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民衛騎士 オーダー・ユナイテッド  作者: 紅月 叶理
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第一話 ナイトオブラウンズ

 桜の花が咲き乱れる校門の前に俺はいた。今日から通うことになる私立桜風学園、正規騎士養成のために作られたこの学園は国が巨額の資金を援助したことで有名だ、その支援に恥じることなく今まで多くの優秀な騎士を夜に送り出してきた。肩にかかった袋をもう1度かけ直し、俺は校門を潜った。


 桜の木が左右にいくつも立っており、校舎までの道のりで新入生の俺達を出迎えてくれている。この学園のある桜風市は、比較的長い期間桜が満開であることで有名だ、観光名所としても人気があり、洋風文化をいち早く取り入れたため、当時の貴重品や文化遺産を見るために毎日のように観光客が訪れ活気に満ちている街と言えるだろう。


 しばらく歩いていると校舎へとたどり着いた。これから始まるのは厳しい生活になるだろうが、今まで剣道場でしごかれてきたためにそこまで強い不安は抱かなかった。大きく深呼吸をし、再び校舎を見つめる。この時自分がどんな決意をしていたかなんて通り過ぎていく新入生には分からないだろうと意味もないことを考える。そうでもしないと気持ちを落ち着かせることなどできそうにない。

ここで問題を起こすわけにはいかないんだ・・・。


 校舎へ入るなり荷物を受付に預け、入学式の会場へと案内される。既に多くの生徒が着席する中、近場にあった空席へと足を運び腰を下ろす。もちろん隣や前後ろに居る生徒に顔見知りがいる訳もなく、淡々と時間が過ぎるのを待っていた。しばらくすると開会のアナウンスが流れ、ホールは一瞬で静まり返った。


「これより、桜風学園入学式を執り行う、まずは理事長の挨拶だ、心して聞くように」


凛々しい声の女性が壇上から姿を消すと、入れ替わりで現れたのは白髪で強ばった顔の60台後半ほどの老人だっ

た。


「まず初めに、入学式おめでとう、諸君、私はこの桜風学園の理事長を務める淡河(アゴウ) 良紫月(ヨシヅキ)だ」


 この業界では知らない人はいないほどの有名人だ、世界で初めて騎士制度を立案した人物でその人柄や技術で多くの政治家を相手にし、見事騎士制度を制定したのだ、剣の腕前はもちろん体術も多くのものを会得しているとか。


「さて、はれてこの学園に入学した諸君は各々の思いや決意を胸に騎士への道を選んだと思っている。諸君も承知し


ているとは思うが騎士への道のりは決して平坦ではなく、険しい道のりになっている。途中で挫折してしまうものも多く存在するのが事実であることも付け加えて言っておこう、しかし、最後まで仲間や共感を信じ、自分が最初に抱いていた思いのほかにももう一つ、思いや決意を抱いてくれることを願っている。」

理事長は一呼吸置くと周りを見渡し、新入生が話に付いてきているかを確認すると、再び語り始めた。


「騎士は平たくいえば警察官と同じような存在だ、しかし、権利や義務など生じるものはそれのひではない、諸君も

知ってのと通り我が学園では入学初日から真剣携帯免許を授与されると共に仮正規騎士免許であるバッヂが配布される。そのバッヂに刻まれた紋章の意味と、人の命を奪うために作られた武器の携帯を許されることの重さを理解して欲しい、諸君がおのの誇りと騎士の誇りを忘れずにいて欲しい、私からは以上だ」


 理事長の言葉の意味を考えつつ、式の流れに身を任せ、話に耳を傾け続けた。

 

 理事長の挨拶以外は一般のものと変わらず、この後は各クラスにてホームルームを行い、そこで通達される所属騎士団の騎士所まで出頭するらしい。

 

 長い入学式を終え少しの休憩時間ができた俺は、1人中庭のベンチへ腰掛けていた。もう見慣れた桜の花びらが風にゆられ降り注ぐ、これから自分が何を目指すのか、思うものはあるが具体的なことが未だに浮かばず、何度も理事

