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88話 二人の秘密

リーフィスとベルテの過去と出会いです

 

 ※星の降る夜に 求めた少女

 


 ――――――強い光の中にいる。

 

 あれから、どのくらい経過したのだろうか。

 気付けば時間の感覚なんてとっくに無くて、身体はふわふわ浮いたまま風船みたいにゆらゆらと。

 

 ――――――強い光の中にいる。

 

 世界は光沢に支配されて、あらゆる現象すらも此処では認められない。

 眩い月光は、銀河を駆け巡る流星群に等しい。

 それでなくてもこれだけの(魔力)は、人間という未だ幼年期の生命体には余りにも膨大すぎる。

 

 ――――――目を、開けられない。

 

 ――――――身体を、動かせない。

 

 ――――――私は、強い光の中にいる。

 

 ダメ…………。

 

 これは……ダメ。

 こんなのは、試練なんかではない。

 ただの拷問。

 こんな魔力(光)の中で、人間はろくに立つことはできまい。

 

 もう引き返すこともできない地獄。

 微かな自分の吐息さえも掻き消される世界で、

 

「――――――――――」

 

 どこか、部屋の景色が見えた。

 

「――――――――」

 

 誰かが、話している。

 

「――――――――」

 

 誰かが、歩いている。

 

「――――――――」

 

 誰か、誰か、見知らぬ誰かが、見知らぬ誰かと話をしている。

 

 それで分かった。

 それで理解出来た。

 

 これは、記憶であると。

 緑園都市そのものが見て、聞いてきた記憶。いや、これは寧ろ「記録」と表現した方が正しい。

 

 『歴史を記録する街』

 

 そう呼ばれる緑園都市が見てきた

 この街の全ては、樹木で覆われ、造られている。その木々が人々の生み出す歴史を見て、聞いて、感じてきた。

 故にこれは記録だ。

 今、本を読んでいるのと同じ状態下にあるのだ。だから、この映像ページを捲っていけば、目的の場面へと向かうことができる。

 ……………………………

 ………………………

 ………………

 …………

 ………そこに、一人の少女が、椅子に座っていた。

 楽しそうに。笑顔で絵本を読んで、しかしどこか寂しそうな顔で絵を見つめ、それでも負けるものかと笑顔を絶やさない。

 そんな、優しい女の子が居た。

 

 彼女は、貴族出身の高貴な女の子。

 だが、出身とは裏腹に少女は活発で、元気が有り余り過ぎていた。故に、普通の女の子が学ぶような礼儀作法等には目もくれず、悪い意味で野蛮な性格をしていた。


 当然家族は皆心配した。

 少女の父と母は、年齢的にこれ以上子供を望めない。だから家を継ぐのは少女一人しか居ないのだから、ちゃんとした大人に育ってもらわないと困るのだ。

 

 その為に、母は絵本を少女に与えた。

 古すぎて題名すら読めなくなった本。本と言うよりは冊子のように薄い紙で作られ、六ページ程しか無い絵本だ。

 

 少女は本を読むのが苦手だった。

 

 元々、少女の家系は都市を統括する真っ当な貴族。初代当主が翡翠の神サインより、直々に街を統括するよう命じられ、その為の力を与えられた貴族なのだ。

 

 その力と言うのが、『魔導書』と呼ばれる魔法道具であった。

 

 与えられた魔導書は、翡翠の神サインが『始まりの魔女』――ヘグドリカ・アンデルフォルツから直接学び、書き上げ、作り出した魔法の知識が書かれた、世界に二冊しか存在しない魔導書の一つ。

 初代の血を引く者は皆、魔導書を読み解くことができ、その力を使役することが可能となる。

 少女も例外ではない。

 寧ろ少女は、歴代最大と言って良い程に魔法に対する適性が高く、通常は三年掛けて会得する魔導書の使役を少女はたったの三分程度で済ませてしまった。本来有り得ない現象を前にして、家族一同は驚き、畏怖し、同時に歓喜し、少女に期待を乗せた。

 

 彼女であれば、優秀な統括者となり、街を納めることができるだろう。と。

 

 だからこそ、母はがさつな性格を矯正しようとして絵本を渡したのだ。

 柔らかく穏やかな性格になれば、誰からも愛されて、皆が彼女に協力を惜しまないだろうと。

 

