

 お母様もお部屋から出ていらっしゃらないから、もう随分お顔を見ていないわ。

 王太子様が臥せっていらっしゃるから、当然ドレスや宝石の贈り物もない。そうなると、自分で買わないといけないのに、何故だかお父様に固く止められているのよね……。

 どうしてかしら?

 夜会やお茶会も王太子様が臥せっていらっしゃるから、婚約者であるわたくしがあれこれ参加をしてはならない、自重せよ、と命じられて楽しみもない。

 陛下も臥せっていらっしゃる今、無理に開く者もいないし……。




 はぁ……。

 つまらないわ。

 いつからかしら? こんなにつまらなくなったのは。

 指折り数えるのも面倒で、溜息だけが零れる。




 ……ああ、いけない。

 またいつの間にか考え込んでいたわ。

 カップに口をつけようとして、冷たいお茶に気づく。

 いやぁね、考え込んでいたら、侍女がお茶を淹れ直したのにも気づかなかったみたい。

 あら? だったら、いつもどおりに勝手に動いてもらってもいいじゃない。

 白いテーブルの上に置かれた小さなベルを鳴らす。

 次に侍女が来たら、いつもどおりにするように言わなくてはならないわ。

 けれども、待てども待てども侍女は来ない。

 どうしたの?

 わたくしが呼んでいるのよ?

 もう一度ベルを鳴らす。



 ……。





 …………。





 来ない。

 ベルを鳴らす。





 ……。






 …………。





 来ない。

 どういうこと?

 ここはわたくしの部屋よ。

 侍女が控えているのは、ほんの五歩程度後ろの壁際。

 ベルの音が聞こえない、などといったことはない。

 どういうことなのかしら?

 顔を上げ、視界に飛び込んだ景色に、思わず肩が跳ねた。

 ……?

 どういう、こと?




 埃の積もった床。

 赤茶色のシミのできた壁。




 わたくしの部屋なのに、どうしてこんなに汚いの?

 毎日毎日使用人たちが整えるこの屋敷で、どうして埃やシミがあるの?

 ふと、テーブルを見下ろしたわたくしは、ぎょっとした。

 薄汚れたテーブルクロスのかかった白い机。そこにも埃がうっすらと積もっている。

 テーブルにセットされたはずのティーセット。異臭を放つ赤黒い液体がカップの中で揺れている。

 どういうこと?

 先ほどまでわたくしは普通の紅茶を飲んでいたわ。

 これは、何?

 ゆらりと揺れる、赤黒い液体を震えながら見る。



 誰か! 誰かいないの!?

 わたくしのお茶に、一体誰がこんな不気味な物を用意したというの!?



 いくらベルを鳴らしても誰も来ない。苛立ちに身を任せるように立ち上がり、ぐるりと辺りを見渡し思わず息をのんだ。





 窓を突き破るメイド服。







 だらりと投げ出された手足。






 あれは、何……?

 何故、わたくしの部屋の窓が割れているの?

 何故、窓からメイド服が飛び出しているの?

 何故、人と同じ大きさの人形の手足が投げ出されているの?

 気味が悪いわ……。

 何なの?

 相変わらずベルを鳴らしても誰も来ない。仕方なく、自ら窓に近づいた。

「ヒッ!?」





 窓を突き破った頭部。





 光の無い、どろりと濁った眼。半分しかない真っ赤に染まった顔は、良く見知った娘のもの。わたくしのお気に入りの……。




 何故?



 顔の半分、そこにあったであろうものは、下へと落ちたのか、なくなっていた。




 な、何故、わたくしの部屋にこんな……!

 誰がこんな不気味な人形を置いたの!?

 ど、どうせ、わたくしを驚かせるための精巧に作られた蝋人形か何かなのでしょう!?

 まったく、悪趣味な!

 きっと使用人の何人かがどこかの家に買収でもされ、わたくしたちに嫌がらせをするように命じられたに決まっているわ!

 ふん! このわたくしに喧嘩を売ったこと、絶対に後悔させてあげるわ。




 窓から離れ、ふと、ベッド脇にあるものに気づく。

 ベッドに上半身を凭れさせるようにして動かないメイド服。くしゃりと歪んだシーツに、どうやらシーツ替えの途中といったところ。

 頭部はまるで破裂したザクロ。ぐちゃりと潰れたそれは、ベッド中に散らばって汚らしい。

 なんなの!?