長の話を思い返していた。


「はあぁ・・・、思いや決意を実際に具体的にするのって難しいな・・・」


 大きなため息を一つ、ため息をつくと幸せが逃げるらしいが既に幸せは先払いして無くなっているので構わない。

 

 空を眺めていると足音が近づいているのに気が付き、後ろを振り返る。

そこに立っていたのは長いブロンドヘアーと紅い瞳が特徴的な少女だった。

腰に手を当て、凛々しい表情をしていた彼女は自分の中の騎士像その物だった。


「私の顔に何か付いているのか?」


 不覚にも見ず知らずの女性の顔をマジマジと見つめてしまっていた、恥ずかしい・・・。


「ごめん、綺麗な髪の毛をしていたからつい」


「今どきブロンドなど珍しくもないだろう、それよりも聞きたいことがある。この1-Cとはどこにあるんだ?」


少女は軽く俺の言葉を流すと地図らしきものを差し出してきた。


「これは・・・、学園の地図か、教室を探してるのか?」


「そうだ、私はイギリスからの留学生でな、日本語はまだよく分からないんだ」


「なるほど、それじゃ仕方ないか、ちょうどいい、俺のクラスも1-Cなんだ、良かったら一緒に行かないか?」


 彼女は表情を明るくし、前のめりになってこちらを見てきた。


「本当か!助かる。実はここの場所もどこだがよく分かっていなかったんだ、それに同じクラスというのも丁度いい、これから長い付き合いになると思うがよろしく頼むぞ」


 顔が近づいてきた瞬間ふわりと甘い香りが漂い鼻をくすぐる。女の子ってどおしてこんなにいい匂いがするものなのだろうと近づく度に考えるのは俺だけではないはず。


「あ、ああ、よろしく、俺の名前は杉上 悠」


「すまない、そう言えば自己紹介がまだだったな、道を聞いたお礼もしていなかった、重ね重ねすまない、そしてあ

りがとう」


 お礼を言われる程のことはしていないが、人に感謝されるのは悪い気分じゃない、それに、向けられた笑顔に少しドキッとしたのもある。律儀な性格なのも伝わってきて初めて会話した新入生で掴みがいいのも高得点だ、実際家から遠い学園に通うのには少し抵抗もあったので、その不安が少し取り除かれたこともあり、俺自身も少しリラックスできた。


「私の名前はフィア・ルージュ、フィアと読んでくれ、悠」


「分かった。こらからよろしくフィア、もうすぐホームルームも始まるだろうし、そろそろ教室へ行こうか」


 俺が歩き出すとフィアも並んで付いてきた。せっかくなので教室までの道すがら、さっきから気になっていたことを聞いてみた。


「さっきから気になってたんだけど腰のそれ、レイピアだよな?しかも学園から支給されるタイプじゃない」


 彼女は目をキラキラさせながらその反応を待っていたと言わんばかりにがっついてきた。


「そうだろうそうだろう、これは私が幼い頃から愛用していたものだ、そこら辺の物とは比べ物にならない一級品だぞ!なんせその道20年以上のベテランが作ったものだからな!」


 彼女が胸を張って自慢げに語ってくると同時にその豊満な胸が揺れる・・・。

デカイ。俺は顔が赤くなるのを誤魔化して話の重要な部分に突っ込んだ。


「いや、確かに一目見ればそのレイピアがオーダーメイドなのも分かるんだけどそうじゃなくて、まだ真剣携帯免許を受け取ってないのにそんなもの腰から下げてて大丈夫なのか?」


