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66話 “おいで……”

令和初投稿です。

遅くなってすみません


 長い説明の後でアテナは一息ついて呼吸を整えた。

 皆が話を終えようとする中、俺の中の疑問はまだ一つ残っていた。


 「あの、アナは何なんだ?」


 短い期間ではあったが共に生活していた少女。紛れもなく本物に近い存在であった彼女が消える瞬間を俺は目撃している。


 仮にそれを幻と言うのであれば、それこそ有り得ない話である。

 疑問にアテナは答えた。


 「神具と死宝、神の力とそれに反する力は共に反発し合う作用となっているのだ。魔獣が娘を取り込んだ時、プロメテウスの力は飲み込まれずに娘の意識の一部を持って分かれたのだろうな。それが長い年月をかけて人の形を成した」


 あっさりと言う。

 しかし、アテナの推測は全て筋が通っているし、プロメテウスという神の事を知る彼女であれば、俺達が考えるよりも真実に近しい回答をくれるだろう。


 今現在で、俺の思考を超えた出来事が起きているのは事実。


 一旦思考をリセットさせて状況を整理しよう。


 1.アナは貴族の娘であり、大昔に失踪している

 2.それには海王が絡んでおり、アナの本体となる身体は海王の中に存在

 3.しかし、プロメテウスの力によって意識の一部が具現化。この時代に存在していた

 4.それら全てを含めても、海王を倒す為にはコアと同化しているであろうアナを殺さなければならない


 まとめるとこうだ。随分な驚きな点が満載だが、俺が吟味する点は、アナを殺さなければならないという事。

 エレナとシールの意見は覆りそうも無いし、最早俺一人でどうにか出来る事ではなくなっていた。


 誰を頼ろうにも、既に手は積んでいた。


 その後は特段何かあるわけでもなく、話は終わり文書庫を出た。



 気付くと俺は、何処かの公園の湖の前に来ていた。

 ここまで来た記憶がないから、何も考えずに歩いたのだろう。手摺に腕を置き、静かに流れる時間と暗闇で光る虫の輝きに目をとられる。

 静寂を感じ、無の時間の中に思考を置いた。


 ここに居ると何も考えなくても良いと思える。出来るならそうしたい。だが、アナを救わずしてそんな事が出来るか。


 ……出来るはずない。

 なら、どうすればいいんだろう。俺は……


 「……っ」


 すると、

 背後から誰かが近付いた――




 ♢




 文書庫から出たレンを追ってアイリは屋敷内を探し歩いていた。


 最後に見た彼の後ろ姿は、今までのどのレンと比べて寂しそうで悲しそうであった。

 それ故にアイリはレンと話をしなければならないと思い、彼を探したのだ。


 数分掛けて屋敷を探したが、それらしき姿は見えなかった。


 コンッコンッ、


 アイリはとある部屋の扉をノックした。


 「……アイリ様」


 セルヴィの部屋である。


 こういう困った時は、彼女の助言を聞くのがアイリの週間である。

 さらに今回は今まで悩んだ事の無い事象のため、最早という気分でここに来たのだ。

 それに対し、セルヴィは応えてくれた。


 「あの男なら、近くの公園に行ったと聞きました。が、その前に私の意見で良ければお話します」

 「うん……」


 ゴクリと生唾を飲み込みセルヴィを見る。


 「まず、そもそもアイリ様は、あの男にどの様になってもらいたいのですか?」

 「……えっ」


 突然の質問に思考が止まる。


 「えっ、と、アナちゃんがあんな事になって、凹んでるレンを元気づけたい。から……元気になってもらいたい。かな?」


 恐る恐る口を開き、自分が見て一番似合うレンを想像した。


 しかし、


 「はぁ」

 「えっ、何でため息吐くの?」

 「まぁ良い機会ですので、アイリ様に知ってもらいましょう」


 やれやれ、と肩を竦めるセルヴィの姿は、まるでわからず屋の子供に言い聞かせる様。


 「今のあの男は昔のアイリ様によく似ています」

 「っ!昔って、あの時の……?」

 「はい。家を失い、ご家族を亡くされな当時のアイリ様。恐らくあの男はその時のアイリ様と同様に、何をしてよいのか見えておらず、例えるなら暗いトンネルを歩いてる。と言ったところでしょうか。そんな見るからに情けない目をしています」

