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昔日の赫き炎 (後編)

前回のあらすじ書いておきます

八尺様を討伐したあと(雲外鏡が)、なぜか八尺様に惚れられてしまったゲンヨウ。仕方なく寺に連れて帰るが、八尺様は高すぎる身長が災いして足を引っかけてこけてしまう。そこにはたまたまゲンヨウがいて、庇おうとした雲外鏡もろとも押しつぶされてしまった。そして気が付くとゲンヨウは過去の世界に来てしまっていた。そこは過去にゲンヨウが暮らしていたとある村で、かつての友人でありとりついていた家の家主である早太郎と出会う。ゲンヨウは早太郎にもてなされた後、部屋の至る所にあるかつての思い出に懐かしさを感じながら眠りについた。しかし深夜、目を覚ますと外は赤い炎が燃え広がっていた。早太郎いわく、これは敵軍の襲撃だという。それを聞いてゲンヨウはすべてを思い出した。この襲撃で早太郎は命を失うのだ。

 深夜、月明かりよりも強く戦火が照らしてくる中、周囲の喧騒とは裏腹に沈黙を貫く私の焦る表情と早太郎の寂しげな表情がそこにあった。



 「…早太郎…お前は、どうするんだよ」


 「僕のことは気にしないでください。逃げれたら僕も後を追います。…あなたはここの人間じゃない。あなたはここで村の人たちと一緒に骨を埋めることになるべきではない」


 「そんな…くそっ…お前はやっぱり変わってないんだな…早太郎、お前も逃げるんだ。生きてこの先もあの祠を守るんだ」


 「…!」



 早太郎は驚いた表情を浮かべた。早太郎は先祖代々受け継いでいた山中の祠を守ることを使命として持っていた。そしてこの祠は私のかつての戦友の墓でもある。ずっと昔に私たちは、共にこの祠を守り抜いていくことを誓い合ったのだ。



 (…『君』という人は…)



 その時、家の周りからも人々の悲鳴が聞こえてきた。近くで焦げ臭いにおいがする。魔の手はもうすぐそこまで来ているのだろう。



 「早太郎、話は後だ。早く逃げろ」


 「でも、ゲンヨウさんが!」


 「大丈夫だ。私はお前が思っているほど軟弱者ではない。お前がここで敵を相手にするよりも、俺が相手をした方が二人とも助かる確率が上がるんだ。だからお前は早く行け!」


 「ゲンヨウさん…くっ、わかりました。ご武運を!」



 早太郎はこちらを振り返らずに家を飛び出していった。早太郎が遠ざかっていくのを窓から見届けると、私も外へ出て戦闘態勢に入った。周囲を見渡してみると、すぐ近くの道にとてつもない数の兵士が行軍していた。度々女をさらっていく者の姿も見える。私は震える脚をなんとか動かし、軍の前に立った。



 「おい!ここから先は通すわけにはいかない!さらった人や奪った金品を置いて退却するんだ!」


 「なんだ?こいつは…変な恰好をしているが…」



 兵士の一人が私を見下すような目で馬上から見降ろしてきた。鎧の装飾から見るに相当高位の身分なのだろう。



 「…早く退けと言っている。さもなくば命はないぞ」


 「ははは…!何を言っているんだお前は。お前ひとりで何が出来るというんだ。この軍に勝てるとでも思っているのか?」



 そう言って兵士は私を嘲笑う。



 (…威勢のいいことを言ったが、本当に私にこの人数を相手にできるのだろうか…いや、やるしかない。あの時私が逃げたから早太郎は死んだんだ。私が戦うしかない…もう二度とないこの機会…助けられる可能性があるのなら、私はそれにかけてみたい…)



 私は全身に今出せる最大の妖力をみなぎらせた。そして軍全体を巨大な竜巻で包み込んだ。



 「霜之風渦シモノカザウズ!」



 竜巻は軍全体を巻き込み、重い軍馬でさえも天高く吹き飛ばした。



 「なんだ…何が起こった…!?」


 「まだまだいかせてもらうぞ。死風狩シフウガリ!」


 私は妖力を刀の形に練り上げ、凄まじい速さで残った兵士を一網打尽にした。順調に数を減らせていると思っていた時、突然硬い何かが私の刃を止めた。



 (…なんだ…これは…刀…?私の妖術が受け止められたとでもいうのか…?)