 間違いなく周りの生徒にもドン引きされるし、何より教官達が黙っていないだろうと思う、しかし彼女はそんなことお構い無しにレイピアを鞘から抜き取り俺に見せてきた。


「どうだこのしなやかなラインは、これを作った者の巧みな技術が手に取るように分かるだろう!?」


 かなり興奮しているのか顔と顔がぶつかりそうなぐらい密着してくる。もちろんそんな距離だから胸がグイグイ押し付けられる訳で・・・。


「あの、フィア・・・、剣が凄いのはよく分かったから・・・、その・・・、当たってるんだけど・・・」


 彼女はハット我に返り俺から飛び退いた、そして顔を赤くさせモジモジしている。俺だって男の子だものその仕草にドキッとせざるをえない。


「す、すまない、レイピアに気づいて貰えたのが嬉しくてつい・・・」


「大事なものなんだな」


 彼女の反応を見ればそれがいかに大切なものなのかが分かる。


「ならなおさら今は装備しておくのはやめた方がいいんじゃないか、教官達に見つかったら最悪取り上げられるぞ」


「それなら問題ない、私は既に真剣携帯免許を持っているからな」と、俺に免許を見せてくる。


「へえ、珍しいな、真剣を扱う道場にでも通っていたのか?」


 この免許は取りたいからと言って一般人が簡単に取れるものではなく、例外として必要な機関に所属している者しかとることが出来ない特殊な免許だ、俺が通っていた祖父の道場やこの学園がその例外に値する。


「いや、私は幼少期からフェンシングを習っていてな、その際に必要なのでとったのだ」


 そう言いながら彼女は剣を軽く振ってみせ、鞘へと収めた。


「詳しいのだな、悠も何かやっているのか?」


 正直他の奴にはあまり言いたくないが、彼女になら話してもいいかと思ってしまった俺は、気づいたら口が勝手に開き話し始めていた。


「まあね・・・、剣道場に通ってたんだ、じいちゃんが師範をしている所なんだけど厳しいところでさ、破門にされたんだ」


 自分で言っていても情けない話だ、彼女の顔をまっすぐ見るのにも抵抗があるぐらいに、胸のあたりがチクチクしたが、彼女はバカにするわけでもなく真面目に話を聞いてくれていた。ここまで剣が好きな者なら破門という事がどれだけ無様な事かよく分かるはずなのに、それでも真剣な眼差しを向けてくる彼女の反応は俺にとってとても以外だった。


「きっと悠の様なものの事だ、何かがあったのだろう?」


 何も話していないはずの彼女は俺の過去に何かがあったことを察したのか、聞き返してきた。


「お前の姿勢を見ていればわかる。とても綺麗で整った立ち方だ、そんな姿勢が出来るのは礼儀を重んじて、その筋

の道に真っ直ぐなものしか出来ないからな」


 彼女は俺を見上げると優しい表情を向けてくれた、少し心が楽になる感じがしたが、流石に初対面の相手に自分の過去を語る気までは起きなかった。


「無理に悠の事を聞こうとは思っていない、もし、誰かに話して楽になれるのなら・・・、その時は私が聞こう」


 そう言い残すと彼女は廊下を歩き出し、俺はその後をついて行った。桜舞う中庭が見える廊下に、窓から多くの花びらが舞い込んできていた。


 教室につくと既に多くの生徒が転々とグループらしき輪を作りガヤガヤと、賑やかに話していた。


「出遅れたな」


「その様だな」


 彼女は少しハニカムと周りを見渡していた。そんな彼女に近づいてくる女子生徒が1人。


「フィア・ルージュさんだよね?主席でこの学園に入学した」


「?、そうだが?」


 女子生徒は目を輝かせるとフィアの手を握り興奮気味で話し続けた。


「わー、やっぱり!ルージュ家の人だよね!こんな有名人と同じクラスになれるなんてラッキーかも!ね、あっちで

お話聞かせてよ!」


「あっ、ちょっと」という前にフィアは女子生徒に連れられグループへと引っ張られていった。


「どうやら出遅れたのは俺だけだったみたいだな・・・」


 少しげんなりして自分の席を探していると、後ろから誰かに掴みかかられた。


「悠~!会いたかったぞ~!!」


「うおわっ!?誰だお前!?」

 慌てて後ろに首を向けるとそこには懐かしい顔があった。


「まさか・・・、健二か?」


「親友の顔を忘れるとはひどいじゃないかこのこの~」


 ウザさ前回で絡んできたコイツは小学校からずっと一緒だった気森 健二学力的にも技術的にも騎士に向かないであろうこいつとは中学卒業でおさらばになると思っていたのに・・・、まさか桜風学園に入ってくるとは思いもよらなかった。


