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76話 流星光底

海王戦終結です。

 

 怒涛の海王戦は終わりを迎えようとしていた。


 レンの提案した作戦は、ユキを通じてその場の隊員全員に伝わり、隊員達は最後の力を振り絞り剣を握った。


 その作戦の成功を見る為に、皆は海王の触手と怪物達を相手に攻防を繰り返していた。


 「―――、はぁぁあぁ!!」


 ユキの魔剣が煌めく。


 横一線に伸びる剣閃が怪物の胴体を両断。触手を切り裂く刃は舞い散る桜の様に可憐で美しい。


 刹那、


 「――っ!」


 剣閃を放った一瞬、その隙に背後を怪物に取られた。


 聖鋭隊の隊長としてこのような失態は見られたくないところだが、相手が有象無象に出現する敵であれば仕方ないと認めたい。


 そうこう言い訳を考えているとふいに、背後の奥、崖となった上に煌めく銀色の光を見つける。


 それと同時に、


 ギュゥン―――!


 一発の弾丸が怪物のコアを貫いた―――


 「…………中々に、良い腕ですね……」


 黒煙が散り去る中をユキは一点に見つめた。


 「エレナ王女―――」


  ※


 ガチャッ、と空となった弾が排出される。


 そしてもう一発弾を込め直して、再びスコープを覗く。


 足を負傷したエレナは遠距離からの狙撃に徹底する事にした。

 レンに頼まれてアテナを預かったが、アテナもまた魔力切れが近い為、戦闘には出せないと考えた。


 「うむ、バッチリコアを破壊なのだよ!これだけの距離で正確に狙えるとはぁ……」

 「ふふ、余裕よこれくらい。それより、」

 「うむぅ、あっ、次はあっちなのだよ」


 アテナの細い指の先、数名の隊員が怪物に襲われている。


 「あそこね、距離は……十メートルって感じかな」


 スコープを覗いて標的を確認。続いて魔力を狙撃銃に込める。


 エレナの用意した魔力機関銃はボトルアクション方式。弾は炎属性を宿すマグナム弾。

 普通は一発しか撃てないボトルアクション方式の狙撃銃であるが、エレナの改良した狙撃銃は一味違う。

 いや、敢えて言うなら特殊なのは銃そのものでなく弾に秘密がある。

 エレナの魔力を込めたマグナム弾は、一発につき十発は放てる特別製。

 銃を弄ったとしたら、それを放てる様に改良した程度だろうか。

 即ち、エレナ王女様は重度の機械(特に銃)ヲタクである。


 それはともかく、指示係のアテナに従って、指さす方向に銃口を向ける。


 敵数……6。


 多分この距離ならコアを一撃で破壊可能。


 「―――っ―――ふぅ、」


 深呼吸して呼吸を整える。同時に集中。


 「…………3、2、1」


 ギュゥン―――!


 「…………3、2、1、1、1、1」


 ギュゥン、ギュゥン、ギュゥンギュゥン――!


 最後の一体、


 「……1、」


 ギュゥン!!


