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1話 ここはナニケン?

前回のあらすじ

少年、異世界へ転生!!

よし!まずは状況を整理しよう!


深呼吸をして気持ちを落ち着けた蓮は、ゆっくりと首を動かし辺りを見回す。

場所は…どこだ?辺りは木がその枝を広く伸ばしており、地面には草が生い茂っている。

なるほど、おそらくここは何処かの森の中だろう。

少なくとも自分が住んでいる近辺ではないことは確かだ。かと言ってどこか遠くの地にいるという可能性も低い。

御崎蓮自身、外出するとすれば学校かすぐ近くの本屋に行く程度である。


「森の中か…もし今、熊とかに襲われたりしたらものすごくヤバイ状況だよな…」


なんといっても今の装備は学校の制服装備。

こんな時に野生の動物なんかに襲われでもしたら一貫の終わりである


その時、アレが起こった。

いつからか蓮の中に生まれたいわゆる特殊能力。『未来視』だ。

蓮の視界にはノイズが走り、未来で起こりうる映像が映し出される。


映し出された映像は、木々が生い茂る森の中。

視界は左右に振れ、ある一点の草むらを見ている。すると草むらが揺れた。

飛び出す勢いで現れたの何かの動物。

肝心の部分はモヤがかかっており、現れたモノが動物であるということしか分からない。

そこで映像は終わり、レンの視界は元に戻る。

うっすらと閉じた目を開け、目に滲みる日差しの光を感じながら辺りを見渡す。


「あっ…」


そこは未来視が見せた映像と同じ場所だ…

すると予告どおり、目の前の草むらが揺れた。


「あぁー、マジかよ」


まさか、自分が建ててしまったフラグをこうも綺麗に回収してしまうとは思ってもみなかった…

そんなことを考えていると草むらを揺らす主が姿を現した。


現れたのは、可愛いい野ウサギ…

ハッハッハ、可愛らしいじゃないか。

その野ウサギは愛らしい瞳をしており今でも連れて帰りたいくらい可愛い…


なーんてな!はいはい、そうですよ。現実逃避してましたよ。

実際に出てきたのは、オオカミに近い姿をしており、頭にはツノ。大きさは2メートルを超え、目は赤く黒光りしており、口の牙は鋭く尖り、涎を垂らしこちらを見ている。

ハッキリ言っておこう。オオカミのほうがまだ可愛く感じる。というか何だお前は。


「あれぇー?熊じゃないのね。っというか、この状況…俺は狙われてるってことでいい?」


現状、この場にいるのは蓮のみであり、そしてここは森の奥深く、かつ学校の制服装備だ。

お腹を空かせた獣にとっては格好の獲物である。


「よし!どぉどぉ、落ち着け!俺を食べたところで腹を壊すだけだし、きっとおいしくないぞ!」


とりあえず目の前に現れた謎の獣を抑えなといけないと思い、必死に宥める。

しかし、そんな苦労も無駄のようで、


「ク゛ルァァァァァァァ」


獣は吠え、こちらに向かって来た。


「ヒィィィィ!勘弁してくれよー!」


情けない声をあげながら逃亡する。

幸いその獣は見た目に反してあまり足は早くないようで、運動不足の蓮でさえ逃げ切れるほどの遅さだ。

数分間走り続け、遠くまで逃げれたと思い、少し足を緩めた。

その時、何かが足に引っかかった。


「あれ?」


不意の出来事に油断して、足元を取られた。

糸のような何かに引っかかったのだろう、どうやらその拍子で転んだらしい。

起き上がろうとした蓮に災難はまだ続く。

間髪入れずに引っかかった糸は右足に絡まりそのまま逆さ吊りになってしまった。


「うぉ!ちょっ、何なんだよ!早く解かないとさっきのヤツに追いつかれるだろ!」


しかし、解こうにも宙吊りで場所が安定しないし、焦っているため、かえってロープが絡まってしまう。

そうこうしているうちに案の定追いつかれた。


「ク゛ルルルルルルルルル」


「あれ?本気でヤバイよな…」


体中から冷たい汗が出てきた。

獣は待ちに待った食事の時間に興奮し飛びかかってくる。

(あ、終わった…)

蓮が死を覚悟を決めた次の瞬間!


