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獣人と加速剤

 数秒なのか数分なのか時間感覚が麻痺した膠着状態が続いた。が、突然、相手が動いた。


 速い!


 まさに目にも止まらぬとはこのことだ。瞬間移動のようなスピードで突然目の前に現れ、爪の生えた手で強烈なパンチを繰り出してきた。

 戦闘モードの右腕は、反射速度が通常の4倍に設定されている。瞬間的に上げた手の甲で辛うじて受けたが、その力を吸収仕切れず身体ごと後ろに吹き飛ばされた。


 さっき目の前に飛んできたMr.Bもこんな感じで吹っ飛ばされたのだろう。

 俺の場合は軽く3m位は飛んだろうか。近くの廃屋の壁にぶつかりそうになったが、なんとか受け身をとり衝突を免れた。

 しかし、スピード・パワーの差は歴然だ。右腕のパワーだけでは太刀打ちできそうもない。


 俺は、一旦怪物の反対方向にダッシュし、廃屋の中に飛び込んだ。

 石造りの建物だったその廃屋の中は、屋根が落ち砂だらけになっているが、壁は結構厚い。

 少しはガードになりそうだ。


 俺は、腰に付けてあるポーチの中から、一本の赤いチューブを取り出した。

 「この際、仕方ないな・・」

 思わずつぶやきながら、チューブの先端を左肩あたり当て、反対側のボタンを押した。

 シュッという音とともに左肩に冷たい感覚が広がる。

 一瞬くらっとめまいがした。この薬を使うといつもそうだ。


 めまいの後、すぐに気分が高揚し始めた。

 それと同時に、周りの動きが全て遅くなってきた。正確には遅くなったように見えてきたのだ。

 左肩にあてた赤いチューブは使い捨て型注射器で、注入した薬は”加速剤”だ。


 ”加速剤”とは、人間の感覚の感度を飛躍的にアップさせる薬だ。

 五感が異様に研ぎすまされ、早い動きにも対応できるようになる。逆に回りの通常の動きは異様にゆっくりに感じてくる。


 だが、はっきり言って一般的には違法なヤバい薬だ。

 本来の人間の限界を超える能力を発揮させるのだから、神経がもたないのだ。10分間使っただけで発狂した例もあるらしい。


 俺が打った薬は一応そのあたりも計算し調合されていて、3分で効果が切れるようになっている。それでも、副作用として、効果が切れた後30分位は全身の感覚が鈍くなり、立っていられないほどになってしまう。

 ミッションの最中に戦闘不能になってしまうことは極力避けたい事態なのだが、あの獣人には、そのリスクを覚悟しないと勝てる気がしない。


 ”加速剤”の効きが強くなり、周りの空気の感触がゼリーのようにねっとりとした感じになってきた。

 感覚は敏感になったが身体能力が変わった訳ではない。

 肉体の動きが超鋭敏になった感覚についてこれないため、身体の動きの重さがまるで空気が粘性を持ったように感じさせるのだ。

 普通の感覚で動かせるのは、4倍の反射速度を持った右腕だけだ。


 俺は廃墟の入り口から、外の気配を探った。”加速剤”を使うと、第六感まで鋭くなる。見えない敵まで判るようになる。


 獣人は、まだ前の場所にいるようだ。

 俺は、頃合いを見計らって建物から外にでた。


 獣人は黄色い目で俺に気づき、うぅとうなり声を上げいきなり行動にでた。

 だが、今度は、見える。

 加速剤のおかげで、相手の動きが手に取るように判る。


 獣人は、前と同じように俺の目の前に突然出現するように動いたつもりらしいが、同じ手は効かない。

 俺は、獣人が目の前に出現する直前に、4倍速の右腕で獣人の胸ぐらの毛皮をつかみ、獣人の勢いをそのまま利用して斜め後ろに放り投げた。


 多分、獣人はなにが起きたか判らなかっただろう。

 通常の人間には目で追えない程のスピードに乗ったまま、さらに戦闘モードの右腕のパワーを上乗せされて飛ばされた獣人は、俺がさっきまでいた廃屋の隣の小屋の壁に激突した。

 俺が逃げ込んだ建物と違い、若干薄めの石壁のその廃屋は、獣人の衝突でさらにばらばらに砕け散り、もうもうとした砂埃の中で単なるがれきの山と化した。


 俺は、右手の手のひらに残った獣人の毛を、ふっと吹き飛ばした。ちょっと黄色がかったまぎれもないヒョウの毛だ。


 砂埃はあっという間に、砂漠の風で飛ばされ、後には石の山が残っている。

 動き的には完璧だったが、鋭敏になった俺の第六感はアラームを消さない。確かに手ごたえが薄かったような気もする。

 後ろを見ると、がれきの山の一部が崩れはじめ、中からのっそりと這いだしてくる獣人の姿があった。

「やっぱりか。人間とは違うか」

 俺は、足首の横に収納されているサバイバルナイフを取り出すと身構えた。


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