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勇者?魔王?いいえ村人です。  作者: 蒼伊悠
序章
2/27

2:クラスメイト

本日2話目てす。


 草原。青臭さが鼻をつく草原に気づいたら立ち尽くしていた。

 「御手洗」

 「……っっ!! なんだ、お前かよ」

 突如背後から聞こえた声に慌てて振り向くとそこにいたのはクラスメイトの女子だった。


 「お前かよって失礼ね。ちゃんと名前で呼びなさいよ」

 「はいはい、鬼灯。これでいいだろ。それより、全員いるのか?」

 振り返った先にいたのは肩の辺りまで伸ばしたボブヘアに可愛らしい顔立ちをしたクラスメイト鬼灯明里以外のクラスメイトが何十人もいた。


 「う、うん。皆いるわよ。御手洗が来なくて心配してたんだから」

 「心配? 鬼灯が俺を?」

 驚いた表情を作ると鬼灯が顔を真っ赤に染める、顔を見ればわかる、照れて染めているのではない。怒っているんだ。


 「心配してあげてんのにからかうんじゃないわよ! そりゃクラスメイトがいなかったら心配するに決まってるでしょうが!」

 「悪いって、冗談だよ! ごめんって!」

 「ふん! それより、何でこんなに遅いのよ」

 「何でって、時間通りだろ……?」


 寧ろ俺はアラームを二分前に設定していたから、俺が最後って事の方が驚きだ。ギリギリの奴が一人位いると思ってたのに。


 「時間通り? なに言ってるのよ」

 「ん、待てよ。 お前……鬼灯、いつこっちに来たんだ?」

 「私は10分位前よ」

 「はやすぎるだろ!!」

 あんないっぱいあった選択肢の中からどうやって選んでたらそんなに早く来れる!!


 「だって、仕方ないじゃない、あの黒い穴が閉じそうだったんだもん」

 「いや、それにしても時間はあったはずだろ」

 「時間? 何の時間よ」

 「何のって……あ」

 ここにきてやっと気づいた。俺が30分という時間を知れたのはあの神とやらに聞いたからだ。じゃあ、もし聞かないでいたのなら閉じそうになる黒い穴に即座に飛び込んでいたかもしれない。

 

 ーーーーあの、神さん本当に情報を落とさないな。


 「全くもう、あんたって……皆! 御手洗来たわ!!」

 考え事をしていると御手洗がクラスの皆に向かって叫ぶ。

 声に釣られて俺に気づいていなかった者達も俺に視線を向けてくる。


 視線を向けられるとそれだけでなんだかこそばゆい。


 「お、灰人! 無事だったかこんにゃろ!」

 俺に気づいたクラスメイトの中から短く髪を刈り上げた男がでてくる。


 「俊輔! お前も無事なのかよ、しぶといな」

 「よくいうぜ、嬉しいくせによ」

 立花俊輔はよく話す友達で唯一外でもよく遊んだりするクラスメイトだ。


 高身長でワイルドな風貌な俊輔は俺と同じで小説やゲームが好きなくせにちゃっかりと彼女持ちだったりする。


 「御手洗くんも来たか。これで全員揃ったかな」

 更にクラスメイトの中から、イケメンがでてくる。


 イケメンで文武両道のモテ男である天神太陽、名前からもわかる通りリア充のトップにたつ器を持っている男だと勝手に思っている。恐らく勇者スキルを手にいれたのは天神だ。



 「皆も状況はわかっているね。僕達は異世界へときてしまった。何故僕達が異世界に来てしまったのかは残念ながら分からない。だけど、僕達は同じ地球にいて、同じ学校で学んできた仲間だ。僕達ならばきっとどんな困難でも乗り越えられる」

 

 いきなり始まった演説。地球にいた頃ならば笑ってしまうような陳腐な台詞も何故だが心に染み込んでくる。 

 実際に異世界に来るとこうやって矢面に立って発言する天神が凄いとわかってしまうからかもしれない。



 天神を見ていてふと思った。


 ーーーー神眼のスキル試してみるか。


 天神に焦点を当ててスキルを発言するイメージを浮かべると天神のステータスが見えてくる。

 

