【閑話】 妖刀・鬼丸国綱
前回のあらすじ書いておきます
過去にタイムスリップしてしまったゲンヨウは、そこで当時の友人である早太郎と出会う。彼の家でかつての思い出を噛み締めながら眠りにつくが、その晩集落に敵襲が来て集落は火の海になってしまう。そしてこの夜襲は、当時早太郎が死んでしまった原因であった。ゲンヨウを守ろうと早太郎は当時のように時間稼ぎをしようとするが、ゲンヨウはそれを止め、早太郎を逃がし一人で無数の軍勢に立ち向かった。妖術の影響もあり最初は思いのほか戦えているように見えたが、途中でゲンヨウの攻撃は何者かに受け止められてしまう。それは紛れもなく、生前の平将門その人であった。将門はすべてを知っていた。ゲンヨウが妖怪であること、そしてその名が『ぬらりひょん』であることを。将門はゲンヨウを斬り付けようとするが、すんでのところで早太郎が割り込み、ゲンヨウを庇った。早太郎は知っていた。ゲンヨウが自らの友であることも、未来から来たということも。徐々に冷たくなっていく早太郎を地面に寝かせ、ゲンヨウは将門と激しい戦闘を繰り広げる。しかしあと一歩力が及ばず、ゲンヨウは腹部を刺されてしまうが、ゲンヨウは最後の力を振り絞り将門の大太刀を半分にへし折った。これにより将門は退いていったが、ゲンヨウも限界が近づいていた。もうだめかと諦めていたが、目を覚ますとそこは過去に来る前にいた封天寺の廊下であった。手にはしっかりと将門の大太刀の一部が握られている。どうやら一緒に過去に来ていた雲外鏡がぎりぎりで回復妖術をかけてくれたらしい。何はともあれ、ゲンヨウが過去に行ったこと、そして早太郎の死は無駄にはならなかった。早太郎の無念を噛み締めつつゲンヨウは改めて将門を倒すことを誓うのだった。
「…ゲンヨウさーん、起きてくださーい」
とある休日の朝、私は覚の気力のない呼びかけで目を覚ました。うまく開けられない目をこすりながら重い体をゆっくりと起こすと、私の寝床の周りには覚以外にも寺に住んでいる妖魔全員が布団に入った私を囲うようにして集まっていた。
「…どうしたんだ?こんな朝早くから集まって…」
「おはようございます、ゲンヨウさん。えっと、こんなに妖魔が集まっていることは気にしないでください…それよりも重要なことがあるんです」
そう言って覚は大きな木箱と共に一枚の紙を取り出した。
「なんだ?それ」
「この木箱に入っているのは、先日ゲンヨウさんが過去の世界から持ち帰った将門の太刀の一部です。何かに使えないかと思って津多さんに相談してみたら、知り合いの霊媒師さんに解析を依頼してくださるとのことでした。それで、その霊媒師さんいわく、この刀は強い怨念が籠っていて、その怨念は周囲のありとあらゆる別の怨念を引き寄せるという性質があるのだそうで」
「なるほど…それはわかったが、その紙は?」
「それを今から説明しようと思ってたんです。この紙は地図です。私はこの刀の一部を利用して、新しい刀を鍛造できないかと思っていたんですが、霊媒師さんによると、この刀の怨念は強すぎるが故に、様々な災いをもたらす可能性があるそうなんです。そこで、この刀の怨念を最適化するためにもう一本強い怨念の籠った妖刀を用意する必要があるとのことでして…いわゆる毒を以て毒を制すというやつですね。怨念に怨念をぶつけると互いに削り合ってなんかいい感じに中和されるんだとか」
覚は頭をかきながらしどろもどろに説明する。覚自身よく理解できてないといった様子だ。私はひとまずその地図を受け取り、じっくりと見てみたが、何度見ても大雑把な位置しか書いていないようだった。
「かなり大雑把だな…どうするんだよ、これ…」
「なのでこの折れた刀を持って行ってください。これがあれば自然と引き寄せられるはずですから」
「なるほどな…なら早速行くとしようか…」
「はい。では私も一緒に…」
「あ、いや…待ってくれ」
そう言って荷物をまとめようとする覚を私は引き留めた。
「今日は…私一人で向かおうと思っているんだ」
「えっ!?どうしてですか?…案内とか…」
「今回は本当に危険な任務だ。将門の怨念に一度触れている私は大丈夫だろうが、お前は何があるか分からない。他のみんなもそうだ。…だから、その妖刀は、俺一人で取りに行く」
「そんな…でも、危険なのは怨念だけとは限らないんですよ?ゲンヨウさんに万が一のことがあったら…私たちは…!」
「覚」
詰め寄ってくる覚の目を私はじっと見つめ、慣れない笑顔で不格好にも微笑みかけた。
「…私を信じてくれ。私は妖魔最強の妖怪だ」
「…!…本当に、行ってしまうのですか…?」
「任せろって。…じゃあ、行ってくる」
そうして私は雲外鏡を通って地図に書かれた場所へとワープした。覚は不服そうな表情で私を見送った後、そっと後ろを振り返るとぼそっと呟いた。
