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84話 邪神は笑う

 

  緑園都市の東側。


  街のはずれの森の中に、ひっそりとした洞窟がある。

  何者も、魔獣や幽霊の類でさえも近付こうとしないまさに魔境の住処。


  入口は狭く、成人男性一人通るのがやっとの隙間。

  その奥に進んで行けば、やっと四人が並んで歩ける広さの通路が広がっている。

  そこに、


「この奥に祭壇があるのか?」

「う、ん」

「もう少し奥に歩いた所に、翡翠の神を祀った、本物の祭壇があるわ」

「……でも、まさかあの巨大図書館が表向きの祭壇だったなんて、びっくりした。てっきり、あっちに本体が祀られてるのかと」


  そう言ってアイリは手に持った緑園都市のパンフレットを見る。そのページには、図書館の絵柄と説明が記載されており、大きく、『翡翠の神 サインを祀る祭壇』と書かれている。


  各都市には、それぞれの神を祀る祭壇という物が設置されている。

  当然、緑園都市にもあり、それが図書館なのだ。


「神サインは、読書が好きだったらしくてね。現世に降りてきては、人間から本を借りて読んでいたそうよ。他にも、神が書き記した書物もあるとか」


  パンフレットを見ていたレンとアイリに、リーフィスが補足する。


「別に図書館が偽物って訳じゃないけど、神本体を祀るのに、あそこはちょっと騒がしいからね。それでここに本体を祀ってるの」

「なるほど。神社みたいなものか」


  元の世界では、神霊は無限に分ける事ができると考えられており、分祠、分社等がある。

  緑園都市のそれも、同じ考え方なのだ。


  あれこれ話を聞いて数分洞窟を進み、目的の物は現れた。


「さぁ、着いたわよ。此処がーー翡翠の神サインを祀る祭壇!!」

「なっ!!」

「す、凄い……」


  レンとアイリ共に驚きを浮かべる。

  無理もない。


  何せ、彼らの前に広がる光景はーーーー


「ピ、ピラミッド……か?」


  レンの考えていた祭壇とは大きく異なり、それは正に、エジプトの世界遺産ーピラミッドその物であった。

  恐らく元の世界のとは数倍は違うサイズを誇っている。祭壇というよりは寧ろ、神殿と名付ける方が合っている。


  下へと続く階段は長く、それだけでこの建造物の巨大さを肌で感じる。


  天井は遥か彼方の空みたいで、祭壇の放つ光が点々と暗黒の粘土石を照らし、まるで夜空みたいだ。


  それだけでは無い。

  この建造物からは、何か得体の知れない重圧を感じた。

  魔力とは違う、別の圧。言うなれば、ロキと対峙した時に感じたソレとよく似ていた。


「ここが……翡翠の神 サインを祀る祭壇。さ、早く行きましょ。ここにはあんまり、長居できないからね」


  そう言ってリーフィスとベルテは階段を降り始める。

  リーフィスの言った言葉の意味を理解できないまま、レンとアイリは二人を追って階段へ向かう。


  そして階段の段差へ一歩、足を置いた時、


「…………っ!!」


  体に電撃が走った衝撃に驚き、レンは思わず拳を力一杯に握る。


  まるで空気がレンという拒んでいるみたい。

  空気が鉛以上に重たい。

  空気が槍よりも鋭く痛い。


「レン?どうしたの?」

「……ぁ、いや……何でも無いよ」


  一瞬止まったレンを不審に思い、アイリが振り返る。

  だが、見た目彼に異常は無く、いつもの優しい笑顔で返す。


  だが、異常は間違いなくレンを襲っていて、何の衝撃なのか、指先の皮膚が破裂したみたいな傷を負っている。

  何故か三人にそれらしき痕は見られず、レンだけに起こった異常。


「どうしたの?早く行くわよ」


  先行して降りていたリーフィスが振り返り声を掛ける。


「……ぁ、あぁ。分かってる」


  虚ろな返事を返してレンは歩を進めた。


「………………」


