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59話 私、魔法少女なんで

月曜投稿とか言ってすいませんでした

今日が月曜って事で許してください

 

 前に紹介したように、アナ・ミルターナには特別な2つの出会いがある。

 きっとそれは人間が体験する事のない、それこそ特別な出会い。


 最後に紹介するのは、その始まりの1つ目。


 アナとソレとの出会いは遥か昔の夜。


 夜空には満点の星空、海風は優しく風を奏で時折鼻を刺激する潮風を感じる夜海。

 全ての美しさを兼ね揃えていた完成された夜。

 その星空に1つの流れ星を見た。

 ソレは遠くに見えるいつもの流れ星とは全く違っていた。例えるならばソレは隕石と表す方が近い。

 しかし、落ち行く軌道に残る光体は1つ1つが輝きに満ち溢れ、光が外に漏れ、ソレが落ちているという認識を阻害させた。


「ーーー!」


 その美しさに気を取られてしまい、意識が戻ったのはソレが近くの山に墜落してからだ。


 山の地盤を抉る音と共にどこか優しく降り立つ様な足音。

 そんな音を聴いた気がした。


「ーーー」


 直ぐ様に駆け出す。

 駆け出した足に迷いは無かった。

 単純な好奇心と言われればそうだったかもしれないが、それを忘れる程にソレの存在が気になったのだ。


 落下するソレの様はまるで操作を見誤った乗り物の様。故にソレが困っているのではないかと思う気持ちもあった。


「ーーっ。」


 それは予想していた光景。


 落下地点を中心に巨大な破壊波が発生したのか、木々がなぎ倒され土は外側へめくれ上がっている。

 見るだけで衝撃の強さを確認。

 さらに足元の草が焼け焦げているから、落下時の炎がそこら中に点火したのだろう。


 その中に、1つ場に似合わない光が存在していた。

 小さな球体にも見え歪な形態にも見える光は薄っすら静かに、それでも自信を持って輝いている。

 ソレを見たアナは不思議と直ぐにわかった。ソレが生き物であるという事を。


「アナタ、名前は?」


 ソレの近くまで行き、声を掛ける。

 地盤は既にぐしゃぐしゃに崩壊しており、何度か躓きながらもソレの前まで来た。


 声を掛けられたソレは、しばらく不思議そうにすると形こそないがしっかりと心の中に言葉を伝えてきた。


「ーーーー。」

「そっか、プロメテウスって言うんだ。よろしくね、私はアナ。アナ・ミルターナだよ。」


 手を差し出す、がそういえば謎の光ことプロメテウスには手が無さそうだ。


 軽く自己紹介を終え、プロメテウスと名乗ったソレは今の現状まで至った経緯を説明してくれた。



「…そう、落ちちゃったんだね。」


 話を聞く限りでは、どうやらプロメテウスは空から落ちてきた様子。言葉と伝わってくる感情から明らかな困惑と悲観を感じる。


 どうしたものだろうか。

 謎の生命体であるプロメテウスだが、彼は明らかに困っている。何が出来るのか分からないが、


「私に出来る事はある?困ってるなら助けになりたいの。」


 力になりたい。素直にそう思った。


 この際だから相手が何だろうがどうだっていい。問題なのはここで何もせずにいる事だ。


 するとプロメテウスはアナに片手を出すように言ってきた。


「ーー?」


 何だろうか?

