第十三話 光秀、動く
八上城が織田勢を退けてから、わずか一月。
丹波の山々には、再び不穏な気配が満ち始めていた。
「明智光秀が、黒井城を攻め落としたと……!」
「氷上の諸城も、次々と降伏を……!」
立て続けに届く報せに、八上城の評定の間はざわめきに包まれた。
秀治は眉を寄せ、地図を見つめる。
「……明智は、諸城を一つずつ攻めているのか」
秀尚が静かに答える。
「はい。
前回のような大軍での包囲ではなく、
小勢で素早く攻め落とす戦法に切り替えたようです」
秀治は息を呑んだ。
「戦い方を変えてきたのか……」
その横で、秀香は地図をじっと見つめていた。
「明智は、学んだのです」
秀治と秀尚が振り返る。
秀香は淡々と続けた。
「前回、八上を落とせなかった理由を。
大軍で動けば補給が難しく、
山城相手には不利だと悟ったのでしょう」
秀尚が苦い表情を浮かべる。
「だから、諸城を個別に……
弱いところから崩していくつもりか」
「はい。
丹波の国衆を一つずつ屈服させ、
最後に八上を孤立させるつもりです」
家臣たちがざわめく。
「そんな……八上が最後の標的に……!」
「周りがすべて敵になれば、いかに八上といえど……」
秀治は拳を握りしめた。
「明智は……本気で丹波を平らげに来ているのだな」
秀香は静かにうなずいた。
「はい。
前回の敗北を糧にし、
より確実な戦法で丹波を攻めている。
明智は、侮れぬ相手です」
秀尚が地図を見つめながら呟く。
「……このままでは、八上は孤立する」
秀治は深く息を吐き、弟たちを見た。
「だが、我らは揺らがぬ。
八上は八上のやり方で備えるしかない」
秀香は静かに頭を下げた。
「はい。
ですが――光秀の動きは、これからさらに速くなります。
丹波は、いよいよ緊張の時を迎えます」
その言葉の通り、
丹波の山々には、確実に“第二の波”が迫っていた。