 もう驚かないわよ!

 どうせまた精巧な人形でしょう?

 こんなくだらないことにお金をかけたのかしら? これを指示した貴族は愚か者ね!

 怒りに身を任せながら扉を開く。

 ああ、なんてこと! 今まで誰かが先回りしていた扉を自分で開けるなんて……小さい頃を思い出すわね。

 あの魔女がわたくしたちの居場所を奪っていた頃、今より小さなお屋敷に住んでいたし、使用人も少なかった。部屋付なんていなかったし、扉は自分で開閉することが多かった。

 忌々しい頃のことを思い出させる!

 本当に……どこの誰だかは知らないけれども、わたくしをこんなに苛立たせたのだから、絶対に許さなくてよ……!

 お父様に言いつけて、可能なら……そうね、一族ごとまとめて平民以下に落として差し上げるのも一興ね。




 そんなことを思いながら廊下に出たわたくしは、まず下階を目指した。

 あれだけ呼び鈴を鳴らしても誰も来なかったのだもの。きっと下にいるのよ。下で作業をしていてうっかり聞き逃す。それならまぁ、ありえなくはないわ。ありえなくない場所がいくつかあるのよ。


 一つ目は厨房。

 そこで作業をしていれば聞こえないこともあるわ。まぁ、そこに全員がいることはありえないから、他の場所も当然考えてある。


 二つ目は地下室。

 あそこは家畜を入れていたから、上の音も下の音も殆ど聞こえない。今家畜はいないから、使用人が何のためにあそこにいるのかはわからないけれども。


 三つ目は裏庭。

 裏庭で作業をしたり、倉庫に行っていれば、わたくしの部屋からの呼び鈴なんて聞こえないでしょう。

 まだいくつかあるけれども、これ以上わたくしが動くなんてありえないわね。

 この三か所にいなければ、役立たずとして全員首を切って、新しい者を雇うべきだわ。主人の意を汲めない使用人なんて必要ないものね。






 階段を下り、玄関ホールを横切る。そして、厨房を覗く。

 はぁ……。このわたくしが厨房を覗くだなんて……。こんなはしたない姿、ロス様にお見せできないわ。

 それにしても、いない、のかしら?

 パッと見たところ、誰の姿も見えないわね。

 あら? でも、なんだか音が聞こえるわ。

 厨房の奥、台の向こう側から、不思議な音がする。

 ぐちゃ……ぐちゃ……と何か水気のあるものをかき混ぜるような、奇妙な音。

 何かしら?

 しゃがんで何かをしているの?



 入り口に手をつき、背伸びをしてみる。



 台の向こう側、蹲るような影。

 ゆらゆらと揺れる頭部。

 ああ、やはりいたわね。

 まぁ、調理中はわたくしの呼び鈴に気づかなくても仕方ないわ。許してあげないこともないわね。

 それにしても……一人? 他の者達はどこにいるのかしら?

「そこの貴方、他の者達はどこにいるの?」

 声をかける。

 まったく、このわたくしに声をかけさせるなんて……わたくしが来たのにも気づかないなんて、やはり下賤な者はその程度なのね。

 はあ……我が家の使用人ながら情けない事。



 わたくしの声に反応するように、ぴたり、と動きを止める影。

 ゆらぁ、と奇妙に揺れながら立ち上がった。

 白い服が、赤く汚れている。

 なんてこと!

 確かに厨房服は汚れる事を前提としているとはいえ、あんなに汚すなんて!

 よほど注意力が足りないのか、勝手の分からない新人なのか……どちらにせよ、我が家に相応しくないわ!

 用が済んだらお母様に言いつけなくてはならないわ!




 面倒が増えたことにイライラする。そんなわたくしの神経を逆撫でするように、その使用人は緩慢な動きで、首だけを斜め後ろに倒すようにしてこちらに顔を向けた。

 ふざけた態度にカッとなって息を吸い込みかけ、思わず肩が跳ねる。

 がくん、と後ろに倒れた頭。それはとても人間には不可能な角度で、きっちり背に後頭部をつける。それだけでも不気味なのに、問題はその顔だった。





 血まみれ。





 顔の三分の二を真っ赤に染め上げている。

 いえ、それだけではないわ。いいえ、それは、問題ではない。

 そうよ、そこじゃないのよ……。

 右半分の顔が、骨と肉がむき出しになり、左目は薄暗い穴。向こう側が見えるわけではないけれども、真っ赤な何かがどろりと溢れている。




 何よ……?






