一緒に召喚された男の娘がやばい件について
別に、俺はどっちでもよかったんだ。
この世界に残ろうが、帰って社畜人生を過ごそうが、それなりに楽しめる自信はある。
だが、相棒ともいえる自称男子高校生の彼はやばい。
「お兄さん、今日は何しますか?魔物狩ってもいいし、国滅ぼしてもいいですよ。あっ…もしかして、僕をお望みですか?少し恥ずかしいけど、お兄さんなら…」
「取り合えず暴走しないでほしいかな?」
「えっ…そんな乱暴なことしちゃうんですか?あぁ、でもそれも…」
何がやばいかって、何か知らん内に衆道に目覚めてしまったようなのだ。相手は俺。どうしてこうなった。彼をどうにかまともにしないと帰ることも出来ない。
………
まずは振り返ってみよう。
俺と彼は同じタイミングで異世界召喚された。んで、その国は異世界人を勇者という名の奴隷として働かせようという物語的には悪いほうの召喚だったんだ。
別に比喩表現の奴隷じゃない、本当の意味で隷属させられた。召喚に隷属魔法が組み込まれていて逃げるタイミングも無かった。
それで、俺達は無理矢理魔物との戦いに駆り出された。一応装備はまともだったのが幸いだったが、殺しもしたことがない日本人の俺達ではさぁ戦え殺せと言われても無理がある。
だから、彼は魔物の目の前に放り出された時に立ち竦んで動けなかった。まだ大人の矜持があった俺は少なくとも躱す程度には動けたが、彼には無理だった。
当然彼は魔物の標的にされた。
「ひっ…嫌だ…助けてぇ…」
そんな幼げな声を聞いたら大人として、男として動かないわけにはいかなかった。
「うおおおおおおお!」
脳内を迸る興奮に身を任せて、俺は彼を守るために魔物を屠り続けた。戦った経験なんてなかったからがむしゃらで、だから傷だらけになって。それでもアドレナリンは動きを止めることを許さなかった。
気が付けば、俺の血と魔物の返り血で着ていた物は赤黒い色をしていた。
何度も、何度も、何度も何度も何度も戦った。とにかく戦って、経験を積んで、隙を見て現状を打破することが出来る時まで、彼を守りながら、彼を無事に元の世界に返すために殺し続けた。
何度目かの戦闘の時、彼はついに自分で武器を取った。俺はそれを止めた。彼に殺しを経験して欲しくなかったから。それでも、
「僕も、お兄さんを守りたいんです」
そういった彼の強い決意が宿った瞳の前に、俺は折れた。せめて殺したという感覚を幾許か軽くなるように、彼には弓を取ってもらった。
そうして又何度も魔物を屠った後、ついに隷属から抜けられる機会があった。
俺が闇魔法を習得した。闇魔法は精神操作や隷属魔法を得意とする、忌み嫌われ、国によって管理されていた属性魔法だった。
だが、碌に魔法を勉強していない俺達は全くの無警戒だったのだろう、誰もそのことに気が付いていなかった。
俺自身、闇魔法を取得していたと知ったのは、戦闘中に敵の目くらましをしようとした時だった。不意に体の中から何かが抜ける感覚がしたと思ったら、相対している魔物の顔を闇が覆っていたのだ。
それからはこの魔法で突破口を切り開くために、監視の目を盗んでは隷属魔法に干渉し続けた。
そしてついに隷属魔法を解除することが出来て、彼と共に逃げ出した。
‥‥‥‥
「うん、ここまでは別に何もなかったな」
「何が~?」
「いや、なんでもない」
いつの間にか昼になっていたようで、彼は昼食を作ってくれていた。彼は家事が得意なようで、俺は申し訳ないと思いながらも一切を彼に任せていた。うーん、いい嫁さんになるな…
( ゜д゜)ハッ!