 全弾命中。


 百発百中とはまさにこの事。


 エレナはふぅ、と息をついてスコープから目を離した。

 すると隣には、驚いた顔のアテナがこちらを見ている。


 「おぉ……す、凄いのだよ。私の知る限り、エレナはアポロンの次に秀でてるのだ。ここまでの芸当は他の人間では模写出来ないのだよ」


 圧巻の表情でアテナが言う。


 「えへへ、これくらいなら訳ないわよ。戦場に立てない代わりなら、こんなの少しの足しにもならないでしょうしね」


 褒められるのはもちろん嬉しい。が、王女とはいえどエレナは謙虚な人間。それに今が戦場である以上、浮かれている暇はないのだ。


 「続けましょう、アテナ。弾なら幾らでも補充はあるから」


 そう言って再び銃口を向けた。


  ※


 終わりの時は刻一刻と近づく。何故か、それだけはハッキリと理解出来た。それが未来視の影響か、それとも別の何かか。分からないがそう、確信できていた。


 手にした光の力は拳の中で柔らかく光を発し、温かな感触を伝える。


 レンは再度白銀を握り締め、目を閉じた。


 「…………」


 光が――プロメテウスの力が手の中から白銀へと移動している。

 そして、手の中からすり抜けるように消えた力を追うように、レンはそっと目を開けて視線を白銀へ落とす。


 「……っ、これが」


 これがアナの使っていた魔法少女の――プロメテウスの力。


 白銀がそれに反応するように脈動し、鼓動に合わせて光の強弱を輝かせる。


 辺りの光が白銀へ集まる。


 共鳴する様に、

 呼吸する様に、

 そして―――


 ドクンッ―――ドクンッ―――ドクンッ、


 白銀は元の形を変え、新たな型へ変化する。


 剣身はより長く、刃は白色から夜空の色へ、

 様々な星々が寄り集まり、まるでプラネタリウム。


 「……ははっ、何か行けそうな気がするな!」


 その姿を見るだけで、心の底から勇気に似た力が湧く。

 白銀へ声を掛ける。


 ……


 感じる。


 確かに白銀はレンに共鳴した。


 今まで感じる事のなかった距離感。まるで本物の相棒になったみたいに。


 プロメテウスの力を借りて、レンと白銀(シルヴァーチェ)は海王の元へと―――


  ※


 その魔力にいち早く気が付いたのは海王だった。


 強大で腹立たしい程に眩しい魔力。しかし確実にこちらに向かって来ている。

 海王は目線を、近付く標的へと向けた。


 空の上。距離的には数十メートル向こう側。


 海王の攻撃範囲の外側に居る為に、触手を送り込む事は不可。


 が、


 ―――!!


 海王には魔力砲がある。


 ズゥゥウン!!


 巨大な轟音を轟かせ、海王の口から溜められた魔力の塊――青色の光線が放たれる。


 「!!」

 「……なに、何処を狙って、」


 その不可解な行動を見たエレナ達は、海王の見据える空の彼方を見て呟いた。

 標的とまで思われているかは分からないが、先程まで鬱陶しいくらいに触手を切裂き、生み出す怪物達を消していったのだ。それを急に気にしてないみたいに、別のモノへと敵意を向けた。


 誰もが“何を狙ったのか?”と疑問符を浮かべた。


 しかし、


 答えは直ぐに現れた。


 「っ!!」


 空の彼方へ伸びてく光線。それがある一箇所で二手に割れた。


 空が裂けた様な光景。厳密に言うと雲が二手に割れ、光線が空の二方向へ向かった。


 そしてその原因者たる―――ミサキレンは、星光りする剣――白銀を構えて空に仁王立ちしていた。


 「…………いくぞ、」


 何気無い素振りで剣を振り、両手で構えると、剣先を夜空へ掲げた。


 「……………………」


 感じる、剣に魔力が集まるのを。それ以外にも、別の、星の力達が集まってくるのを。


 だが、時間が無い。


 レンの魔力は残り僅か。このままだと、再び海王に狙われて終わりだ。


 「(…………やるか、いや、もう少し……くそっ、)」


 心が焦る。

 心臓が踊り狂う様に高鳴り、一向に収まろうとしない。


 「…………やる、ぞっ」


 眉間に皺を寄せ覚悟を決める。ここが一番の踏ん張りどころ、これが失敗したらもう救い手が無い。


 幸い、溜まっていく星々の力はある程度溜まりきった。

 ならばこそ今、その真名を告げる――


 「“流星(スターライト)――”」


 光が溜まって、神々しく夜明け前の空を光で照らす。眩い光の太陽は、何者をも消滅させる破壊の象徴。

 今にも弾けそうな光の滅球を剣に構え―――


 「“――光底(スマッシュ)”!!」


 振り下ろしたと同時に、海王の頭上へ巨大な光柱が突き落とされる。その範囲は海王を優に超えた威力。


 星々の力が蓄えられ、沸騰され、凝縮された一撃をプロメテウスは与えてくれた。

 それは何時ぞやの夜にアナが放った砲撃とは比べ物にならない程に……


 「おぉぉぉ!!」


 一撃必殺と言う言葉が正に似合う。


 プロメテウスが与えてくれたのは、それ以外にも魔力があった。普段、レン達人間が持ち得ない、神の魔力とでも言い表そうか。

 それを糧に、レンは更に魔力を込める。


 「……っ」


 だが分かる、


 「足りない……かっ」


 威力が、魔力が、それでも足りてない。


 何とか撃てたのはいいものの、現状“流星光底(スターライト・スマッシュ)”よりも海王の再生速度が上回っている。


 やはり即発的な攻撃ではどうしても欠陥が出てしまうのか。だが、言い訳している場合ではない。

 威力が足りないなら、もっと魔力を込めれば良い。魔力が足りないなら、かき集めれば良い。


 「……っ」


 集中しろ。(海王)

 感じるんだ。


 身体に流れる魔力。足りてない。


 ならば集めろ。


 魔力が無いなら代用を使え、体力、五感、血液、なんでもいい。全てを集めてを超えろ――


 「……ぉお、」


 そして込めろ。この一撃に。

 後の事なんて考えるな。

 必要なのは今この瞬間、海王を倒せる一撃だけでいい。

 救う為に力を使え。全部を込めて消し去ってやれ――


 「おぉぉおぉ!!」

 “…………!”