 天神太陽(16)

 職業:勇者

スキル:勇者の証 光魔法 身体強化 剣術 鑑定


 やはり、勇者スキルは天神が得ていた。イケメンリア充が勇者になる。テンプレと言えばテンプレだな。

 

 それにしても見れるのは名前と職業とスキル名だけか。前もって情報を得られるのは十分有用だが、ゲーム等の鑑定とかと比べるとやはり見劣りしてしまう。レベルが低いのが原因だと思うので早く上げたい所ではある。


 職業の説明をされてなかったが恐らく職業は、得たスキルから自然に決められていくのだろう。

 

 せっかくだ。今のうちに他の者達のスキルも見ておこう。

 天神に夢中になっているクラスメイト達のスキルを見ていく。


 何人かを見ていると突然頭がズキッと痛くなってきた。

 やばい、これ恐らくスキルの多用のせいだよな。


 スキルを使いすぎるのは良くないのかもしれない。


 とりあえず、天神に意識を戻すとしよう。


 「____というわけで、僕達が協力するためにもお互いのスキルを明かさないか? 僕は勇者の証に光魔法、身体強化に剣術と鑑定だ」

 話を聞いていなかったがどうやらお互いのスキルを明かしていくという流れになったらしい。


 神眼を使う必要なかったってことかよ……。


 でも、よく考えれば生活していくにはお互いの手の内を明かしていくのは当たり前だった。誰が何をできるかをスキルから判断するのが手っ取り早いからだ。

 


 天神の提案はすんなりと通り、クラスメイト達は次々にスキル名と職業を告げていく。俺は少し離れた所でクラスメイトの声を盗み聞きする。

 スキルで視て既に知っている者もいたが差異はないのか調べる為にもしっかりと聞いておいた。その結果は神眼は正しいとのものだった。


 というより、こうして皆がスキルを明かすのに乗り気でいるところを見るに殆どの者が神眼のように相手のステータスを覗くスキルを手にしていないのが分かる。


 「ねぇ、御手洗はどんなスキルを手にいれたの?」

 他のクラスメイトのスキル名に耳を傾けていると鬼灯が聞いてくる。

 因みにそんな鬼灯のスキルは既に神眼で見ていた。


 鬼灯明里(16)

 職業:僧侶

 スキル:聖魔法、水魔法、杖術、魔力回復、身体強化


 回復と戦闘を行える意外とバランスのいいスキルになっていた。


 「スキルを知りたいって? 嫌だヨーン」

 俺は既に鬼灯のスキルを知っている。ならば、わざわざ俺が教える必要はない。


 「は、はぁ! あんたふざけんじゃないわよ!」

 からかわれて顔を真っ赤にした鬼灯は本気で怒ってるのか胸ぐらを掴んでくる。


 「御手洗くん、本当に馬鹿だね」

 鬼灯の隣でポニーテールに結んだ背が小さな女子が呆れた視線を向けてくる。

 鬼灯の友達の東雲時雨さんだ。


 「ごめん、言うから。は、はなぢて」

 先程から胸ぐらを掴まれているせいで段々と息ができなくて苦しくなってきている。

 

