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5話 全力疾走



「ん?」


 ガサゴソと音が鳴り、夏光が凝視していると、2つの光が4つに増え、今度は6つになった。


「……え、なに?」


 まるで獲物を殺すかのような視線に、夏光は背筋が凍った。この感覚はあの時と似ているーーそう、あの男殺される時の感覚とーー


「はは……。そんなお約束みたいなこと無いよな? ってか、お約束だとしても武器とかあるもんだろ。俺素手に防御力皆無のパーカーなんですけど……」


 だんだんと光が近くなる。やがてそれは顔を見せた。

 犬なんかとは比べ物にならない牙。まるで刀のように鋭い爪。見ているだけで腰が抜けそうになるほどの殺意。この時点で夏光は驚きと恐怖を隠せなかったが、それよりも驚いたことがあった。


「……犬って頭3つもあったっけ? 少なくとも俺が居た世界にはこんなのUMAでもいねえぞ……。ゲームの世界では三頭犬(ケルベロス)ってのがあったけどさ……」


 まさにあのゲームで出てくる三頭犬(ケルベロス)という魔物にそっくりだった。ゲームの世界のキャラに会えても夏光は感激なんてものは無く、ひたすら恐怖が頭を覆い尽くすだけだった。


「グオオオオオオオオオオ!」


 真ん中の頭の犬が凄まじい声で叫ぶ。威嚇をしているのだろうか。


「お、落ち着け! とりあえず止まろうか! ほらおすわーー」


 焦って犬をなだめようとした時だった。鋭い爪は夏光の左腕に向かい、飛びかかっていた。


「ーーつっ!」


 間一髪でかわす。幸いなことにパーカーの生地が切れただけで済んだ。でもこれがもし当たっていたらーーただごとじゃ済まないかもしれない。夏光は悟った。


「ガウッ!」


 今度は左の頭が2度目の攻撃を挑んだ。牙を開き夏光の胸元へ噛み付こうとする。だが、夏光は避けようとしなかった。むしろ拳を握りしめ、足を踏み込んでいた。


「どらぁっ!」


 真ん中の犬のがら空きの顎を思いっきりアッパーで殴り上げる。予想だにしない攻撃に、犬は見事に地面に叩きつけられ、「キャイン!」と痛そうな声を上げた。


「今だ!」


 夏光は犬が倒れている隙に全力で真っ直ぐに走り出した。地面には木の根が遮るように生えており、危うく転びそうになってしまったが、構わずただただ走った。


「なんだアイツ! 絶対あんなの勝てねえ! 異世界厳しすぎだろ!」


 後ろからさっきの叫び声が何倍にもなって聴こえる。やがてそれは足音に変わった。夏光が振り向くと、信じられない光景が目に入った。


「シャレになんねえぞおい! 群れで来るとかふざけてんだろ!」


 なんと3つ頭の犬が10匹以上で夏光を追いかけているのだ。恐らく最初の犬が叫んだ時に仲間が気づいたのだろう。この数はとても相手をできる自信が無かった。


「アイツらがどんな奴かも分かんねえのに戦うなんて無謀すぎる! 逃げろ俺!」


 自分に言い聞かせ、夏光はひたすら走った。汗が滝のようにどっと出る。彼が向かっている方向は、少しの灯りを帯びている場所だった。

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