 その一瞬、


 きっとほんの小さな亀裂程の一瞬、両者のバランスが反転した。

 レンの全身全霊の一瞬が海王を凌駕した。


 押し合いの戦いで決定打になる要因は幾つかある。この場合、要因は海王にあった。

 正確には海王の(コア)となったアナである。


 “助けて”


 その一言が、救いを求める悲痛な叫びが、たった一瞬全てを逆転させた。


 「うぉぉぉぉアナァァァ―――」


 その隙は見逃さない。


 力は緩めない。寧ろ一層増してぶち込み撃ち込む。放った流星は煌めきを暗めること無く、より一層強く輝く。そして海王の砲撃を少しずつ侵食し、海王が呑まれ始めた。


 「っっ、届けぇぇ!!!」


 魔力の使い過ぎか、鼻や目から血が溢れてくる。

 全身が軋むように痛いし、視界が段々ボヤけてきたりもする。

 それでも諦めない。強く踏ん張り、もう一度奥歯を噛み締め、硬く重たかった剣を振り抜く―――


 そして、


 “ガッ……”


 短い息のような(叫び)と共に、海王は光の中にのみ呑まれ、同時に巨大な光柱が空高く聳え立つ。

 真っ直ぐ雲を裂き、突き抜け向こう側の青空を覗かせる柱は、些か芸術的な美を魅せる。誰もが光に目を向け、その光景に釘付けとなったに違いない。


 「…………っ」


 レンはまだ飛んでいた――いや、正確には浮いていた。

 全身の力が抜けている。それに加え、魔力も体力も血も殆ど空だ。


 もう、目が閉じそう。無理矢理立ってる状態で、足も手も小刻みな震えが止まらない。


 だが、まだだ。

 まだ目を閉じる訳にはいかなかった。


 「……っ、」


 最後の力、かつかつで本当にもう空っぽの身体から無理矢理魔力を集め、そして未だ絶えない光の柱へと近付き、手を伸ばす。


 「っ!」


 光に触れた途端、指先が焼けた。


 当たり前だ。

 考えてみれば、コレは星が崩壊する時に発生したエネルギーを基にした技である。

 破壊の力。全てを消し去る、まさに星屑の力。


 だが、そこに彼女が居る。


 ただの直感に過ぎないが、今レンの目の前にはアナが居るはずだ。だからこうして手を伸ばした。中にある全てを破壊する光に居ては、アナも例外なく消えてしまうだろう。


 「……っ、行け、怖がんなよ、俺の身体!」


 覚悟を決めて、光へ腕を突っ込む。


 「ぐぁぁぁ!!いってぇーー、くそっ!」


 自分でもビックリするくらい声が出た。さっきまで喉から出る()は掠れ掠れのはずだったが、痛みとは凄いものでその限界を簡単に超えてくれる。


 「ぐぅぅぁぁあ……」


 唸る。


 「っっ!!」


 焼ける。


 「ぉぉぉあぁぁ!」


 燃える。


 まるで滝に手を突っ込んだ様な重圧感、水が針となって手を串刺しにしているみたい。それに加えて、消滅の光が服を焼き、皮膚を焼く。

 吸血鬼が日光に当たるとこんな痛みなんだろう。なんて考える余裕があるのは、激痛の余り頭がおかしくなった証拠だろうか。


 「に、げんなぁ……いけ………いけぇぇ!」


 声で気合を込めて、光の中に全身を入れる。


 「……っ!」


 最初は重圧が押し寄せた。


 腕を入れた時に感じた重みなんて大したこと無いみたいに、身体の感覚を超えて直接心臓が押し潰されてる。


 「……ぅっ!」


 続いて激しい殺傷の痛み。


 重圧はそのまま消えること無く、顔が焼かれる様に痛い。

 服も少しずつだが焼き削られている。


 「……ア、ナ……」


 しかし、目標は目の前に、アナ・ミルターナの身体はレンの目の前すぐ側に居た。


 「ぉ、ぁぁ」


 手を伸ばす。


 痛い。焼かれた皮膚が激痛を走らせるし、丸出しの傷口には、さらに追い打ちみたいに消滅の光が当たる。


 死にたい。いっそ殺してくれ。

 そう思わずにはいられない。


 「っ、だからって、おいそれと死ねる、かよぉ!」


 今一度全身に力を込めて―――


 「アナぁ!」


 名を呼ぶ。


 「うぉりゃぁ!」


 腕を掴む。


 「つか、まえた……ぞ」


 抱き寄せる。


 アナ・ミルターナ。

 海王の(コア)として約百年前から存在した、悲劇の少女。