光斬魔(ルス・エペナイデン)!」


声が聞こえたと同時に、蓮の後ろから光の斬撃が繰り出され、襲ってきた獣は、瞬く間にばらばらとなっり、その肉の残骸が音を立てながら地面に落ちてゆく。

同時に、蓮の足に絡まっているロープも切れた。


「ふぅ…間一髪だったね、怪我はない?」


助けてくれたのは十代前半もしくは自分と同い年と思われる女の子であった。

紅色の長い髪を後ろで一つに結び、肌は触らなくても分かるほど艶やかであり、引き込まれそうな赤い瞳をしている。


「あ、ありがとう・・・」


蓮は体に付いたほこりをパタパタと叩き、舞い上がった砂埃にせき込むながら立ち上がった。

目線を元に戻した蓮は少女の姿を見て、妙な点に気が付いた。


「大変失礼で申し訳ないけど、君は、コスプレイヤーか何かかな?」


それは少女の服装。蓮が見たこともないようなもので、強いて言うなら、漫画やアニメで見たような服装と言った方が適切であろう。


「ちょっと!こすぷれいやーが何か分からないけど、凄く嫌な気がするんだけど!」


「いや…でも、今のご時世そんな恰好する人いないと思うんだけど…」


「ちょっと!今絶対私の事、変な人って思ってるでしょ!?」


蓮の言葉に、少女はぷんすかと頬を膨らませて怒っている。その顔も可愛らしく愛らしい。


「いい?この服はアテンシア家に伝わる立派な正装なの!あなたこそ、その変な服装はなに!見たことない顔だし!あっ!もしかして、黒使団の手下!?」


そう言って少女は腰に付けていた剣を抜き、構える。

よく手入れされた剣は持ち主の少女を綺麗に映し出しており、同時に標的となっている蓮の姿も映している。


「おいおい!ちょっと待てって!黒使団がなんだか知らないけど、俺は獣に襲われて逃げている途中で何かの罠に引っかかって、吊されてたの!襲われてるの見てただろ!」


「そんなの私を騙すための演技かもしれないじゃない!そもそも吊され…て‥‥え、今…なんて?逃げている途中で何って?」


少女は出そうとした言葉を飲み込み、その代用として新たな言葉を出した。


「獣に襲われて、逃げてる途中にロープで吊されて、おかげでよく分からん獣に食べられかけたって言ったけど…」


すると、少女の顔がだんだんと赤くなっていき最終的には下を向いて俯いてしまった。

それを見た蓮は即座に察した。


「君か…」


この三文字の言葉にどれだけの力があるのであろうか、少女の体がビクつき明らかな挙動不審となった。


「ちっ、違います…よ…」


さらに声までも弱々しくなっていき、先ほどの威勢は何処へ行ったのやら。


「おかげ様で俺、餌にされかけたんだけど」


「でっ、でも最終的には私が助けたんだから、問題はないはずよ!」


まさか開き直ってくるとは。というか今の発言は自分が犯人だと自白している様なものである。

少女はそれに気づいてか、ハッとなり顔をさらに赤めていき、最終的には泣きそうな顔になった。

さすがにそんな顔されると責めるものも責められなくなる。


「はぁ…でも、助かったのは君のおかげだから気にしなことにするよ。だからほら、泣かないで…」


蓮はため息をつき、少女に優しくほほえむ。


「ごめんなさい!」


少女は頭を下げ謝罪をする。


「あ、あの、お詫びと言ってはなんだけど、この近くに私の住んでる街があるから、そこで何かさせて」


顔を上げた少女は気前よく、蓮に謝罪の償いをしたいと言っている。


「街…か…」


現在地が分からない蓮にとって、それはちょうど良いタイミングだった。

街へ行けばここがどこだか分かるはずだし、何かの手がかりがあるからだ。


「なら、お言葉に甘え——」


「ク゛ルァァァァァァァ」


その獰猛な鳴き声を耳にするのは、ほんの数分前のこと以来だが、確かにその声は蓮の中に恐怖を植え付けていた。

恐る恐る後ろを振り向き、夢であってくれと願う。

しかしそこにいたのは蓮の願いとは裏腹の現実。

確かにバラバラとなり、その最後を確認したはず。しかし獣はそんなことなかったと言わんばかりに飛びかかってくる。


「あれ?おかしいな?決まったと思ったのに、やっぱりコアを壊さないと倒せないか」


逃げようとする蓮とは違い、少女はそう言って襲いかかってくる獣に向かって、剣を振り上げる。

振り上げたその剣は、激しい光に包まれて、直視できないほどに輝いている。


光斬剣ルス・エペナイデン!!」


剣を振り下ろすと、そこから無数の光の斬撃が繰り出される。

(これはさっきの…!)

斬撃は獣を襲い、肉を切り裂き、臓器を潰す。すると割れた獣の肉塊から黒く光る玉が現れた。

光の斬撃がその玉を壊すと、地面に落ちた獣の肉片は砂となり、風に吹かれ消えていった。


「私もまだまだ未熟ね。ごめんね、倒せたと思ったんだけど…って、どうしたの?」


「えっ…と、君は、いったい…?」


蓮の思考はパニック状態となり、もはや目の前の現実に頭が追いついていかない。

唯一口から出た言葉でさえ蓮自身が言っているのかどうかも分からない。


「あっ、自己紹介がまだだったね」


少女はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの笑みで振り向き、その動きに合わせるように少女の着ているコートなびかせ、胸に手を当てた。