 分からないが、恐る恐るプロメテウスの指示に従うことにした。


「ーーっ!これって!」


 アナの手に光が宿った。

 温かい日差しのような光。見ていても肌で感じても気持ちの良い光。

 それが手を伝ってアナの中へと入る。


「ーーー。」


 目を閉じて力を確認。


 まるで生まれ変わった気分だ。

 身体に流れる血流をしっかりと感じられる。力強く鼓動する心臓。息をする度に動く肺。身体を動かせば共に音を立てて動く手足。

 全身の支配圏を手に入れた様だった。

 さらに先程まで目の前にいたプロメテウスは消え、代わりに心の中で彼の声が聞こえた。


 どうやら依り代としてアナの身体に入った様だ。特に何かする事はないそうだが、身体に住まわせてもらう代わりに力をくれた。


 それが“星屑の力”。又はそれを“魔法の力”という。


 それからアナの人生は一転した。

 手にした特別な力 とプロメテウスが作り出してくれた“魔法の力”を使うための道具、“星屑の杖”を使い彼女は魔法少女となった。


 後は察しの通り、彼女は魔法少女として街の問題を解決していったのだった。



 ※



 海王が都市に出現する2時間前。

 アナ・ミルターナは、夜風の吹く街を1人トボトボ歩いていた。


 なんて事のない普通の夜。

 しかし彼女にとって今日は何処となしか、あの日と似ている様にも感じていた。


 アナとプロメテウスの出会いの日。

 そしてアナが魔法少女となった運命の日。


 気がつくと浜辺に1人座り込んでいた。


「レン、怒ってるかな。でも、流石に魔法少女やってますなんて、恥ずかしくて言えないし。それに心配掛けさせる訳にもいかない…。あぁー、どうすれば良いんだろー。」


 投げやりに寝転がってみる。大の字で夜の浜辺で女の子がこんなことをしていては、それこそ怒られそうだが、まぁ大丈夫だろうと高を括る。


「レン、レン。……レンお兄ちゃん、なんちゃって って、何言ってんの私!あー、もう!バカー!」


 1人恥ずか死するところだった。


 アナの人生上、ミサキレンが現れて世界が明るくなった。

 その感情はどちらかというと恋人のそれと言うより、新たな家族が出来た感じである。


(そうなると私は妹か…。ムフフ、なんか悪くないかも)


 パタパタと足を砂浜に沈ませながら高まった高揚を抑えんとする。


「よし!帰ろ。流石にまだ帰ってないのがバレるとヤバいだろうな。」


 なんでさっきまではしゃいでたんだろう。と若干恥ずかしくなるが、気にしないでおこう。


 立ち上がり背中についた砂を落とすと帰路へ向かった。


 あとは止まらずに真っ直ぐ家に帰ろう。そう思った。

 背筋の凍るほどの悪寒を感じるまでは。


「ーっ!なっ、どう、して。明日のはずじゃぁ……。」


 突然、月明かりで明るかったはずの世界が薄暗く闇に侵食された。何の前触れもなく。


 そして同時に感じた魔力の質から、脳は一気に最悪な展開を予測。振り向いた時に見た視界から、その予測が間違いない現実であると肯定。


 海王が現れた瞬間であった。



 という事があり今に至るのだ。



「……っ。」


 何故なのか、アナはまるで悪事がバレた子供のようにオロオロしている。

 確かに突然現れたアナには驚いた。そしてこの何日かで見た彼女とは全く違う姿、さらに魔力を感じる事に更なる驚きがある。

 ついでついでと襲ってくる衝撃にまるで目覚ましビンタされている気分だ。


「アナ。お前どうしたんだソレ?」


 とりあえず様子確認だ。

 如何なる事情があるのか分からないが、仮にもふざけているのであればそれは注意しなければなるまい。

 まあ先程の魔力を見せ付けられるとふざけている様には考えられない。


 さてアナは何と言うのか、


「ア、アナ?それはい、一体誰のことかしら!?私は…魔法少女…えっと、あーっと、そう!魔法少女!私はただの魔法少女よ!」


 おっと。何とここでシラを切りやがったよこの娘。

 しかも自分をただの魔法少女とか言ってやがる。なに?ただの魔法少女って?魔法少女って時点でただのじゃないじゃん!


「おい。ふざけてるなら止めとけよ?今なら仏の顔も一度までだぞ?」


 2と3は何処かへ消えた。


「いや!ホントに!あっ、でも…その、あぁぁぁ」


 最終的には項垂れて泣きそうな顔になった。なんか哀れだ。

 自分で始めて言うのもなんだが、可哀想になってきた。


「分かった。なら魔法少女さん。今はどういった状況なんでしょうか?」


 せめてもの慈悲だ受け取るがいい。といった感じで言葉を投げつける。

 アナ(普通の魔法少女さん)はその言葉に救われた顔をして、直ぐに現状の説明に入った。


「それが、急に海王が現れたとしか言いようがないの。それもなんの前触れもなく。……いつもは分かるのにどうして。」


 最後の言葉は聞こえないように小さく言ったようだが、もちろん聞こえている。

 それについては触れない事として、急に現れたとなるとやはり黒使団が関わっている可能性が高い。恐らくは死宝回収の邪魔をする為なのだろう。

 まあその辺の詮索は後にしよう。問題なのは今の状況打破だ。こんな化け物相手に太刀打ち出来るだけの技術と精神なんて持ち合わせていないし、ましてや2人で勝負を挑むなど無謀の極みでしかあるまい。


