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16「歓迎」


 頭に生えた獣の耳と、臀部から伸びた獣の尻尾に、慣れてきた頃。

 俺たちは、獣人領へと到着した。


「これが、獣人領……」


「凄い、綺麗……」


 俺とクレナが目の前の光景に感動する。

 森の奥に進むにつれて、周りの木々が徐々に太く、高くなっていくのは感じていた。獣人領はその中心……沢山の大樹に囲まれた都市だった。


 大樹から伸びる枝葉や、その間に取り付けられた細い橋によって、空中に入り組んだ道ができていた。太い幹を囲うように木の板が取り付けられ、その上に家屋が建てられている。木漏れ日が照らす森の中を、獣人たちは自由に、のびのびと過ごしていた。


「幻想的だな」


 横ではなく、縦の空間を広く使ったその街並みは、暫く目が離せないほど新鮮に感じる光景だった。


「この橋から上の方へ向かう。着いてきて」


「あ、ああ」


 アイナが傍にあった足場へ上り、難なく進んでいく。

 細長い橋は、歩く度に揺れた。見た目は幻想的な街並みだが、その構造は身体能力が高い獣人のみを想定しており、お世辞にも便利とは言えない。獣人の眷属となった今の俺なら、多少の不安定な足場なら問題ないが、その後に続くクレナは恐怖に引き攣った顔で、ゆっくりと橋を進んだ。


 やがてアイナは、大きな建物の前で立ち止まった。


「アイナ、ここは?」


「爪牙の会。……王都でいう、冒険者ギルドみたいなものよ。獣人領にいる間は、ここで寝泊まりする予定」


 アイナの説明に俺とクレナが相槌を打つ。

 前回、吸血鬼領に行った時はクレナの屋敷に泊まったが、今回は公共の施設に宿泊することになるようだ。


 そう言えば……俺たちはアイナの家族について何も知らない。

 彼女はこの獣人領の出身であるため、家もここにある筈だが、そういった素振りは全く見せなかった。


「リディア様」


 アイナが扉をノックして中の住人を呼ぶ

 扉が開き、獣人の女性が現れた。耳と尻尾は狐のもので、白髪を太腿の辺りまで伸ばした、落ち着いた雰囲気のある人物だ。


「アイナ、待っていたわ。……そちらにいるのが、例のお客さんね」


「そう。ケイルとクレナ」


 アイナが頷きながら、俺とクレナのことを紹介する。

 どうやら俺たちが今日、獣人領へ訪れることをリディアさんは事前に聞いていたらしい。彼女は俺たちの方を見て微笑を浮かべた。


「ようこそ獣人領へ。爪牙の会、会長を務めているリディアと申します」


 リディアさんは、静かに頭を下げて言った。


「二人の話は事前にアイナから聞いています。同じ学園の生徒として、いつもアイナと仲良くしていただいているみたいですね。……ケイルさんは他の獣人領出身と聞いていますが、この村でも気兼ねなく寛いでいただければと思います」


「ありがとうございます」


 勿論、俺が他の獣人領出身であるという情報は嘘だ。

 詮索されると色々とボロが出てしまいそうだが、幸い俺の出身に対する反応は淡々としたものだった。


「さあ、どうぞ中へ」


 リディアさんの案内のもと、俺たちはアイナを先頭に建物の中に入る。

 爪牙の会は冒険者ギルドと同じ役割の施設らしいが、建物の内装はどこか温かさを感じる家庭的なものだった。客をもてなす酒場というよりは、親戚同士で集まって食事を楽しむような雰囲気がある。


 建物の中に入った俺たちに、多くの獣人たちが注目する。

 彼らは俺たちに人当たりのいい笑みを浮かべた。


「お、待ってたぜ! ようこそ獣人領へ!」


「あら、かっこいい方じゃない。そちらの吸血鬼さんも可愛らしくて素敵ね」


「いつまで滞在するんだ? たっぷり遊んでいけよ!」


「わからないことがあったら何でも私に訊いてちょうだい!」


 一斉に声をかけられ、俺とクレナは驚いた。


「な、なんていうか、随分と歓迎されてるな……」


「そ、そうだね……」


 苦笑しながら、周りの獣人たちに挨拶をしていく。

 驚きはしたが悪い気分ではない。


「丁度、夕食の方が出来上がりましたので。食堂の方へ向かってください」


 リディアさんが言う。

 確かにそろそろ夕食時だ。腹も減っている。俺たちは部屋へ向かうよりも先に、夕食をいただくことにした。


 荷物を適当な場所で下ろそうとすると、傍にいた獣人の青年が爽やかな笑みを浮かべながら「お預かりします」と声をかけてくれた。どうやら俺たちは本当に歓迎されているらしい。