  血が垂れている。それを見ないふりをした。

  右手には確かに痛みがあるが、それを気付かないフリをして、駆け足で三人の後を追う。



  数百はある階段を下に降りて、そこから更に数百の階段を上がる。

  そうして登り着いた祭壇。そこはピラミッドの中腹にくり抜かれた様な広場が設置され、広さは学校のグラウンド程。

  まだ上に上がれるのだろうが、辺りに階段は見当たらず、天井を支えるための柱が四本立っているだけ。


「ここが……」

「そ、ここが翡翠の神 サインを祀る祭壇の最上階。ここに神が眠っていると言われているわ」


  ピラミッドの構造から形成までの全てを見て驚くレンは、広場をぐるりと見回す。


  そして、よく見れば、床には大きな魔法陣が描かれている。


  見覚えのない形式の魔法式。

  まあ、レン自身そこまで魔法に詳しい訳でもないが、間違いなく鉄鋼都市で習った魔法文字ではない。


「なぁ、この文字って――――」

「そ、それはね、神さまがまだ生きていたとされる神代の魔法文字だよ」


 そう言って、ベルテは続ける。


「現代では魔法も研究が進んでて、より効率的に効果的に発動できるように改良が進んでいるの。例えば、床に描かれてる魔法は、この魔方陣の内部を支配する魔法が張られてるの。でもこの魔法陣だと大がかりな陣を描かないといけないし、大量の魔力を消費してしまう。でもでも!近代の魔法では、この魔法で必要な魔力の三分の一で発動できるように改良されてて、それは―――」


 それからは、ベルテワールド。とでも名付けるべきか、彼女の熱の入った魔法理論が展開され、レンが唯一聞き取れ理解出来るのは、接続詞やひらがなの簡単な言葉しか理解できていない。

 二分ほど経過し、未だ終わらない演説から逃れようとして、リーフィスに目を向けるが、


「………(あきらめて!(ぐっじょぶ))」


 と、親指を立てられて笑顔で突き放されてしまう。


 過去に、色々と抑制された人間は、あることをきっかけに感情などが爆発してしまうことがある。と聞いたことがあった。


 なるほど。ベルテの場合、弱々しい性格の分、こういった博識が雪崩のように勢いよく流れてしまうらしい。

 だが、本人はそれに気付かずに、それも凄く嬉しそうに語ってくれるから、悪い気はしないのだが、何も言えないので困惑する。


 そうして、


「――――が、私の出した結論で、要するに神代の魔法式は性能重視で効率が悪いってことなんだ!」

「ほぉ、なるほど」


 実に三十分程の説明を終えて、ようやくベルテ理論は結論に達し、演説は終わりを迎えた。

 結局の所、専門用語ばかりで内容はさっぱりだったが、ベルテが楽しそうだったので、皆良しとした。


「――――ぁ、~~~~っ!!!ご、ごめん、なさい……熱く、語ってしまった…………」


 レン達の温かい視線を受けて、ハッと我に返ったベルテは、赤面した顔を両手で覆い蹲ってしまう。

  バツの悪い雰囲気で、ベルテは立ち上がろうにも、そうする勇気も持てない様子。


「魔法理論で熱弁するベルテなんて、半年ぶりに見たよ~。あの時は図書館に来た子供達に「お姉ちゃんってヲタクなんだね…」って言われて傷ついてたもんね」

「……嫌な思い出、掘り返さないで」


 そんなやり取りを繰り出す二人。

  確かに、図書館に行ってまで堅苦しく難しい話は聞きたくないだろう。

  それに、ベルテの熱は異常なまでで、聞いているこっちが気圧される勢いだった。


 黙って二人を見守るレンとアイリだった。が、不意に背後に人気を感知した。


「ふん。ニンゲンのくせに神代の技術に口を出すか。面白い。だが……まぁ、一応その理論について、もう少し詳しく聞いてやってもよいぞ?」


  突如として現れた声。

 背後から声に、四人が振り返る。そこに、一人の少年が立っていた。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………なっ」