「暑苦しいやつだな!早く離れろ!」


「そんなこと言うなよ~、俺達の中じゃないか」


 周りの女子の一部からヒソヒソと、「ホモなの?ホモなの?」、「やだあの2人ってそういう関係?」、「BLよ!禁断の愛よ!」という声が聞こえてきた。俺はノンケだ!。



 無理やり健二をひっぺがすとそのまま見つけた自分の席へどかっと全体重を乗せて座る。

「なんでお前がこの学園にいるんだよ、あんなに面倒くさがりだった奴がよく入れたな」


「いや、なんか適当にオヤジから渡された教材みたいなのとビデオ見てたら簡単に試験クリア出来たぞ?」


 そうだ、コイツはそういう奴だった。

いつもは面倒くさがって何もやらないやつだけど、1度始めさせすればコイツは何でも卒なくこなし始める。

やれば出来るのに究極的に面倒腐がってやらない残念な奴なのだ。


「お前こそどうしたんだよ、前は騎士なんて柄じゃないって言ってたクセにどういった心境のへんかだ?」


 健二は前の席の椅子を引くと腰掛けて話を続けてきた。


「色々あったんだよ、色々と」


「色々ねぇ・・・」


 健二は顎に手を当てて俺が話し出すのを待っていた。それに負けた俺は大人しく口を開いて話をした。今日はよく自分のことを語る日だなと思いながら。


「じいちゃんに破門されたんだよ」


「お前が!?あの爺さんに!?嘘だろ・・・、だってお前3段まで会得してたんじゃ無かったのかよ」


「それも免許も全部剥奪されて、根性叩き直してこいってこの学園に入れられたんだ」

 

 お前も大変だなと人事だと思って前に向き直る健二、気づくと教室へと丁度担当教官らしき女性が入ってきた。

紅いロングヘアーが似合う凛々しい表情をした女性だった。theキャリアウーマンと言った感じのオーラを醸し出している。


「皆席につけ、これからこのCクラスの担当教官をすることになった。飯田だ、以後よろしく」


 教官は軽い挨拶をすると、俺達生徒の机に置いてある物の説明を始めた。


「今机の上に置いてあるもの、それがお前達がこれから見習い騎士としての活動を行う際に装備してもらう制服と剣、そして重要な免許でもあるバッヂだ、絶対に無くさないように、これからはそのバッヂが生徒手帳でもありこの学園内と外での活動時にお前達の身分を証明するものになる。肌身離さずみにつけておけ」


 何か質問はあるかと教官が周りを見渡していると、俺の目の前の席の生徒、つまり健二が手を挙げてきた。


「教官、質問宜しいでしょうか」


「なんだ、言ってみろ」


「先ほど机の上に剣などの、支給品装備一式があると聞いたのですが、自分の席には剣だけなかったです。」


 教官は一呼吸置くと、そのまま真顔で話始めた。


「自分で装備の持ち込みをしてきた生徒に関してはその装備を使って貰う、なので、配給の装備は一部そこから引かれている」


「では、自分のような持ち込みをしたものの装備はどこで受け取ればいいのでしょうか」


「お前達の装備や入口で受け取った荷物については全てこれからお前達が所属することになる騎士所へと送られている。装備の確認はそこで行い、足りないものがあれば各自騎士団長、又は私のところへ来い」


 他にはいるか、と聞いて再び周りを見渡す。普通には見えない角度で少しうなづくと、最後にと一言話し始めた。


「聞いてのとおり、これから各自、各々に通達された騎士団の騎士所まで行ってもらう、詳しいこれからの予定はそこで聞くことになるだろう、既にお前達の名前は民衛騎士として登録されており、大衆の目に晒されていることを肝に免じた行動を心がけて貰う、以上だ、解散!」



