3:村人
展開を早め早めでいきたいですね!
「おいぃぃぃ、灰人! エルフだよぉ! 本物のエルフだおぉぉぉぉ!!?!?」
ゲームのアバターを作るとき素材があれば必ずエルフキャラを選択するほどエルフが好きな俊輔が肩をガタガタと揺らしてくる。
いつもは大きい声のくせに今は俺にしか聞こえない位の声量で興奮している。
なんて、冷静を装っているが俺の内心だって、興奮しっぱなしでいる。
ソフィアさんが目の前にいなければ、うほぉぉ、エルフたんきたぁぁぁ!!って叫んでいたところだ。
俺達だけではない。逃げていたクラスメイト達もソフィアさんを見て呆然としている。
ソフィアさんがじっと見つめてくる。
はて? どうしたのだろうかと思っているとソフィアさんが困ったように頬をポリポリと掻く。
そうか、俺が名乗るのを待ってるのか。
「ソフィアさん、俺はカイト、ミタライといいます」
「あ! 自分はシュンスケ、タチバナっていいます!! よろしくっす!!」
「えっと、アカリ、ホオズキです」
近くにいた俊輔と鬼灯が俺の後に続いて名乗る。
「カイト殿、シュンスケ殿、アカリ殿。して、カイト殿達はどうしてこのような所にいるのですか?」
「それは……」
やはり、異世界から来たという事を伝えるのは躊躇われる。
「そうか。ならば話さなくても構いません」
「え……」
「私とて無理に聞こうとは思っていないです。それより、ここにいてはモンスターが寄ってくるやもしれません。町まで私達がついていきましょう」
「いいんですか」
「困ってる時は助けあいましょう」
なんだこの人、いい人すぎる。隠し事をしているのが何だか申し訳なくなってくる。
俊輔と鬼灯も同じ気持ちなのか何度も俺とソフィアさんの間を視線が行き来している。
「ん? 俺達……」
ふと、ソフィアさんの言葉に違和感を抱いていた事に気づく。
そういえばソフィアさんはずっと達をつけていた。
「ああ、私は仲間と共に依頼を受けている途中でして、おっ、来たようですね」
ソフィアの背後にある森から二騎の馬が駆けてくる。
その二人は全身を鎧で覆うことはなく姿を見せている。
一人は腰に剣を帯刀している優男風の眼鏡男でもう一人がローブに身を包んだ幼い顔立ちの女の人だ。流石異世界というべきか少女は水色の髪の毛をツインテールにしている。
二頭の馬はソフィアさんの横に止まると、乗っていた二人も飛び降りる。
眼鏡の男が俺やクラスメイト達を一瞥する。
「ソフィアさん。何ですかこの方達は」
「ケイト殿、どうやらこの方達は何かの事情でここにいたようで」
「何かの事情で……それは、怪しいですね」
眼鏡の男が腰の剣に手を添える。何時でも抜けるようにだろう。それもそうか、普通に考えて俺達は怪しすぎる。
「ソフィアさん。気を付けてくださいね。この者達は私達が追っていた盗賊団の者かもしれませんよ」
「いや、しかし、普通の少年少女にしか見えませんが」
ソフィアの言葉にケイトと呼ばれた眼鏡の男は馬鹿にするように冷笑を浮かべる。
「そんなもの、幾らでも装うことはできるでしょうに、この者達は怪しすぎます。一度身柄を捕らえた方がいい」
俺達を怪しいと言いつつもそれを本人の前で明かすのは俺達を相手にしてもどうとでもなるという自信があるのだろう。
雲行きが怪しくなってきた。このままではまずいかもしれない。
「待ってください」
険しくなってきた雰囲気に凛とした声が挟まってくる。
俺を含めて誰もが声の主に視線を向ける。
そこにいたのは我らがクラスのリーダー的存在、天神太陽だった。
「貴方は?」
「僕は天神太陽といいます。僕達は怪しいものではありません。此方に貴方達に対して敵意等、微塵もありません」
「それを、信じろと?」
「僕達の話を説明します。それを聞いてから判断してください」
「ふむ……いいでしょう」
天神は決意を固めたような表情をしている。
話す気か。
いや、もうそれしかないのかもしれない。俺達を盗賊と疑っている時点で眼鏡の男に何を言っても信じてはくれない。
それなら例え荒唐無稽な事であろうと真実を話すのは賭けかもしれないが悪くはない。
「僕達はこことは違う世界から神によってこの世界へと来た者達なのです」
「何を馬鹿な」
「アマガミ殿は自分達が【来訪者】であると?」
眼鏡の男が一笑にふそうとしていたが、ソフィアさんが反応を示す。
「【来訪者】恐らく僕達はそれに当てはまると思ってます」
「確かにアマガミとかは何処か雰囲気が違う。全員が戦闘とは無縁な生活を送ってきたようにモンスターに怯えて、それでいて貴族だとするならば皆様の身なりは貴族のそれとも違うと思ってましたが……まさか、来訪者とは」