「まずは様子見ってところかな。」


 無難な選択だろう。

 幸い胸の鋭い痛みはいつのまにか消えている。これも詳しい詮索は後だ。

 動き出した海王がどの様な攻撃を仕掛けてくるか分からないし、先程のように強力な砲撃を放ってくることもあれば、別の何かをしてくることだって考えられる。

 慎重に考えなければならない。


 と、いうのに、


「はぁぁぁ!いっくぞぉぉ!」


 野郎、調子乗って自分から攻撃に行きやがったよ。下手に刺激したくないって時に流石にそれはまずい。


「おい!アナ!よせ!」


 とは言ったが、既に彼女は遥か上空。その姿が小さく見えているから、余程の高さなのだろう。


「くそっ。」


 半分舌打ち気味に声を漏らしてアナの後を追う。



「ーーっ!」


 俺がアナを追って近くに来た所で海王は動き出した。

 近く俺達に反応したのか。それとも俺の中のナニカに反応したのか。どちらにしても明らかに海王の目先には俺がいた。


 海王の著大な咆哮と共に魔力の圧縮を感知。先程の魔力砲だと分かるのにそう時間はかからない。


「またアレか。」


 ほんと嫌になってくる。防ぎようがないならば避けるしかない。が、このままではアナも攻撃の範囲内にいるため、何とかして気付かせないといかない。

 アナまでの距離はおおよそ10メートル。海王の砲撃発射時間は残り数秒後。

 少し気が引けるが魔力を使ってスピードを上げる他ないと判断する。


「ーーっ。」


 供給している魔力を倍へ増やし一気に上昇加速。マックスでは無いが魔力を増やしただけの速さを与えてくれた。これだと後2秒くらいでアナに追い付く。

 魔力砲の準備も着々と進んでおり、恐らくギリギリのタイミングとなるはずだ。



「きゃっ!」


 手を伸ばしアナをキャッチ。直ぐ様戦線離脱する。

 アナを捕まえて海王よりも上の上空に逃げた時、魔力砲が放たれた。



 ーーーー!!!!!


 放たれた砲撃は一直線に伸びて行き海岸付近に広がる街へと直撃した。

 直撃箇所から崩壊の波は広がり、ドーム状の破壊波が街の一部を覆った。

 風の波。その中には破壊された家屋の残骸が渦巻き爆発音は初めて聞く程の重圧に覆われていた。


「ーーぁ。」

「これは…ヒドイな。」


 破壊の進行が終わるとそこに残っているのは崩壊された街。

 建物は綺麗に失われ、抉られた地盤は深さ数メートルはやられている。

 上空から見ていた俺とアナにはその明確な違いがハッキリと見えていた。綺麗に残った街の傍に破壊された街、いや、もはやそこはかつてあった街ではなく元の大地に戻っている様にも感じられる。


「そんな…私のせいだ…。」


 破壊跡を見てアナは絶望の顔を浮かべていた。


 確かに街の状況は酷いものだ。地面ごと無くなっているという事は、少なからずあそこにいた人達はもう…。


 今のアナを宥めることは俺にも出来ない。海王の出現にアナがどのように関わっているのか不明だが、この現状の責任は俺にある筈だ。

 そう思うと正直泣きそうになるが、そうも言ってられない。


「アナ、何か良い方法はないのか?」

「ーーーー。」


 アナは答えない。

 余程ショックだったのだろうが、今はそれどころではない。問題は次に魔力砲を使わせるわけにはいかないということ。恐らく次に街に被害があれば、都市としての機能が低下するだろうし、最悪は暴動でも起きかねない。


「アナ、しっかりしろ。辛いだろうが今は我慢するんだ。これ以上街に被害を出さない為にも俺達がやるしかないんだ。分かるな?」

「……レン。」


 真っ直ぐアナを見つめて話す。

 漏れたように呟くアナは正気に戻った様子。顔付きが真剣なものへ変わった。


「…ごめんなさい。そうだよね、私達がここで頑張らないと大変だよね。」

「あぁ。さっさと終わらせて帰るぞ。」

「うん!……って私は普通の魔法少女だから、アナって娘は知らないなあ…。」


 あーはいはい。

 とりあえず視線で回答しておく。


「むぅ。」


 さて、どうしたものか。魔獣相手はグリフォン以来で対魔獣の戦闘は何となくだが覚えている。

 あの時はサポート役のエリカだったが、今回は恐らく両方兼用のアナである。俺としても戦いやすい事を願うのみだ。

 アナに聞いてみると予想していた通り、サポートもアタックも出来るそうだ。


 そりゃあ魔法少女って言ったらそういうもんだろ?