 「ふん、全く、早く話なさいよね」

 「ゲホッ、ゲホッ。たく。俺のスキルは」

 「なになに、どったん?」

 のほほんと気楽に俊輔が割って入ってくる。 

 これは、まずい。


 鬼灯が俊輔に俺がスキルを教えてくれないという事を伝えている。


 「へぇ~。灰人が隠すスキルねぇ~」

 ニヤリと俊輔は笑う。この反応間違いない。

 こいつ、神眼系のスキルを持ってやがる。


 俺と同じで小説やゲーム好きな俊輔ならもしやと思っていたが合っていたようだ。


 「ふーん、ふむふむ。神眼に霊視に意志疎通に身体強化に……ぷっ、あはあは、なんだよ農民スキルって……」

 だから、知られたくなかったんだ。

 笑われるってわかっていたから。

 俺はあの後結局農民スキルを取得した。神も面白いという使い方を思いついたからだ。


 「そういう、お前は何を取得したんだよ」

 「え? 俺か? 俺は職業は拳闘士、スキルは身体強化に火魔法、拳闘術に攻撃力増加に神眼だ」

 「くっ」 

 戦闘に特化した無駄のないスキルバランスになっている。


 「それより、御手洗。あんた何で農民スキルなんて取ったの?」

 「そうだよ、灰人。お前がこのスキルを取ったってことは面白い事があるってことだろ」 

 純粋に疑問を抱いている鬼灯とは違い付き合いの長い俊輔は事情があると察してワクワクした顔をしている。


 だが、今打ち明ける訳にはいかない。

 まだ、自分のアイデアが成功する確証はない。


 「それは、内緒だ。今度教えてやるよ」

 「約束だからな!」

 俊輔は腕を俺の肩に回してくる。

 こいつはこうやって無理に突っ込んで来ることがないから助かる。


 「きゃぁぁー!!!!」

 突如女子生徒の悲鳴が耳をつんざく。


 「うわぁぁ、なんだあれ」

 「きゃぁぁー!!!!いやぁぁ!!」

 一人の悲鳴を皮切りに次々に悲鳴が鳴りはじめる。



 「何があったんだ?」

 「わっかんね」

 悲鳴の原因を見ようにもクラスメイト達による人混みのせいで俺の位置からは見ることができない。

 少し離れた事が仇になった形だ。


 「何、皆どうしたの!」

 鬼灯が人混みの中に突っ込んでいく。


 「何をあれ……」

 鬼灯もまた驚愕の声をあげている。

 一体なんだんだ?


 「灰人、行ってみようぜ」

 「だな」

 俊輔と共に人混みを掻き分けていく。

 人の壁を越えていくと皆が悲鳴をあげた原因が見えてくる。

 


 漆黒の体毛を持つ大きな犬……いや、あれは狼だ。


 漆黒の狼が俺達の視線の先にいた。

 散々悲鳴をあげたせいか狼は俺達の方に顔を向けている。



 ニヤリ____漆黒の狼がそう嗤った気がした瞬間、狼が俺達の方へと駆けてくる。

 

 「うわぁぁぁ」

 「きゃぁぁ!!」

 狼が迫るのを見た瞬間クラスメイトは阿鼻叫喚の様を呈しながら狼から逃げようと背を向ける。


 「おい、駄目だ。背中を見せるな!」

 獣に背を向けるのは自殺行為だ。

 叫んで皆を止めようとするが駄目だ。


 俺の声なんかじゃあ逃げている者は止まらない。

 気づいたら逃げずにいるのは俺を含めて数人しかいない。

 大多数が突然の事に固まっているだけだろうが、背を向けるよりはましだ。


 「でけぇ」

 狼が近づいてくるとその姿が段々と大きくなっていく。

 思ったよりも全然でかい。

 初めて動物園で虎を見たときのように、勝てないと本能で悟る。

 だけど、このまま突っ立ってる訳にもいかない。

 背を向けずとも恐怖で固まった者がいるからだ。


 「こぉぉい!!!!!」

 できるだけ大きな声をだす。

 狼が俺に注目するように____固まっていたやつが俺の声で動けるようになるように願いながら、叫ぶ。



 「おらぁぁ!! こっちにこい!!!」

 狙い通り狼は俺を見る。

 そのまま狼は跳躍して……牙を覗かせながら俺へと飛びかかってくる。


 「灰人!!」

 「御手洗!!」

 俊輔と鬼灯の焦り声がどこか遠くのように聞こえる。

 


