3話 1歩
「いてっ!」
ドシン、という音と共に夏光が尻餅をつく。手にざらざらとした感触が伝わり、地面に尻餅をついたのだと夏光は理解した。その後に、異世界に転生することが出来たと夏光は確認し、自分の体を見たり触ったりする。
「転生って言っても体は死んだ時と変わらず17歳引きこもりの石原夏光。俺なんだな。てっきり赤ちゃんからやるんかと思ってた」
へー、と腕を組んで関心していると、夏光は腕を見て、少しだけ自分の何かが違うことに気づいた。
「あれ、俺こんなに肌白かったっけ……。いくら外出てないからってこんなに白くなるか?」
夏光の肌はまるで雪のように真っ白だった。日本人の肌はこんな色ではない。白人でもこんなに白くはないだろう。傍から見たら具合が悪いのかと思われるくらいだ。おかしい。
「これ大丈夫かなぁ……。めっちゃ重い病気にかかったとかじゃないよな?」
ま、いいか。と目を離し、近くの木に座り込んで周りを見る。とにかく木が茂っている。森というより樹海の言葉が似合いそうである。
今度は首を上にあげ、空を眺める。まるで闇のような黒が広がっている中、大きな半月が負けじと照らしていた。この眺めを夏光は知っていた。前世と同じ夜空だ。
「なんか不気味ですなぁ……。アニメとかだとここで敵が来るよな」
そこまで言って、「あ、フラグ立てちまった」と呟き、1人で笑う。ただただ寂しい。響いているのは夏光の声だけだった。
「誰も居ねえのかよ……。ってかここがどんな世界かも知らねえし、夏佳がどこにいるかすら分かんねえし、まずここどこだか分かんねえし。……この状況じゃ俺が生き延びることが出来るかすら危うくね?」
その通りだった。無知な空間で1人森にいるのは不安でしょうがなくなる。草のさざめきが聴こえるほど静かなこの空間だ。人もそうそう来ないだろう。
「自分で進めってことだよな……。はあ、神様はもっとマシなところに転生させられなかったのか? 例えば超可愛い女の子の家とか、温泉の女湯とか。温泉がこの国にあるかは知らんけど」
ブツブツと愚痴をこぼしながら夏光が木から腰を離した。とりあえず動かないことには何も進まない。
「道が4つある時点で迷子になる確率100%なんだよな」
思わず夏光は失笑した。彼を囲むように前、右、左、後ろには全て前に進む道がある。はっきり言って相当運が良くない限り、この森から出ることは困難だと夏光は察した。
「さて、どっちに行こうかねえ」
足元に落ちている長めの枝を拾い、地面に立てた。手を離すと、枝はふらふらしながらすぐに倒れた。
「……右か。よし、右に行こう!」
枝を夜空に掲げ、叫ぶ。その声に反応するように静寂が夏光を包んだ。