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パソコン開けたら、ラブレター【短編ver】

作者: 永瀬




会社のノートパソコンを開くと、手紙が入っていた。


「なんだこりゃ」


キーボードの上にのっているのは純白の封筒で、朝の陽ざしをうけてシミ一つなく輝いている。


よく見ると透かしレースの模様がはいっており、手にとっただけで分かる上質で繊細な感触。

うむ、これはきっと高価なものにちがいない。


「夏目、遅いぞ。キャビネの上段の決算ファイルとってくれ」


すでに出社していた春木先輩に嫌味を言われるが、まだ朝の7時である。

先輩は手元の封筒を見て目を見開く。


「そ、それは退職届?!たしかにうちは残業多いし給料全然上がらないけれども!!」

「ちがいますけど、なにその悲しい事実。これ、パソコンに挟まってたんですけど心当たりないんですよね」


白い封筒をヒラヒラと振ってみせる。


「なんだ、不幸の手紙か?」

「そんな感じでもないですけど」

「まさか下駄箱にラブレター的な?!」

「このデジタルな時代にありえないでしょう。だいたいそんな心当たりもないです」


何を隠そう私は身長178センチ、立派な肩幅が自慢の骨フト系女子だ。

立てば鉄腕、座れば大仏、歩く姿は進撃の巨人とは私のことである。

目の前の春木先輩は、私とは対照的に小柄な童顔でお姉さま方のアイドル的存在だが、後輩には厳しい。


「バレーかバスケの勧誘じゃねぇの?」

「そのへんは入社したときに断りましたよ、運動神経ないし」

「じゃあ果たし状かもな。開けてみれば?」


外側には宛先も差出人の名前も書かれていないので、仕方なく封を切る。

中の便せんを開くと、可愛らしい花柄に美しい筆跡が目に飛び込む。


================


夏目さん

私事で恐縮ですが、お伝えしたいことがあり

少しお時間をいただけないでしょうか。

本日退勤後に、ロビーでお待ちしております。


================


横からのぞき込んでいた春木先輩と顔を見合わせる。

差出人の名前はないが、宛先は間違いなく私のようだ。


「なんだこれ」

「ラブレターじゃなさそうですね」

「これはあれだ、完全に呼び出しだな!」

「私なんもしてないですよ、多分。ほら、仕事しましょ!仕事!」


ワクワクしている先輩を追いやり、差出人不明の手紙をカバンの中にしまい込む。

月末が近いので、我が経理部はそれなりに忙しいのだ。


「冬崎部長、確認お願いします」


パソコンから顔をあげたのは、イケオジ部長である。

ワイルドな見た目に穏やかな人柄は、色気のオアシスとひそかな支持を集めている。


「ありがとう。金曜だし、夏目さんはそろそろ帰りなさいね」

「まだ7時ですよ」

「女性は危ないから。あとはこっちでできるから大丈夫だよ。ありがとう」

「あー、じゃあなんか必要なファイルとかないですか?私、持ってきます」


そわそわする私に、部長は目を細めて微笑む。

滅多に女性扱いされることがないので、部長のジェントルな扱いに戸惑ってしまう。

大人しく帰宅の準備をしていると、春木先輩がひょいひょい寄ってくる。


「手紙の件、どうなった」

「さぁ。もうさすがに待ってないんじゃないですか」

「よし、帰るぞ!!」

「えー、ついてくるんですか」

「後輩の安否は見届けないとな」


ニヤリと笑う春木先輩は、野次馬根性丸出しである。

エレベーターで1階におり、ロビーを見渡すが誰もいない。


「ほら、誰もいませんよ」

「なんだつまらん」

「おもしろがらないでください」


そのまま帰ろうとしたとき、背後から爽やかな声がした。


「夏目さん!」

「あ、秋山くん。おつかれ」


振り返ると、足の長い清楚なイケメンが爽やかに微笑んでいた。

営業部のエースであり我が社の王子様である秋山くんは、この私が見上げることができる貴重な逸材である。


「そういやお前、夏目と同期か。ちょうど良い、みんなで飲みに行こうぜ!」

「えっ」


先輩のご所望に王子の顔が若干引きつったような気もしたが、ここは仕方ない。お付き合いいただこう。

3人で駅前の居酒屋に入る。


「「「乾杯!!!」」」


平日の疲れにビールが沁みる。


「いやー、仕事終わりのビールはうまいな!」


酒好きな春木先輩はグラスを秒で空けると、すぐに次を頼む。

