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死者からの依頼

 空爆が始まるまでもう二時間を切った。ユーリ軍のピンポイント攻撃は、世界一の精度を誇るが、やはり30分位前にはビルから退去したい。


 俺は、怪しまれないよう手近にある空き箱を持ち、いかにも重い荷物を持ったように演技をしながら、廊下に出て非常階段を登った。まだ意外と人通りが多い。


 1階近くまで登った時だった。

 階段ホールに銃声と悲鳴が響いた。

 恐る恐るフロアを覗いてみると、銃撃戦が繰り広げられている。撃ち合っているのはイスラン兵の格好をした者同士だ。


 どうやら、空爆のドサクサ紛れに何かしようとしているのは、俺たちだけじゃないらしい。


 直接俺が絡んでいない戦闘だから、完全に第三者を決め込んで、物陰に隠れ頭を低くして見物していると、目の前に撃たれた男が転がってきた。

 すでに数発食らっている。致命傷だ。手の施しようが無い。


 思わず視線が合ってしまった。 

 その男は、手に持った銀色のトランクケースを俺に渡し、末期の願いを言った。

 「こ、これをクリス博士に・・」

 男はイスラン兵の格好をしているが、ノスリル語で俺に頼んだ後、事切れた。

 ノスリルのエージェントは、俺たち以外にもこのビルに潜入していて、別の作戦を実行中だったらしい。

 撃ち合いはもうほぼ終わっていて、ノスリル側であろう他の数人は、この男を置いて、命からがらCビルから脱出していった。


 俺は、本物のイスラン兵に気付かれないように、受け取ったトランクを、持っていた空のダンボールの中に入れた。

 やっかいな依頼をうけたものだ。ここでまたクリス博士の名前が出てくるとは思わなかった。


 最期の願いとなれば聴いてやりたいが、クリス博士はもう死んでいる。

 死体にこのトランクを渡すわけにもいかない。頼んだのはノスリルの人間のようだから、やはり、Mr.J達を追跡しあの少女の謎を解くしかないようだ。


 銃撃戦が止んで、また物運びの人達が動き始めた。俺は、その人達に紛れ、白衣のまま段ボール箱を持って外にでた。

 とりあえず、乗ってきた運送会社マーク付きのトラックの場所に行ったが、やはり既に走り去った後だった。


 予定では、Mr.J達は、海岸に向かったはずだ。ここから海岸までは、車で一日かかる距離がある。


 俺は駐車場に止めてある他の車をチェックした。

 ほとんどの車が、緊急時のためかキーがついたまま駐車してあった。燃料が満タンで一番タフでスピードが出そうな車を物色し、Cビルの敷地から脱出した。


 とりあえず、空爆の恐怖からは逃れられた。時間までは絶対大丈夫なのは判っているが、引き金に指をかけた銃で真上から狙われているような場所は、なんとなく気持ち悪いものだ。


 拝借した車は、最新型のクルーザーで荒地の走破性も高い。

 これであれば、Mr.B達の運送会社マーク入りトラックに追いつけるかもしれない。

 あのトラックは、見かけは普通の市販車だが、イスランの砂漠用にエンジンや足回りがチューンナップされている。

 普通の車ではとても太刀打ちできないが、地下資源で裕福なイスランには高級車がごろごろしている。この車ならばなんとかなるだろう。


 空爆まで約1時間。

 Cビルの周りやN市中は、蜂の巣をつついたように混乱し軍も出ていたが、特に検問も無く、混乱に乗じて街を出ることができた。

 海岸に向かう街道に乗ると、あとは1本道だ。近道は無い。

 すでに1時間近くの差がついているのを挽回するのは、いくら高級車とはいえ至難の業だが、やるしかない。


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