 そうであれば戦闘に特段問題は無いだろうと予想出来る。

 作戦としては倒すと言うよりも此処から遠ざける事を目的とした作戦にした。

 倒すとなれば恐らく2人では不可能だろうし、それこそ都市軍隊とか聖鋭隊と協力して討伐作戦でも練らなければなるまい。

 それに海王なんて呼ばれていれば、体力とか沢山ありそうだから正直言ってやめたい気持ちもある。


 作戦を考えている時点でアナは高出力による攻撃をしたらどうかと提案した。

 ふむ。確かにちまちまと攻撃するよりか、一撃デカイのをぶち込んだ方が十分効果的だろう。

 だが、


「それでも一撃で何とか出来るとは思ってないだろ。仮にそれでダメだったらどうする?」


 相手が相手だ。アナだって一撃で終わるなんて思ってはいまいが、仮に何か考えがあるというならそれに従いたい。


「え?ダメだったら何度も撃ち込むだけよ。それで倒せたら嬉しいんだけどね。」

「…あ、はい。了解しました。」


 コイツ意外と脳筋なんだな。女の子っぽさの無い発言にちょっとだけ引きかけた。

 だがしかし、その考えの方が単純で楽なのかもしれない。


「私、魔力の量には自信あるんだよ!それに攻撃魔法だって、そこいらの魔法なんかと比べ物にならないんだから!」


 そう言って胸を張っているアナは少しだけたくましく見えた。



 ※



 作戦はただ1つ。海王を撃退する。

 だが、その為の道のりはまさに薔薇の道であった。


「はぁぁ!」


 蹂躙する海王へ思い切り斬りかかる。が、


「ーーっ!!」


 ギィィン!という金属音と共に剣は弾かれた。


 そもそも野生生物との戦いで金属音がするというのはおかしな事かもしれない。

 だが、それは紛れも無い事実として目の前に存在していた。


「硬化…か。いや、この見た目だと硬化というよりも皮膚の金属化とでも言うのかな。」


 冗談交じりに笑ってみるがそれでも動揺が消えない。先程から何度も同じ事の繰り返しである。


 アナが全力の一撃を放つ為にはその為の魔力を集める必要があった。

 その為に必要な時間は5分。たった5分海王の気を逸らせば良い。

 俺に課せられた仕事はたったそれだけの事。

 が、そう簡単なものではない。

 怯ませようと何度か斬りかかってみたが、海王の外装は硬い金属膜で覆われ剣戟を一切受け付けない。

 さらに関節の間の硬化が効かない箇所を狙ってみるものの、そこでさえ金属膜に覆われていた。

 現状、考えられるだけの攻撃と通用するであろう箇所は全て叩いた。叩いたというのに海王の表情に変化はなく、蚊に刺された痛みさえも感じていない様子だ。


「ほんと、やる気削がれるよなー。」


 などとボヤいてみる。

 まだそれだけの心の余裕は残っているということだ。


 一応策はある。

 実は最近、こういった事態を想定して俺自らも魔法を使えるようにと練習していた。

 戦闘で剣一本で挑むより、魔法という援護があれば少しでも心の余裕になると考えたからだ。

 とは言え、俺に出来たのは以前アテナが施してくれた風魔法による剣のコーティングだけ。それもアテナがやってくれたのとは大きく違い、何と言うか大雑把な出来である。

 どうしてそれ以外の魔法が使えないのかは分からないが、その辺多分個人の能力の差なのだろう。細かい事は考えない事にした。

 で、通常攻撃が通用しないと分かったこの状況でやることは明確だ。


「ーーー。」


 飛行に使っている魔力の一部を剣に注ぐ。

 何度かデモンストレーションは完了しているから失敗する予感はない。


 よし。上手くいった。


 やはり剣を纏う風のコーティングは歪な形をしており、アテナの様に綺麗にいかない。

 だが、これでも問題は無いだろう。それにガタガタの方が案外抉れたりするかもしれないしな。


 再び海王へと向かう。

 今度は合わさる金属音というよりも、ブァォンという鈍い音で響いた。


「…くそっ。これでもダメか。」


 適当に乱撃を繰り出すも結果は前と殆ど変わっていない。だが、多少なり傷が付いているから一歩前進なのだろうか。

 いや、たかがかすり傷くらいなら一歩にも満たない。


「っ。まだまだ!」


 負けずと挑みに向かう。



 一方アナは遥か上空にて魔力の収集に入っていた。


 アナの持つ“星屑の力”は簡単に言えば夜空に散らばる星々の力を集めた力である。

 故にアナの持つステッキ “星屑の杖”には無限の数の星、即ち惑星の力が秘められており、その力を使う為には天の近くまで行き、降り注ぐ星の力を凝縮するのだ。

 何百億もの星のエネルギーを圧縮した力は、普通の魔法神々が使う魔法 神術でさえも到達出来ないパワーを発揮することがある。


 プロメテウスが彼女に力を与えたのは、アナ・ミルターナの持つ秘めたる力に可能性を見たから。そして彼女であれば、その力を優しい事に使うであろうと判断したからだ。

 実際にアナは魔法少女として、力を正義のために使っている。

 それはとても素晴らしく美しい事だと美讃しよう。


 そして今彼女は、己の好きな街を守るべく。力を使おうとしていた。



(魔法属性を確認。色は深碧のアクアマリン。魔力量を確認。全体の80パーセントをクリア。想定残り時間、3分28秒。)