「…私、悟ってましたよ…はぁ…ゲンヨウさん、ほんとは結構怖がってるじゃないですか…本当にしょうがない人です…」
雲外鏡を潜り抜けた先は深い山の奥だった。目の前には小さな洞窟がある。見た感じ人の手が付けられていないもののようだが、奥から確かに妖力が流れてきている。
「行ってみるか…」
私は意を決して洞窟へと足を踏み入れた。するとそこは思った通り全く人の痕跡がなく、ごつごつとした岩が剣山のようにぎっしりと敷き詰められている。それはまるで私が奥へ行くのを阻止するかのようだ。私はそれらをなんとかかいくぐり、さらに奥へと突き進んでいった。
しばらく進むと、急に平坦な地形が目の前に現れた。だがあまりにも不自然なのだ。まるでもともとここにあった何かを無理やり吹き飛ばしたかのような空間が広がっている。…しかし依然として人の痕跡はない…私は気味悪さを感じつつも近くを探索してみると、すぐ近くに古い机と本のようなものがひっそりと置いてあった。ということはかつて誰かがこの場所だけを切り開き、ここで何かをしていたのだろうか。
「…古い本だ…いや、日記か?何が書いてあるんだ…?…延徳二年三月十二日、葛木定右衛門…鬼丸国綱ここに封ず…これは…妖刀の記録…?もっと読んでみよう…明応四年五月十七日、賊の略奪を案じ、偽物を作成…それを藩主に献上…か。次は…明応九年三月八日、ここに暮らし始めてはや十三年、最初は気味の悪かった悪夢にも慣れてきた。すると今度は現実に鬼が現れた…この手記を書いているときにも私の背後には鬼がいる。これが最後に…」
日記はここで途切れている。最後の方は読むのも大変なくらいに歪んだ字で書かれている。本当に死の間際に書いていたものなのだろう…私は日記をたたみ、さらに奥へと進もうとすると、突然私の背後に淡い光が現れた。
「…!人魂…!?」
しかし背後にいたのはそのようなオカルトチックなものではなく、見覚えのある半妖の男であった。
「ゲンヨウ、お前…こんなところで何してるんだ…懐中電灯はおろか松明も焚かずに…」
「天野クラマ…!なんだお前か…本当にどこにでも現れるな…俺は暗視の妖術があるから、明かりはいらないんだ」
「…そうか」
天野クラマは不愛想に返事をする。
「それより、今度は何を企んでるんだ?もしかしてお前も妖刀を…?」
「あ?妖刀?なんだそれ…俺はただ葛木殿の遺品を整理しに来ただけだが…」
「葛木…って、この日記を書いた人じゃ…」
そう言って私は天野クラマにさっきまで読んでいた日記を見せる。
「なんだと!?貸せ!」
天野クラマは私から強引に日記を奪い取ると、食らいつくように隅から隅まで読み始めた。
「…なるほどな…ほぼ毎日記録が取られている…妖刀、鬼丸国綱…葛木殿はここでこのようなことを…」
「…なあ…そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?お前とその葛木ってやつは、どういう関係なんだよ」
「…簡単に言えば、葛木殿は俺の先祖みたいなものだ。遠い昔に葛木殿とその息子がかわしていた約束を俺は果たしに来た。それだけだ」
「それが遺品回収…?それだけ…?だとしても、ここに来るにあたってお前が妖刀のことを知らないのは不自然だろ」
「そういうことは父上に言ってくれ。この妖刀は恐らくうちの機密情報だ。…ん?待て、じゃあなんでお前が知ってるんだ…?」
「私は、覚…いや、元をたどれば津多か…いや、その知り合いの霊媒師…?とにかく、知り合いの知り合いが提供してくれたんだ」
それを聞くと天野クラマは急にこわばった表情で震え、拳を握りしめた。
「…まずいな…どこから漏れたのか知らないが、鬼丸国綱の存在が世に知られれば必ず混乱を引き起こすことになる。早く回収しなければ…!」
「ああ。天野クラマ、ここはいったん協力関係を結ぼう。鬼丸国綱をこの場所から奪取する」
「…いいだろう。まだいろいろ時になるところはあるが、一旦は妖刀のことを優先した方がよさそうだ」
かくして私たちは一時協力関係を結び、妖刀・鬼丸国綱を奪取することとなった。私たちはその後細い道を体をよじりながらなんとか進んでいった。そしてしばらくすると、先ほどまでいた場所の何倍も開けた空間が現れた。その中央には明らかに意味ありげな小さな祠が一つある。
「ゲンヨウ…あの祠…」
「ああ、恐らくあれだろうな…いや、それよりも…」
そう、私はあの祠に見覚えがあった。この祠は私の旧友である早太郎とその一族が何よりも大事にしていたものだ。どうやらそれ以前は天野クラマの先祖が管理していたらしい。
(何百年の時を経て…ようやくお前の憂いを晴らせそうだ…ここにある妖刀は、私が何とかする)
