2話 約束
今回までは貯めて書いてたのを更新してます。次からは出来次第の更新となります。
「死んでからじゃ遅いんだよ。今頃そんなことで後悔したってどうにもならない。ただ悲しくなるだけさ。……君は意気地無しなんだよ。心の中ではヒーロー気取りでいるのに、肝心な時には何も出来ないで大事な人を死なせる。そんなの何にも考えてない人より酷いよ。変に期待させてるようなもんだよ」
神の言葉は鉛のように重く感じた。彼の言う通りだ。終わってからああしとけばよかった、こうすればこうならなかったのに。と言い続けても、何かが変わるわけじゃない。またその時を思い出して悔やんで悲しくなるだけだ。
「……よーし! 神様は優しいから次の人生は君の望み通りにしてあげるよ。モンスターを倒して英雄になるような人生にだってさせてあげられるよ」
「望みなんて要らない。俺に幸せになる資格なんて無い。いっそ地獄にでも送ってくれ」
いつもの夏光なら喜んで誰もが夢見るような、強いヒーローになって皆を守るような人生を送るように神に頼んだだろう。しかしもう何もかもが嫌になり、自分を消したくなったのだ。夏佳を守れなかった自分が嫌で嫌でしょうがなかった。
「君は相当妹さんが好きだったんだねえ……。もしかしてシスコンってやつ?」
夏光のことなんて全く気にせず神が明るい口調で言う。
「へっ、そうかもな。ってかそうだな。俺は世界で1番夏佳が好きだしアイツの為だったら何でもできる」
だっていつも助けられてたから。とは思ったが、言わなかった。
「重症だね……」
「引きたきゃ引けばいい。俺が夏佳のことを1番大事に思ってることは変わりないからな」
「ふーん……」
神が無表情なまま数秒間黙る。その後にゆっくりと口を開いた。
「ーーじゃあさ、もし君の妹さんが狙われるような異世界に転生しちゃったら君はどうする?」
急な質問に夏光は顔を上げ、フッと呆れたように笑った。答えは一瞬にして出た。
「そんなの決まってるだろ。俺もその世界に転生する。それで夏佳にこう言ってやるさ。次は絶対に死なせないってな」
夏光は言葉に重みをかけて言った。
次があるとするなら、今度はどんな手を使ってでも夏佳を守る。あの時のような後悔は絶対にしない。そう心に誓った。
「ふーん。それじゃあ、引っかかれただけで即死するような敵が立ちはだかってもそんなこと言えるかい?」
「ああ、言えるさ。俺はどんなことがあっても絶対に死なせない。例え自分の命が散るとしてもな」
神が面白そうにクスッと笑った。その笑みはやはり子どもらしさが無かった。
「君面白いねえ……じゃあ、お望み通り君の妹と君を異世界に転生させてあげようじゃないか」
「は? まて、俺はまだ行くなんてーー」
「じゃあ妹さんだけ行かせるかい? 助ける人が居なかったら100%死ぬと神に誓うよ。僕が神だけどね」
悪魔のようにニヤニヤする神。
「神のくせに随分と卑怯だな。狡賢いやつだぜ」
そう言った夏光の顔は満更でもなかった。
「神は頭がいいんだ。知っておいた方がいいよ」
「……なぁ、また聞いてもいいか?」
「どうぞ」
「なぜ俺にそこまでチャンスを与える? わざわざ神のお前が、1人の人を助けるのに理由はあるのか?」
至って普通な質問に神は「うーん……」と上を向いて数秒悩む。そして、ポツリと言った。
「面白そうだから?」
「は?」
意味のわからない答えに思わず夏光は拍子を抜かした。
面白そう? 何言ってんだコイツは。
「まあまあまあまあ、時期に分かるからその話はまたいつか」
「またお前の会わなくちゃいけないのか」
「ははは。君のそういうところ好きだよ」
「そりゃどうも」
「っと、雑談はこれくらいにしといて。そろそろやるよ」
神が夏光に手のひらを向ける。転生をさせる手順なのだろう。眩い光が夏光を包んだ。
ーー次は絶対に死なせない。すぐ助けに行くからな、夏佳。
「おう」
その言葉を最後に、彼、石原夏光はその場から消え去った。1人残った神は夏光が消えた痕跡を見て悪魔のような笑みを浮かべた。
「さて、どれくらい生き残れるか楽しみだなぁ」
ポツポツとその場で円を書くように歩く。
「やっと退屈しないで済むなぁ」