新しい左足
俺は、その直後意識を失ったのだろう。
次の記憶は一気に場面が変わり、清潔なベッドの上の病院着の自分だった。
そこは病室なのか、それとも何かの研究室なのか、白い壁のかなり広い部屋の一角で、ベッドの周りには様々な機器があり、それらから伸びた無数の線は俺の身体に繋がっている。
装置類は時々、それぞれ独自の電子音を発し、ランプが点滅している。どうやら俺の身体をモニターしているようだ。
人の気配がする。それも一人ではない、数人分を感じる。
頭を上げて周囲を見てみると、俺のベッド以外に様々な実験器具やPC等が配置され白衣を着た研究員が数人作業していた。
しばらくの間、記憶が混乱し自分がどこにいるのか、なぜそこにいるのか判らなかったが、俺の視界に映るように身を乗り出した少女の顔が見えた。
「気がついたようね。良かったわ」
氷の器が熱風で溶かされ、一気に中身が出るように、記憶が蘇ってきた。
クリス博士だ。
「ここは・・」
「Dビルの研究室の中よ。私のじゃないけど、医療設備は整っているわ」
その時俺は気がついた。
あれだけひどかった左足の痛みが全く消えている。
まさか切断されたのか。
確かに受けた傷の深さといい、受傷してからの経過時間といい、足をそっくり切ってもおかしくはない。そう思った俺は、首を上げ左足を見てみた。
毛布がかけてあるが、その布は足の形に盛り上がっている。
どうやら足はまだ付いているようだ。試しに少し動かしてみる。全く問題ない。意識的に動かすように毛布の形も動いている。
その動きを見たのか、クリス博士はニヤリと笑いながら言った。
「どう?新しい足は。全く違和感ないでしょ」
毛布をめくり足を直接見てみると、病院着の上着から出ている左足の部分は、腿の付け根あたりが白い包帯で巻いているが、痛みもなく動かせばちゃんと動く。
「新しい足?」
「そう、前の足はもう使い物にならなかったから、切って新しいのを付けといたのよ」
「???切って付けた?」
「ああ、まだ、一応古い足はとってあるけど見る?」
少女のクリス博士はそう言い、近くの看護師に目配せをすると、ブロンドの若い看護師は軽く頷きどこかに歩いていった。
「痛みはどう?多分全くないはずだけど」
クリス博士は、包帯の上から俺の左足をさすりながら聞いた。
不思議だった。
博士の言うとおりならば、この足は偽物で、人工物のはずである。
俺の自慢の義腕でさえ、皮膚の触感については、ある程度感じられるものの、繊細さにおいては生身には遠く及ばない。
しかし、この足は、包帯で巻かれている上からですら、博士がなでている感触が判別できる。ほとんど本物と変わらない。本当に義足なのだろうか。
「ああ、ありがとう。彼に見せてあげて」
いつの間にか、さっきのブロンドの看護師が透明なパックに入った足のようなものをワゴンに乗せて俺のベッドの傍まで来ていた。
「これですよ。あなたの前の足は」
そう言うと、俺の元足らしきものを、ベッドの俺から見やすいようにゆっくりと立ててくれた。かなり重そうだ。
生気が全くなく不気味な色に変色しているその物体は、よく見ると懐かしい傷跡があちこちに付いている紛れもない俺の足だった。
それぞれの傷跡には、それなりの思い出があるが、膝は見るも無残に破壊され、骨がはみ出ている。切断部分は太ももの付け根辺りらしく、まるでマネキン人形のパーツのようだ。
今まで自分のすぐ近くでしか見たことがない物体が、身体から離れたところに見えることにはものすごい違和感を感じたが、改めて包帯巻きの新しい足を見ると本当にちゃんと動くのかという現実的な不安がよぎり、ついさっきまで感じていた変な違和感を吹き飛ばした。
「あなたの足はかなり深手を負っていて、しかも治療するまで時間がかかったせいで、壊死しかけていたの。もう切断するしかなかったのよ」
ブロンドの看護師がそこまで説明すると、元俺の脚を再びワゴンに乗せて持って行った。




