プロローグ
初めまして、今回初投稿のジョーカー伯爵と申します。
執筆初心者ですが、読者の皆様に楽しんでもらえたらと思います。
『この世の中には、特別な力を持った人間が居るという。もちろんそんなのは、ごく限られた人間であって、ましてやそんな人間と出会う事なんて砂の中から金を探すようなものである』
いつか昔に観たテレビでインチキくさいおっさんがそんな事を言っていたのを覚えている。
今ではそんな番組殆ど放送されてなどいないが、昔は観る度に自分のことだと思ってはしゃいだものだ。 別に、好きで能力を手に入れたわけじゃ無い。実際のところ、使用している自分がその能力のことについて理解出来ていないため自慢できるようなことはない。
物心ついた時、というか多分、中学に上がった時くらいから変な夢を視るようになった。
初めて視た内容は簡単で、学校の帰り道。後ろから友達に話掛けられ、そのまま自分の家まで行き、ゲームをして遊ぶ。
そんなただの夢だと思っていた。しかし、それが翌日起こった。
正夢かと思った。が、夢の内容をえらく鮮明に覚えていたし、夢で見た時間と現実で確認した時間も同じ。その時の気持ちとかまで同じであった。更に、それが何度も何度も続いてしまうと、最早正夢ではなく、予知夢であると確信した。 というか、信じ込んでいた。正直、そう言った話しは結構好きだったので、特に混乱することなく現実を受け入れたが。
それから、少し人生が変わった。
未来予知で視る事は、日常生活に限った話ではない。自分とは関わりのない様な殺人事件や、誘拐、窃盗等の大小問わない事件も視た。
そんな不規則で起こる予知夢を視る度に、これから起こるであろう事件を解決してきた。 (もちろん学校で起きる小さな事件に限る)
まるで自分が憧れていたヒーローになったかのような、それこそ夢のような日々が続いた。
高校生になると、未来予知は寝ていない時でも視える様になった。
例えば、授業中のふとしたときでも、それは視界を消し去り、未来で起こることを視せる。
俺はそれを『未来視』と呼んだ。
高校に入って半年が経った。それから未来視はパタリと止まり、いつの間にか俺は、未来視の存在もすっかり忘れていた。
だが、高校2年生になったある日。忘れていた未来視はひょっこりと戻ってきた。それも最悪の未来を視せに……
蓮が視たのは親友の死だった。
『未来視』で視た事は必ず起こる。だが、目の前にある岩を避けることが出来るように、それを回避する事は可能である。
しかし、蓮はその岩を避けることが出来ず、親友は死んでしまった。
その日以降、その親友を殺したのは彼だという噂が立ちはじめた。
そして、彼の居場所は無くなった。
そして、彼の世界から輝く色は無くなった。
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空は青々とし、そよ風が優しく髪を揺らす。
こういうのを世間では五月晴れとか何とか言うのだろう。
少年は学校の帰り道を歩きながら、ふと思った。
目線を上にして、青々とした空を見る。そこは雲一つ無い空が広がり、太陽が暖かい光を放ち、まるで氷のように冷たい彼の心を溶かそうとせんばかり。
「今日は天気、良いんだな…」
その太陽を見つめ、ポツリと呟いた少年の言葉。少ない単語だが、どこか悲しい声質で、昼だというのに暗く重たい雰囲気を醸し出した。
「……」
目線を元に戻すといつもの光景である。当たりは灰色に染まり、音が遠くに感じる。 実際に世界がそうなっている訳ではなく、あくまで少年が感じ、そして見える世界がそうなっているだけ。つまり、少年にとって今生きる世界とは、無色で真っ白な画用紙。もっと言えば、昭和時代のテレビみたいなものだ。
(いつから俺の世界は、こんなにつまらなくなったんだろ)
ため息を吐き、再び帰り道を歩く。
「学校、つまらなかったなぁ」
目を閉じて今日の出来事をボヤく。 脳裏に浮かぶのは彼の通う高校の日常。しかし、思い出すのは日常とはまるで掛け離れた、クラスメイト達からの言葉。
「おいおい、あいつまた来たよ」
「何であいつまだ来てるの」
「早く学校やめちまえばいいのに」
実にくだらない。
そう割り切れたらどれだけ楽だろうか。現実、そういう訳にもいかず、声達はまるで耳元で囁かれているかのように、今でもハッキリと聞こえる。
以前まで普通に話していたクラスメイトや、そこそこ仲の良かった友達にも邪魔者扱いされてしまっている。 しかし、今ではこんな陰口も最早気にならなくなってきている自分がいる。
きっとそれは、クラスメイトではなく、この世界に対して彼が絶望とあきらめを抱いているからであろう。
即ち、その結果が彼の見る世界が灰化する事に繋がる。
そんなことを考えている内に家に着いた。玄関を開け、家の状況を把握。いつもだと、母が「おかえり」と帰りを出迎えてくれるが、今は外出中なのだろうドアの閉まる音が虚しく家の中に響いた。 まぁ、それもそのはず、彼は学校を早退し、今この場に立って居るのだから仕方ない。