 「情けないって……」


 セルヴィの素直な気持ちを聞いて、少しガッカリ。それでも話を聞く。


 「きっとまだ、あの過去を克服されてはいないでしょう。ですが、私は―――」


 ガンッ!


 突如、厚い音が響く。


 アイリ・アテンシアは強く机を叩いた。


 「……」

 「そんな事、無い。私はもう、立ち直った。あの苦しみを乗り越えたの」


 瞳に映るのは怒りの炎と言うべきか。

 セルヴィが初めて見るアイリの闇の部分というのだろう。


 「失礼しました。でしたら、分かるのではないでしょうか?あの男に今掛けるべき言葉が。私には分かり兼ねますが、アイリ様なら」

 「……」


 これ以上刺激しないように。と、配慮してセルヴィはアイリの気持ちに問い掛ける。


 そして、数分間。アイリは目を閉じてゆっくりと流れる時間と共に、答えを導く。


 「あっ、」


 分かった気がする。レンが欲する言葉が。そして自信が求めていた声が。


 ……だが、


 本当にそうなの?


 自分が問うてくる。

 違いない。間違いないのだ。だからこそ私が――


 もう一度、本当にそれが貴女の求めていた声?


 ……

 ……

 ……

 ……あぁ、そうだ。私が求めていた言葉だ。弱気な背中を強く押してくれる言葉。自分を勇気づけて、前へと押してくれるその声だ。


 アイリは立ち上がると、ステップを踏むように軽快に部屋の外へ。


 「ありがとセルヴィ!行ってくる!」


 返事は聞かず、アイリはそのまま姿を消した。


 「…………アイリ、様」


 セルヴィは心中に浮かんだ気持ちを抑えられず、声に出しす。


 きっと彼女は、主人を案ずる従者の気持ちなど知りはしないだろう。

 だが、心配されるほどにアイリの気持ちはセルヴィに伝わっているのだ。



 アイリは走った。

 屋敷から少し離れた公園。そこに彼が居る。


 セルヴィと話してレンに伝えたい事がハッキリ分かったのだ。

 だからこそ伝えたい。会ってこの言葉を。


 「レ―――」


 だが、そこには既に先客が居た。



 ♢



 声の主は、エレナだった。


「ここに、居たんだ」

「……まあな」


 まるで何か期待を裏切られた様に、彼は微笑むと、直ぐに視線を上へと戻す。


 その仕草に少しムッとした気持ちのエレナは、立ち竦むレンの横に立ち、共に空を見上げた。


 満天の星。

 雲一つ無い空に、まるで街の灯りのように美しい星々が互いに負けまいと、その神々しい光を放ち続けている。その光景に心を魅了された人が今までどれだけ居たのか考えるまでも無い。