 母の予想とは大きくかけ離れて、少女は渡された絵本に没頭した。

 

 深く読んでも一日掛からないだろうページ数だが、何度も何度も読み返し、飽きる様子無く毎度楽しそうに絵と向き合っていた。

 

 何が面白いのか。

 一体どこに少女を引きつける魅力があったのか。

 本を渡した母でさえ、分からなかった。

 

「わたしね、この女の子すきなの!※※※はね、すごく良い子なの!」

 

 絵本の何が好きなのか尋ねた母に、少女は凄い笑顔でそう答えた。

 

 なんの変哲も無い、寧ろそこらに売っている絵本の方が面白いであろうに、少女はそれ以外の

 本を読むことは無く、黙々とその本を読み続けた。

 

 ある日、少女は両親に言った。

 

「わたし※※※みたいな妹がほしい!!」

 

 単純な、よくある子供のワガママだった。

 妹が欲しい。それも、絵本に出てくる※※※の様な女の子が良いと。

 

 少女が初めて要求したお願いに、両親は嬉しく思った。駄々をこねず、現状に満足するような女の子だったから、こうしてお願い事をされるのは親として悪い気はしない。

 しかし、少女の望みは、両親にとって申し訳なく、そしてどうしようもない願いだった。

 

 少女の両親は共に歳をいっており、母に関しては身体が弱く、二人目を臨むことはできなかったのだ。

 当然、親として姉妹を産んであげたいのは望みの一つだろう。でも、現実問題それが叶わないのだから、少女がそれを聞いて理解した時、とても落ち込んだ。

 

 絵本を読むことも止め、外で遊ぶことも止め、部屋に籠もって一人落ち込んだ。

 

 理解はできていた。

 少女とは言えど、魔導書を解読できる天才だ。家族内の事情を理解するなんて簡単だった。だから、両親の言っている意味も理解出来たし、しょうがないと受け入れることもできた。

 でも、どうしても。何故か、自分でも理由は分からないけど、絵本の少女に共感したからか、

 諦めることができなかった。

 

 自分に何かできるわけでも無い。所詮は絵本の中の空想世界。だけど、彼女を助けてあげたかった。

 ずっと独りぼっちだった少女を、絵本に出てくる元気な女の子の様に、本当に救ってあげたかった。

 

 その日は、星の降る夜だった。

 沢山の流れ星が夜空に煌めき、輝きを放ち続けるスターダストは、まるで夜空が涙しているみたい。

 

 少女は絵本と、勉強していた魔導書を抱えて窓際に立つ。

 

 綺麗だった。

 沢山の流れ星が無限に広がる夜空のキャンパスに降り注がれ。そうだこれなら、願いが叶うかもしれないと思ってしまう。

 

 だから――――――

 

「神さま、偉大なる翡翠の神さま。どうかわたしのおねがいを聞いて下さい」

 

 目を閉じて、居るかも分からない。それでも居ると信じて、神に語りかける。

 

「わたしは――絵本の子を、ベルテのような妹がほしいです。おねがいします」

 

 絵本の少女。緑色の髪が特徴の女の子――ベルテ。それが少女の名前だった。そして、絵本の題名でもあった。

 

 

 

「……うん。そう、だね。思い出したよ。私―――」

 

 そこまで見て、世界は停止した。

 物語を傍で見ていた少女――ベルテ・コートラは、彼女の知らないリーフィスの姿を見て涙し、全てを承知した。

 

 そうして、停止していた世界はひび割れて――――崩落する。



 ※絵本の中の少女



 ――――――強い光の中にいる。

 

 あれから、どのくらい経過したのだろうか。

 気付けば時間の感覚なんてとっくに無くて、身体はふわふわ浮いたまま風船みたいにゆらゆらと。

 

 ――――――強い光の中にいる。

 

 世界は光沢に支配されて、あらゆる現象すらも此処では認められない。

 眩い月光は、銀河を駆け巡る流星群に等しい。

 それでなくてもこれだけの(魔力)は、人間という未だ幼年期の生命体には余りにも膨大すぎる。

 

 ――――――目を、開けられない。

 

 ――――――身体を、動かせない。

 