 その少年の姿に、四人は絶句した。


  特にレンに関しては、彼の姿を見て、開いた口が塞がらないでいた。

 何故か――――


「何をぼけっとしている。俺様に用があって来たのだろう?なら早く話せ。俺様だって暇ではないのだ」


 俺様口調で如何にも偉そうな態度を止まない少年。

 歳は十歳くらいだろうか。背は小さく、黒いローブを身に纏い、いつの間にか置いてあった大きな椅子に腰掛けている。見た目だけで言うと愛らしく、本能的に可愛がりたくなる。

 しかし、その可愛らしさは、レンにとっては苦渋の極み。

 叩くものがあるなら、それを全力投入して目の前の彼を叩き潰したい。


  何せ彼の姿は、かつてのミサキレン――幼少期時代の姿なのだから。


「――――ど、どうして……その、姿を――している、んだ」


 パクパクと口を動かし、目の前に居るのは幻と思い込みたいところ。

  だが、幻影などではなく、間違い無くその存在は、目の前に現界しているわけで。


「ん?あぁ、これか。なに、俺様は実体を持たない神でな。俺様と対峙するニンゲンの姿を借りることで出現できるのだが、今日の来客は女ばかりではないか。唯一の男でさえ、あまり冴えないからな。貴様の記憶から最も充実していた姿を拝借しただけだ」


 そう言って幼児レン(?)は、「中々なものだろう?」と誇らしげに身体を見せびらかし、椅子に腰掛けて足を組み直す。


 なるほど。とレン。

 まあ理解出来ないが、原理については理解した。

 しかし問題なのは、


「実体を持たない神って……お前は、一体――――」

「俺様か?ふっふふ、見かけ通り勘の鈍い男だ」


 あ”?とレン。偉そうな口調も腹が立つが、自分と同じ姿という時点でさらに怒りが倍増している。

 なんでこう、いちいち癪に障る言い方しかできないのか。


  そうしてレンの姿をした少年は、


「俺様の名は、フォルセティモス。真実を司る至高の神である」


  と、真実の管理者を名乗ったのだ。


 ♢


「さぁ、跪け。ひれ伏せ。歓喜しろ。真実の神を前にして、頭が高いぞ」


 そう言い放ち、幼児レン(?)ことフォルセティモスは、これまた誇らしげに椅子にふんぞり返る。


 まさかの神の登場。

 そしてまさかの見た目に、レンの視界がぐにゃっと歪んだ。気がした。


「さぁさぁ、ほれ。どうした?早くしないか……ん?あぁ、俺様としたことが、なるほどな。あまりの圧に身体が石にでもなったか。いやはや、隠しきれない神光とは、時として悲痛なものだ」


 やれやれしょうがないな。と言いながら、よっこいせとフォルセティモスは椅子から立ち上がり、硬直している?アイリ達の前へ向う。

  トコトコ、と歩いて、彼女ら三人の前に立つと同時に、ふいに固まっていた女子三人が動き出し、神の前にしゃがみ込んだ。

  そうして、何故か目を輝かせて――――


「可愛い~~~!!」


 と、リーフィス。


「わぁ……」


  と、ベルテ。


「目元とかレンそっくり~。可愛い~~」


  と、アイリ。

 女性陣に囲まれて、ハーレム状態の幼児レンなのであった。


「あぁ……ダメだ。俺はこの現実を直視できないやつだ……」


 例え中身が違ったとしても、見た目は間違い無くレンに違いない訳であって、それを間近で、しかも女性に囲まれている姿なんて、悪夢にも程がある。


「ふむ。何だか、かつてを思い出すな。あの時はロストも共に居たが、奴の権能が近寄る全ての女を消失させていたな」


 などと言い、ハッハハと愉快に笑いながら、アイリ達に頭を撫でられている神様。

 かつて同じようなことがあったというだけでも驚きなのに、人間に可愛がられて満足している神様も、正直どうかと思う。


 とても幸せそうに、満更でもない表情で邪神は笑い、その笑った顔を見て、女子は更に、きゃー!!とか、可愛いぃー!!等と叫ぶ。


 「もうヤダ。帰りたい」


 普通に目の前で悪夢を見せられて発狂しない者はいまい。

 恥ずか死。その単語が脳裏に過ぎり、初めてその意味を理解したレンであった。


 しかし!

