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花屋町通り医院  作者: Louis
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That's the life

物事と言うものは常に変化するもので、「不変」なんてものは存在しない。

人間は総じて安定を手にしたい生き物ではあるけれど、安定なんて物はこの世に存在しない事を嫌と言う程知っている。

それは歴史をみても明白なわけで。


私は昭和の時代に生まれ、両親世代は高度成長の恩恵を享受した世代だ。その団塊世代より少し若い両親の子供である私は、バブルも弾けた後の就職氷河期を経験した世代だ。周囲の就活生達と共に苦労して、やっとの思いで就職を勝ち取った。私たち世代はいわゆる「詰め込み世代」と言われているけれど、第二次ベビーブームからそれほど世代が離れていない私たちは常に「競争競争」と言われて育ってきた。今となっては良いんだか悪いんだか。

なんだかんだでここまでやって来たわけだけど、将来の事を考えると政府も国も当てにならないんじゃないかと言う、漠然とした不安を感じて生きて来た。


それでもバブル期ならいざ知らず、この日本に置いて不安が無い時代があったのかと考えると、それは否だと思う。結局のところ、安定などある訳が無いと言う考えに行き着くのだ。

まぁ、近年では政治革命を起こそうとする人もいないだろうし、内乱を起こそうという人もいないだろうからそういった意味では治安的には安定しているのか。


そんな私も現在はアラサー。気付けば31歳となっていた。

20代は初めての就職と、その職を離れて2校目の大学へ行くと言う道を選んだ。

日本には学びたい専門分野の大学がなかった為、それを学ぶ為にアメリカの大学へと進学した。そして大学を卒業すると数ヶ月のインターンを経験して日本に帰国し、知り合いのつてで都内で働き始めた。


そう思い返してみると、何だか突っ走って来た20代だったなぁと、とても青く澄んだ春空を眺めて湯呑みのお茶を飲み干した。

縁側を通る風が何とも気持ち良く、このまま横になれたらきっとお昼寝が出来るだろうなとぼんやり思う。


しばらく空を眺めていると、バタバタとした足音と、自分を呼ぶ女性の声が響く。


「ーー、先生ぇー!!若先生!!先日来はったお方がおみえどす。」


「ああ、お香代さん。直ぐに行くから診察室にお通ししてください。」


私はゆるりと返事をすると、湯呑みを盆に置き、両腕をグッと上に伸ばして伸びをした。


んーーー、今日は清々しくて気持ち良いわ。さて、行きますか。

内心気合を入れると、ゆっくりと立ち上がり、自分の診察室を目指した。



部屋へ入ると、まだ年若い男性が座っていた。

男性は私が入室すると、深々と頭を下げた。


「先生、先日は誠にかたじけない。・・・先生方の意見も聞かず、治療代も支払わず、慌てて帰って申し訳ござらん。」


そう言った男性は頭を下げ、かなり恐縮していた。


1週間ほど前に、私は医院の近くでうずくまっている青年を見つけた。放っておけない性質の私は、気になって青年に声をかけた。まともに歩けそうになかった青年に肩を貸し、医院まで運んで治療をした。あいにくとレントゲンがないので何とも言えないが、悪くて剥離骨折をしていそうな状態の足首のねん挫だった。もう夕方だったし、家も遠そうだったから医院に泊まっていけと勧めたけれど、青年は頑なに拒否し、こちらが折れた。私は出来る限り足首を固定し、湿布と安静を告げてまた後日診せに来るように言った。その青年は、歩くのも辛そうに帰宅していった。



「いえ、良いですよ、奥沢さん。こうして来てくださったんですし。あの状態で帰られたのだから、何かよほどの事情があるのだろうと思っていたのです。」


私はまだ20代前半だと思われる青年をまじまじと見ながらそう言った。


ああ、言っておくけど私は医者じゃない。

医師免許はもちろん持っていない。でも、「ここ」では自分の知識は医者として十分役立つものであり、その知識を買われた私は今「ここ」に居る。


大学進学でアメリカに渡った私は、代替医療であるカイロプラクティックを学んだ。日本では法制化もされておらず、有象無象で良くわからない状況になっているけれどアメリカでは専門大学を卒業し、ナショナル・ボードと州の試験を受けてライセンスを取得する国家資格だ。全てを覚えているかは別として、学生時代には一通りの基礎医学を学んでおり、実際にメスを持って行う人体解剖だって経験した。

日本に帰国後も、しばらくは臨床もしていた。

そんな私はこの医院の医者である嶋田先生に拾われて、「医者」として現在に至る。


初めて「ここ」へ来た日の事を、私ははっきりと覚えている。

でも、何故ここへ来たのかは全くもって未だに理解できないでいる。

一体全体どういうこと?

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