 ――――――私は、強い光の中にいる。

 

 ダメだ…………。

 

 これは、ダメだ。

 こんなのは試練なんかではない。

 ただの拷問だ。こんな魔力(光)の中で、人間はろくに立つことも適わない。

 

 もう引き返すこともできない地獄。

 微かな自分の吐息さえも掻き消される世界で、

 

「――――――――――」

 

 どこか、部屋の景色が見えた。

 

「――――――――」

 

 誰かが、話している。

 

「――――――――」

 

 誰かが、歩いている。

 

「――――――――」

 

 誰か、誰か、見知らぬ誰かが、見知らぬ誰かと話をしている。

 

 ああ、そうか。それで分かった。それで理解出来た。

 

 これは、記憶だ。緑園都市そのものが見て、聞いてきた記憶。

 いや、これは「記録」と表現した方が正しい。

 

 『歴史を記録する街』

 

 そう呼ばれるのは、単に緑園都市に図書館があるからではない。

 この街の全ては、樹木で覆われ、造られている。その木々が人々の生み出す歴史を見て、聞いて、感じてきた。

 故にこれは記録だ。

 今、本を読んでいるのと同じ状態下にあるのだ。だから、この映像ページを捲っていけば、目的の場面へと向かうことができる。

 ……………………………

 ………………………

 ………………

 …………

 ………そこは、小さな本の中だった。冊子みたいな小さくて薄い本。


 暗くて、光なんて無い虚無の空間。

 先も無ければ後も無い迷宮路。何処に行ったって同じ闇が広がるだけの世界で、一人の少女が座っていた。

 

「――――――――――」

 

 他でもない、彼女こそがこの本。

 この本こそが、彼女である。

 

 未だ実体を持たず、しかしこの世界(本)でならば実体を持つことができる存在。

 言えば彼女は絵本の中の主人公だ。開いて読み始めれば、彼女は動いて進むことができる。だが、閉じてしまえば、彼女に居場所はない。役の無い役者は舞台裏で待機しかないのだから。

 

 それが何年も続いた。

 気の遠くなるほどの時間が経過した。

 でも、本に時間の概念は無いから、外の時間でどれだけ進もうとも、凍結された紙の中では、百五十年なんて一瞬だ。

 

 一人の少女が居た。

 天真爛漫で、笑顔の絶えない少女。

 少女はその都市を統括する貴族の家に生まれ、その証拠に魔導書を扱うことができた。

 

 少女は独りぼっちだった。

 単純に姉妹が居ないだけの話だが、幼かった彼女にとっては、寂しさは極まりないものだったろう。

 

 ある時、少女はその絵本を手に取った。

 緑園都市には大きな図書館がある。

 市民は読まなくなった本を寄贈しているから、図書館の本はもう数えられないほど増えていた。

 

 その絵本も、図書館に置いてある一つだった。

 

 表紙の名前は覚えていない。

 多分古くて擦り切れて、読めなかったのだと思う。

 

 絵本の内容は単純。

 とある寂れた村で、親の居ない少女が元気な女の子と出会い、旅をして世界を見て回り、元気を取り戻す。という、簡単な冒険物の絵本だ。

 

 物語に出てくる少女の名は『※※※』。緑色の髪が特徴的な大人しくて優しい女の子。そして、元気な女の子だが、彼女には名前が無かった。

 どういう理由で無いのかは分からない。ただ、絵本が終わるまで、女の子の名前は一度も出なかった。

 

 魔導書使いの少女は、絵本を読み進め、自分にもこんな、『※※※』の様な妹が欲しいと考えた。大人しくて、絵本に出てくる元気な女の子を見守り、時に注意するしっかりした妹が。

 それから少女は、何度も絵本を読み返した。古くて年期の入った絵本だが、画は可愛らしく、物語だってしっかりしているから、とても面白かった。

 寝る時には、何時でも読めるようにと枕元に絵本を置いて、食事の時だって、出かける時だって一緒だった。

 

 とある夜――少女は、星に願った。

 “※※※のように、しっかりした女の子と出会えるように”と。

 

 

 目が覚めると、彼女は薄暗い路地に居た。

 