王子はその隣で、烏龍茶を飲みながら枝豆をニコニコと食べている。


「なんだ、アキは飲まないのか。家じゃいつも飲んでるだろ」

「だってハル先輩、酔っ払う気でしょう。連れて帰るのまた俺ですよね」

「あれ?二人そんなに仲いいんですか」


親しげにあだ名で呼び合う2人に驚く。


「俺たちの付き合いは長いぞ。知らんか、杉並のアキとハルと謳われた最強の食いしん坊コンビを」

「そんなぐりとぐらみたいな」

「春木先輩は中学のときから一緒で、部活の先輩なんです」

「今は一緒に住んでるしな!」

「わぉ!」

「シェアハウスですよ、ハル先輩の管理する物件に住んでるんです」

「実家が太くてすまんな。ガッハッハ」

「いちいち腹立つなこの先輩」


まさかこの騒々しい先輩と上品な王子の接点があったとは。


「アキは近所で一人暮らししてたんだが、見知らぬ女が日替わりで押しかけてきてな。部屋に戻れなくなったところを俺が拾ったんだ」

「人聞きの悪い」

「実際困っていたから助かりましたけどね」


社内でもたしかに女子社員が王子の一挙手一投足に騒いでいる。

イケメンも度が過ぎると大変そうである。


「秋山くん、春木先輩にこきつかわれてない?大丈夫?」

「僕は家事が趣味みたいなものだから」

「それパワハラ夫を支える妻の発言だよ…」

「シャツにアイロンかけたり、平日のおかず仕込んだりしてると土日終わっちゃうんだ」

「ねぇ、逃げて」


華やかな顔に似合わず、王子は地味にていねいな暮らしをしているらしい。


「夏目さんは、週末なにしてるの?」

「資格の勉強」

「なんで先輩が答えるんですか」

「こないだも不合格でな。このままだと合格まであと十年はかかるよ」

「塩ぬりこまないでください」


意地悪く笑う先輩をにらみつけ、酒をあおるとグラスが倒れ、テーブルに水をぶちまけてしまう。

慌ててタオルをカバンから取り出した拍子に、手紙が王子の足元に落ちてしまう。

クリアファイルに入った手紙をみて、王子は目を見開いた。


「これ……」

「なんだ夏目、そんな厳重に保管して。あれか?指紋採取する気だな?」

「ちがいますよ」

「じゃあなんでそんな大事そうにカバンにいれてんだよ。普通捨てるだろ」

「うーん。この手紙、封筒も便せんもきっと選んで、丁寧に書いてくれたような気がしたんですよね」

「怪文書なのに?」

「まぁ、怪文書なんですけど。」

「どういうこと?」


手紙にくぎ付けになっている王子に説明する。


「今朝、パソコンのフタ開けたら差出人不明の手紙が差し込まれててね」

「へぇ」

「心当たりがなくて」

「そんなことより、もっと有意義な話しよーぜー!」


先輩がビール片手に無茶ぶりするので、王子と顔を見合わせ苦笑する。


「えーと、唐揚げは塩派?しょうゆ派?私は塩」

「僕も塩かな。あ、唐揚げ頼もうか」

「いいね」

「この会話!!心底どうでもいい!!」

「夏目さんはパクチーは食べれる?」

「あ、好き。香り強いの好き」

「パクチー乗せ放題のタイ料理屋があるんだよ」

「だーかーらー、もっと楽しい話しようぜ!」

「先輩、この情報は大変有意義ですよ」


王子とそんな他愛もない話をしていると、お酒のペースが早かった先輩は勝手につぶれていた。



人をおんぶした人影が、ゆっくりと夜道を歩いていく。


「ハル先輩、飲み過ぎですよ」

「なぁ。あの手紙、お前だろ」

「・・・・・・」

「俺の目は誤魔化せないぞ。お前の字だった」


大きな人影は、ため息をついた。


「なんだ。夏目に告白でもする気だったか」

「分かっててなんで邪魔したんですか」

「人の幸せなんぞ見たくない」

「置いて帰ろうかな」


上にのった人影がぎゅっとしがみつく。


「つーか、なんでイマドキ手紙なんだよ!」

「連絡先知らないんですよ」

「同期だろ」

「話したことないんで」

「は?なのに告白しようとしたの、お前。距離の詰め方おかしいだろ」

「ハル先輩のせいですよ」


暗い夜でも分かるほど、赤い顔で人影は俯いた。


「アイツのどこがいいんだ」

「全部です」

「ふぅん、惚れたもんだな。まぁアイツはいい奴だよな」

「はい。彼女のこと、ずっとみてましたから」

「あーあ、つまんねぇなぁ」

「おもしろがらないでください」


そのうち背中から、穏やかな寝息が聞こえてきた。









(あー、四半期の数字まとめなきゃ。今週は忙しいな)




