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第九話:偶然のツッコミから始まった夜

二人は顔を見合わせて笑った。

舞台での呼吸とは違う、素の笑いだった。

結果発表の時間が近づくにつれ、控え室の空気は少しずつ重くなっていった。

誰もが声を潜め、スマホを見るふりをしながら、耳だけを会場の奥に向けている。

瑛太は壁にもたれ、腕を組んだ。

平静を装っているが、胸の奥は落ち着かなかった。

星羅は隣で、膝の上に置いた手をぎゅっと握っている。

舞台の上より、今の沈黙のほうが緊張するらしい。

「……終わったらさ」

星羅が小さく言った。

「落ちてても、飲みに行っていい?」

瑛太は横目で彼女を見る。

「縁起でもないこと言うな。

それに、どう転んでも飲むやろ」

星羅は、少しだけ笑った。

そのとき、会場にアナウンスが流れる。

特別賞の発表。

一組、二組と名前が呼ばれ、拍手が起こる。

そのたびに、星羅の肩がわずかに揺れた。

そして——

「特別賞。

三谷瑛太さん、相原星羅さん」

結果発表の瞬間、二人の名前が呼ばれたとき、胸の奥に高揚感が込み上げてきた。

一拍遅れて、星羅が瑛太を見る。

目を見開いたまま、言葉が出てこない。

「……今、呼ばれた?」

「呼ばれたな」

「……私たち?」

「他におらんやろ」

次の瞬間、星羅が小さく跳ねた。

「やった……!」

声にならない歓声。

瑛太も、思わず息を吐く。

「ほらな。拾った甲斐あったやろ」

「それ言うなら、私も必死で投げました!」

二人は顔を見合わせて笑った。

舞台での呼吸とは違う、素の笑いだった。

——夜。

いつもの居酒屋。

暖簾をくぐると、見慣れたカウンターと、変わらない賑やかさが迎えてくる。

「生、二つで!」

星羅の声は、もう震えていなかった。

グラスが置かれ、泡が落ち着くのを待たずに、二人は軽く合わせる。

「お疲れさま」

「……お疲れ」

一口飲んで、星羅がふうっと息を吐く。

「ねえ、私さ……

最初、三谷さんにツッコまれたとき、正直びっくりした」

「やろな。俺も、勝手に口出た」

「でもね、不思議だった。

止められた、って感じじゃなくて……続きを渡された感じがした」

瑛太は黙って聞いている。

「偶然のツッコミから始まった出会いだけど、

今日の舞台は、偶然じゃなかったと思う」

しばらくして、瑛太が言う。

「……せやな。

少なくとも、拾う気は最初からあった」

星羅は照れたように笑い、グラスを持ち上げた。

「じゃあ、これからも拾ってください」

「ツッコミは、投げてくる奴がおらんと成立せえへん」

二人は、もう一度グラスを合わせた。

特別賞という名前の、ささやかな結果。

けれどそれは、二人にとって確かな始まりだった。

居酒屋の喧騒の中で、

まだ名前のないコンビの夜は、静かに深まっていく。


読んでいただきありがとうございます。

猫田笑吉(=^・^=)

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