 大きく口を開き鋭い牙が覗く口内。涎を垂らしている様がスローモーションで見える。


 ……あ、これ死ぬやつだ。


 風切り音が聞こえる。


 狼の牙が俺へと迫っており、その額に突然角がはえる。


 いや、違う。角じゃない。突如生えたそれは一本の矢だった。


 狼が目の前で落下していく。


 「え……」

 何処の誰が矢を放ったのか、矢が飛んできた方向を振り向く。

 そこには背を向けて逃亡しているクラスメイトとその奥にある森だけがある。


 ____まさか、あの森から射ったのか?


 森までは目算では三百メートルはある。そこからクラスメイト達を避けて漆黒の狼だけを狙ったのだとしたら凄い腕前だ。


 「おい、灰人」

 逃げずに状況を伺っていた俊輔が俺と同じように森を睨み付けている。


 「わかっている。人がいるな」

 味方がどうかは分からないが人がいる。

 助けてくれたから敵とは思いたくないが油断はできない。


 「御手洗、あんた無理するんじゃないわよ!」

 「いた! 叩くなよ」

 「あんた、わざと自分の方に来るように大きな声をだしたでしょ!」

 どうやら俺の考えは見透かされていたようで鬼灯は涙目になっている。かなり心配させてしまったらしい。


 「悪かったよ。ごめん」

 「いいわよ、私なんてあんたが叫ぶまで動けなかったんだから。こっちこそありがと」

 「いいって」

 直接目を見られながら感謝を伝えられるとなんというか照れる。


 「んで、御手洗。あれはなんなの」

 「え?」

 鬼灯が指差している森の方を見ると一頭の馬が走ってきていた。


 背後にはいまだに狼がいると思っているクラスメイト達は前方の馬に気づいて、前方に逃げるわけにもいかず立ち止まっている。


 だが、あれは恐らく敵ではない。馬の上には人が乗っているからだ。このタイミングでの出現は俺を助けてくれた者と見ていいだろう。


 「また、凄い格好だな。フルプレートってやつか?」

 俊輔が馬に乗る人物を見ていう。

 馬に乗っている人物は全身を鎧で覆っている。背には弓と矢が入った籠がある。


 馬はクラスメイトを通りすぎて俺達の所までやってくる。


 「無事であったか」

 鎧の人物は馬上から俺を見下ろしながら安否を確認してくる。


 「はい、おかげさまで、ありがとうございます」

 「それは、よかった。びっくりしたぞ、大きな声がいくつも聞こえたと思ったら少年がブラックロウガに襲われていたのだからな」

 どうやら、クラスメイトの悲鳴のお陰で俺は助かったらしい。

 逃げてくれてありがとうな!!と心の中でクラスメイト達にお礼しておく。


 「貴方のお陰で助かりました。本当にありがとうございます!」

 「よい、私達は人探しついでに来たまでだ。これも、また一つの運命であろう……よっと」

 鎧の人物は馬上から飛び降りる。


 飛び降りると、俺の体を触ってくる。

 「ふむ、怪我はないな」

 「おかげさまで」

 「よかった。所で君達はこんな所でどうしたんだ? 見たところ戦士ではないようだが」


 「俺達はその……」

 異世界から転移してきましたなんて言えない。信じてもらえるかもわからないし、この世界で異世界人がどのように扱われているかも分からない。下手に明かすわけにはいかなかった。


 「ああ、すまないね。まずは私から明かすべきであった」

 鎧の人物は申し訳なさそうにして、頭に被っていた鎧を脱ぐ。

 


 「____ふぇ」

 「ふぁ__」

 俺と俊輔は間抜けな声を漏らす。


 腰まで伸びた鎧と同じように白銀に輝く銀髪に透き通るように真っ白い肌、アーモンドのように大きな瞳に薄く鮮やかなピンク色の唇。現実離れした美しい女性が顔を覗かせた。


 しかし、俺達が驚いたのはそこではない。


 「私は冒険者であるソフィア・フォーセリア。よろしくな」

 人間離れしたソフィアさんはまさしく人間じゃなかった。

 つんと伸びた長い耳。

 ファンタジー好きなら一目でわかるその姿。


 ソフィア・フォーセリアは異世界物の定番の種族にして、俺にとっても重要な存在であるエルフだった。


 

不定期更新ですがよろしくお願いします。



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