 目を閉じて杖に溜まる星屑の力を確認する。

 この大技を決めるためにはある程度の時間が必要となる。

 今回は即興で行う為、その分の威力が低下してしまうが討伐を目的としていないならば、これくらいで十分に可能だ。


 今はレンが海王の気を引いてくれている。恐らく魔力の集結を感知されれば間違いなく攻撃の的となる。

 それに魔力を溜めている状況では、集中力が肝心となる。ここで結界魔法などと併用でやっていては溜まるものも溜まらなくなる。

 不安な部分もあるが、ここはレンを信じるしか無い。



 海王の撃退を考える2人。

 現場に向かう聖鋭隊。

 基地で指揮を取る透水都市の女王。

 探し人を求めて向かう3人の役者。


 誰もが最善を尽くし、現地で戦いに集中している2人は気付かなかった。

 彼等の様子を見ているもう1人の誰かに。



 そして、


「レン!離れて!」


 アナの魔力が溜まり、ついにその時が来た。

 急いで戦線離脱。攻撃の範囲外となる街側へ移動する。


 レンの避難を確認したアナは最終の詠唱を始める。


「“輝きは一瞬のうちに 瞬く星の光は千を超え万を超え億を超える されど消えゆく光を私は欲する” 」


 天に掲げた杖に膨大な魔力が籠もった。

 それは文字通り世界を破壊しかねない程のパワー。


「行くよ!みんな、メティ!」


 アナはその兵器を海王へ向けて放つ。


「“星は一片の塵と化すスターライト・スマッシュ”!」


 一閃の光線。


 それは今までで聞いた何よりも轟音であり、今までで見た何よりも美しい光沢の輝き。


 それを放つ少女は、自らが放つ光線よりも遥かに小さな身体。そこからこれほどまでの破壊を込めた技を放つとは考えられない。

 それでもあの小さな身体にはこの光線を放つだけの魔力と体力、そして想いが込められているのだ。


 海王を呑み込んだ光撃は様々な輝きを放ち、集中して海王へ直撃している。

 咆哮が聞こえないのはきっとアナの放つ光撃の音、そして撃ち開かれる海と大地の裂音によるもののせいだ。

 それだけ光撃圧の強い技である。



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、」


 ものの数秒で終わりを迎え、辺りは撃ち上げられた海水がミストとなって充満している。

 魔力切れのスレスレまでいったのだろう、アナは肩で息をしてゆっくりと呼吸を落ち着かせた。


「大丈夫か?」

「うん、一応はね。アレ撃ったの初めてだからつい勢い余っちゃった。」


 えへっ、と小さく笑うアナは既に疲れ切っている。恐らくこれ以上の無理は効かないだろう。


 さて、どうなったか。

 アナ曰く間違いなく直撃は免れていない。となれば、大ダメージは確定だ。あとは海王の防御力が如何なるものかによる。

 体験した身だから言えるが、あの金属膜はそこらへんの鉄とは比べ物にならない程強固である。剣撃で割れないのであれば砲撃ではどうか。


 海風によって霧が一気に晴れた。

 同時に月を覆い隠していた雲も風によって流され、月光の下、海王の姿が照らされる。


「……なっ!」

「……。」


 ありえなかった。


 結果を見た瞬間、全身の冷や汗が止まらなくなる。

 一度の鼓動が永遠のものに感じ、心臓の収縮がとても苦しいものに感じる。


 それだけ、現れた光景には重圧と絶望を乗せているのが分かり、心を折るとはこういう事なのかと実感させた。


「どうして…あれだけの魔力砲喰らって何で生きてるんだよ。」

