File 2 Story1
新しいお話です。
「おはようございます」
今朝も僕はいつも通りに出社し、二人に挨拶するといきなりKaZに腕を掴むまれた。
「おはよう、ReD氏!溌剌とした声がヤル気を見せてるな。ちょっといいかい?」
嫌な予感。RiSに救助の視線を送ると
「お早よう、朝からじゃれるなんて仲いいのね」
なんて、あまり関係ない言葉をかけられる。
ああ、無情。
「さあ、さあ。こっちだReD君」
「えっ、こっちは・・・」
そう、こちら側に行くと僕たちのチームルームを出て他チームのルームに近付く。
そこにはJOHの姿があった。
「遅いぞKaZ、暫くだなReDクン」
「すまん、JOH。こいつがなかなか気乗りしなくてな」
「え?なんか、すいません」
ん?なんで僕が謝ってるんだ?
というか、JOHとは2週間ぶりだ。
「乗り気になれないのはKaZ、お前だろう。ReDクンはよく此処に来てるから知ってると思うけど、今トラブっててさ」
「ほう、あのJOHが?次席のJOH様がか?」
「うちのチームがよ。まあかくかく然々って訳で・・
って、それじゃ何もわかりませんよ、JOHさん」
「そうか!JOH、そりゃあ大変だ!」
「え!それで分かっちゃったんスか、KaZさん!」
「さっぱり」
「・・・。」
僕の肩を叩いてJOHが言う。
「君には激しく同情する」
したり顔のJOHとおどけた顔のKaZを前に、僕は折れそうなハートをダクトテープで巻き上げた。
気を強くもち、話を進める。
「で、JOHさんのチームって今のミッションは現代でしたよね?」
「そうそう、皆出払っててさ。俺に回ってきたのはいいけど、俺の受け持ちと相性が最悪でな。俺は干渉できないポジションなんだよ」
タイムトリップは厄介だ。担当したミッションが、特定の時代、地域に影響することがある。
際限なくトリップを繰り返したら、時代は、必ず絡み合ってもつれてしまう。
だから、不可侵領域が出来てしまうんだ。
「なるほど。JOHも動けないとなると、うちらが出番って訳ね。・・・どこよ?」
「・・・お前、いつもながら変わってるな。フツーは場所よりミッション内容を聞くもんだ」
呆れる同僚に、KaZは開き直り
「やりがい有る仕事は環境に左右されるのだ。な?ReD氏」
いや、いきなり振られても、内心嘆く。
「・・・まあ、こんな奴だがひとつ頼むよ、ReDクン」
「はい。慣れてきました」
軽くジャブを返しておこう。
「で、どこまで話したか・・・。ああ、場所はカリブ海の孤島。ミッションは、とある島民の記憶をコピーすること。楽だろ?」
それだけ?
随分軽い仕事だと思った。
RiSさんのキツイ視線に注意されるまでは。
「じゃれあったり、二人で他室へお出掛けなんて、本当に仲のよろしいことね」
声は穏やかでも、機嫌を損ねたのは違いない。
たった三人の会議を、二人にすっぽかされたんだ。
何故か僕が彼女に申し開くはめになったが、RiSはきっぱりとそれを拒否しKaZに説明を求めた。
「別にいいでしょう?こいつだって事務ばかりじゃつまらんだろうし、そろそろトリップ慣れさせても構わないんじゃないですかね」
「カリキュラムにないの」
どうやらKaZの思う通りに事が進むのを気にしてる。
「はっきり言って時間のムダなんスよ。ぐーたらやってたら、また人材不足になりますよ!」
RiSはすぐには口を開かなかった。
KaZは会議室の扉を開けると、僕を見る。
『来い』ってことか
僕はRiSへ一礼して、KaZの背中を追った。
「でも、今後はチームリーダーの私を差し置いては許さないわよ」
RiSの声が、僕の背後で低く響いた。
今更言うのもなんだけど、会議室が時空移動のスタートだ。
会社では各チームは個室を持ち、そこに会議室を設けている。
大体のチームは木彫パーテーションで内部を区切っているが、僕らの部屋は特別で、完全な内部屋となっている。
だが、特別狭くて、古くさい。なんでもRiSさんの好みなんだとか、JOHさんが言ってた。
やっぱりKaZについてまずかったかな・・・
ステフを設定しているKaZに聞いてみた。
「大丈夫ですかね。本来の仕事があるはずだし、JOHさんまで巻き込むなんてこと・・・」
「安心しろよ。俺もRiSさんの育成プログラムには飽き飽きしてたんだ。それにJOHはとっくにノータッチなんだ。まさかあの人が今の仕事すっぽかして、時空を越えて奴を殴りに行くわけないって」
「『殴りに来る』って、変なこと言わないでくださいよ。エリートなんでしょ、JOHさんは」
ステフを弄る手を止めると、KaZはムッとした。
「その『JOHは』ってなんだよ?なーんか、同期の俺が肩身狭くなっちゃうなぁ。悲しいなぁ」
「え!いや、KaZさんも凄いですって・・・で、何処でしたっけ・・・」
これ以上上司の不興を買うわけにもいかない。
焦りながらも座標入力まで画面を進める。垣間見ると、KaZはにんまりとしていた。
「これだから新人はいいんだよなー」
・・・
「か、からかわないでくださいよ、もう」
「へいへい。じゃ、行くか」
そう言うとKaZは、ステフを馴れた手付きで操作した。
それが悪夢の始まりだった。
いやー、随分時間掛かったよね。
すまんね。




