第十話:居酒屋から始まる、次の一歩
運命の歯車がかみ合った時
2人の人生は回りだす
居酒屋「魚神」は、いつも通り賑やかだった。
週末の夜らしいざわめきと、焼き物の香ばしい匂いが混ざり合っている。
瑛太と星羅は、並んでカウンターに座った。少し肩が触れる距離。
「特別賞かあ……」
星羅がグラスを回しながら言う。
「正直、通るか落ちるか、どっちかやと思ってました」
「俺もや。中途半端が一番イヤやったけどな」
「でも……中途半端じゃなかったですね」
瑛太は、ちょっと照れくさそうに笑った。
「ちゃんと、見てくれてる人はおったってことやな」
二人はしばらく、黙ってグラスを傾ける。沈黙は、変に重くはなかった。
カウンターの向こうで、大将がちらっとこちらを見る。
「今日、なんかええことあったんか?」
瑛太が答えるより先に、星羅が言った。
「オーディションで、賞もらいました!」
「ほう!」
大将は目を細めて、小鉢を追加で置く。
「じゃあ、今日は祝い酒やな。サービスしとくわ」
「ありがとうございます!」
星羅は嬉しそうに頭を下げた。
「……こういうの、久しぶりです」
「何が?」
「結果が出て、誰かと一緒に喜ぶの」
瑛太はグラスを置き、少し肩をすくめる。
「一人でやる仕事や思われがちやけどな。笑いは、相手おらんと成立せえへんねん」
「ですね」
星羅は、少し間を置いてから言った。
「もし……もしですよ? また、即興の舞台があったら。そのときも、一緒に出てもらえますか?」
瑛太はすぐに答えず、料理に箸を伸ばす。
「条件がある」
「条件?」
「俺は、ツッコミしかできへん。それでもええなら」
星羅はすぐに笑った。
「それがいいんです」
「変わってんな」
「三谷さんも、十分変わってます」
二人は、顔を見合わせて笑った。
そのとき、瑛太のスマホが震えた。
画面を見ると、知らない番号。少し迷ってから、通話に出る。
「はい、三谷です」
短い沈黙。瑛太の眉が、少しだけ寄る。
「……はい。ええ、今日の舞台ですか。ありがとうございます」
通話が終わると、星羅が身を乗り出す。
「……もしかして?」
「まだ話だけやけどな」
瑛太は照れくさそうに笑う。
「次、ペア前提の舞台、考えてるらしい」
星羅は一瞬言葉を失い、それから深く息を吸った。
「……偶然、じゃなくなりますね」
「せやな」
グラスの中の氷が、静かに溶けていく。
居酒屋の灯りの下で、二人の距離は、いつの間にか自然なものになっていた。
まだ名前のないコンビ。
けれど、その一歩は、確かに前へ進んでいた。
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