「ヘボ探偵確定と推理の成果」
「だから、
俺がいくらそっくりでも、
自分のナイフと他人のを間違えるのはおかしいって言ったのに、
くそたもホウセイも聞き入れなかったんじゃないか」
と、
木太郎が、
くそたとホウセイの方を睨むと、
「わりい、俺もヘボ探偵だ」
くそたが素直に頭を下げ、
「俺もだ」
ホウセイも頭を下げる。
「3人も揃って、
今まで何やってたのよ!
あたしは疑われていて、
ここにいるのが息苦しかったのよ」
と、
アスカがうっぷんを晴らすように、
思わず大声を出す。
「面目ない」
木太郎が3人もと言われたので、
すぐ頭を下げる。
「くそたが来て、
ややこしくなったんだよ」
ホウセイがそんな言い訳をしたので、
くそたが、
その言葉を聞いて、
「てめえ!
もとはと言えば、
二人がヘボ探偵だからこうなったんだろう」
と、
怒鳴ると、
「おい、揉めてどうするんだよ!
で、何かひとつくらい成果はなかったのかよ」
疑われていた永久が苦笑いしながら言うと、
「ホウセイが言い訳して一番反省していないから、
簡潔に話せよな」
「そうだ。
くそたの言うとおりだ」
くそたと木太郎が揃って言ったので、
「わかったよ。
なるべく、
自分なりに自信のあることだけ、
今からみんなに話すよ。
木太郎、
くそた、
間違っていたら言ってくれ」
ホウセイはみなの視線を浴びながら、
そう切りだしてから、
話し始めた。
「えー、
では、なるべく簡潔に。
まず、
2本の本物のナイフは、
もともと、
この屋敷のキッチンにあったもので、
もとこのものでも、
もとめ先生のものではなかったのは、
間違いありません」
「何故わかったんだ?」
永久が訊くと、
「理由は後にしよう。
ややこしくなるから」
木太郎が言うと、
他の生徒が頷いたので、
永久も、
「わかった」
とそれだけ言った。
「次に、
一番の成果だと思うのですが、
すり替えられたのは、
もとめ先生が所持していた本物のナイフと、
さっきの話しから、
あー、
ここはややこしいのですが、
チウメちゃんの部屋にあったアスカちゃんのナイフだった、
ということです」
「どうして、
あたしのナイフがチウメの部屋にあったのよ」
アスカが思わず声を出すと、
「結論的にそうなるので、
質問は最後にお願いします」
ホウセイが下手に出ると、
「そうね。
あくまでも3人の考えた推理だからね」
と、
アスカは少しイヤミったらしく言って、
引き下がった。
「それから、
これもひとつの成果なのですが、
もとめ先生が自殺に使用したのは、
ニセモノのナイフで、
これもアスカちゃんのナイフだと思われます」
「何で、
ニセモノで自殺できるんだよ」
「永久、質問は後にしろ。
これは絶対間違いないから」
と、
永久がバカにしたように言ったところを、
くそたが断言したので、
永久は黙って頷いた。
「それから、
ナイフのすり替え犯は、
もとめ先生がキッチンにあった本物のナイフを持ち出して
所持していたことを知っていて、
かつ、
チウメちゃんの部屋にニセモノのナイフが置いてあったこと
を知っていて、
かつ、
もとめ先生がキッチンから持ち出したナイフと、
アスカちゃんとチウメちゃんのナイフがそっくりなことを知っていて、
かつ、
もとこの計画を知っていて、
かつ、
俺たちもとこ殺人否定派が、
もとこを殺した芝居を考える、
と予想しいていた人物です。
これもほぼ間違いありません」
この話しをしたとき、
木太郎とくそたを除く、
それまでホウセイのことを半分バカにしていた感じで聞いていた
他の生徒の表情が変わり、
急に、
それぞれ何か考えるようなしぐさを始めたのだった。
「えー、
それから、
くそたの部屋にあった本物のナイフは、
もとめ先生が自殺した後に、
くそたの部屋に置かれたと考えられます。
そして、
ここへ戻ってわかったことですが、
何故か、
アスカちゃんのナイフと、
チウメちゃんのナイフもすり替えられていたのです。
で、
ナイフのすり替えの順序は、
まず、
アスカちゃんのナイフと、
チウメちゃんのナイフを交換し、
その後、
もとめ先生のナイフとチウメちゃんの部屋にあったアスカちゃんのナイフが
すり替えられたのです。
で、
最後になりますが、
もとこの部屋にあったニセモノのチウメちゃんのナイフは、
アスカちゃんがもとこの部屋でベッドを移動させたときに、
落としたものだと思います。
以上のことはほぼ間違いない、
と思います」
このように、
ホウセイが木太郎やくそたとこれまで検討してきた結果を、
やけに丁寧な言葉を使って話し終えると、
誰も質問しようとはせず、
不気味な沈黙が流れたのだった。