プロローグ
タターン・タターン・・・
座り心地の悪いパイプ椅子から、鉄道特有のリズミカルな心地よい振動が伝わってくる。
催眠術のように強烈に夢の世界へといざなう、眠気を誘う揺れだ。
だが、俺はここ数日寝てばかりいるので、とりあえず今は睡魔は襲ってこない。
しかし、俺のいる空間は寝る以外ほとんど何もできないほど狭い。そのうちまたすぐに眠くなってしまうだろう。
この狭い空間に閉じ込められて、もうニ日になる。
同じ姿勢を長時間続けていると運動不足どころかエコノミー症候群で命に関わることにもなってしまう。
この狭い空間の隙間を最大限に使い、軟体動物のタコのように器用に全身の筋肉や関節を伸ばして血行を促しておこう。
それにしても、鉄道での移動は久しぶりだ。
俺が乗っている列車は、はるか地平線まで続く砂漠の真ん中を走っている。
周りには砂とスコーンと能天気に晴れ渡った青空以外何もない。多分、この列車を中心に半径100キロ圏内には、生きているものは俺と列車の運転手2人しかいないはずだ。
俺が乗っているこの列車は「ウルトラトレイン」と呼ばれる貨物専用列車で、車両が約100両程繋がっていて全長は3キロメートルにも及ぶ。
一度に大量の物資が運搬できるので、ここイスラン公国の物流の一翼を担っている重要な交通手段となっている。
だが、乗車人員は運転手しかいない。
本当のところ、2158年の現在の技術では遠隔操作によるフルオート運転で無人化は簡単なのだが、非常時用として最低限の人数だけ乗せているらしい。
まあ、実際の運行は遠隔制御で機械が勝手にやっているのだから、運転手は何もしなくてもいい。こんな砂漠の中で、貨物列車に何か起きるわけもなく、時折計器類をチェックしたり、運行時間を確認したりするぐらいでほとんど運転席でのんびりくつろいでいるだけだ。
もっとも、そのおかげで積荷に対する監視が甘くなり、俺のような密入国者が意外と簡単に紛れ込むことができる。
ただし、貨車なのでエアコンも何もない。
砂漠の真ん中では室内温度が100度を超える。サウナ並みだ。
過去には、何の準備もなしで乗り込んで、干物になったヤツもいた。
そんな訳でこの列車を使って密入国するにはそれなりの準備が必要なことから、スパイ業界では意外と利用されることが少ない一種の盲点になっている。
今俺がいるのは、長い列車の真ん中辺りのコンテナの中のさらに小さなカプセルの中だ。
人間が一人寝起きできる位の大きさではあるが、この列車専用に作られたもので、空調、食料はもちろん、ベッドに簡易トイレ、外部モニターに通信機まで装備されている。
列車旅行をするには全く問題は無いが、いかんせん狭い。
しかも今日で乗り込んでから3日目。
列車に乗っている間は何もすることがなく、眠くなっては眠り、腹が減ったら食べる、という怠惰な生活パターンにはまっている。
普通の客車のように歩き回るわけにも行かず、外部モニターを見てもアイボリー色の砂と宇宙まで突き抜けたような青い空の2色の世界しか映らない。本当にここは地球上なのかという疑問まで沸いてくる始末だ。
飽きを通り越して苦痛になってきた。身体も鈍ってきている。長期入院患者の気持ちがよく判る。