 その百年のせいか、彼女の肉体は、表面から見ても骨がくっきりと浮かび上がる程に窶れ、身体からは肉の腐った腐敗臭が染み付いていた。


 それを間近で見て、感じレンは改めて、いや今まで以上にアナを哀れんでしまう。


 「……っ」


 だが、もう大丈夫だ。アナは今この瞬間、しっかりとレンの腕の中に居る。

 心音は小さいにせよ、彼女は生きている。


 「あ、とは……」


 どうやってここから抜け出すか。


 入るまでは必死だったから何とかなった。でもてここから出るとなれば、どうすればいいか。

 身体は既に限界を超えて超絶限界域に達してる。臨界点突破だ。

 魔力だってもう無いし、さっきみたいに身体の全てを魔力変換……なんて馬鹿げた事は出来ない。そんな事してしまうと、多分内側から破裂して死ぬだろう。

 そもそも何で魔力変換なんて事が出来たのか、レンもよく分かっていない。


 「……ぁ、くそっ、もう…………意識、保たない…………」


 そうこう考える内に、本当の限界が来た。


 意識が保てない。目が閉じる。


 この光が何時まで続くか分からないが、レンが消滅の光で消されるのが先か、このまま海に落ちて溺死するのが先か、はたまた、身体の限界に耐えられず死ぬのが先か、未来は視えない。魔力が無いせいか、未来視は発動してくれない。


 「……あぁ、ダメだ………………」


 レンは落ちていく。アナを抱き締め離さないようにして、この手だけは死んでも離さないと身体に教え付けて。


 少しずつ視界が閉じる。

 外枠からゆっくり暗くなりつつ、レンは落下する。


 そこで……意識の限界の場所で、レンは見た。夢かもしれない。幻覚かもしれない。でも、レンはしっかり見た。そして感じた。


 レンの限界と共に、光の柱も力を失って徐々に細く、小さくなる中、何者かが空から降りてきた。


 「…………」


 声はもう出ない。だから、誰だ、とも言えずにじっと彼と分かるその人を見続けた。


 彼はゆっくり降りてくると、腕に抱えたアナにそっと触れた。

 そしてアナの安全を確認し、続いてレンの頭に手を置いた。


 「…………」


 温かい。それしかもう、感じられない。


 彼は最期に、声の出ない口で言葉を紡ぎ、光の柱と共に空の彼方へ消えていった。


 “ありがとう”


 そう、言い残して―――



 ♢



 レンの放った砲撃はほんの数秒で消えた。そして、その後に遺ったのは消されきれなかったのだろう、海王の四歩の脚だけ。

 そこから再生する様子も無いことから、海王は完全に消滅したと判断出来た。


 これで海王戦は終結………ともいかない。


 海の波飛沫が飛ぶ最中、エレナは必死に視界を凝らして彼を探した。


 「……レン君、」


 ミサキレンは見当たらない。いや、居るのだろうが、この距離だと小さくて見えづらいだけか。


 すると、傍らに待機していたアテナが反応する。


 「エレナ!あそこ!」

 「…………ぁっ、」


 見えた。


 居た。間違いない、レンである。


 腕に抱えた少女を守るように、彼は一直線に海へと降下していた。


 「どうしよう、このままだとレン君が……」


 恐らく魔力が無いのだろう。でなければ、あんな速度で滑空する筈がない。


 「……っ」


 どうする。


 「私達に任せろ」


 ザッ、とエレナの隣に人が立った。ユキである。

 更にその後ろには怪我が軽い隊員達がおり、皆レンを見ていた。


 「お前達は船を用意しろ、とりあえず用意出来るまでは、私が対応する」


 そう言ってユキは魔剣に手を伸ばす。


 ゆっくりと鞘から刀を抜くモーション。そして、刀身が外界に触れた瞬間、


 「っ!」


 風がエレナ達を通り過ぎた。それは春風の様に優しい風ではない。大きな塊が通り過ぎる様に重く、速い一瞬。


 「“桜ノ舞”」


 その風は、海風と同化して遥か向こうに居るレンまで届いた。

 急降下していた身体は嘘のようにゆっくりと、まるで舞い落ちる桜みたいに。


 ユキが稼いだ時間で隊員達は小舟を用意して、海に出た。

 先程の光の柱の影響で未だ波な荒いものの、しかし舟が出せない程ではなかった。数名の隊員達は、魔法や残り僅かな力を使ってレンの落下ポイントまで移動。実に迅速な対応だ。