 教官の話が終わると皆いっせいに動き出し何人かのグループで教室を出て行った。


「お前は、どこの騎士団所属になったんだ?」


「ナイトオブラウンズっていうところらしい」


「なんだよ、いっしょじゃねーかよ、これからよろしく頼むぜ親友!」


 俺からすればお前は悪友だよと思いながら、荷物をまとめ教室を出る。

校門まで来ると、冷たい風がほほを撫でた、まだ冬の感触が残る桜風市は、珍しく数ヶ月前まで雪が降っていたのでその影響もあるのだろう。俺たちは校門をくぐると、騎士所まで歩き出した、騎士所までは距離がそれなりにある。せっかくなので騎士所までの道すがらケンジに気になっていたことを聞いてみた。


「何でこの学に来たんだ、おまえのことだから家でぐうたらニート生活でもすると思ってたのに」


「おいおいひどいことを言うな親友よ、俺だってやるときはやるぞ?」


「何がやるときだ、そんなの数回あるかどうかもわからないレベルだろ・・・、で、どうしてだ?」


「まあ、簡単な話がオヤジにだまされたんだ・・・、かわいい女の子がいっぱい居て、勉強とかも楽だって・・・、

来てみたら話とぜんぜん違うじゃんかよ体術剣術なんだそれ状態でブルーな気持ちになっていたところにお前が来たわけだ」


 予想はしていたが思ったよりもあほな理由でガクリと肩を落とす俺、わかっていたとも、こいつがそういうやつだって事を、わかっていたとも・・・。


 気づけば俺たちは騎士所の前まで来ていた。思っていたよりもカナリ大きい建物だ、騎士が居るだけあってそれにあった洋風のつくりをしている。正面の門が開き中から人が出てきた。白い征服に白銀のプレートをまとったおとなしそうなふいんきの女騎士だ、彼女は俺たちを見るとニコりと微笑みかけてきた。



「貴方達が配属になった新人の子ね、私は騎士団ナイトオブラウンズの副団長をしている紅衣 静葉よ、よろしくね、立ち話もなんだから中へどうぞ」


 俺たちはそのまま中へと案内された。入り口すぐは受付と事務所をかねた形になっており、数個の事務用デスクと椅子が置いてあった。騎士所というより見た感じ交番のイメージの方が強いな。


「さっそくでごめんねぇ、まずはここの騎士団の団長さんに挨拶をしてもらいたいの、団長室まで案内するからついてきてね」


 ザ、大人の女性といった印象を受ける紅衣さんは、俺たちを2階の大きな扉の前まで連れてきた、紅衣さんがノックをすると中からなにやらなさけない声が聞こえてくる。


「団長、新人騎士2名を連れてきました、入りますよ?」


「う~い、あいてるからはいれや~」


 失礼しますと紅衣さんが言いながら扉を開けて中へと入る続いて俺たちも入るが・・・。


「うっ!?酒苦さ・・・」


 部屋の中は酒の臭いが充満しており、正面のデスクにはひげ面のイカシタナイスガイな騎士団長・・・、ではなく、だらしなく酒気を帯びて今にもねおちしそうなだらしない男がつっぷしていた。


「もう、今日は新人さん達が来るからお酒はだめですよって先に言ったじゃないですかぁ・・・」


「年寄りの・・・、ヒック・・・、楽しみをとるんじゃねぇよ・・・うっ!?」


 団長らしき人物は突然立ち上がりすぐ隣にあるトイレマークのついた扉を勢いよく開け、中に入っていった。


「おろろろろろろろろっ、うごっ、ぐほっ」


「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」


 3人は、主に新人2人の俺たちは真顔で今の状況を頭で全力整理中だ、目の前でだらしないおっさんが吐いている。しかもその人は俺たちがこれから3年間お世話になる騎士団の騎士団長・・・、不安だ・・・・・・・。


