戦う躰をしていない
「ねえ、ミドル。気のせいかしらないけど、作品タイトルが変わってない?」
ウィルはタイトなジーンズに鍛え上げたボディをねじ込んでいる。
「作者の事情だろうね。ま、ヘルメシヤなんて題が付いてた時点で、あの作品とは関わりがあるとは思ってたけど」
ロケーションもほぼ同じである。
「え、じゃあメシヤ先輩も出て来るのか?」
ススムは嬉しそうだ。三重野ワイワイワールドだと収拾が付かなくなる。
「俺らのエピソードの時はちょい役だよ、きっと」
目立ちたがり屋のミドルが釘を刺す。
「あら、キョーコは?」
話に入ってこないと思ったら、ロードワークに出掛けたようである。
「へへ。くまいちゃん、ちょっと体重が増えてきたのを気にしてたからな」
失礼な物言いである。
「戦う躰を作ってくるわ、って言ってたよ」
師匠は立浪だったか。
「ほっほっ」
足をあまりあげず、ロスの無いからだ運び。大きく派手なピッチでは疲労も速く、持続力が無い。障害物をぎりぎりで避けるのもイメージトレーニングの内だ。
朝食を摂ってからでは胃に負担がかかりすぎる。北伊勢市内を一周することくらい、キョーコには朝飯前だ。
前方から一人の少年の姿が見えた。なんなく避けようとしたキョーコだったが・・・
「いったあ!」
少年も避けようとしたためか、通せんぼの格好になり、頭をしこたまぶつけた。
(わたしがこんなヘマするなんて!)
「大丈夫?」
向こうも痛そうである。キョーコより年上だろう。手を差し伸べてくれた。
「どうぞ、おかまいなく」
ちなみに、食パンはくわえていなかった。
キョーコは遠慮したのだが、先に少年の手が彼女を支え起こす形になった。
暴漢も逃げ出すキョーコだが、一瞬寒気が走った。
(出来る・・・!)
柔道では、組み合った瞬間に相手の強さが分かると言う。あのキョーコが、この少年には勝てないと悟った。
「あの、あなた一体・・・」
「メシヤ~、どうしたのよ~?」
遅れて来た赤い彗星に、さらに身の縮まるキョーコ。
発声には、間違いなくその人物の戦闘能力があらわれる。
(なんなのよこの街! 化け物だらけじゃないの・・・)