「ソフィアさん、何こんなあからさまな戯言を信じているんですか、この者達が来訪者なわけがありません。この者達が本気でかの【勇者】であると?」
勇者……ここで知っている単語がでてきた。
「はい、僕の職業は勇者です」
「そこの君、わかっているんでしょうね。勇者を騙るのがどれだけ罪深きことか……ミリアさん」
「んー」
眼鏡の男が水色ツインテールさんに声をかける。
水色ツインテールさんは気だるげな様子で天神の所へと行き、四角いカードのような物を手渡している。
「これ、触って。そうすれば、職業わかる」
どうやら職業をはかる道具であったらしい。
天神は言われた通りに渡されたカードを手に取る。
「あの、文字が出てきましたけどこれでいいんですか?」
「ん」
「ミリアさん、出ていますか。そこの愚か者の職業を言ってやりなさい。勇者を騙るのがどれだけの愚図かを」
「んー」
水色ツインテールさんは天神からカードを受け取り、そこに書いているであろう文字を見ている。
そこに記されてるのは当然勇者の二文字のはずで。
「この男の子、勇者だね」
当然ながら水色ツインテールさんの口からも勇者の二文字が出てくる。
「ば、ばかな」
眼鏡の男は慌てながら水色さんの所までいき、カードを引ったくるように荒立たしくとる。
「ばばばば、ばかな。本当に勇者ですと……」
「ケイト殿、私にも見せてください」
ソフィアさんも慌てながらカードを除きこんで同じように驚いている。
「これは、間違いなく、勇者でございますね。ケイト殿……」
「そう……ですね。職業カードが故障したなんて聞いたこともないです。信じられない事ですがこの者は勇者であるようですね」
「わかってくれたようで何よりです。僕達の話を聞いてくれますか?」
天神のその言葉を拒否することは誰もしなかった。
「成る程、そのような事があったんですね」
事情を聞き終えたソフィアさん達が神の事や白い空間の事に驚いている。
ソフィアさん、水色ツインテールさん、眼鏡の男の対面に天神が座りその周りをクラスの皆が囲うようにしている。
皆が話を天神に任せた形だ。
「先程は失礼な事を言ってしまい、申し訳ございませんでした」
眼鏡の男が頭を下げて謝罪している。
「いえ、仕方ないですよ。それより、僕達もあの黒い狼を倒してくれて助かりました。僕達はこの世界に来たばかりでまだ力の使い方を知らないので」
「そうなんですか、良ければ私達が街まで案内しますよ。【来訪者】ともなれば来賓級の扱いは間違いなく受けれるので、皆様にとっても悪いようにはならないかと。ソフィアさんもミリアさんもそれで構わないですか?」
意外な事に眼鏡の男は俺達に利のある提案をしてくる。
此方を小馬鹿にする態度から嫌なやつだと思っていたけど、意外といいやつなのかもしれない。
「そうですね。依頼は後回しにして、アマガミ殿とかを無事にお連れしましょう。勇者ともなれば我等エルフ族にとっても大事なお方なので。ミリア殿もそれで構わないか?」
「ん、いいよぉ」
「という事で、私達に皆様方を守らせてください」
眼鏡の男は爽やかな笑顔を浮かべる。
こうして見ると眼鏡の男が知的な雰囲気を持つイケメンだとわかる。証拠にクラスの女子達は眼鏡男を見て頬を染めたり、安心しきったような雰囲気を発している。
男達がソフィアさんと水色ツインテールさんことミリアさんに視線を釘付けにしてるのはいうまでもないが。
「そういえば、皆様の職業を聞いていなかったんですけど、聞いても構わないですか。アマガミさん以外は勇者ではないんですよね」
「そうですね。僕が皆の職業をメモしてますんで、説明しますよ」
ちょうど運よく先程職業やスキルを打ち明けあっていたので天神は皆の職業を知っている。
因みに俺は離れた所にいたため、俺の職業は天神は知らない。
「皆様強力な職業ばかりですね……流石来訪者様ですね」
天神から職業を聞いた眼鏡の男やソフィアさん達は感嘆していた。
というか、やはりスキルを自分の好きなように得られた俺達はチートと呼ばれる力を獲ていたらしい。
「それで、4名程人数が合っていないようなんですが……」
眼鏡の男が目敏く人数と合わない事に気づいた。
「ああ、明里や時雨とかの聞いてなかったよね」
天神も覚えていたのか鬼灯や東雲さんのに尋ねる。
「ああ、うん。私は僧侶よ」
「私は剣聖」
そういえば東雲さんの職業やスキルは見ていなかった。
剣聖、名前だけでとてつなく強力だとわかる。