「ごめんねぇ、うちの団長はお酒が大好きでね、ほぼ毎日のように飲んじゃうの」


 はあ、と真顔で答えるしかない俺に、紅衣さんは付け加えて、「あ、でも一回出しちゃえばすぐにシャキッとする人だから安心していいよぉ」と、言ってきたがあそこまで酒に飲まれる人が一瞬でまともになるわけ・・・。


「またせたな新人ども」


「戻るのはえーよ!?」


 キリットした姿でシャツのネクタイを締めなおしながら椅子に座りなおす団長、うそだろ本当に直っちまったよ、またもや放心状態になった俺達をそのままに団長が話を始めた。


「俺の名は#勝藁 剛士__カツワラ ゴウシ__#だ、さっき聞いてのとおりここナイトオブラウンズの騎士団長をしている。お前たち新人をいち早く立派な騎士にするのが俺の仕事だ、杉上、気森、お前たちの世話は基本副団長の静葉に任せてある。何かわからないことがあれば基本彼女を頼るといい、何か言っておきたいことや質問はあるか?」


 俺達は特にありませんと二人で返事をすると、満足そうに団長はうなづいてきた。


「明日からの予定は各自の部屋の机の上においてあるはずだ、残りの時間はほかの新米騎士団メンバーと顔合わせでもしておけ」


 それじゃあ行きましょうかと紅衣さんとともに部屋を出る。なんの緊張もしなかったけどもしかして団長が一芝居うってくれたのかなと一瞬頭をよぎったが、すぐにないなと打ち消されていった。


「残りの3人の新人メンバーを紹介するわ、部屋で荷物の整理と着替えが終わったら皆リビングに居ると思うからきてね」


 紅衣さんはそういい残すと下の階へと降りていった、俺達もそれぞれ自室に行くと、荷物の整理を始めた。

寮生活のわりには一人一部屋小部屋が与えられるというなんとも贅沢な待遇だ、シャワーやトイレは兼用らしいが、近くに大きい大浴場の温泉があるらしい、後で行ってみよう。


 着替え終わると俺は階段を下りてリビングであろうにぎやかな声が聞こえる部屋へと向かった。

そこには見慣れた少女が一人に副団長の紅衣さん、先に来ていたらしい健二に知らない新米騎士であろう少女が二人、おのおの椅子やソファーに腰掛けていた。紅衣さんはすぐに俺に気づき近寄ってきた。


「あ、きたきた、皆に紹介するからこっちへきてね~」


 紅衣さんに背中を押されリビングの真んなかまで案内されると、一番先に口を開いたのは長いブロンドヘアーに赤い瞳が似合う少女フィアだった。


「同じ騎士団に配属されると奇遇だな、これからもよろしく頼むぞ悠」


「まさかフィアとおんなじ騎士団になるとは思いもよらなかったよ、こちらこそよろしく」


 と、挨拶をしていると紅衣さんが突っ込んできた。


「あれ、二人はもう知り合いだったんだねぇ、杉上君は見かけによらずプレイボーイさんだねぇ」


「そんなんじゃないですよ、ただ入学式で知り合っただけで・・・」


 またまた~と、肘でつついてくる紅衣さん、この人こそ見かけによらずいたずら好きなんじゃないのかと突っ込みたくなる。そこへなんだとぅ!?どういうことだ悠と健二まで絡んでくるしまつだ。だがそこへつっこんでくれる人物が一人だけいた。


「副団長~、そろそろ部屋に戻りたいんで早いとこ自己紹介何なりすませちまいましょうよ~」


 ぐで~っとソファーへ寝そべった。少女が会話に割り込んできた。助け舟を出してくれたというより早くしてくれと催促してきたようだ。


「ごめんねぇ、それじぁあ皆に紹介します。ナイトオブラウンズに所属することになった杉上 悠君です。皆仲良くしてあげてね~」


「杉上 悠です。これからよろしく」


 挨拶をするともう一人の少女が話しかけてくれた、物静かそうでメガネがよく似合うピンク色の頭髪で、後ろでひとつに束ねた髪型が幼さをかもし出している。俺の直感が言っている。この子は絶対いい子だと。