「私の名前はアイリ・アテンシア!今は無きアテンシア家の一人娘にして、『光明都市ルーチェ』代表の王候補よ!」


決まった、と小声が聞こえた気がするが気にしないことにしよう。

アイリは、蓮の表情をちらちら見ながら様子を窺っている。きっと何かの反応がほしいのであろう。

しかし、今起こっている出来事に頭が追いついていない蓮は、アイリの決め台詞に反応する余裕は無い。


「それで?あなたの名前は?」


あきらめてか、小さくため息をつき、アイリはニッコリ笑いながら訪ねる。


「俺は…御崎蓮」


「ミサキレン?珍しい名前だね。なら…レンって呼ぶね! 私のことはアイリって呼んで!」


まさか、自分の名前を珍しいと言われる日が来るとは、というかそれを言うなら君の名前も充分変だからな!蓮は心の中で呟いた。


「よろしくね!レン!」


アイリは、手を出して握手を促す。

その手は、白く、細く、まさに女の子の手だ。今日こうして異性に触れるときが来るとは…

レンは、よく分からない覚悟を決め、アイリの手を握った。

温かい。それがレンから出てきた初めの感想であった。なんて小さな手なのだろう。その存在は脆く、今にも壊れてしまいそうな。


「どうしたの?」


「えっ?あ、あぁ、こちらこそよろしく、アイリ」


余韻に浸っているレンにアイリは不思議そうな顔でレンの顔を覗いた。

変な誤解をされまいと、レンは挨拶を返す。


「ふふっ、変なの、とりあえず今はこの森から出よっか。着いてきて!」


アイリは笑った。その笑顔は愛らしく、とても可憐だ。

そのままアイリ達御一行は、レンが獣から逃げてきた道を歩いて行った。

レンはその後を、置いて行かれまいとアイリの隣に並び街へと向かう。


「それにしてもどうしてこっちに逃げてきたの?こっちに逃げても、森は深くなる一方だし、下手したらさっきのよりも、もっと凶暴なのに襲われてたよ」


「え!?もしかしてさっきのよりもヤバイのが…?」


「はぁ…あのね、さっきの魔獣はこの辺りでもかなり弱い方の部類よ?あと、あのまま深くまで行って『アレ』に襲われたりなんかしたら、逃げる間もなく食べられてたかもね」


アイリは呆れ顔と、呆れ声で言った。

『アレ』というのが一体何なのか分からないが、考えるのも嫌なので考えないことにした。


「あれ?でもアイリはさっき森の奥から来たけど…」


そう、アイリはその森の奥から現れたのだ。

危険な地帯であると本人が言っているのに…


「えっとねー、私は街の安全を守る役目を担ってて、その一貫で、森に異変がないか見ながら、街の安全確保を行わないといけないの。さっきの罠だって、魔獣駆除を行うために仕掛けたのよ。まぁ結局レンが引っかかっちゃったけどね」


アイリは苦笑いをして、レンに「ごめんなさい」と小さく呟いた。

もう気にしていないレンは、その姿を見て、かわいいな、と思っているだけである。


「まあ、仮に襲われても、魔法で蹴散らしちゃえばいいもの!」


なんて勇敢な女の子なのだろう。真っ先に逃げようとしたレンは少し負い目を感じた。

それと同時に、自分と同じくらいの年の子が、命がけで街の安全を守ってることに感心した。


「それは、昔からやってるの?」


「うん…。最初はとっても怖くて付き添いの人と一緒にしてたんだけど、だんだん慣れてきちゃって、いつの間にか1人でも大丈夫になったんだ!」


淡々としゃべるアイリの表情には、死と隣り合わせの調査に対する恐怖や自分の勤めに対する義務感といった感情は何一つ感じていないように見えた。

それは、ただ自分がやりたいからしているのか、それとも別の何か…


「もうすぐ森を抜けるから!抜けてすぐにある街に私の家があるの!」


アイリの指さす方には、大きな街が見えた。


「あっ!そういえば、ここは何県なの?」


「ナニケン?何?それ?何かの剣?」


レンの質問にアイリは、不思議そうに訪ねる。

よくよく考えてみる。そういえば何不自由なく普通に会話をしていたが、アイリの言葉には不自然な単語がたくさん出てきた。

よくよく考えると魔法ってなに?魔獣って?ってか何だったんだよ、あのバケモノ! と思った。

色々考えてたレンの頭には、1つの答えが出た。


「えっ…と、街の名前ってのは…?」


「街?『光明都市ルーチェ』だけど…、なに?」


どこだ…それ…。

同時にその言葉にレンは確信した。

これは何かの夢だ…。レンは、頬を引っ張る。痛い。

あぁ、これは…あれだ。別の…異世界に来たってやつだ。

レンは頭の中が真っ白になった。


「ねー!ねー!ナニケンってどういう剣なの?凄いの?強いの?おーい!聞いてる?」


遠くを眺めるレンにアイリは無邪気に質問を続ける。

こうして、御崎蓮17歳の異世界物語は、始まる。


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