12話 スタートダッシュ
遅くなってすみません
落ちてる石でも投げるか? いや、そんなことしたら複数人にバレる。なら不意打ちをかけて全員倒すか? って、余計難易度高くなってるな。
悩み悩んでも答えは出なかった。夏光の悪い癖である。「まあ、大丈夫だろうと」何事も浅く考え、実際その場面に直面した時、ぶつかってしまう。自分自身でも分かっているのだが、昔から直せない。もはや性格とでも言えるかもしれない。
「……だろ」
兵士2人が話している声が微かに聞こえ、夏光は耳を澄ませた。
「なあ、お前はどう思う? 俺達が吸血鬼の相手なんて出来るわけ無いよな?」
「たりめえだろ。あの国を滅ぼしたと言われる族だぞ? その上不死身だ。勝てる方法を考えてたら馬鹿らしくなってくる」
「王様は吸血鬼はもう滅んだって言ってたよな? ならアイツは生き残りか? 吸血鬼にしては幼かったが」
「もしかしたら吸血鬼じゃないのかもーーいや、それは無いか。何せ屋根を歩くように登っていったからな。常人にできるモンじゃねえだろ」
「だな」
兵士は2人で笑いあった。
なるほど。吸血鬼は滅んだと言われてたってわけか。……ん? 不死身なのにどうやって滅んでったんだ? 死なないなら滅ぶことも無いんじゃ……。
と、考えてる中、隊長らしき兵士が叫んだ。
「もう時期レイリィ様が来る! それまで絶対にヤツを入れるな! 絶対にだ!」
「はっ!」
さっきまでグダグダ話していた兵士の態度が一変した。隊長が戻ると、また兵士達は話し始めた。
「レイリィ様が来るんならもう大丈夫だな」
「そうだな。後はあの人に任せよう」
……話の内容的に、レイリィって奴がめちゃくちゃ強いってことか。そいつもう少しで来るのか……。
「って、モタモタしてる場合じゃねえ! 強いやつが来る前にどうにかしなきゃーー」
声を控えめにしつつ動揺する。会話から感ずるに、レイリィとやらはあの兵士達よりも明らかに強いのだろう。レイリィが来れば安心と言っているくらいだ。相当の達人に違いない。
「どどどどうする……どっから出てもバレるし、だからと言ってここでうだうだしてても、レイリィとかいう奴が来ちゃうし……」
夏光はそこで何かをひらめいた。そして、顔を引き締める。
「これはーー逃げるしかないな」
もはや降参である。突っ込んでも隠れてもダメなら、逃げるしかない。逃げるが勝ちという言葉だってある。今に至ってはベストな提案だ。
すうう……はああ……。大きく深呼吸をする。そして頬を両手でパチンと叩き、気を引き締める。
「……よし」
左膝を地面につけ、その横に手をつく。短距離走の時、陸上選手がやる、クラウチングスタートのポーズである。
「3……2………1」
カウントダウンを口ずさみーー
「スタート!」
土がえぐれるほどの強さで足を蹴り出した。