Story 10
File1 end
あれから2ヶ月間、僕は事務仕事ばかりやらされていた。
会社の仕組みを知る為に基礎から学ばされていた。
平たく言えば、雑務だ。
いや、社会経験第一歩と言っておこう。
エジプトへ行った事も、あの少年と出会った事も幻と思えるほどだ。
そんなこんなで僕の近況はこんな感じだ。
雑務の内容だが、主に二人の半しもべ状態だ。
RiSさんの書類コピーだのKaZさんの印刷だの、ステフでの文書作成にパソコンでメール確認から郵便配達で他チームの人間とも顔見知りになり、ステフでの作業も多くなったので操作にも慣れてきた。
挙げ句、二人のお茶汲みにカップ洗いまで・・・。
僕のコト何だと思ってるんだ?
新人って辛い。
実践に行ったのは、本当は夢だったのか?
・・・僕は確かめてみたかった。
そんな時、いつものように他チームへ郵便を届けに行くと顔見知りから声を掛けられた。
「そういやお前、ただの郵便係じゃなかったんだな」
「そうですけど、何で知ってるんですか?」
「ネームコードからちょっと情報をさらってみたんだよ」
「え!そんな事出来るんですか?」
驚いた。彼がそんな事するとは思わなかったのだ。
「ステフを使えばカンタンだよ。俺、KaZと同期なんだぜ。新人君なのな、知らないのも当然か」
立ち話をしていたら扉をふさいでしまっていたらしく、女性社員が困っていた。
彼はその場を譲り、僕を誘導してきた。
スマートな身のこなしだった。
コソコソと後を付いていき、自販機の前で話を続ける。
「コイツは万能ちゃんなんだぜ。上手く使えばKaZの奴さえ出し抜けるかもな」
「マジすか、ソレ!教えて下さい、JOHさん!」
かすかに目を見開いたJOHは、ニコッと笑った。
「いいぜ!KaZにいつも意地悪されてるから仕返しだ」
その日、たまたま運良くRiSさんに留守番を頼まれていた。
その間に、と思っていたがいつもの雑務が残っていたため出来なかった。
そろそろ定時。
僕はカップを洗い終え、給湯室から帰ってくるとKaZは慌てていた。
「KaZさん、そわそわ慌ててどうしたんですか?」
「今俺は究極に高まっているのだよ、小僧!美しき女性達が俺を待って居るのだ!」
「・・・それってもしかしなくても、合コンですか?」
僕には縁のないものだ。悲しい。
「そうなのだよ!だからお先っ!」
と、言って颯爽と去っていった。
ふと、KaZのデスクを見る。あれ?パソコンの電源が着いたままだ。
そういえばRiSはまだ帰っていない。
これはチャンス?
少し触ってみると、すぐにロック画面に行き着いてしまった。これより先はパスワードが必要だ。
そこでJOHと話した事を思い出した。
「KaZの意地悪への信念はスパイスを忘れない事らしい」
意地悪への信念かはともかく、"スパイス"は重要なワードか?
だけど、僕スペル分かんない・・・。
英語2だったんだけど。
と、いい所にRiSが帰って来た。
唐突に聞く。
「RiSさん、お疲れ様です。あの、スパイスのスペル教えて下さい」
「・・・は?えーと、SPICES よ。私直帰だから。お疲れ様」
「ありがとう御座います!さようなら!」
よしっ!これで入力してみよう!
カタカタ
ピコッ
・・・開いた!?
そんな単純でいいの?!
と驚きながらも、中を探っていく。
すると、見た事ある名前のファイル名を見つける。
少年の名前、ニネチェルのファイル名だ。
そっと開くと、驚きの内容が書かれていた。
そもそものクライアントは考古学者だ。
「自分自身の学説の証拠品を手に入れたい」という依頼だった。
つまり、僕達はこの人の為にニネチェルを守って、 彼の名前を石盤に残す事をミッションとしてやった訳だ。
「だけど、これってこの学者のエゴだよな・・・」
あの時ニネチェルと話したり触れたりしたのは事実なんだ。
だけど、学者にはただの夢見話。
僕は雇われている駒のひとつ。
「真実の売り買いって"正しい"のか?」
現実と会社に疑問をもち始めた所で、画面の続きがあることに気づいた。
スクロールすると、KaZの追記があった。
追記
ニネチェルの父親の記憶を回収。ReDへ譲渡。
興味深い事が分かった。
神官カーメンネビの子孫がクライアントであった。
また、ニネチェルの子孫は反対論者の考古学者で、真っ向から対立していた。
上からの指令によりクライアントには箝口。
因果応報だ。
以上
思いの外長くなってしまい、すみませんでした。
産みの苦労が半端なかったです。
拙い文ですがお読み頂き誠にありがとう御座いました。
今後とも御贔屓になさってくださると小躍りして喜びます。




