From winter night…
扉を開いた。手に触れた鉄の体温が私に伝わる。
風が髪を踊らせる。髪の間を通り抜けどこまでも当てのない旅を続けているのだろう。
空を見上げ、首に風が巻きつく。そして全身を撫でる。
無機質。無機質なものに何を思い馳せるのか。
そんなことを思い口元が緩んだ。
足元を一瞬確認して踏み出した。地面から伝わる冷気。無機質と戯れる僅かな時間。
私の往来の道。ポケットに手を入れ口をつぐみ、いつものように進む。砂利からアスファルトに変わる道。
なんとなく、ただなんとなくポケットから手を出した。指先を見つめ、そして空にかざす。気まぐれの日課。いつかこの動きが絵になるような人になりたい。
そう思うと、可笑しさが込み上げてきた。きっと誰にも聞こえない小さな小さな笑い声。それに、希望と期待、それと嘲笑を乗せた。
あの人は今何をしてるだろう?
胸が締めつけられた気がして、服の胸の辺りをギュッと握った。少しの寂しさと悲しさ、愛しさも一緒に。瞬きをしたら目が急に冷えた。鼻の辺りがじんとする。口から言葉がこぼれかける。
突然の強めの風。
ちょっと身を屈める。背中を押されたような、今考えてたことを忘れさせられたような。寒い。
一回の深呼吸をして、前へと駆け出す。
白く曇った息と想い、そして残り香を置いて。