再び戦場へ
痛みに耐えながら、早速少女に質問を浴びせかけた。
「君は・・その・・なぜ博士と呼ばれているんだ?・・君がクリス博士なのか?」
少女は俺の脚の具合と、顔色を眺めながら言った。
「どうやら、加速剤の副作用も抜けてきたみたいね。・・そうよ。私がクリスよ」
思っていた通りの答えだったが、更なる疑問がわいてくる。
「しかし、クリス博士は42歳のはず。それにNビルで、君に撃たれて死んだんじゃないのか。おかげで俺も危うく死ぬところだった」
少女はその言葉を聴いてふふっと笑い、あどけない笑顔を見せたが、その眼は不気味な深暗の輝きを放っていた。
「よくできてたでしょ。あのアバターは・・。本人の私でさえ時々どっちが本物か判んなくなっちゃう時があったんだから。それに、ごめんなさいね。ちょうどあなたがアレの影にいたのよね。まさか銃弾が貫通するとは思わなかったわ」
「?アバター?そんなばかな。体温もあったし血も流してた。あれが人間じゃないなんて信じられない!」
「そうでしょ。あれは、半有機型アンドロイドと言って、ノスリルの生命工学の最先端技術なのよ。かなりお高いのよね。あの時、あの場を切り抜けるため、咄嗟に撃っちゃったけど、もったいないことをしたかな~」
「半有機アンドロイド・・」
「そう、私はイスランでアレも研究開発をさせられていたのよ。プロトタイプの開発までは辿りついていたんだけど・・今回の空爆でまた逆戻りね」
「もうひとつ・・・君の・・その姿は一体・・」
俺は、話しながら足の傷の痛みが増していることを感じていた。
「ああ、これね。私の本業は生命科学、特にアンチエイジング分野なのよ。その成果ってとこ」
「アンチエイジング・・・・若返り・・か」
「そう、自分を実験台に試してるんだけど、ちょっとやりすぎちゃったのよねぇ、まあそのうち元に戻るよう調整しなくちゃ」
「・・・・」
そんな簡単に若返ることができるのか、いや、目の前にいる女の子は本当の天才なのだという思いにグウの音も出なくなった。確かにノスリルが他国に支援を求めてでも奪還したい人物だ。
その時、道路に障害物があったのか、ちょっと大きな衝撃が車に伝わってきた。そのショックで、助手席に置いてあった銀色のトランクが大きくバウンドした。
そうだった。頼まれ物があったことを思い出した。
「そうだ、クリス博士。Cビルで、ノスリルのエージェントらしい男からあのトランクを預かった。博士に渡して欲しいと言われたんだが・・」
少女は、なにか思い当たる節があるのか、一瞬顔色を変えて助手席に身を乗り出しトランクを引き寄せた。
席に座りなおし膝の上にトランクを置いた博士は、下あごに右手を添えたまましばらく考え込んだ後、トランクの上面に手を置いた。
ピッという短い電子音が聞こえると、トランクの横から細い走査線が照射され、博士の顔をスキャンし始めた。額から顎まで照らし終わると、再び小さな電子音とともにトランクのロックがはずれ、蓋があいた。
中には小型のパソコンが入っているらしい。
少女は、そのパソコンのキーボードに何かを打ち込んで、モニターを凝視している。
と、突然きついまなざしに豹変し、大声をあげた。
「ジェイ!戻るわよ!N市のDビルに行って頂戴!」
「えっ、な、なに?・・なんですか?」
突然大声で呼ばれたMr.Jは、訳もわからずとりあえずブレーキをかけた。
砂漠の一本道を爆走していた高級車は砂埃を巻き上げて、タイヤの溶ける臭いとともに急停車した。
急激な制動の動きの車内でも、少女は何かに取り付かれたかのように、蓋の開いたトランクの中身を凝視しながら呟いた。
「これは、ジェファーソン博士のデータね。やっぱりここで間違えている。でも、まさか、ここまで進んでいるとは思わなかったわ。このままじゃ大変なことになる。なんとしてもやめさせないと・・・」
少女の声があまりに小さく、ジェイには聞き取れなかったのか、それとも突然の予定変更の理由が判らずとまどったのか、ジェイは改めて聞きなおした。
「博士、戻るってどういうことですか。本当にイスランに戻るんですか?」
少女は顔を上げてきっぱりと言い切った。
「そうよ。たしか、ジェファーソン博士はDビルに避難したはず。ということは、これの基データも、Dビルに移設されてる。私が作ったCビルのデータや機材は爆撃でなくなったけど、ジェファーソン博士も進めていたとは知らなかったわ。こっちも破壊しないと・・しかもこの理論には大きな間違いがあるの。これが実行されるととんでもないことになるわ」
少女の強い口調を確認したジェイは、あきらめたように前に向き直し、アクセルを踏み込んだ。
三人を乗せた高級オフロード自動車は、たった今来た道を同じように猛スピードで逆戻りし始めた。




