Story 7
でも感想ってか、このくだらない話は後書きのが良くない?(千
エジプトの夜は想像以上に涼しすぎて、ステフが鳴る音に気が付いた時には、少年が隣で寝入っていた。
一番早起きだったのはRiS。
彼女からステフの新たな説明を始めたところまでは意識があったのに。
「これくらい余裕だから心配すんな。」
そうは言っても石盤は重い。汚れた布でくるめば貴重品とも思えないだろう。
僕は少年の背後について、石盤を背負う彼を手伝った。反抗してくる言葉もなんとなく可愛いさを感じる。どうせ、君以外には僕らは見えないんだから。
「意地張るなって」
王宮までは何事もなかった。心配したようなこともなく、僕らは集落の幾つかを通り過ぎた。
どこの村人も王家の事を快くは想っていないらしい。その原因は察しがつく。
「よくここまで来れたな。逃げ出しはしないかと気にかけていたのだぞ」
王宮の入り口で出迎えた神官は、凄惨な笑みを見せて、石盤を手渡すよう要求してきた。
「やめろ!僕は王様にお父さんの意思を伝えに来たんだ。なんでお前に渡さなきゃならない!離せよ!」
「この小僧はまだ抜かしたこと申すか!無知な子供の意見なぞが王家に通る訳がなかろう。貴様のような者は役立たずは、最早この国には用はない!」
「くっそお!騙したな!」
食って掛かる少年を神官は突飛ばした。
僕は怒りも声に出せないまま、RiSが引き止めてくるなか、神官へと突進しだしかけた。
その時だ。
「カーメンネビ!」
少年と神官が声に反応した。
「いかにしている。彼を引き入れよ」
「王陛下・・・」
石段の最上部に立つ、その男がエジプトを治める人物だった。
だけど、庇のせいで大半が影のなかだ。
「この者は王家を謀ろうとしております。古代の石盤などと偽りを言い、陛下に取り入ろうと
「「黙れ!!」」
僕は少年の声と一緒に叫んでいた。RiSが溜め息をつく。
「全ては余が自ら判断致す。少年よ、石盤の中身をすぐに言い表せ」
辺りに響き渡る王命は、一瞬で神官を黙らせた。
少年はたじろう。
「こ、この意味は・・・
彼は中身を知らないままだった。RiSが読むのを聞いていただけだ。僕と同じ。
RiSが側で耳打ちをしているというのに、少年はその場に縮こまった。
神官が再び冷血な眼で見てくる。回りには王家の兵士が何重にも取り巻いている。
少年は耐えられなくなってしまったのだ。
このままではマズいと、僕はステフに手をかけた。
「ReD!止めなさい。正しくないわ」
それでも僕は起動画面から新着データを選ぶ。罵声なんて気にしていられるか!
データの転送先をスポットに指定した。
「これでお父さんの意思は継げる!おい、思ったことを喋れ!殺されるぞ!」
少年の口がゆっくりと開いた。
「私が記す建築法は以下の通り・・・」
その眼は宙を見つめたまま動かない。唇はロボットのようにペラペラと語りだした。
そのうちしゃがんで砂地に指で絵を描き出した。
あの石盤に描かれた図だ。脚注を加えながら設計図を書き広げていく。
全体的に渦を巻くようなイメージなのか?
RiSまでもが茫然と見守るなか、少年は取り憑かれたかのようにイムホテプの建築法を砂に書きあわらしていった。
「素晴らしい・・・ニネチェル」
はっとなった少年とともに顔を上げると、王は言った。
「お前をこの度のピラミッド建設の指揮者に命ずる」
意味を理解した時には、神官の抗議を制した王が、次の命を下していた。
「お前の父らと同じくこの国の識者として、王家に仕えてくれ」
「王様・・・!」
砂漠の王宮で一人の少年を中心に、何百もの兵士達が礼をする――エジプトの真昼の光景は僕には強烈だった。
少年のいた集落はピラミッド建築の中心となり、彼らは富を約束された仕事を得ることが出来た。
結局、あいつらも奴隷にされることを恐れていたんだ。それに彼を特別視していただけだ。
『バカだよな。僕なんて特別でもなんでもねえもん。やらなきゃならない事があっただけでさ』
王が建築の契約として差し出した、まっさらな石の板にニネチェルは名を記した。
その上には総指揮官の名前があった。
ニネチェルが王に頼んで総指揮官にしてもらった人物は、神官カーメンネビ。
『父さんの記憶のおかげで、僕は助かったし、なにもかも順調にいきそうだ。満足だよ』
『愚かよね。あなたたち。楽なほうばかり選ぶんだから』
ニネチェルがあの時何を見たのかわからない。だけど僕はまどろっこしい事はやめた。RiSはホント呆れ返っていたが。まあいいや。
王宮の外でニネチェルは僕らに言った。
「兄ちゃんたちって、神の使者とかか?」
「なんだそれ。お互い柄じゃないだろ」
「まあね。見えない奴が助けてくれたとか触れ回って、変人扱いされたくないし」
そうだった。僕らは存在自体、不確定だ。
「忘れっぽいわね。ReD」
うっ・・・読まれてる・・・
「早くしましょう」
「はい、RiSさん。ニネチェル、これで最後だ。ちょっと我慢してくれ」
僕はニネチェルの額に左手を翳した。教えてもらったシステムは起動済み。
3秒くらいの合間にさステフがニネチェルの意識をコピーした。
デジタルな輪郭の文字が浮かぶ。《修了》だ。
「仕事はしっかりやれよ。れっど。」
「大丈夫だって。だけど一人でも逞しい君には負けそうだ」
ニネチェルが笑った。
「ありがとう。兄ちゃん、姉ちゃん」
その顔はやっぱり子供らしく無邪気だ。小さな考古学者に僕らは礼を言った。
僕がしたことが正しいかどうかはどうあれ、ニネチェルなら正しい使い方をしてくれるはずだ。
「じゃあな」
RiSが左腕を持ち上げている。続けて僕もステフのネジを回した。