「剣聖ですか……これまた勇者には及ばすともかなり珍しい職業ですよ」
思った通り、剣聖は凄い職業らしいな。
「それで、残りの二名は……」
「あ、俺っす。俺は拳闘士でこいつが……」
俊輔の馬鹿が俺を指差してきやがった。
自ずと皆の視線が俺に集まる。
今日程人の視線を集めたのは初めてかもしれない。
現実逃避も空しく、これは職業を言わないといけない流れだ。
「はい、その俺は……村人です」
「……………………………………………………………………………………………………は?」
その瞬間空気が一気に固まったような気がした。
「村人というとありふれた職業の村人ですか? なんの力も持たない職業としては最底辺のあの村人ですか?」
信じられないという口ぶりで眼鏡の男が言うが、俺は頷く事しかできない。
「嘘じゃないですよね? ミリアさん判定カードを渡してください」
「ん」
眼男はミリアさんから天神に渡したカードと同じものを受け取る。
「此方に」
眼鏡男に指名されたので仕方なく前に出る。
「これに、触れてもらえますか」
「まぁ、いいですけど」
男が差し出したカードに触れる。
俺は嘘なんてついていないので村人とカードには浮かび上がるはずだ。
「信じられない……村人なんてカスが混じってるなんて」
男は動揺したのか小さな声で囁く。他のクラスメイトには聞こえないかもしれないが、俺の耳にはバッチリと届いていた。
こいつ、いいやつかと思ったけど、やっぱり嫌なやつだな。
一瞬俺に向けた視線が見下し軽蔑するそれだった。
いいやつかと思ったのは俺達が来訪者だったから優しくしてただけだったんだ。
「ま、まぁ。気にしないでください。来訪者様は私達がしっかりと守るんで。それに、どんな職業でもそれぞれ素晴らしい所はありますよ!」
取り繕ったように励ましてくるが、俺の中ではもう眼鏡男に対して信頼はない。
この取り繕いようが余計にこの男の本性が悪いと知らせてくる。
気分もよくないのでさっさとクラスメイトの中に戻る。
「はは、ドンマイだな灰人。最弱職業とかラノベの主人公なれるじゃん」
「う、うるせぇな」
俊輔が笑いながら背中を叩いてくる。やっぱりこういう風に馬鹿にされた方が全然いい。
「では、皆様。町に向かいましょう」
眼鏡男とミリアさんが先頭に立ち、後ろをソフィアさんが立ち、俺達は挟まれるようにして移動していく。
眼鏡男には近づきたくないので自然と俺は一番後ろにまわる。というより、後ろに男がいる比率が高い気がするのは気のせいではないだろう。
欲望に忠実だなこいつらは。だが、残念ソフィアさんの前にいるのは俺と俊輔だ。
「ソフィアさん、街までってどのくらいかかるんですか」
「うーん馬であれば数時間ですけど、大人数でかつ徒歩の移動ですからね。明日になってしまうと思いますよ」
「そうなんですか」
つまり、今日はお泊まりということですね。
まぁ、だからといって何だということだが。
「そういえば、ソフィアさんは何の職業なんすか?」
俊輔がソフィアさんに聞く。そういえば、ソフィアさんや眼鏡男達は俺達の職業を聞いておいて自分達のは明かしてなかったな。
「……私ですか? 私は狩人です」
気のせいだろうか? ソフィアさんが職業を言うとき一瞬間があった気がした。
「へぇ、狩人ってまんまエルフって感じがしますね」
「シュンスケ殿やカイト殿の世界でもエルフはいるんですか?」
「いや、実際にはいないけど、物語とかにはいるんすよ。俺も灰人もエルフは大好きなんすよ!」
よくも恥ずかしげもなく本人の前で好きと言えるもんだ。ここが彼女持ちとそうでないものの違いなのかもしれない。
「そうなんですか。狩人でいるとエルフらしいといえる世界なんですね」
「ソフィアさん?」
何だ今の言い方は、それではまるで、この世界だと駄目みたいな言い方じゃないか。
「いや、何でもないですよ!! それより、カイト殿は大丈夫ですか? 傷はなくとも体の内側が痛んでる場合もありますから」
「いや、大丈夫ですよ」
「そうですか! ならよかったです!」
あからさまに話を逸らされた。勿論突っ込む事なんてしないが、本性を隠す眼鏡男に訳ありそうなソフィアさん。
「っ!」
未だにずきずきと痛む頭に不安が募る。
嫌だな。
異世界来て早々なのになんだか嫌な予感がする。
外れてくれ____この願いが外れる事をこの時の俺は知らないでいた。
感想、アドバイスなど頂けたらモチベ上がる気がします。
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