au
ようやく渋滞から逃れて、車が下道を走り出した。
トイレをコンビニで済ませた皆伐が、「おまたせ」と、みなにペットボトルの麦茶を配った。
皆伐が黒澤に渡そうとして、気が付いて花に二本とも渡した。
「すんまへん」と花は二本とも麦茶を受け取ったが、黒澤が、「俺はいらんじゃけ」と言うので、花はそれをシートの上に置いた。
「十キロ先に、auがあるじゃけん」
黒澤が言うので、楠木が、「どこよ?」と、フロントガラス越しに外を見た。
「何か用事じゃけ?」
花が聞くと、「お前のプレゼントじゃけ」と、黒澤は答え、花の手を握った。
黒澤の手は暖かかったが、急に心配になって花は言った。
「蛍の分は、どうするじゃけ?」
「それは神様の言う通り」と、ナビを検索していた楠木が言った。
店は空いていたので、すぐにカウンターに案内された。
「奥のスマホの売り場の中にある俺の女にあげるものを持って来て」
黒澤が言い、auの従業員は、黙って奥に花と黒澤を案内した。
奥には、スマホが数台あったが、黒澤がそのうちの一つを、「アイフォンに変えて」と言った。
従業員は、心得たもので、すぐに手元にあったアイフォンを黒澤に渡した。
黒澤は、それをポッケに入れると、花に「行くぞ」と言い、カウンターの外に出た。
店の中にいた楠木が、「もういいの?」と言い、黒澤がそのまま外に出て行くと、そのあとを、皆伐と一緒に出て行った。
車に乗ると、楠木が、「お腹空いてるかもしれないじゃけ、でも、このまま高速に乗るじゃけ」と言い、エンジンをかけた。
花は、何が何だかわからなかったが、京都に帰れると思って、黙っていた。
するといきなり携帯が鳴った。
「花にじゃけ」と、黒澤が先ほど買ったばかりの携帯を花に渡した。
「はい?」と、花が電話に出ると、「蛍じゃけ!!」と、大喜びした蛍の声がした。
「どうしたん?」と、花が言うと、「谷田様が買うてくれた、スマホじゃけ!!」と蛍が言った。
「蛍は今、どこにいるじゃけ?」
花の言葉に、蛍は、「ちょっと待って」と言い、「ここどこじゃけ?」と、谷田に聞いている声がした。
「わかった」と、蛍の声がしたあと、蛍が花に、「京都東インターチェンジじゃけ」と言った。
そこでいきなり楠木が、「何?!」と、大きな声を出した。
「負けてらんね」と、楠木が言うと、「伏見に行く」と、黒澤が言った。
「おかみがかんかんじゃけ」
蛍はそう言ったが、どこか愉快そうだった。
花が、蛍に「大丈夫じゃけ」と言おうとすると、楠木が、「黒澤のわがままじゃけ」と、先に答えた。
「伏見に行くじゃけ」と、花が言うと、蛍が、「何しにじゃけ?羨ましいじゃけ!」と言った。
「すぐ帰る」と花が言うと、黒澤が、「今日も遅くなるじゃけ」と言い、不安そうな花の表情に、「今日中には帰れる」と言った。
蛍は、「谷田様が、もう一人のパトロンとして、皆伐様を推薦してくれたじゃけ。じゃが、舞妓たちがどう言うか・・・」と、言ったが、花は、「大丈夫じゃけ」と答えた。
伏見稲荷大社は、頂上まで登るのは難儀だった。
途中の休憩所では、小さなキツネっこが頂上へいざなうものと、下山するものへと分けると言う。
「やっぱり、商売繁盛は、お稲荷様じゃけ」と、蛍が言った。