「今日は、星が綺麗ね」

「あぁ、そうだな」


 傍から見るとカップルが仲良く星を観察しているのだと思われてしまうのだろうが、現実そうでないのがエレナにとって少し辛いことでもある。

 それに加えて、女の子にその態度はないのではないかと思わせる程の態度をとるレンに、多少腹立たしさも感じているわけであり、持ち前のドS心を燻られる。


 「「俺のせいで!俺のせいであの子を死なせることに!」って感じかな?」」

「えっ....」


 突如大声で言葉を発したエレナの声が響く。


「あなた、私の話聞いてる時、全く見てなかった。目線は机に向かってても、あなたの目には別のものが映ってた。それはそこには居ない、全く別の誰か....」

「そんなこと――」

「“ない”何て言わせないわよ。ちゃんと見てるんだから」

「........」


 言葉が出ない。

 それもそのはず、エレナの指摘通り、今のレンに周りの景色は一切見えていない。

 それは罪悪感、己の力の無さに対しての怒り、報いなのかもしれない。

 あの時の後悔が今もずっとレンの足を引っ張り、前へと進ませまいとしている。


 誰かに話すことでも話せる事でも無い。だが、エレナにはバレていた。


「教えて、今のあなたの思いを。きっとリヒトやアイリには言えないんでしょ?ため込んでるだけだと、いつか破裂してしまう。そんな人を、私は知ってるから」


 エレナは優しく微笑んでいた。

 決して軽蔑するわけでも無く。蔑むわけでも無く。ただ、ただ微笑んだ。

 その顔を見るだけでレンの口は自然と開いた。まるで突き動かされる様に。


「昔、友達が居たんだ」

「……」

「良い奴だった。見た目は話しにくそうな、如何にも頭が偉い奴って雰囲気だった。でも、実際に話してみると全然違って、優しくて、友達想いで、他の誰よりも温かい奴だった。俺にとって、出来た初めての親友って存在で、それで……初めて失った親友だ」

「....」


 遠い目をして語るレンを見ながらエレナは何を思うのだろうか。話しながらにレンは思った。


 この戦い前に3人には『未来視』のことについて話した。無論、本気で信じてもらえた訳では無いのだろう。

 しかし、アイリは納得したように。リヒトは静かに。エレナは柔らかな表情で話を聞いてくれた。


「アイツが死んだとき、凄く悔しかった。何度も何度も自分を責め続けた。もしあの時こうしていればって何度も考えた。力の無い自分が嫌で嫌で仕方なかった。その後、鉄鋼都市で鍛錬して、強くなったと思ってた。そしたらどうだ?アーマを見殺しにしてしまった。それから国王様を死なせて、今回はアナを....」


 今まで人を死なせてきた一番の要因はレン自身の力の無さ。いつもそれが原因で多くの人達を死なせてしまった。

 そして今回も....。

 レンが守ろうとした人々は彼の手からいとも簡単に落ちていった。それはこれから先何度も起こることに違いない。

 きっとこれはミサキレンが一生背負って生きていかなければならない十字架。戒めであり、生きる意味になり得るものだ。

 そう思って今の今まで生きてきた。


 エレナはどう思っているだろうか?

 きっと、気の強い彼女だから、強い言葉で背中を押すに違いない。


 だが、それはレンにとって更に人を殺せと言っている様なもの。何がどうなってもきっとレンを救える者など―――


「レン君――」


 ふいに、エレナは言った。

 レンは声に合わせ、彼女を見る。


「おいで」


 それを見た瞬間、レンの中で何かが崩れた。


 絶望で足下から崩れるのでは無く、全く別の、まるで温かいものが身体の中に注がれ、それが心を満たし、身体を満たし、そして最後には溢れ出そうになった。

 

 そこには、エレナは両手を広げ、こっちに来いとレンを見ていた。


 だが――


「……っ、ダメだ、俺は、そんなこと....許されない。だって、だって俺は――」


 ここで弱音を吐く訳にはいかない。その言葉を遮るようにエレナはレンを抱きしめた。


 柔らかい感触が頬に触れ、甘い香りと共に心を落ち着かせていくのが分かる。


「馬鹿ね、あなたが居て何かが変わるって言うなら、世界なんてとっくの昔に平和になってるわよ。別に強がらなくていいのよ。辛いときは叫べば良い。泣きたいときは身体の水分が無くなるまで泣きまくれば良い」


 強く、強く抱きしめながら、エレナは言った。頭を撫で、焦りによって壊れそうなレンの心を修復するように優しく。


「でも、仮にあなたが自分のせいでって思うなら、笑いなさい。泣いて泣きまくった後にそれ以上に笑って周りの人を安心させなさい。今すぐでなくていい。今は思う存分に泣きなさい。あなたは充分に傷付いた。涙は傷を癒やす一番の薬なのよ」