「ん?どうかしたのか?」
天野クラマは不思議そうな顔でこちらをうかがってくる。
「…いや、ただこの祠は私にも無関係じゃなくなったって話だ」
「…そうか…なら早いこと…」
そう言って天野クラマが祠に近づいた時、突然祠は赤く光りだし、地面の大きな揺れと共に強い妖力を放つ全身に赤い鎧をまとった鬼のような姿をした何かが姿を現した。
「…これは…!」
「これが葛木殿の手記に書かれていた鬼…恐らく妖刀が生み出した精霊のようなものだろう。こいつは手強い…ゲンヨウ、いけるか?」
「当然だ。ここまで来て引くわけにはいかない!」
私は妖力で練りあげた刀を、天野クラマは槍を取り出し、同時に精霊に飛びかかった。
「妖迅風・飛来!」
「八重雷!」
私の鋭い風の妖術と天野クラマの宙を舞う花のような雷の妖術が精霊に降り注がれた。精霊は直前まで何もする様子がなかったが、一瞬ぴくりと体が動いたかと思うと、次の瞬間にはその場から姿を消していた。
「消えた…!?」
「気を付けろゲンヨウ。どこから来るか分からない…」
辺りには異様な空気が立ち込める。何もいないはずの空間から誰かが見ているかのような気配がしてくる。そしてその気配は次第にまとわりつくように私たちを包み込み、それが最高潮に達したと同時に私たちの目の前には刀を振り下ろす精霊が姿を現した。
(…!?見えなかった…まずい…!)
「死影断!」
刃先が私に当たるすんでのところで天野クラマは凄まじい速さで精霊の刀を跳ねのけた。
「何してるんだ!気を抜けば死ぬぞ!」
「ああ、助かった。…さて、そろそろ反撃と行こうか…こいつが強い妖力を放ってくれているおかげで、俺の妖刀の邪気は中和されている。この場だけならこいつも使えるわけだ」
私は背中に背負っていた将門の太刀を木箱から出し、柄を妖力で練り上げた。元々放っていた邪悪な気配は精霊の強力な妖力に押しつぶされ、最適化されている。
「ゲンヨウ…それは…」
「将門の太刀の一部だ。いろいろあって手に入れた。今度話してやるから、今は見ていてくれ」
私は剣先をゆっくりと精霊の方へ向ける。
「幽羅倶」
私がそう唱えると、剣先から妖力が無数の触手のように伸び一瞬にして精霊を拘束した。
「邪流・覇竜旋・赦露!」
私は間髪入れずに精霊に近づき、脳天から妖術で八つ裂きにした。
「…これが…将門の力なのか…?」
天野クラマはそう言って唾を飲む。
「将門の本当の力はこんなもんじゃない。私はこの身で経験したんだ。あれは別格の強さだった…」
「それはいいとして、精霊は倒したわけだし、早速ブツを拝見するとしようか…」
天野クラマはそっと祠の扉を開ける。随分手入れされてなかったせいか、ぎしぎしと音をたてていて今にも崩れ落ちそうである。そうして中から現れたのは、異様な気配を放つ一本の刀だった。祠の様子とは裏腹にこちらはなぜか新品同然の輝きをしている。
「これが…鬼丸国綱…えっと、どうする…?」
「どうするって…ああ、そういうことか…俺がここに来た目的は、先祖である葛木殿の気品を回収するためだ。当然この刀も例外ではない…だが、この刀は葛木殿を殺した。そんなものを持って帰っても、縁起が悪いだのなんだの言われて結局どこかに置いてくる羽目になるに違いない。だからこいつは好きにしろ」
「え、いいのか?」
「ああ、ただし条件がある。その刀を、どうか大切にしてほしい。葛木殿が守り抜いていたものが、誰かを傷つけることが無いように」
「…ああ、任せろ。私が必ず葛木の意思を守ってみせる」
私のその言葉を聞くと、天野クラマは安堵した表情を浮かべ、そっと元来た道を戻っていった。
「…ゲンヨウ、その刀、鬼丸国綱は、天下五剣に数えられる名刀だ。天下五剣は表向きには現存するものとされているが、博物館にあるもののすべてが偽物だ。俺が知る限り、五本すべてが何者かの手に渡っている。その一本はこうしてここで守られていたわけだが、残り四本はどうなったのかわかっていない。妖刀は同じ妖刀に引かれ合うと聞く。妖刀を持つお前が、残りの天下五剣の動向を確認してみてはくれないか」
「それは構わないが…なんでわざわざそんな…」
「俺だって天下五剣のような名刀が悪用されてほしいとは思わない。妖刀が妖刀であり続けることに意味はないんだ」
「お前もそういうこと思うんだな…ああ、わかった。機会があれば動向を調べてみよう」
そうして私も天野クラマの後を追い元来た道を戻っていった。天下五剣…名前は聞いたことがある。様々な逸話が残されている五本の名刀だ。これからそれらの刀を集めてみてもいいかもしれない。
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