 顔を上げると、そこには見覚えのある顔があった。



 「…!お前は…将門…!?…はは、どうやらこの時代は思っていたよりも古かったようだ。あの時村を襲ったのはお前だったのか、将門!」



 そう、今私の目の前にいる馬に乗った男こそ、生前の平将門本人である。怨霊になる前なのにもかかわらず、圧倒的な威圧感を放っている。そして彼の持つ大太刀は異様な気配をまとっていた。私にはわかる。この刀にはかなりの妖力が宿っている。



 「随分と好きにしてくれたようだな…『あやかし』よ…」


 「…!お前…私の正体が…!」


 「ああ、わかるとも。お前の正体…しっかりと浮き出ている。…『ぬらりひょん』…そうだな?」


 「…!…お前、そこまで…!」


 「誰であろうと、私の野望を邪魔する者は切り伏せる。私の天下の糧となるがいい!」



 将門は凄まじい妖力を迸らせて、私を斬り付けてきた。もうだめかと思っていた時、横から何かの影が飛び込んできて私を庇った。



 「…!…早太郎…!?どうして!?」



 それはまさしく早太郎だった。あの時確かに逃がしたはずだ。なぜ戻ってきているのか…



 「ゲンヨウさん…すみません…やっぱりあなたを見捨てることなんてできませんでした…」


 「…どうして…なんで、なんでなんだ!せっかく逃がしたのに、なんで!?」


 「君がだれよりも大事だからだ!ぬらりひょん!」


 「…!!」


 「…実は…昨日の夜くらいからわかってたんだ…君にお茶を出した時、君は左手の親指と薬指を使って湯飲みを持った。そんな飲み方をするのは君くらいしかいないよ」


 「…最初から気付いていたのか…」


 「まあな…ぬらりひょん…僕からの最後のお願いだ。…生きてくれ。君には僕なんかよりも出来ることがたくさんある。だから生きて、僕のできなかった分までやりたいことをやってくれ」



 早太郎の体から大量の血が流れる。体温は徐々に冷たくなっていく。…結局最後まで結末が変わることはなかった。生きてくれという言葉も、あの時、瀕死の早太郎を見つけた時彼に言われた言葉と全く同じものだ。



 「早太郎…しっかりするんだ!…これじゃあ…何の意味もなかったじゃないか!」


 「大体のことはわかる…君は未来から来たんだろう?そして君がここに来たのにはきっと理由がある。でもそれは僕を助けることじゃない。本当の理由は、君が考えればわかるんじゃないかな…?意味がなかったかどうかはまだ分からないよ」


 「本当の理由……そうだ、今の俺の使命…目の前にいるこの男…!」



 私は早太郎を地面にそっと寝かし、将門の前に立ちはだかった。



 「無駄話は済んだか?とんだ馬鹿者だな、その男は。逃げていれば助かったというのに」


 「確かに馬鹿だったな…せっかく逃がしてやったのに…だが、無駄死にであるかどうか、お前に言う資格はない!」



 私は将門に斬りかかった。しかし将門は、人間とは思えない速さで私の斬撃をかわし、私の胴を切り裂いた。



 「ぐわあ!」


 「その程度か。妖魔とは…それとも人の姿になってから妖力が落ちたのか?」


 「くそっ…この程度、造作もない…!妖迅風・飛来!」



 私は上空から将門に妖術を撃ち込んだが、刀で軽く払われてしまった。そして将門は一気に距離を縮めて、私に斬りかかった。私は妖術で身をよじって将門の太刀筋をかわし、背後に回り込んだ。そして今出せる限界の妖力を拳に込め、妖術を叩き込んだ。



 「…今しかない…この一瞬の隙ですべてを決める!私の体などどうなっても知るか!こいつを倒せるのなら!…破竜旋はりゅうせん赦露シャロ!」



 一瞬時が止まるような感覚がした後、凄まじい轟音と共に爆風が将門を包み込んだ。将門は馬と共に地面をえぐりながら遥か先へ吹き飛ばされた。



 「…どうだ…?」



 その時、遥か彼方の闇の中で一瞬何かの光が見えたかと思うと、凄まじい速さで将門が突進してきて、私の腹部を貫いた。彼は馬に乗っていないが、馬をはるかに超える、光のような速さだ。もはや馬の必要性はあるのかとさえ感じる。