 そして、


 「よし、確保完了。だな」


 ユキの言葉を聞いて、エレナは笑みを浮かべた。


 ※


 それから、戻って来たレンとアナ。


 既に意識の無いレンは直ぐに応急班の治療に当てられ、レンが抱いていたアナは、危険な状態と判断され直ぐに病院へ向かった。


 こうして、海王戦は本当の終結を迎えたのだった。



 そして、



 「エレナ!」


 海辺に現れたアイリとセルヴィ。それを見て、都市防衛側も終わったのだと、エレナは安堵できた。


 戦闘も終わり、安全が確認された後、皆はシール邸へ向かった。

 もう一つのやる事の為に。



 ♢



 シール邸に移送されて直ぐにレンは目を覚ました。


 「…………っ、ここは……」


 白い光が目と頭に染みるのを我慢して、レンは辺りを確認。


 「レン、起きた?」


 ここは病室のようで、傍にはアイリが居てくれた。加えて、その膝の上でアテナは獣姿で丸まって寝ている。


 「……ぁ、アテナ、無理させちまったな……アイリは、大丈夫?」

 「うん、私は特に何の役にも立ててないから。それよりレンが心配だよ、魔力も空っぽで、身体の組織がぐちゃぐちゃ…………変になってるから」

 「ぁ、あはは、それは何とも、遺憾ですなぁ〜」


 ぐちゃぐちゃという表現からわざわざ言い直してくれた気遣いに則り、レンは愛想笑いを浮かべる。

 それでも身体は大体動かせる様で、短時間であれど魔法の力で修復は出来たのだろう。この分だと、歩くくらいは出来そうだ。


 「ぁっ、アナは?あいつは……無事、かな?」

 「…………うん、大丈夫だよ。栄養とかそういうのが足りてないみたいで、今すぐ動ける様にはならないけど、ちゃんと生きてるって、シールが言ってた」

 「そっか、良かったぁ〜。ほんと、良かったぁ〜〜」


 生きてるならば安心だ。

 確かにレンの最後の記憶でも、アナの窶れた姿は思い出せるから、そこの問題が済めば、アナはまた、今度こそ人間として生活出来るのだろう。


 本当に良かったと、心の底から喜ばしい。


 「良かったね。レン、やっと誰かを救えたんだ」

 「…………アイリ、」


 レンを報いる顔。それは本物で、でもその後にアイリは表情を変える。


 「私、実はその、言いづらいんだけど……嫉妬…………ぽいのを感じてた、んだ」


 アイリは恥ずかしそうに頬を赤らめながら、必死に心に溜まっていた言葉を出していく。


 「アナちゃんとレンの関係は、あんまり詳しく知らないんだけど、今までレンは誰かを救う事を一番に考えてた。それは私も理解してたんだけど、今回は何か、レンがアナちゃんを助けるって、救うんだって意気込んでる時にちょっとだけ、胸がこう……ズキってしてた」


 「あはは、変な話だよね……っ、でも、ホントに、まるでレンが遠くに行くみたいで、凄く変な感じがしてて」


 そこからアイリは、俯いたまま動かない。これ以上ないくらいの申し訳なさと、不安と、羞恥を示した顔で笑っている。


 そして、


 「私、レンとエレナが湖の前で話してるの見たんだ……」


 ふるふると唇を震わせ語る。あの日、レンの背中を後押ししようと走った夜の事を、


 「別に覗き見る気は無かったんだ、ただ、エレナと話してる姿を見てつい……」


 「ホントに、ごめんね。私レンが何を必要としてるのか分かってなかった。背中を押せば元気になると思ってたけど、そうじゃなかった。私は貴方に助けられてばかりで、必要なものを渡せない、役に立ってない」


