File 1 Story 1
サブタイトルって何ですか?
ガチ疑問です。
特殊な仕事、とは聞いていた。だが、あの時詳しく聞いていればと深く後悔した。
普通に暮らしているオエライサン方(面接官はクライアントと呼んでいた)から依頼を受け、
僕たちは"各自の任務"を与えられる。
ここまでは僕の平凡な脳も理解していた。
まず、困ったのが現社員からの激励だ。
「オーダーに沿って各自ミッションをクリアしますと、レポートが追加されます。」
で、そのレポートを揃えることが最重要課題らしいんだ。
「それを《歴史書》と呼びます。無事にクリアしていただければ、ランクもぐんぐん上がります。全部署でサポートしますから、どんな意見も迷わず申告してください。全社員には多くのライフが関わってますからね」
とかなんとか説明してくる社員。最早、全く付いていけない。
僕は、別の事に考えを移した。
ここに座っているのは兄の為なのだ。
兄に会って、一言言いたい。そんな理由で、面接の時兄の噂を聞いたこの会社に決めてしまったのだ。
だが、予想外な展開に僕は戸惑っていた。
ミッションとか歴史書とか、ここは普通の会社じゃない。
手元の認識表が疑惑を増幅させるんだ。
僕のコードネームは、R.e.D…
れっど…か…?
え、はい?適当?つか、センス皆無だろっ!
認識表を握りしめたままぼけーっと座っていたら、入社式が終わってしまっていた。頭も体も置いてきぼりだ。
気が付いたらスーツの男が近づいていた。
「浮世離れした顔は兄貴そっくりだな」
・・・!
「やっぱり兄はここに居るんですか!?」
「あ・・・ああ、所属はしている」
一瞬怪しむ目付きをした社員。僕の指導を担当するコードネームKaZが話しかけてきた。
「その様子じゃ、リーダーの説明ちゃんと入ってきてないな?」
「全然分からなかったです。頭、オーバーヒートですよ」
正直に言ってしまった。まずかったか?
だが、問題はなかった。周りの十数人も同じ状況にあった。
そして僕らは、各々の指導官に会場を連れ出された。
目線を上げると中央ホールを取り囲むように廊下が見えている。KaZは先導しながら丁寧に、だがざっくりと教えてくれた。
この仕事は一握りの限られた人間だけに任せられているという事。
そしてその一握りの人間にはコードネームが与えられ、社内でも素性は隠すという。
クライアントからの要請は部署伝いに来るらしく、その指定されたエリアに"飛び"、ミッションをクリアしていくらしい。
とどのつまりは社長のスピーチの通り、ミッションクリアのレポートを集めて行くという「実に事務的な仕事だ」、と。
「易いもんさ…!」
果たしてそんな簡単な仕事なのだろうか?
既に僕には不安しかない。悪寒がする。就職、間違ったんじゃないか?
配属部署までの道すがら、窓からは大きなビルの窓達しか覗けなかった。
都心の割に人気のないビル群の一角にひっそりとある古びた会社。
ここから僕の人生は、一変していった。
此処に、兄も来たのか・・・?
というより、KaZのあの苦い顔・・何だったのだろうか?
兄に何かあったのだろうか?
・・・考えても仕様がない。
「おい、またぼけーっとすんな」
KaZの声で現実に戻る。
僕らは人気のない階に辿り着いた。
すっと差し出された手が、長細いケースを渡してきた。
「これ、DMJ-8だ。レポートファイルを見たり、受け渡しに使う。
指紋認証でタップすると起動する。そしたら宙にモニターが出るから、普通にタッチする。ちょっと弄ってみろ」
半ば冗談だろうと、開けてみて驚いた。古ぼったいデザインの腕時計みたいだ。が、時計じゃない。
文字盤がないのだ。
KaZのほうを見ると、彼の左腕に同じ腕時計がある…
ぎこちない手付きで腕に付けてみる。指が何処かに触れたのだろう。
社章が腕の上に立体となって浮いている!
「っ!」
「ファイルは刻々と変わっていくから良くチェックするんだ。
後、ミッションクリアでもレポートは貰えるし、こうしてお前とのシェアも出来る」
目の錯覚じゃ?――そう思った。
だけど、KaZがしている腕時計の上にも、僕と同じマークが浮かんで見える。
「・・・ホログラムだよ。ちょっとばかり癖があるが、慣れてきたら気の利くヤツだ」
と言って、コピーのファイルをくれたKaZ。見よう見まねで僕もやってみた。
隅に浮かぶ"転送"の文字に爪を近付ける。
なかなか反応がないと感じた次の瞬間、"転送完了"の文字に変化した。
いきなりのハイテクだ。見た目はかなりクラシックな黒のレザーバンドなのに。
だが、見事成功した。KaZがニヤリと笑う。
「そうそう、そうやってコンプリートして歴史書を完成させていくのさ。お前らの年代には、この手の操作説明なんて要らないよな。」
「たしかに・・・こういうのって、ある程度操作方法は見当がつきますけど・・・」
僕の声は震えていた。
「だったら話は早い。新しいオモチャと思え」
彼の持論は見事に核心をついていた。僕はすっかりコイツに興味を持ってしまったのだ。
肌身離さずいろと言われると、尚更だ。
数十分前の後悔は、好奇心になっていた。
「ふん。漸く弊社に関心が出てきたか。ソイツがお前の専用デスクだ」
なるほど。そう考えればいいのか。
この会社は、世間的な会社と同じ。ただテクノロジーの先端をいってたり、コードネームがあったり、変なワードで仕事内容を表してるのも社風なんだ。うん。
決めて思い込もうとしたが、一番知りたいことがまだだった。
「KaZさん。僕らは"ミッション"って何をするんですか?」
「色々だよ、飛んだ先でモノ動かしたり、嘘吐いたり、ミサイル撃ってみたり。本当多種多様。お前なら、すぐ出来そうだ」
・・・これ絶対普通じゃない!絶対ッ!