閑話:Her memories of California
小説の内容とは関係ありません。
土岐さんの昔の思い出の一部です。
ああ、懐かしい。
青い空。
パームツリー。
対岸にはコロナド島(Coronado Island)。
フィフス・アベニュー(5th Avenue)のフェリー乗り場でコロナドへ行くフェリーを待つ。
サンディエゴ・ダウンタウンから滞在しているコロナドの友人宅へ帰るには、ここからフェリーで行くか12th & Imperial transit centerから901番か903番のバスを利用する。
サンディエゴ側からコロナドへ渡る橋、サンディエゴ・コロナド橋は毎回渡る度に強風が吹いたら車ごと海に落ちるんじゃないかと思う。とにかく、橋の端の壁が低い。
私のサンディエゴ側に住んでいる友人曰く、落ちそうだから極力車では渡りたくないそうだ。
それでも、渡る時の見晴らしは最高。ダウンタウンが一望できるし、サンディエゴ・ハーバーに停泊するヨットやクルーザーが一望できる。ワールドベースボールクラッシックの会場となったペトコ・パークも見える。
本当に、きれい。
でも地元民曰く、この湾の海水は汚い。とてもここで泳ぐ気分にはなれない。少し前に、共同訓練と称して米海軍と海自がここで泳いでいたのを見て、みんなして目を疑ったものだ。
ここコロナドは島半分が海軍基地にもなっており、空母、ロナルド・レーガンの停泊する港となっていた。
反面、ホテル・デル・コロナドもあり、マリリンモンローの映画で使われるなど、リゾート地としての顔も持つ。
コロナドの治安は非常に良く、地元学区の学校は対岸のダウンタウンとは異なりギャング団もいない。友人宅は、ちょっと出かける時には家に鍵をかけないので驚いたものだ。
私のお気に入りはオレンジアベニューと10番通り(Orange Avenueと10th St.)近くにあるス⚪︎バ。カウチもあって新聞も読めるしのんびり出来る。また、オレンジアベニューをもう少し行った所にあるアイスクリーム屋さんの「Moo time」。このアイスクリーム屋さんの前には原寸大の牛の人形が立っている。そして隣にある本屋さんの「Bay books」。ここは大型の本屋さんとは違い、地元の小さい本屋さん。本のレビューも丁寧に書かれており、カウチに座ってゆっくりと本を読むこともできるしキッズコーナーだって充実している。いつも行くと村上⚪︎樹の本が平積みで置かれており、ここの本屋さんで誰か彼のファンがいるのかな、と思ったほどだ。
そこから更に5分も歩くと、右手にホテル・デル・コロナドが見える。ここの駐車場から西側へ抜けると、そこは太平洋が広がっており、夕日が海に沈む所を見るのには最高のロケーションだ。
コロナド以外では、Sea World近くのモレナ・ブルバード(Morena blvd)沿いにあるJV's Mexican Food。ここのスープリーム・ブリトー(Supreme burritos)は$5.60ながら、一人では食べきれない大きさでとても美味しい。
そしてカリフォルニア州にチェーン展開する「In'N Out Burger」。ここはジャンクフードではあるけれど、良く通ったお店だ。
この店のユニークなところはメニューが少なく、メニューに載っていない「裏メニュー」がある所。みんなどうやって裏メニューを知るのかはわからないけれど、私は地元の友人から裏メニューの存在を聞いた。
「In'N Out」にやってきた私はチーズバーガー、フライドポテトと7Upをオーダーする。
私のお気に入りは裏メニューのアニマル・スタイルで、生たまねぎの代わりに炒めた玉ねぎを乗せてもらう。
フライドポテトもアニマル・スタイルを。これはフライドポテトの上に、溶けたチーズと炒めた玉ねぎ、ピクルスを乗せてもらう。
なんか、ちょっと前まで違う場所にいた気がするけれど、私、まだアメリカに居たんだっけ?
なぜか全て見るものが懐かしく感じるけれど、まっ、いいか!
In'N Out来るの、本当に久しぶりだし。ジャンクとわかっていても、食べずにはいられない!!
ああ〜、もう本当、なんでたかがハンバーガーやポテトがこれほど懐かしいんだろう?
いくつか小さいケチャップを貰って、飲み物サーバーの所まで行くと氷と7Upを大きいカップ一杯に注ぐ。蓋をかぶせるとストローをさして店内を見渡した。
窓側の席が空いており、そこにトレーを置くと外を眺めた。
良く見ている光景。
目の前には大きなスタジアムが見える。
やはり、どこか懐かしい感覚を覚える。
そんな感覚を無視して目の前のトレーに乗っている美味しそうな食べ物に目が釘付けになった。
「さてさて、食べますか!」
私はハンバーガーを両手で持つと大きな口を開けてかじろうとした。
「これっ、いい加減に起きなさい!!!」
突然耳元で大きな声が聞こえ、私はハッとして目を開けた。
え・・・?『目を開けた』?
突然飛び込んで来た不機嫌そうな顔に、私は頭が着いていかなかった。
「What a heck...,wait, where am I....」
訳が分からず呟きながら、目の前の人物を見上げる。
私の言葉に、目の前の男性は大きなため息をついた。
「土岐さん、いい加減にしなさい。勉学に励むのも良いが、寝るときはしっかりと寝るべきだ。最近夜遅いから、こんな日中から寝ることになるんだろう。」
「・・・・・・・・・嶋田、先生?」
「何だい?その信じられないものでも見るような顔は。」
「え、だって、私、今アメリカに・・・。って!!チーズバーガーっ!!!」
土岐はガバリと起き上がると、思わず頭を抱えた。
「ああ〜〜〜、もう少しで、もう少しで食べられるところだったのに〜〜!!嶋田先生、後もう少し起こしてくれるのが遅かったら〜〜!!」
土岐は完全に素だった。
言葉遣いも常日頃の態度も、完全に平成時代に戻っていた。
「なんの事を言っておるのかわからんが、後半刻もしたら患者さんが来る。診察台などで寝てないで、井戸で顔でも洗っておいで。」
そう言った嶋田は怪訝そうな顔をすると土岐の診察室を出て行った。
夢?
やけにリアルな夢だった。景色や色、香りが本当にリアルだった。
そう言えば、誰も知ってる友人は出てこなかったな。
たとえ夢だったとしても、ここでは食べることもできないハンバーガーを食べ損ねたのは悔しい。
土岐はため息をつくと、そのまま大きく伸びをした。
ゆっくりと診察台を降りて井戸へと向かう。
つるべを落として水を汲み、木桶に水を入れると手ですくってバシャバシャと顔を洗った。
冷たい水に、頭の中がクリアになる。
タオルで顔を拭うと、とてもサッパリとした気分になった。
「さて、と。午後も頑張りますか。」
土岐は独り言を言うと、診察の準備をすべく、診察室へと向かった。
頭の中では、先ほどのトレーの上にあったハンバーガーとポテトの事を考えながら。
夢でチーズバーガー食べ損ねたものが書きたかったので、やってしまいました。
ここに出てきたIn'N OutはSports Areana Blvdにあるお店です。
もう久しく行ってませんが。。。