「ネネ・ブランケットです。一応杉上君と同じクラスで隣の席だったんだけど覚えてるかな?覚えてないよね、ごめんなさい・・・」


「いやいや別に謝ること無いって、俺のほうこそごめん気づかなかったよ、その、明日からよろしくな」


 ネネは顔をあげると少し目をキラキラさせてうなずいてきた。

そしてもう一人のさっき突っ込んできた少女もこちらへ来て自己紹介をしてくれたのだが・・・。


「うちはAクラスの大城 鈴音よろしく」


 白と黒のツートンカラーが特徴的なショートヘアーの彼女は、真顔でそれだけ言い残してリビングをでていってしまった。


「俺、何か怒らせるようなことしました?」


「う~ん、鈴音ちゃんは引きこもりさんだからねぇ、このリビングまで引きずってくるのも大変だったよ~」


 引きずってきたって・・・、紅衣さんって思ってたよりも強引なのか・・・。

副団長の意外な部分がどんどん出てくる中、フィアが近づいてきた。


「悠、あとで悠の部屋に行ってもいいか?その・・・、どうしても確かめたいことがあるのだが・・・」


 え、何なんなのフィアさん、そんなに顔を赤らめて、まさか・・・、妙なきもちを抱きながらも

何とか冷静を装う俺。


「別にいいけど・・・、何にも無いぞ?」


「いや、お前のようなものなら者ならさぞかし立派なものを持っているのだろう、謙遜することは無いぞ、できれば見せて欲しいのだ・・・、もちろん私も隠さずにすべてさらけ出すぞ!」


 なに言ってらっしゃるのこの子は!?立派なもの!?しかもそれを見せてほしい!?そして自分も見せる!?

まさか入学初日からこんな美少女とフラグでもたててしまったのだろうか、あせる気持ちが隠せない。


「いや、それはまだ早すぎるというか・・・、順序が飛びすぎというか・・・」


「なに!?やはり厳しい剣の道を歩むものには、おのをさらけださなければ認められないのか!?

ならば私も一肌だけでなくいくらでも脱ごうではないか!」


「いくらでも脱ぐ!?お、女の子がそんなこといっちゃだめだろ!?」


「何!?やはりお前も女だからだと私を甘く見ているのか、表へ出るがいい、私の実力を見せてやる!」


「え!?しかも表でやるの!?いやそれはさすがにハードルが高い気が・・・、ほら、俺も初めてだしさすがに中のほうが・・・」


「なんだ、手合わせは初めてなのか、剣道場に通っていたならばいくらでも相手は居ただろうに」


「いや、うちの剣道場敷居が高いみたいで男しか居ないから相手がですね・・・」


「男ならなおさらつとまるではないか」


「男ならなおさらなの、まさかフィアもそっち系の趣味が・・・!?」


 先ほどからフィアがとんでもないことを口走っているがいかんせん話がかみ合っていない気がする。

やっぱり外国の子は進んでるのかな。


「私も見せたのだぞ、いいではないか剣の一本ぐらい」


「・・・・・、ああ、剣ね、剣、オウケイわかった・・・・・」


 なんという勘違い、進んでいるのは俺のほうだったよおとうさん、やっぱりまだまだ修行が足りないみたいだ、帰ったら刀よろしく俺のことも鍛えなおしてください・・・。


「む、なんだ、何と勘違いしていたんだ?」


 フィアが不思議そうに俺の顔を覗き込んでくるが恥ずかしすぎて言えるわけも無く、顔もまともに合わせられない、もういっそ殺して・・・・・・・。

 とりあえず落ち着きを何とか取り戻しフィアとともに自室へと向かう、途中会話を聞いてニヤニヤしていた健二からからかわれたが蹴り飛ばして黙らせたのでしばらくはおとなしいはずだ。


