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8話 迷いの結果

「え、俺なんかした? あ、もしかして服が皆と違うから気になった? 今はボロボロになっちゃってるけど、これはパーカーって言うんだ。去年買ったんだよ。勿論買った場所はユニクーー」


 珍しい服装をしていて誤解をしたのかと思い、ぺらぺら説明していると、またもやあの男のように全員度肝を抜かして逃げ出した。


「吸血鬼だあああああ!」


「誰か! 誰か警備兵を呼んで!」


「殺されるぞ! 皆逃げろ!」


「誰か警備兵を呼んでくれ!」


「は? は? ちょ、ちょっとなんで皆俺から逃げんの!? 俺吸血鬼じゃねえよ! 好物は人間の生き血じゃなくて寿司だよ!」


 頬に冷や汗が伝る。自分は迷いも無く、正真正銘人間なはずだ。しかし、顔を見ただけで男は夏光が吸血鬼だと断定した。そうなると、見た目で吸血鬼と似ている部分があるということになる。

 

「なんで俺のことを吸血鬼なんて……」


 ありえねえ、と呟こうとした時だった。この世界に転生した際に自分に異変があったことを思い出した。

 肌が異常なほどに白い。三頭犬(ケルベロス)に逃げている時に分かったやけに運動能力が高かったこと。昨日の傷がすっかり治っていたこと。

 ーー全て一致しているのだ。吸血鬼の特徴に。まず吸血鬼は肌の色が白い。そして日光に弱いということ。もう1つは、不老不死であるということだ。傷口が治ったのは不老不死で再生能力が高いからと考えれば、あまりにも非現実なことだが、ありえない話でも無い。


「本当に俺はーー吸血鬼なのか?」


 自分が自分でないような気がして、嫌悪感を感じた。ギラギラとした太陽が黒いパーカーの生地を攻撃する。目が眩んだと思ったら、今度は頭がふらっとした。


「日光……。これも一致してる……」


 だんだんと埋まっていく吸血鬼の特徴。嫌なほどに似ていることに、まるで意図的にそうなっているのかと思うくらいだった。


「きゃっ!」


 夏光からひたすら離れる群衆の中で赤毛の少女がつまづき、転んだ。人々はそれに気づいてもなお、走ることをやめない。このまま進んだら、少女が蹴り飛ばされて踏まれるという末路を知っていながら。


 助けなきゃーー身を乗り出して駆け寄ろうとしたところで、足が止まった。

 今俺があの中に入ってどうする。余計大きな騒ぎなるに決まってる。そんな正義のヒーロー気取りなんてしてないで早く誤解を解かないとーー少女を助けるプランを捨てた刹那、昔の記憶が蘇った。


『お兄ちゃん凄い! 正義のヒーローみたい!』


 ……あぁ、あれはいつの話だっけ。そうだ、確か弱いものいじめをしてる奴らを1人で全部追っ払った時の言葉だったような気が……。


「正義のヒーローとか馬鹿らしいな」


 へっ、と笑い飛ばした。正義のヒーローなんていかにも子どもっぽい。夢を持つ少年少女の前では、それはとても輝かしく、勇敢に見えたのだろう。だがそれは子どもの中だけだ。大人ならこう思うだろう。ただのお人好し、あるいは馬鹿と。


「本当に馬鹿だよな。わざわざ他人を助けるなんて」


 夏光はそう思うだろう。夏佳がいなくならなければ。だが今は違う。例えお人好しで馬鹿な行為をしようとしたのだとしても、夏佳だったらーー夏佳だったら、頑張ってと応援してくれるような気がしたのだ。


「でもーーそんな馬鹿なことをする俺の方がもっと馬鹿野郎だ」


 夏光は少女の元に全速力で走っていった。












 


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