襲撃
引き続き、ジェファーソン博士がでていったドアの外からなにか凶悪な音が聞こえてくる。
銃声だ。
その音に恐怖を感じたのか、クリス博士は怯えた目つきで、俺のベッドの影に隠れた。
再び腹の底を揺するような重低音が響くと、ドアがいきなり開いて黒煙とともに人影が部屋に入ってきた。
かなりでかい。
煙が収まって姿が顕わになってきた。
迷彩服を着た大きな男だ。
だが、よく見るとその顔は金髪で体の割りに妙に華奢な感じがするほど小さい。
その巨漢は、さっき出て行ったばかりのジェファーソン博士を左腕一本で後ろから羽交い絞めにし、右手で鋼色の小型マシンガンを構えたまま、部屋の中に無造作に歩み入ってきた。かなりの怪力の持ち主だ。
「さて・・と、ジェファーソン博士、どの端末からなら全データをダウンロードできるのかな?」
怪力の巨人は、片目に特殊なレンズをつけ部屋の中を見渡し、捕われの身の博士に尋ねた。
よく見ると、ジェファーソン博士の額には、幾筋か血が流れており、蝋のような蒼白な顔をしている。
頭部に怪我をしているようだが、意識はあるらしく口を食いしばり必死で抵抗している。
しかし、迷彩服の男は顔色ひとつ変えずジェファーソン博士を後ろからさらに締め上げ、全く力の抜けた言い方で聞き直した。
「博士、ジタバタしても始まらないよ。ここには私たちを止められる人間なんていないからね。早いとこ協力したほうが利口だと思うけどねぇ」
金髪のその男は、癪に障る言い回しに、いやらしい笑いを浮かべ部屋の中を見渡した。
ジェファーソン博士は、その言葉と締め付けの力の強さに諦めたのか、顔から必死さが消え、なんとか逃れようともがいていた腕から力も抜け、振るえる指で一方の壁際にあるパソコンを指差した。
「ほう、博士、あれだね。マスターDBからデータがダウンロードできる端末は」
その男は、博士を抱え、銃をかまえたまま、示されたパソコンに向かい大股で歩き始めた。
博士を締め付けている腕は万力のように微動だにせず、博士をそのまま引きずっていく。
俺は、頭から毛布を被り、その男からなるべく見えないようにしつつ、隙間から様子を伺っていた。
癇に障る口の利き方とその男の顔の傷跡には心当たりがある。
間違いない、あいつだ。
だが、なぜあいつがここに・・。
突然、今まで俺のベッドの影に隠れていたクリス博士が飛び出し、その乱入者に向かって叫んだ。
「だめよ、そのデータは。あなた達の手には負えないわ」
俺はとっさに身を起こして少女の腕をつかみ止めようとしたが、タッチの差で空振りに終わってしまった。それどころか、せっかく毛布で顔を隠していたのに、上半身がまるごとベッドの上に露出してしまい、その癪に障る乱入者に晒されてしまった。
しかし、乱入者は俺よりも先に少女に引っかかったようだ。
片目のレンズを光らせてクリス博士を見つめ、耳障りな笑いをさらに強めて言った。
「ほう、お嬢チャン、こんなところにこんな子供がいるなんて。さてさて・・」
ヤツの片目のレンズは特殊なセンサーとモニターになっていて、見たものを瞬時に分析できるようになっているはずだ。
「おおっと、これはこれは・・クリス博士か!」
作ったような笑みから、これが本来なのだろうという残忍な笑いに変わった男は、今までガッチリつかんでいたジェファーソン博士を、まるで遊び終わったおもちゃのように部屋の隅に放り投げ、俺たちに向かって近づいてきた。
ジェファーソン博士は、糸が切れたマリオネットのように床に叩きつけられ、動かなくなった。締め付けからは開放されたが、気絶したようだ。