 涙を浮かべ思いを暴露するアイリは恥ずかしく、苦しそうに言葉を紡ぐ。


 「だから、私はもう―――っ、」

 「それ以上は、言っちゃダメだよ」


 言葉を遮る様にして、レンは静かにアイリの口元に人差し指を置いた。

 そしてゆっくりと口を開いてレンもまた、想いを語る。


 「そんな理由で居なくなるのは、ちょっと違うと思うよ。確かにあの時は、背中を押されるより支えられる事を望んだ。だからエレナの優しさに寄りすがった。でも、だからってアイリの思いが違うとは思わない」


 嘘なんかではない本音を、今一度アイリへ伝える。


 「それに、俺はアイリに弱い所を見られたくないし、まぁそのぉ?甘えさせてもらえるなら願ったり叶ったりだけど…………っ、とにかく俺が願うのは寧ろアイリから背中を押してもらえる事だよ。だって俺は君の為に頑張れるから。君が居てくれるから、頑張れるんだよ」


 素直に気持ちを話してくれたアイリに、こちらも全てを話さなくてはならない。

 これまで似たような事は何度か言ってきた。が、こうして伝えると、やっぱり恥ずかしい。


 でも、それがどうした。それが俺なんだ。それがミサキレンが大切と想える人に伝えると言う事なんだ。だから間違いなんかじゃない。きっと想いの押し付けなのかもしれない。それでも、ミサキレンは……御崎蓮は、この想いを抱き続ける。


 「だから、そんな顔しないで。そんな覚悟なんて決めないで。一緒に死宝を集めよう。それで、平和に過ごそう」


 そう伝えて、レンは手を握る。

 小さく壊れそうな細い指。温かい。それを感じながら彼女の顔を見て、優しく微笑む。


 「…………うん、ごめんね、ごめんね」


 アイリは目に涙を浮かべ、しかし微笑んでいた。


 〜数分後〜


 「そういえば、皆は?」


 病室は当たり前だが静かで、廊下からも人の声や気配は一切感じない。

 寧ろ、この建物自体に人の気配を殆ど感じないのは何故か。

 先程からの疑問だった。


 「えっとね、そのぉ…………」

 「?」


 何かを言おうと言いあぐねている顔だ。

 アイリは、何度かレンの顔をチラ見して、最後はため息を吐いて話しを始める。


 「都市防衛の時に、私とシールで敵の幹部を拘束したんだ。それで、他の皆はその事情聴取を聞きに行ってるのだと、思う」

 「敵の幹部って、柱の奴?」

 「うん、アスモデウスっていうね。確か第六柱だった気がする」


 アスモデウス。

 レンの記憶にヒットする物はない。


 「アイリは行かないの?」

 「うん、私嫌われてるみたいだから、もし行って話しないみたいな事になったら申し訳ないし」

 「……ぁ、光魔法」

 「多分、ね……」


 あはは、と愛想笑いをするアイリに何かいたたまれない気持ちを抱きつつも、レンはある提案を出す。


 「ならさ、一緒に行こうよ。敵の話俺も聞きたいし、遠くから聞いてれば何事もないさ」

 「え、でも身体は?動ける?」

 「バッチリ!歩くくらいなら何とかなりそう。だからさ、行こう」

 「…………」


 提案を聞いたアイリ。数秒程考え込むように眉を落としたが、うんっ、と肯定の返事を返した。



 部屋はシール邸の地下にあった。


 それ程長くない階段を降りて、数分長い廊下を歩くと一点の明かりが見えた。


 扉の向こう側。光が漏れたのは窓の隙間からである。

 そっと、ドアを開けて中の様子を窺うと、


 「……っ、レン君」


 正面に立っていたエレナが気付いて声を掛けてきた。


 「おう」


 と、軽く返事を返す。


 部屋は長方形の密室で、壁はコンクリート壁で構成され、殆ど殺風景な部屋。牢屋と言えばしっくりくる感じだ。

 部屋には、エレナ以外にも、聖鋭隊のユキやその他の隊員達。セルヴィにリヒトも居た。

 そして鎖に繋がれて椅子に座るアスモデウスの前には、シールが立っている。


 「では、話していただきましょうか。貴女達の目的と素性について」


 丁度始まるところだった様で、ドアが閉まったタイミングでシールが話を切り出した。


 「まぁ約束だもんねぇ♪なら、教えてあげる♪」


 そう言って、ニヤリと不吉な笑みを浮かべると、アスモデウスは姿勢を正して続ける、


 「まずは、()()()()()()()()()()と、“()()()()”と呼ばれた私達の姫について―――」


次回はちょっとした過去の話です。

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