 何なのよ……?






 あ、あんな化け物みたいな使用人は知らないわよ……!

 だ、だいたい、なんなの!? アレは、何で生きてるのよ!?

 人ってあんな状態で生きていられるの!?

 手足が震える。

 伸び上がっていた体を支えていた手が入り口から離れ、足が後ろへと下がる。

 ゆら、と化け物使用人が動いた。

 ゆっくりと体全体が振り返るそれに合わせ、頭が本来の位置へ戻っていく。その間、一度たりともわたくしから視線が外れなかった。

 右に左に揺れながら、手足をがくがくと奇妙に動かしながらわたくしの方へと近づいてくる。

「い、いいわ! 自分で探すわよ! 貴方は作業に戻りなさい!」

 こんな奇妙な者と話す気はない。

 けれども声を上げてもまるで聞こえないように、化け物使用人は近づいてくる。

 咄嗟に身を翻した。

 気持ち悪い!

 部屋に戻ろうと階段に駆け寄ったわたくしは、再びびくりと震えた。

 手すりに手をかけ、見上げた階段の頂、ゆらゆらと揺れながら立つ影。




 光の無い、どろりと濁った眼。半分しかない真っ赤に染まった顔は、良く見知った娘のもの。わたくしのお気に入りの娘を模した蝋人形。






 何故、アレがここに……?

 だって、人形でしょう? 窓を突き破って投げ出されていた……。

 どうして、動いているの……?




 人形が半分しかない頭を揺らしながら、ゆっくりと階段を一段降りた。

「ヒッ!?」

 手すりから手を離し、後ずさる。

 横からは、さっきの化け物使用人。

 上からは、薄気味悪い人形。

 何なのよ……。

 何なのよ!?

 止まりなさい、と幾度声をかけてもどちらも動きは止めない。

 非常に緩慢な動きだから、あまり距離は縮まらないけれども、それでも近づいてはきている。

 怖い。

 気持ち悪い。

 嫌よ……!

 じりじりと後ずさる私は、ぎょっと目を見開いた。

 階段から左右に伸びる二階の廊下。そこから、新しい顔が現れた。

 右から現れたのは、お父様の傍らに控えているはずの執事。首が、半分捥げ、ぐらぐら揺れながら傷口を広げている。

 左からは、お母様のお気に入りの娘。腹部から……あれはなに? 縄のようなものが零れ落ちている。

 どういうことなの?

 どうして?

 何故?

 彼らはあんな気持ち悪い姿で、変な動きをしているの?

 ヒ、ヒ、と小さな悲鳴を零しながら後ずさっていたわたくしの背が、何かに触れた。

 慌てて振り返れば、玄関扉。

 いつの間にか、階段から扉の所まで下がっていた。

 階段の娘はまだ半分も降りてきていない。横から来ていた使用人は、厨房の入り口を少し離れた程度。

「ッ!?」

 階段の奥にある、一階廊下に出る扉が開き、そこから不気味な出で立ちになった使用人たちが姿を現した。

 嫌ッ!

 普段なら絶対に自分で開ける事のない玄関の扉を開き、外へと飛び出した。

 広く長い道が広がっている。普段なら玄関前に馬車がつけられて、その馬車に乗って移動するけど、そんな予定がない今、馬車があるわけがない。

 もうっ! こんな時にわざわざ御者に声なんてかけていられるわけないじゃない! 主人の意を汲んで、初めから待ってなさいよね!

 使えないわっ!

 スカートを摘まんで裾を持ち上げ走る。

 ああもう、なんてはしたない姿! このわたくしにこんなことをさせるなんて、信じられないわ!

 クビよクビ! 全員クビよ!

 お母様に言ってクビにしてもらって、お父様に言って今後働き口が見つからないようにしてやるわ!

 ああ、そういえばお二人はどうしたのかしら? どこにいらっしゃるのかしら……?

 お父様はきっとお城よね? お仕事があるもの。お母様はどちらかしら? お友達のお屋敷に御呼ばれされているのかしら?