「うっ....あぁ、うぅぅあぁぁ」


 自然と涙が溢れ出た。決して仲間の前では強く見せようとしていたが、エレナはそれを許そうとしない。

 彼女の温かさに触れた時、レンの決意という壁は強度を見せずに崩れた。


 そんなエレナの優しさにレンは心から倒れ込み、赤子のように泣いた。



 ……で、


 もちろんその後は―――


 「ねぇ?もういいの?もういい??」


 ニマニマした顔でレンの顔を覗き込むエレナ。心做しかその表情は面白いものを見た子供みたいな顔をしている。


 「もういいの?今ならお姉さん、もう一回抱きついてもいいんだよ??」


 何も言わないレンに楽しそうに、嬉しそうに突っかかる。

 なんて楽しそうなんだか……


 緊張の糸が切れたからとはいえ、歳の近い女の子の胸を借りて泣きじゃくったのだ。穴があるなら今すぐにでも入りたい。

 その反応を見て楽しむエレナからも離れたい。

 できれば5年くらい会いたくない。

 まじで恥ずか死するレベルの現象である。


 「はぁ〜ぁ、泣きわめくレン君可愛かったなぁ〜。こう、ぎゅーってしたくなっちゃったぁ」


 どうやら母性に目覚めたようだ。


 「……やめろぉ!人の心の傷を抉るな!!」

 「え〜、そんな事言われたって、泣いたのはレン君じゃない。おいでとは言ったものの、あそこまでされるとは思ってないじゃない?」


 ぽっと頬を染める顔は何とも可愛らしい少女。なのに中身がおっさん寄りだから何とも居た堪れない王女様だ。


 とはいえ、恥ずかしい事をしたのは変わりない。

 考え直せば王女様の胸に抱きついて泣いたのだ。

 ……王女様の

 ……胸、に

 ……胸


 「あ!今私の胸の事思い出したでしょ!?」

 「……っ」


 うっ……図星を突かれた。


 誤魔化そうにも既に表情に出てしまっていては隠せるものも隠せない。


 それを見て、エレナのおふざけが更に加速する。


 「いや〜ん、レン君えっちね〜」

 「いや、違うぞ!違わないけど……俺は別にやましい気持ちがあったわけでは……」

 「どーだか。年頃の男の子だし、私の胸に抱きついていやらしい想像してたんでしょ?そりゃぁアイリの胸に比べたらだけど……あの娘よりかは弾力はある筈よ?」

 「だ、弾力……」


 ……まずい。このままだと鼻血でそうな勢いだ。

 とは言えど、目の前のお姫様は満更でもない顔でウフンウフンしているから気にする必要はないのだろう。


 「って!お前アイリの胸を……」


 弾力とか言ってるなら、そうに違いない。


 「あら、いけない?女の子同士なんだもん。気になるでしょ?」

 「なっ!」


 見えていないが、自分の顔が赤くなったのをハッキリ感じた。


 エレナのオープンな部分は、いつか治さなければならないなと、他人ながらに思った。


 そして、


 「……ふふっ、元気になった?」

 「ん?……あぁ、ありがとな」


 気付けば張り詰めていた緊張は、いつの間にかどこかへ溶けて消えていた。

 これもエレナのおかげ……だが、そこまで言うとまた変な事言われそうだから止めておこう。


 代わりに伝える――


 「俺、決めたよ。自分が何をしたいか、するべきかを」


 おかげで気が付いたやるべき事を。


 「そう、なら行きましょうか。シールが待ってるわ」


 そっと微笑むとエレナは屋敷に向かって歩き出す。


 彼女の言葉の意味を考えると、きっとこうなる事を見越して来たのだろう。侮れない女である。


 すると、「あっ!」と声を出し、レンの元へ掛け戻る。


 「これ!あげるわ」

 「?これは?」


 渡されたのは手の平に収まる程度の結晶。

 月明かりに照らされると、周囲にクリスタルの光を反射させ、まるで光を放つ華の様。