違う違う、嫁になってどうする。
「僕はお兄さんのお嫁さんになりたいなー?」
「心を読まない!」
読心術とかどこで覚えたのか。そもそも何の特徴もない俺をどうやってここまで好きになれるのか。
「ごちそうさま、美味かったよ」
「えへへ、お粗末様です」
うーん、笑顔が可愛い。だが男だ。
‥‥‥‥
取り合えずその後を思い出そう。
逃げ出したら当然追われるもので、国の目をかいくぐりながら魔物を狩って金に換えて、さぁ国を出ようとした矢先。
俺よりも戦闘経験の少ない彼に目を付けて、少し目を離した隙に賞金目当ての奴等が彼を攫ったのだ。
許せなかった。だから殺した。
それまでは人を殺すことだけは避けてきた。幸い奴隷時代にも戦争に駆り出されることはなかったので、その一線は超えていなかったのだ。
だが、最早我慢の限界だった。
国の闇ともいわれるスラム街の連中を片っ端から闇魔法で精神操作して尋問し、人さらいのアジトを突き止めた。
入口にいたゴミから彼の場所を聞き出して侵入、見張りなどに見つかった際には先ず喉を潰し、声を出せないようしてから殺した。
「お兄さん…!」
「良かった、見つけた」
無事に彼を救出した後は、漏れなく全員殺した。誰も俺達が殺したと分からないようになるまで殺しつくした。
‥‥…
「うん、ここまではいい」
「さっきからどうしたのー?」
「ん?あぁ、この世界に来てからのことを思い出しててな」
「そっかぁ。やっぱり、滅ぼす?」
「いや、面倒だからいい」
「分かったー」
そういって午後のお茶を淹れてくれる。うん、美味しい。
‥‥…
それから、何とか国を脱出して今の国に来たんだ。幸いこの国は非道なことを許さない秩序があり、俺達も事情がばれた時は素直に話した。そしたら、すぐに保護してくれた。国に対する警戒はあったけど、彼らは俺達を自由にさせてくれた。
だから、恩を返すためにダンジョンを征伐しに行ったんだ。
この世界のダンジョンはモンスターが沸き、宝なんてものはない只の害悪だったから。
その途中で、俺は落とし穴にはまって彼とはぐれてしまったんだ。
足の骨は砕けて、動くこともままならない暗闇の中。俺は今までにないほど死を覚悟した。何とか動く腕で近づいてくるモンスターを狩り続けて2徹ほどしただろうか。食事も、睡眠も無いのは経験ではどうにもならなかった。モンスターの肉は食べられない。毒しかないから。
それでも、彼を残して逝くわけにはいかないという執念で生き残った。
そして、俺は死の直前に救出された。彼に。
彼は俺とはぐれた後、まずは冷静に人手を集めたそうだ。この国の奴等は良い奴しかいないのか。
そして、俺が落ちた場所から深さを推測し、落ちた階層を特定、後しらみつぶしで探し回ったと。
手伝ってくれた人から聞いた話では、2日目からは鬼のような形相をしており、諦めろとは言えず、せめて死体を回収するくらいの気持ちでいたらしい。2日飲まず食わず寝ずで生き残った俺も、俺を探す彼も化け物かとさえ思ったそうだ。
「お兄さん…うわああああああああ」
「悪かったな…ありがとう」
そんな光景を見た人たちは、一緒に涙を流していた。
やはり同郷の者が居なくなるのは寂しかったのだろう。彼はこのころからいつ何時も離れようとしなくなった。そして、俺を求め始めたんだ。
‥‥……
「うーん…」
「今度はどうしたの?」
夕食を食べながら別のことを考えていたことを恥じた。
「あぁ、ごめん。今日も美味いな」
「うん、ありがとう。でもそうじゃなくて。今日のお兄さんはどこか変だよ?」
大丈夫?と、今にも死にそうな人を目にしているような、離れ離れになることを恐れているようなその瞳は綺麗で、でもなぜか濁っているようで。
「実はな、君が俺をそんなに求めるようになった原因を思い浮かべていてな」
「…!そうなの?僕のことを思っていてくれたなんて、嬉しいな!」
「あぁいやそうじゃなくて…まぁいいか。それで、これまでのことを思い出していたんだが、分からなくて」
「えー?だってさ、お兄さんはまず僕のことを助けてくれたでしょう?」
「同郷の子を大人が見放すわけにはいかなかったからな」
「むー。まぁそれでもいいけど。それで、今度は誘拐された時にすぐに来てくれた」
「あいつらは許せなかったな。心配した」
「えへへ…ありがとう。それで、僕はお兄さんが居ないとダメで、お兄さんも僕が居ないとダメだって思ったんだ」
「ん?どうして?」
「だって、誘拐された時も、お兄さんがダンジョンで落とし穴に落ちて行方不明になった時も、僕はお兄さんのことしか頭になかったんだよ?これは愛以外の何物でもないでしょ!」
「…まぁ、確かに俺もあれだけ死にかけてたのに考えてたのは君のことではあったな」
「本当!?やったぁ、嬉しいなぁ」
はにかむ彼は男からしても綺麗だし、可愛いと思う。うん、俺は彼のことしか考えてないのは間違いないな。
「少しでもお兄さんと離れるともうだめなんだよ、僕。お兄さんのことしか考えられなくて、何にも手が付かないの」
「確かに、君の心配をしてしまうなぁ」
誘拐までされたからなぁ。強くなっているはずなのに、俺の隣にいないことが不安なんだよな。
「そうでしょう?だからね、お兄さんは僕の隣に居ないとダメなんだよ。僕もお兄さんの隣にいないとダメ。愛ってそういうことでしょう?」
そうか、俺は彼のことを愛しているのか。
そう思ったとき、何かがストンと腑に落ちた。
「ね?お兄さん。明日はどうしようか」
「そうだなぁ‥‥」
まずは、今日の夜から始めようか。
ショタ・男の娘をメインヒロインとした連載物を開始しました。
よければそちらもご一読下さい。
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