 早速部屋につくと、机へ立てかけておいた細長い風呂敷へ手を伸ばす、ゆっくりと紐を解いて中身を出す。

フィアはすぐに反応を見せ、こちらへとよってきた。


「これは・・・、見事な太刀だな、私でも鞘へ治まっている状態のままいかにすばらしい物かよくわかるぞ」


「お褒めに預かり恐縮だけど、そんなたいそうなものでもないよ、一応オーダーメイドの一品者だけど」


 そう言いながら俺はフィアに太刀を渡した。彼女はそれを受け取るとまじまじと眺めながらあちこちを触っていた。


「思っていたよりも刀というのは重いのだな、私はもっと軽いものだと思っていた」


「その太刀は特別なつくりがしてあって普通のものよりも重いんだよ、特殊な金属が使ってあるんだ、抜いてみてもいいよ」


 フィアは恐る恐る太刀を抜くと、ほう、と、一息吐いて刀身を見つめていた。

細長く白銀に輝くその刀身は、部屋の照明に照らされいっそう輝いて見えた。


「刀身がほのかに赤いな・・・、いったい何がつかわれているんだ、わたしはこのような刀身見たことも無いぞ、それに・・・、少し熱を感じる。」


 フィアの言うとおり、遠目からではわからないが刀身はほのかに赤い色をしているのだ、そして少し熱をもっている。これがこの刀が世界で一本の理由に等しい。


「実は俺にもよくわからないんだ、それは俺の父さんが人生最後の一本として作った刀なんだよ」


「なんと・・・、お父上は鍛冶師であったか、さぞ優秀なかただったのであろうな、でなければこんなに美しい物が作れるわけがない」


「はは、ありがとう、きっと天国の父さんも喜んでるよ」


 フィアは刀を鞘へ納めると俺に渡してきた、堪能したのか輝く笑顔も俺に向けてくれた。


「ありがとう、同じ騎士団の仲間としてどのような剣を扱うのか見てみたかったのだ、剣は己の魂、おいそれと相手に見せるようなものではないことを理解しながら好奇心が勝ってしまった、許してくれ」


 フィアはふかぶかと頭を下げてきたので俺は思わずあわててやめるように言う、本人もすぐに治してくれたが少しふまんそうな顔をしていた。自分に厳しい正確なのだろう、俺と相対的に違う部分が多く見えるので明日からの活動のたびにぶつかることもありそうな気がしてきた。


「なにはともあれ、本当に明日からよろしくな」


「ああ、悠の背中はまかせるがいい」


 ほんとうにまんぞくしたのか胸を張りながらそういい残し、フィアは部屋を出て行った。

俺はそのままベッドへと体重を預けまぶたを閉じた。


 明日だ、明日から本当の騎士として、自分の心と見つめあうことになる。

いまだに不安ばかりが残る初日になったが、やっていくしかないだろう・・・、皆にはばれないようにしなきゃな・・・、最後に独り言をつぶやき、俺の意識は闇へと落ちた。


「本気は出せない・・・・・・・」


 はじめまして、紅月 叶理です。

まずはじめに「民衛騎士 オーダー・ユナイテット」を読んでいただきありがとうございます。


 初の投稿のため、誤字脱字がおおいかも知れませんが、そこも遠慮なく突っ込んでいただけると

うれしいです。皆様の訂正したほうがいいなどのアドバイスは順次受付、投稿済みの話へ最新をして

訂正し続け、より読みやすい作品を上げていきたいと思っています。


 さて、次回の第二話ですが、主人公たちの所属するナイトオブラウンズの初仕事がやってきます。

栄えある初仕事は、たまたま出会った少女からの猫探しの依頼です。果たして彼らは少女の依頼を完遂することができるのでしょうか?


 民衛騎士 オーダー・ユナイテッドをこれからもよろしくお願いいたします。

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