波乱の予感
この列車の運転手もなかなかなり手がいないという。
なるほど乗ってみて初めて判る。
一見単純で簡単な仕事に思えるが、結構きつい仕事だ。
まあ、俺の方はあと1日でこの空間からは開放されるはずだ。
心地よい列車の振動で、今日三回目の眠気に誘われた時、通信機の呼び出し音が鳴った。
俺は久しぶりの刺激に嬉々として装置のスイッチを入れた。
画面には若い女性の姿が映った。こんな時にむくつけき男の姿を見るよりよほど良い。
一服の清涼剤のようだ。
「ケンジ中尉、そちらはいかがですか」
本部連絡係のマリーだ。
最近彼氏と別れたらしいが、そんなことは微塵も感じさせない良い娘だ。
「やあ、マリー。こちらは順調だよ。本当に何もない。あるのは空と砂だけだ」
まだミッションは始まったばかりだ。こんな頃から予定外の何かがあったらたまらない。
「そうですか。では、こちらの状況をお知らせします。計画通り、明後日の12:00時にイスラン公国N市Cビルに対する空爆の予告宣言が出されます」
このイスラン公国は、我が祖国ユーリ連邦と戦争状態にある。
戦争といっても最近の戦争は、無闇と殺し合いをする形態はとっていない。
最終的な決戦や、重要な戦闘の場合は昔ながらの奇襲攻撃や大量破壊・流血を伴う攻撃を行う場合もある(めったにない)が、それ以外は、あらかじめ予告して行う。
つまり、いつ、どこに、何で攻撃するかを事前に相手に通告し、人間が逃げる時間を与えるのだ。
それにより、人命は奪わないで、建物や設備だけを破壊し敵国の国力を削ることができるという。
人命を最大限尊重した人道的な戦いだ等と国際間では評判が良いらしいが、所詮は戦争である。決してほめられるものではあるまい。
この予告は、今回の俺のミッションの基本に関わる重大な内容だ。
それでマリーはその攻撃予告の状況について教えてくれたのだ。
「判った。ということは、俺のミッションも予定通りということかな」
「はい、、えーっと、ちょっと待ってください。たった今一部変更連絡が入り・・・」
小さな無線機のモニターのマリーは、手元のコンソールを見ているらしい。
視線が下向きのまま、首をちょっとかしげ、にこっと微笑んでこちらを向いた。
「ミッションに一部変更が入りました。目的地までの移動手段の変更です。現在ご利用されている列車は約3分後に使用不能になります。その後のN市までの経路は、・・中尉のセルフリソリューションとなります」
「?せるふりそりゅーしょん?」
マリーは微笑をさらに強くして言った。
若干口角が引きつっているように見える。
「はい、自己解決ということです。その列車は、3分後にミサイルによる攻撃を受け、走行不能となります。その先、N市までの異動手段は中尉にお任せする、ということです」
「へっ?」
「では、連絡事項は以上です。作戦の成功をお祈りいたします」
マリーはいつもの決まり文句を言うとそそくさと勝手に通信を切断した。