彼はそのまま真っ直ぐ自分の部屋に向かう。
部屋に入る。これもまたいつもの光景である。ベッドには漫画が散らかり、机の上にはデスクトップ型のパソコン、唯一外の世界との違いがあるとすれば色があるということである。
「ただいま」
誰も居ない自室でようやく帰宅の挨拶をする。が、その声も虚しく響き渡るだけ。
鞄をベッドに投げ、ネクタイを外し、鞄に続いて自分もベッドへダイブ。 柔らかい生地の質感と暖かい温もりが肌に伝わる。
多分母が、布団を干してくれたのだろう。朝よりも布団がふっくらしている。
「ふぅ……」
ようやく緊張から解き放たれ、一息吐く。幾ら経っても外の世界に行くと疲れてしまう。唯一落ち着けると言えば、まさに此処であろうり
首を横に向ける。そこには先ほど自分が投げた鞄があった。丁度目の位置にキーホルダータイプの名札が付けてある。
「…御崎…蓮…」
それが、彼の名だ。
しかし、今となっては自分自身の名前に対しても何の意味があるのか分からなくなってきている。 それに妙なことに、その名前は自分の名であっても、自分のもので無いような気がした。 何処か違和感を覚えながらも、じっとその名前を見つめる。
「はぁ、何やってるんだろう…」
数分経過し、特に何も分からなければ、代わりもしない事に気付き、天井に目を向ける。 ふいに眠気に襲われる。
どうやら今日は一段と疲れたらしい。蓮はそのまま目を閉じた。
……。
……。
……。
……少しして、蓮は目を開けた。
少しとは言っても蓮が感じる数秒である。軽く目を閉じて、また目を開ける。ただそれだけの作業の筈なのだ。
だからこそ、蓮は目の前の光景に目を疑った。
その世界は、夕焼けというにはおぞましく思えてくるほど、赤黒い空が広がり、あちこちで黒い黒煙が立ち上ってる。地面の焼け跡から判断するに、爆撃か何かあったのだろう。土までもが黒く焦げてしまっている。
(何だ、これ……)
夢でも見ているのか。そう思い、体を起こそうとする。が、上手く体が持ち上がらない。 と言うより、全身に繋がる筈の力がまるで弱く、寧ろ伝達されていない。
何とか動く首を曲げ、目線を体へと向ける。何とそこには、傷だらけの体と、本来曲がるはずのない方向に曲がる両足。腕と呼べるモノは最早存在せず、内臓も殆ど潰れている。
「う、うわぁーーー!な、なんだよ!これぇ!だ、誰か、たすけ、助けてくれー!」
声だけはハッキリと出た。
すると声を聞いてくれてか、誰かがこちらに歩いて来る音が聞こえた。
それで安心する。助かる保証は無いが、この意味の分からない状況下で誰かに出会えるのは、大変心強い事だ。
「す、すいません!助け―――」
しかし―――
現れたのは、蓮の予想していた人。ではなく、漆黒の黒で全身を覆った影である。
顔も見えなければ、姿だって確認出来ない。そこに居るはずなのに居ない、まさに影そのもの。
その影は、酷く倒れる蓮の上に無言で跨ると、黒で覆われた手で、そっと蓮の頬に触れた。
「……っ」
得体の知れないモノから、伝わるのはまるで氷の様に冷たい感触。手で触れられている筈なのに、氷を直接押し当てられているよう。
そして影は、硬直する蓮に向かって、静かに口を開いた。
「殺して、あげる」
「――――――!!!!」
その言葉の刹那、強烈な痛みが全身を駆け巡る。腕を千切られた痛み。足を折られた痛み。内臓を潰された痛み。全身を切り刻まれた痛み。それら全てに襲われ、人間が耐えられる筈がない。蓮の意識はシャボン玉同然に、その世界から弾けて消えた。
「――!!……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
バッと起き上がる。
(あれは……何だよ。何なんだよ。有り得ねぇだろ、あんなの……)
夢ではない。夢で痛みを伴うわけ無いのだから。蓮は自分の体を見る。
傷は、無い。服も学校指定の制服だし、足だって普段と同じ方向に曲がる。腕も有るし、内臓だって正常に動いてくれている。
あんな体験をした後だからか、当たり前のことだが、蓮にとってそれは当たり前以上に当たり前に感じた。
呼吸を整えようと、目を閉じゆっくりと息をする。普段からたまに変な夢を視たりしていたから、そういった時は、こうして自身を落ち着かせていた。
すると、激しく吹いた風が蓮を揺らした。
……。
……ん、風?
(おかしい、俺は自分の部屋に居るはずだ。窓でも開けてたのか?)
色々可能性を加味しつつ、もしやと思い目を開けた。
「……マジかよ」
そこは、自分の部屋ではなく、緑の木が立ち並ぶ深い森の中。
天気は晴れ。
風も爽やかで、遠足とかするならこれくらいの天候が丁度良いだろう。
そんな呑気な事を考えつつも、立ち上がり、辺りを見渡す。
「此処、何処だよ……」
優しい風で靡く木々の音と共に、少年の声は寂しく森に響き渡る。
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