 何時までも遊んでいる場合ではない状況なので、唇をぐぐっと噛みながら、邪神を三人から遠ざける様にして話を再開する。


「それで。ホントにあの邪神だっていうのなら、俺達が来た目的は分かるな?」


 早く本題に入ろうと(本音は早く帰りたい)、レン達が此処に来た目的を言う。


 翡翠の神具解放。


 それがこの祭壇に来た目的であり、重要課題の一つだ。


 レンの話を聞いて、囲まれて満足げに笑っていたフォルセティモスが、ほぅ、と何か透かしたような目をレンに向け、邪神は歪んだ笑みを浮かべる。


「我が、邪神フォルセティモスと知った上で、言葉を交えようとしているのか」

「勿論だ。図書館で翡翠の神サインとアンタの関係についての本を読んだ。それで、本には「真実を」って書いてあったから、試練では邪神フォルセティモスが何か関係するだろう。っていう推理だ」

「なるほど。故に我が現れることも想定済みという訳だな。ふふふ、やはりヒトとは 面白い」


 それは、まさに邪神と呼べるだけの重圧と殺気だった。

 たった一言、目の前の存在が「面白い」と告げただけで、空間が凍り付き、呼吸をするための肺に棘が刺さったみたいだ。

 紛れもない、レンの幼少期の姿なのに、中身は全く別物。

 全く別の次元。『世界』そのものが眼前に体現された。


「レンッ!!」

「分かってる。俺が先に行くから、アイリ達はフォロー頼む」

「なら私も同伴するわ。特攻二、援護二の方が効率良いでしょ」

「だ、大丈夫。魔法なら…負けないから」


 戦闘になる。

 四人の直感は同じくして警報音を鳴らし、危機を脱する為にと、互いに手を武器へ延ばし――――。


「――――まぁ、荒事を立てるつもりはない。サインの試練であれば、俺様が監督役だ。安心し、光栄に与りながら受けるといい」


 しかし、祭壇中に満ちていた強烈な殺気は、一瞬にして解放された。

 同時に、レン達の呼吸が戻る。


「………っ、はぁ、はぁ、はぁ」

「ん?何だ。今のでそのザマか。全く、そんなことでは“災厄の化身”はおろか、その守護者達にも勝てないぞ」


 何てことだ。と呆れ顔でフォルセティモスは言った。


「っ、痛い痛い。何をする!!」


 横から何故かリーフィスに頬をつねられる。加えて、アイリから冷たい視線を投げられている。


「何で?」

「だってアレ、貴方の幼少期でしょ?確かに可愛いけど、気が変わった。それにアレ神様だし、代わりに貴方に当たる」

「理不尽っ!!!」

「レンは可愛いんだよ!?でもね……ごめん。レンは悪くないんだよ……悪くないんだけど……とりあえず、謝ってくれると嬉しいな」

「理不尽っ!!!」


 だそうだ。

 リーフィスは先程までの母性全開から一転、額に薄ら青筋を浮かべており、アイリに関しては、目付きは穏やかになったが、それでも瞳の奥は侮蔑でいっぱいだった。


 理不尽極まりない状況。

 なぜかレンは「ごめん」と一言謝りながら、自分の幼少期に似せた神に復讐を誓った。


 ちなみにベルテはと言うと、


「わ、私、子供は男の子が良いな」


 と、邪神の毒性に当てられて、もはや正常な思考はできていない様子だった。



ちなみに余談なのですが、

純悪の神サティスフォ

= とりあえず悪い事しか考えていない風のジェントルマン。好きな言葉は「正義」。悪い事が嫌い。


真実の神フォルセティモス

= 唯一実体を与えられていない神。口調や性格はどんな姿でも同じ。人間大好き。


消失の神ロスト

= 長身の青年姿。女たらし。近寄るモノを消失させる為、誰も近寄らない。


衰退の神ヌア

= 気弱な女の子。中学生くらい。邪神シリーズで一番強い。


という設定で考えてます。

物語に出てくるかと言われると、多分出ないかもしれないという。

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