 分からない。が最初に理解したことだった。

 場所が分からない。

 自分が分からない。

 理由が分からない。

 両親の顔が分からない。

 意味が分からない。

 この世界が分からない。

 

 何も分からなかった。少女にとって、自分がどうして此処に居るのかも理解出来なかった。ただ、自分の名前が『※※※』ということだけで、それ以上は何も分からないのだ。

 

 不安が勝った。

 焦りや、疑問よりも、巨大な不安が彼女を浸食した。

 自分が何なのかも分からないこの現状で、一体何をすれば良いのか。何処へ向かえば良いのだろうか。誰も教えてくれないし、何も記してくれるものがないのだから。

 

 泣いた。

 この世界に存在して、初めて泣いた。単なる悲しみの涙を流した。

 

 泣き崩れて、どうしようも無い気持ちになって、誰にも頼ることができなくて。

 この世界には親という物がある。父と母が居て、幸せに暮らすことができる『家族』というシステムがあるそうだ。

 多分きっと、自分にも居場所があるのだと思った。あそこから出てきた自分にも、きっと父と母が居るのだろうと。

 

「パパ……ママ……」

 

 意味の分からない文字。初めて発したが、上手く声にできたのだろうか?

 

 雨が降ってきた。

 冷たい水が、頭から全身を濡らしていく。

 

 これが雨。

 これが寒いという感情なのか。

 これが、寂しいという感情なのか。

 

 初めて理解出来た。

 泣いている筈なのに、自分の感情分析をすると、不思議と気が楽になるような気がして。でもやっぱり涙は止まらない。

 

 夜になって。

 朝になった。

 

 雨は止んで、でも冷え切った身体を必死に抱えていたから、少しは寒くない。

 そのせいか、今は何も感じない。

 心が感情というものを抑制して、これ以上の傷を負わないようにと防衛しているのだ。

 

 だから、じっと地面を見ているだけで十分だった。

 

 コツッ、コツッ、と足音が聞こえた。

 

 誰かが来た。

 こんな薄暗い、視界から絶対に外れるこの路地に、どうした理由で人が来るのだろうか。色々考えた。下手すると、自分は殺される。まぁ、それでも構わない。

 

 理由は簡単だった。

 

「…………どうしたの?」

 

 女の子の声だった。

 どこかで聞き覚えのある(はず)声。不思議とその声の主は、優しくて安全な人だと直感できた。

 だから勇気を振り絞って声を発する。

 

「…………り」

 

 声が掠れていた。

 泣き続けた結果だろうか。声は全然出なくて、単語一つしか言えない。

 

「どうしたの?」

 

 少女は優しく、もう一度問い掛けてくれた。その声から、心の底から自分を心配してくれているのだと分かった。

 嬉しかった。

 でも、

 

「…………独り、だから……私……………ママに、パパに、逢いたい……です」

 

 そんな物は居ないと分かってはいるが、懇願するように少女は願いを口にした。

 

「あなたのママとパパは?」

 

 少女が再び問い掛ける。

 

 そんなの分からない。居ないのだから答えようが無い。

 

「あなたは何処から来たの?」

 

 分からない。自分が何者かさえ分からないのに、来た場所なんて見当も付かない。

 ただ覚えているのは、暗くて、時折明るいあの場所だけ。

 

「あなた、名前は?」

 

 少女は最後に質問をした。

 名前。

 名前。

 それなら分かる。それなら答えられる。

 いつの間にか、持っていた私の名前は――――――

 

「私………ベルテ。ベルテ…………………」

 

 それ以上の無い名前。

 『ベルテ』

 それが彼女の名前だった。

 

「ベルテね。私はリーフィス。リーフィス・フィール。ヨロシクね」

 

 少女は見ず知らずの女の子にそっと優しく、手を差し伸べてくれた。

 細い小さな手。

 ベルテよりもほんの少し大きいが、それでもまだ幼子の手は小さいものだ。

 

「……………っ」

 

 率直な感想は、喜び。だった。

 嬉しくて、嬉しくて。助けてくれたのが彼女で良かった。

 

 そうして、ベルテはリーフィスに手を伸ばす―――。

 

 

「もう止めて!!!!!」

 

 瞬間、世界はガラスが割れるように大きくひび割れて砕け散った。

 

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