 「ぐはっ…!…将門…どうして…」


 「甘いな…ぬらりひょん…その程度でこの私が死ぬわけがないだろう…ここで死ぬがいい!」



 将門は突き刺した刃をさらに押し込んできた。


 「…何の成果もないまま終われるか!私は…絶対にあきらめない…!」



 私は将門の刀を掴み、ありったけの力を振り絞りそれを抜き取った。



 「貴様…まだそんな力が…!?」


 「ぬおおおおぁぁ!」



 私は抜き取った刀の刀身を素手で掴み、刀の半分ほどをへし折った。半分とはいえ、将門の太刀の半分は普通の刀と同じくらいはある。



 「貴様、私の刀を…!…仕方がない、貴様はもうじき死ぬだろう。よって私たちももう退却することにする」



 そう言って将門は兵士の一人に近づくと、凄まじい速さでその兵士を斬り捨て、残った馬にまたがり全軍を引き連れて退却していった。



 (…そこまでして馬に乗りたいかよ…あの兵士が可哀想なんだが…)



 私は将門に呆れつつもすぐに早太郎のことを思い出し、早太郎の方を見た。しかしもう早太郎はぴくりとも動いていない。それを見て何かが吹っ切れた私は、地面に倒れこみ空を見上げた。



(…私は…何か成果を得られたのだろうか…この時代で死んだらどうなる…?もしもこのまま死んでしまうのなら、私は何も成果が得られなかったことになってしまうが…はぁ、もういい。段々意識が遠のいていく…力が入らない…一旦死ぬことにしよう)



私は静かに目を閉じた。徐々に意識が遠のいていく。そして何も感じなくなってしまい、次に気が付いた時には、見覚えのある天井が目の前に広がっていた。…床が堅い…タイムスリップする前にいた廊下だろう。



「…あれ…私は…生きてる…?いや、死んで戻ってきたのか…よかった…」


「あっ!ゲンヨウさん、今までどこにいたんですか!?」



視界に突然覚が入り込んできた。とてもほっとしたような表情をしている。



「…えっと…なんかとても不思議な体験をした…」


「そうなんですか?まあそれはいいとしてまずは…おや…?ゲンヨウさん、手に持ってるそれは…」


「ん?」



覚に言われて手を見てみると、そこには私がへし折った将門の大太刀の一部があった。



「これ、将門の…!」


「はい?将門…?将門がどうかされたんですか?」


「えっと、実は…」



私はタイムスリップしていた時のことを覚に話した。



「なるほど…多分なんですけど、雲外鏡さんと一緒に潰されてしまったので、時空に歪みが発生してしまったのでしょう。でも…なんで今ゲンヨウさんはここにいるんですか?向こうで死んだんですよね?なのに人間の体で現代に戻ってこれている…」


「…吾輩だ」



私たちのもとに廊下の奥から八尺様に抱えられて雲外鏡が姿を現した。



「雲外鏡!…どういうことだ?」


 「あの時代には実は吾輩も行っておったのだ。お前とは違う場所にタイムスリップしてしまったが故、長い間放浪したが…偶然お前が倒れているのを見つけてな。まだかすかに脈があったので回復妖術で回復させてから吾輩の力で現代に送り届けてやったというわけだ」


 「あの時…私はまだ生きていたのか!?」


 「まあな…本当に運がいいやつだ」



 そう言って雲外鏡は鼻で笑う。しかし雲外鏡に時空を超える力があったというのは驚きだ。もうなんでもありではないか…



 「何はともあれ、ゲンヨウさんはタイムスリップ中にかなりの成果を出してくれました。この将門の刀の一部はかなり貴重な資料ですよ!ちょっと津多さんに確認してもらいます」



 覚が珍しく興奮している。どうやら私が過去で成し遂げたことは無駄ではなかったようだ。こうして、私のちょっと不思議な経験が幕を下ろした。早太郎を救うことはできなかったが、彼の犠牲は無駄にならずに済んだ。私はこれからも彼の分まで生きていく。そしていつか、将門を倒してみせる。


ここまで読んでくださりありがとうございます。少しでも面白いと感じていただけたなら幸いです!

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