 「これは“精霊の涙”。まぁ御守りみたいなものよ。お祖母様から預かったんだけど、貴方に渡すの忘れてたわ」

 「御守り……なんで俺に?」

 「さぁね。お祖母様は常に未来を考えて動いてるから、きっと何か役に立つ時があると思うわ。それに、ソレには“悪しき気を吸い取る”力があるそうよ。持ってて損は無いわ」


 そこまで言われては貰うしかない。


 「分かった。ありがとな」

 「えぇ、どいたまよ」


 軽くJKっぽい口調で返すと、再びエレナは歩き出した。

 俺も彼女を追って、公園を抜けた。




 消えた2人のその陰で、少女は佇んだまま動けないでいた。


 アイリはただ真っ直ぐ暗闇に埋もれた地面に目を当て、呆然とする意識を思考へ向けた。


 別に盗み聞きするつもりは無かった。今となっては言い訳になるが、話の途中で入ろうと思っていた。

 だが、


 「…………」


 レンがあそこまで泣くほど苦しみを抱えていた事。それを気付けなかった自分が恥で仕方がない。

 そしてそれに気付き、的確言葉でレンを宥めたエレナに圧倒された。


 違った。


 違ったのだ。


 セルヴィに言われ、過去の自分が欲しかった言葉をレンに伝えようとした。

 だが、ソレは全く逆のものであると痛感させられた。


 良かった。


 そう、これで良かったのだ。


 あそこでレンと話したのがエレナで良かった。でなければ、きっと自分は更にレンを傷付けていたに違いない。

 そう確信出来る。


 「……」


 木を背中にしゃがみ込む。


 分かってる。


 分かってる。


 セルヴィに気付かされた時に、声は聞こえていた。

 自分が欲しかった本当の言葉を。


 あぁ、分かってる。


 私は、


 私はまだ―――


 「お父様……お母様……」




 ♢




 再び場所は会議室へ―――


 部屋に入ると、皆が既に会議を始める体勢が整っていた。

 そして、入った俺とエレナを見てシールが笑みを浮かべる。


 「2人で帰ってくるって事は慰めは成功、かしら?」

 「えぇ、そりゃぁもう凄かったんだから!」

 「おい!話を変な方向に持ってくなよ!?誤解されるだろ!」



 「あれ、アイリは?」


 部屋を見渡すと、特徴的な赤髪ロングの少女が見当たらない。代わりと言ってはなんだが、セルヴィは一つ空いた空席の隣に居る。


 「アイリなら、疲れたから先に休むそうよ。まっ、彼女頑張ってもらったからね」


 シールが言った。


 基本タフな彼女が疲れるとは。と思うが、女の子なのである。体力面で言うとどうしようもない所があるのだろう。


 すると、席に座るセルヴィと目が合う。


 「ミサキレン。アイリと会われましたか?」

 「いや……会ってないけど、」

 「そうですか」


 俺の回答を聞く前にセルヴィは話を止めて、視線を閉じた。


 なんの事か分からないが、後で詳しく聞いてみる必要がありそうだ。


 俺とエレナはリヒトの隣に空く二つの席に座る。


 「よう泣き虫。元気か?」

 「お前、ここで決着つけるか?」


 何処で聞いたか分からない俺の泣きつき情報を餌に、リヒトが喧嘩を仕掛けてくる。

 もちろんこっちだってヤル気だ。しかし、エレナのニッコリ殺意剥き出し笑顔の前に、シュンとなる。


 シールの声と共に会議が始まった。


 内容は聖鋭隊が掴んだ、黒使団襲来の情報についてだ。


 「予測はしていましたが、海王討伐の機会を狙って街を襲撃してくる。そういう事で合ってますか?」

 「あぁ、間違いない」


 ユキの肯定により、室内に緊張が走る。


 「作戦は、都内防衛班と海王討伐班の二班に分けて進めようと思います」

 「ん?でも海王って冬眠に近い状態だって……」


 聖鋭隊の隊員が手を挙げて質問する。