 そうよね。

 お母様がいらっしゃって、あんな不気味な姿の使用人が歩き回っているはずないもの。





 庭を抜け、馬小屋に辿り着く。

 御者を探して馬車に乗るひまはないわよね。でもいいわ。馬には淑女の嗜みとして乗れるもの。大丈夫よ。……一人で乗るのは初めてだけれども、わたくしは才能に溢れているもの。誰もがそう褒めていたもの。きっと一人でも大丈夫。馬なんて鞍に乗って、手綱を掴めばいいだけだものね。

 そんなことを思いながら小屋を覗き込んだわたくしは、悲鳴を上げて尻もちついた。

 わたくしの目に映った信じられない光景。





 馬が、全て死んでいる……?





 そ、そんなこと、ありえないわ……だって、馬屋番が常駐しているはずよ?

 震える体で何とか立ち上がり、もう一度小屋の中を覗き込む。けれども結果は先ほど見たとおり。馬は全て死んでいた。

 いえ、何かに食い荒らされている……?

 野犬でもでたというの……?

 嘘でしょう?

 馬屋番は何をしていたというの?

 でも待って? 犬が中を荒らしたというのなら、どうして扉は閉まっているの?

 その事実に、気づくとほぼ同時に、小屋の奥から何かが這い出してきた。

 血まみれの、男の上半身。腹部から下は、ない。何か、そう、屋敷で見た、お母様付の使用人の娘の腹部から垂れ下がっていた縄のような何かがはみ出している。

 ずる、ずる、と腕だけで前へ進み出て、覗き込むわたくしと目が合った。

「きゃぁああああっ」

 身を翻す。

 はしたないとか、そんなこと思う暇もなかった。

 とにかくここを離れなければ。

 けれどどこへ?

 屋敷の中には気持ちの悪い姿をした使用人たちがいたわ。

 怖い。

 怖いわ。

 ロス様、助けて……!


おおおお、おま、おま、お待たせして申し訳ございませんっ><;

待たせた割に微妙な内容で申し訳ない><;

あと、長くなりそうだったんで、途中で切りました……

続きはまた今度で……っ!



『地獄〇女』観ました。

いやぁ、あいちゃん可愛い……!!

ああいう子、ものすごく好きです。

淡々と吹き飛ばされている姿とか、怒り狂ってる姿とか……キュン要素しかないわぁ。


内容はまさに必殺シリーズ的な感じですね。

『恨みの元がいて、恨んでる人がいて、復讐がなされる』

そして私、確信しました。

やらかす奴は大概反省しない……!!

あと、逆ギレしやすい!

かの有名な媒体様で出してる漫画がもとのアニメ様が言っているから間違いない……!!

だから平気で恨まれるようなことするんですよ!

うん!

大変面白かったです。今度2シーズン借りて観ようと思っております。

オススメありがとうございます!



『聖ロザ〇ンド』一部読みました!

えと、すみません><;

ちょっと近くの書店にはなかったです。

そして検索した結果、ネットの試し読みで挫折しました。

まぁ、とりあえず、一言言っていいですか? いえ、言いますね。


タ イ ト ル 詐 欺 も 甚 だ し い……!!


いやいやいやいやいや、どの辺がセイント!?どの辺りが『聖』なの!?全っ然わからなかったんですけど!?

二話目のブランコの辺りまでは頑張って読みましたが、ブランコが怖すぎて、本を買えませんでした……!!

ごめんなさい><;

その後調べた結果、読まなくてよかったなぁ、という内容が感想サイト様に数々……。

恐ろしい。恐ろしすぎる……。なんだあの子……。めっちゃ怖かったわぁ……。

あの恐怖に近づけるとは思いませんが、がががが、頑張ります><;

オススメありがとうございました><!




あ、そうそう。私事ですが、腰やりました。

ゴミ捨てに行こうと玄関で靴履いて、ゴミ袋を持った瞬間でした。

過去何度も腰を痛めましたが、自力で歩くどころか立つことができないほど痛めたのは初めてでした。

補助有で立てるようになるのに一日、自力で何とか動けるようになるまで数日……。

今は座ってると辛い、程度まで落ち着きましたが……。

皆様も腰には気を付けてください><!

本当に、ヤバいです!

終わった……!感、本当にヤバいです……!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