「……。」


 乱す俺と異なりアナは冷静な目で海王を見ている。攻撃が無駄に終わったことに悔しくは無いのかと問おうとした時、


 ビシィィ!とまるでガラスにヒビが入った様な、何かが壊れる音が響いた。

 音源は海王から。



 ーーーーーー!


 蝶の孵化。とでも表せば良いのか。

 蛹が壊れる様に海王の身体にヒビが入った。

 そしてひび割れた金属膜は、1つずつ花弁のように散る。


「ーーー!」


 その先から覗き込むように現れた産まれたての生物。

 見た目は前とほとんど変わらない。だが、頭部に一本の巨大な角を従え、眼光はさらに鋭くそして重圧に。


「孵化したってのか…。」


 その美しくも悍ましい姿に驚きを隠せないでいると、


「っ!ぐっ、あぁぁぁ!」


 突然、隣でアナが苦しみだした。


「おい!しっかりしろ!アナ!」

「あぁぁぁぁ!!」


 絶叫する声はただひたすらに枯れていた。


 正の感情など無く、苦しみという負の感情一色に染められアナの苦痛を表現している。


 意識を確かめるべく彼女の肌に触れる、


「ーー熱っ!」


 熱い。なんてレベルではない。

 それは人間が触れて良い温度のモノでは無くなっている。そして人間が発して良い温度ですらない。


「ーーーあぁ、レン…逃げ、てーーー」


 その言葉を最後にアナの意識は停止した。


「アナっ!」


 どういうわけか、分からない。

 故に此処から動く事など出来なかった。


 置いて行くわけにはいかない。

 それに海王はまだそこにいる。


 そう思い海岸を見る。


 ーーーーー。


 そこには未だ健在の海王が1体。文字通り海に蹂躙していた。



 アレを、倒すのか。俺1人で?


 アナの全力魔法でさえ倒せなかった敵だ。

(無理だ)


 俺1人で何とか出来る筈がない。

(言ったろ。お前じゃ何も守れない)


 せめて、せめて応援でも来てくれたら何とかなる筈だ。

(誰も救えない)


 きっとこの事態に気づいて聖鋭隊が来てくれている筈。それを待とう。

(そうやってお前は、また繰り返すんだ)


 俺は。俺は。俺は。俺は。俺は。俺は。俺は。おれは。おれは。おれは。おれは。おれは。

 ……オレは。


 何かが砕ける音がした。

 まるで鈍器で皿を壊したような。

 でも、どうしてだろう。

 それは俺の中で響いている。


 …。

 …。

 …そうか、俺の中で何かが壊れたんだ。


「ふざけんな。もう誰も失わせはしない。誰1人としてな。」


 壊れた何か。

 そして今度は何かが目覚めた。

 真っ白で何も無く、何も感じない白色が。



 気付けば1人浜辺に立ち海王を睨んでいた。

 後ろでは横たわるアナ。海風が寒くないようにとコートを着せてある。

 下に着ていたノースリーブのハイネックアンダーアーマーが肌に張り付き寒さを軽減させてくれている。一応これもグリフォンの毛皮から作った代物だそうだ。


 此処に立つまでにナニカを視た気がする。内容は覚えていない。

 でもだからこんなにも落ち着いていられるのだろう。

 残り3秒。2、1、


 それは一瞬に起こった現象。

 突然現れた海王は、出現時と同様に突然として姿を消したのだ。

 後に残るは潮の香りと、荒れた波。

 それ以外はただ静かに流れる時間であった。

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