 「そう、でした。先程までは。私の隊が調査した所、早くても明日の明朝には海王が活動を再開する結果が出ました」

 「そんな……」


 昨晩の激闘後であるから当然の反応だろう。


 そして、海王の行く末は決まっている。それは倉庫でシール達の話を聞いてから分かっている事だが――


 「海王は、殺していいんだな?」


 言ったのはリヒトである。

 その言葉はシールと言うよりか、俺に言ってる様である。


 「……」

 「私達の意見は、海王討伐。これのみです。それはここに居る全員の思いであり、私達の悲願と言っても過言ではありません」

 「あぁ、だが―――」


 シールの意見に反論しようとするリヒト。

 俺は彼を止める。


 「……」


 分かっている。


 決めたんだ。

 これでは、今までと同じ。変えるのはここからだ。


 「……分かったよ。エレナはシールさんのサポートをしてやってくれ。シールさんも俺の気持ちを考えなくて構わない。俺もあなたの意見に従うよ……でも、一瞬でもアナを救える瞬間が来たのなら、俺は何よりもソレを優先させてもらう。……これで、いいかな?」


 今までの俺なら、こんな全体行動に反する動きはしないだろう。

 でも、


 今はアナを助ける為に動く。動きたいんだ。


 「……ふふっ、愛ね。良いわ。貴方の意見を尊重しましょう。でも組織の長として貴方に加担する事は出来ない。それだけは分かってちょうだいね?」


 最後のセリフは小声で俺の耳元で囁いた。


 「あぁ。了解した」


 決意は固まった。

 あとは自身の行動によって未来が決まる。


 シールは引き続き、明日の作戦の説明を始めた。




 ♢




 一方その頃、禁断の匣 アスモデウスは次の作戦準備に取り掛かっていた。


 「ふんふんふんっ♪ふふーん♪」


 楽しそうに、そして嬉しそうにステップを踏みながら歩く姿は、遠足前の子供の様。

 彼ら禁断の匣が基地としているソコは、誰にも知られることの無い秘密の場所。その一室にアスモデウスの部隊が待機する部屋がある。彼女がこんなにもウキウキで部屋に向かうのにはもちろん訳があった。


 基本的に作戦の実働に参加することの無いアスモデウス。普段は自身のオシャレのために時間を使う事が多い彼女であるが、彼女も戦士である。時として自身の力を使った戦闘をしたい時だってあるのだ。

 故にそんな中、初めて見る神具の力。聖鋭隊隊長が持つ魔剣の能力。それ以外にもめぼしい力を見せる者も多々居た。彼等を見てしまっては戦闘衝動を抑えろと言うのは無理がある。

 であればどうするか。答えは簡単―――


 「みんな〜♪戦いの時間だよ♪思う存分、殺っちゃっていいからね」


 敵を皆殺しにするのだ。


 黒の外装に身を包んだ兵団が立ち並ぶ室内。その数50数名。

 彼等は皆、アスモデウスの持つ“欲望”の眷属達。つまりアスモデウスの言葉に従い、アスモデウスの為に命を捧げる無命の殺戮集団。


 恐らく海王はまた動き出す。その時に都市内でも襲撃すれば、敵勢力は減らせるだろうし、海王討伐等という馬鹿げた作戦をしている今がチャンスであることは確かだ。


 「あっ!丁度いいから、前にガミルが言ってた実験体を使ってみようかな」


 確か金商都市で実験をしており、試作品であるがその内の一体が完成したとかなんとか……。


 うん。それが良い。そうしよう。


 こうしてアスモデウスの作戦は決まった。


 「……それじゃ、行こっか♪」


 誰も反することの無い静かな返答がアスモデウスには聞こえていた。それを聞いて頬を吊り上げる。

 その笑みは邪悪な、人間が出来るとは思えないほど、おぞましい顔をしていた。

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