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カップラーメン

新しく始めた連載作品です。今日中に更新をするのでブクマしていただけると嬉しいです。


「あ〜、このアニメおもしれえな。続きが気になる……」


 暗い部屋で1人の少年ーー夏光(なつみ)が液晶画面を見て言った。服装は真っ黒なパーカーに真っ黒なズボン。まるで烏のようだ。

 液晶画面に写っているのは、主人公が仲間を守るために悪魔達と戦う、男なら誰しも憧れるような定番物のアニメだ。


「……腹減ったな」


 夏光がヘッドホンを外し、椅子から立ち上がる。目線の先の時計には4時30分と示されている。この時間帯には良く小腹が空くものだ。

 普通の高校生なら部活でもしている時間なのだろうか。だが、彼は昼間に起きた時からずっとこの部屋に居る。いわゆる引きこもりだ。


 リビングのドアを開けると、ツインテールの小さな少女ーー夏佳(なつか)がソファに座り、携帯をいじくっていた。

 顔立ちは彼女の身長に合う幼さで、ショートパンツと白いTシャツが良く似合っていた。


「…………」


 それを見て夏光は咄嗟にドアを閉めようとする。まるで危険信号を発するように冷や汗が頬を伝う。

 大丈夫。バレなければいいんだ。バレなければーー


「お兄ちゃん!」


「ひゃい!」


 夏佳の刺すような鋭い声に体がビクッと跳ね上がる。


「何しようとしてたの?」


 目の前まで近づき、顔を夏光に接近させながら夏佳が問う。


「いや、その、腹減ったからカップラーメンでも食べようかなと……」


 目をそらしながら挙動不審に言うと、彼女は目を細めた。


「学校は?」


「…………行ってない」


「もう高校行かなくなって3ヶ月も経つんだよ! このまま休み続けてどうするの?」


「……明日行くよ」


「それ昨日も言ったじゃん! もう、お兄ちゃんがそんなんだと私が恥ずかしくなってくるよ!」


 プンスカと頬を膨らませてふくれっ面を浮かべる夏佳。

 行けたらもうとっくに行ってるんだよなぁ……3ヶ月ぶりに学校に行く辛さとめんどくささがあって小心者の俺には無理だ。


「……ごめん」


 本当に情けない兄だ。勉強も出来ないし運動も出来ない。夏佳の言う通り妹の恥ーーいや、もはや人間の恥だ。引きこもりなんて生きてる意味の無いゴミみたいな物なのだから。


「……もう、仕方ないなぁ」


 夏佳が呆れたように笑った。そして台所に向かい、エプロンを着始めた。


「今からご飯作るからカップラーメンは食べちゃダメだよ。今日はお兄ちゃんの好きなハンバーグだから」


「ああ」


 そう言い残し、夏光はまた部屋へと戻った。

 カップラーメンでも食べながらパソコンでネトゲでもやろうと思ってたが、夏佳が大好物のハンバーグを作ってくれるなら仕方が無い。

 寝転がりたい気分だったので、ベットに飛び込んだ。顔を上げ、目に写ったのは細い竹刀だった。


「……なんで俺剣道始めたんだっけ」


 ふと思い、昔の記憶を蘇らせる。考えて思い浮かんだのは中学1年生頃の夏光だった。


「あぁ、確かいじめられてたから強くなりたいとか言い出して始めたんだっけ……はは、懐かしいな。結局高校入る前にめんどくさくなって辞めたんだ」


 めんどくさがりやの夏光にしっくり来る理由だった。何か習い事をやっても続いた試しがない。唯一続いたのが剣道だったのだ。


「運動出来ないのに剣道だけは出来たんだよなぁ……。さすがに日本大会優勝した時は自分でも驚いたな……。あの時は夏佳も『お兄ちゃんかっこいい』とか言ってくれたなぁ……」


 あの頃は懐かしく、寂しくも感じた。今はもうそんな言葉はどこからも来ない。当たり前だ。何も出来ない者に与える言葉なんて無い。頑張って頑張って何かを得た時に人間は褒め言葉を貰うのだ。


「もっと頑張ってたら……。今頃……」


 意識が遠のいていく。目の前の光景がだんだんと暗くなり、最後には真っ暗になった。



――――――――――


「ん……」


 どうやら寝てしまったらしい。窓から見える外の景色はもう暗くなり始めている。


「今何時だ?」


 時計を見ると6時10分と示されている。そこで夏光は疑問に思った。

 いつもなら6時前には起こしてくれるんだけどな……。まぁいいか。


 ベットから起き上がり、ドアを開けようとした時だった。


「きゃああああああああ!」


 夏佳の声らしき叫びが耳に響いた。





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