「さあさあ、お好きな席に座ってください!」


 食堂に辿り着いた俺たちは、獣人たちに手招きされ、一番目立つ席に座ることとなった。「お名前は?」「どこから来たの?」「外では何をやっているの?」……そうした質問に答えているうちに、食事が運ばれてくる。


「うわぁ……ケ、ケイル君、これ凄いご馳走だよ!」


「ああ、見ればわかる……!」


 大きなテーブルを、大量の皿が埋め尽くした。

 皿に載せられた料理はどれも彩り豊かで、食欲をそそる香りがした。


 俺とクレナが配膳された料理に目を輝かせていたからか、すぐに食事が始まった。

 獣人たちの食事は賑やかなものだった。この建物に入った時も感じたが、アットホームな空気が流れている。きっと横の繋がりが強い種族なのだろう。


「あら、ケイルさん。お皿が空いていますよ。こちらをどうぞ」


「あ、ありがとうございます」


「グラスも空いてるぜ。……酒飲むか? ちょっとくらいならいいだろ!」


「い、いえ、流石にそれは遠慮しておきます」


 アールネリア王国では十八歳未満の飲酒が禁止されている。

 やんわりと酒を断ると、代わりに隣に座る獣人の女性から果汁のジュースを注がれた。


 まさに至れり尽くせりだ。

 ふとクレナの方を見てみると、彼女も俺と同じように丁寧なもてなしを受けている。


「ケイル君……私、もうここに住みたいかも」


「ああ……その気持ち、良くわかる」


 ふにゃり、とだらしない笑みを浮かべるクレナだが、その心情は俺もよく理解できた。


「ふふ、お二人とも。楽しんでいただけているようですね」


 後ろから声をかけられる。

 振り向くと、そこにはリディアさんがいた。


「私たちは貴方を歓迎します。どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」


 リディアさんが綺麗な笑みを浮かべて踵を返す。

 その横顔に一瞬、俺は釘付けになった。


「……ケイル君、今、見とれていたでしょ?」


「え? い、いや、別に」


「むぅ……あれが大人の魅力……今の私には……」


 クレナが唸り声を上げながら、自分の顔や胸の辺りを触る。

 食事はその後も暫く続いた。




 ◆




 夕食が終えた後。

 俺たちは建物内にある風呂で身体を流し、部屋へと案内された。


「はぁ……少し、疲れたな」


 獣人領への移動で疲労したのもあるが、ここまで歓迎されると、それはそれで疲れることもある。


 しかし悪い気はしない。

 どうしてここまで歓迎されるのか少し不思議に思う。外部からの客が少ないのだろうか。確かに獣人領があるのは森の奥深く……気軽に足を運べる場所ではない。しかし、どうもそれだけではないような気がした。


 ベッドに寝転がり、欠伸していると部屋の扉がノックされる。


「どうぞ」


 隣の部屋にいるアイナかクレナだろうか。

 そう予想していたが、現れたのはどちらでもない。


 今日、初めて会った獣人の女性だった。


「ケイル様。今、大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫ですが……」


 やや戸惑いながらも頷くと、女性は静かに部屋に入り、扉を閉めた。

 彼女は確か、食堂にいた獣人の一人だ。何度か言葉を交わしたが、こうして二人きりで会うほど友好を深めた記憶はない。茶髪の上には獣人の特徴である獣の耳が生えていたが、それが何の種類かは分からなかった。左右に広がりがある、少し大きめの耳だ。


「あの、何の用でしょうか?」


 疑問を口にすると、女性はクスリと笑みを浮かべた。

 そして――身に纏っていた衣服を、ゆっくりと脱ぐ。


「僭越ながら、今夜は私がケイル様のお相手を務めさせていただきます」


「…………は?」





 獣人領の見た目はメイプルストーリーのエリニアをイメージしていただければ幸いです。

 あと終盤で出てきた女性はフェネックの獣人です。

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