憂鬱な気持ちで月曜日出社する。

パソコンを開けるとまた封筒があった。


「ひっ!」


お怒りのお手紙だろうか……。

上品な藤色の封筒を恐る恐る開くと、フワリと優しい香りがした。


====================

夏目さん


先日は突然申し訳ございません。

お忙しいところ失礼しました。

少しでも息抜きできますように。


====================




筆ペン先生のような美しい筆記でつづられた手紙には、フレッシュなラベンダーが添えられていた。


(うーん、これは。とりあえず悪意はないのかな)


「はよーっす」

「おはようございます。先週は帰れました?」

「よゆー、よゆー」


春木先輩に見つかったら面倒なので、いそいで手紙を隠す。

ポケットに突っ込んだラベンダーは、ファイルを取りに立ち上るたび、ほのかに香る。


「なんか懐かしい匂い……あっトイレの芳香剤か!?」

「いい香りがするね」


すれ違った部長にも、褒められる。さすができる大人はちがう。

デリカシーの欠片もない先輩は完全無視である。

天然のハーブのおかげで、なんだかいつもより穏やかな気持ちで1週間が始まった。


それから不思議なことに、毎週月曜日になるとパソコンに手紙が挟まっていた。


『月曜日、おつかれさまです』

繁忙期に届いた淡いクリーム色の封筒には、労いの言葉とローズマリー。

グリーンの深い香りに、PCとにらめっこしていたせいで硬くなった身体が、軽くなった気がした。


『良い1日になりますように』

雨の日には、鮮やかな橙色の封筒に、励ましの言葉と甘い柑橘の香りがするカード。

低気圧でどんよりした気持ちが、明るくなった。


『庭で鳥の落とし物を拾いました』 

晴れた日には、薄紅色の封筒に、和む言葉と可憐な薔薇の花びら。

麗らかな陽ざしを集めたような柔らかな花びらに、溜まっていた疲れが癒された。


『体調くずされていませんか。爽快のおすそ分けです』

汗ばむほどの暑い日には、透かしブルーの封筒に気遣う言葉とミントの葉っぱ。

瑞々しく鼻に抜ける清涼感で、寝不足気味の頭がスッキリする。


毎週月曜日―――心のこもったメッセージと添えられた小さな贈り物が届く日を、いつしか心待ちにするようになっていた。


(きっと手紙の主は、秘密の花園に住む可憐な深窓のご令嬢に違いない)


そんな妄想でニヤニヤしていると、目ざとい春木先輩につっこまれる。


「なんだ、週明けからご機嫌だな」

「そうですか?」

「よし、俺の仕事わけてやろう」

「え」


そんな忙しくも心穏やかな日々が続いていたが、初夏に入り、手紙がパッタリと届かなくなった。


(あれ、今日もないな)


ここ2週間ほど、手紙が来ない。

そうなるとやはり、手紙の送り人の正体が気になってくる。


(社内の人ということはたしかだけど)


流麗な手書きの文字は男か女かもわからない。

今時、他の人の手書きの文字をみる機会もそうそうないので筆跡で判別もできないし、手がかりはない。

なんとなくモヤモヤしながら過ごしていると、隣の席からため息が聞こえた。


「困ったわ、営業部の人また領収書がついてない。確信犯よこれ」

「春木先輩がいたらガン詰め案件ですね。出張中でよかった、私行ってきますよ」


不備のあった書類を預かり、営業部へ向かう。

椅子にふんぞり返っていた、いかにも体育会系な男性に声をかける。


「あの、こちらの申請書類ですが、領収書が添付されていません」

「あーそれなくしちゃったから、適当に処理しといてよ!」

「その場合は紛失届と始末書を記入していただいて……」

「嫌だよ、評価下がるでしょ」

「ですが、このままでは清算できません」

「お前さぁ、美人じゃないんだから愛想くらい良く対応しろよな!デカいだけで気が利かねぇ」


悪態をつかれ、思わず顔が引き攣る。

ツムジをどついてやろうと頭上を狙っていると、背後で爽やかな声がした。


「夏目さんに失礼ですよ」

「秋山くん」

「何の領収書ですか?あれ、接待の推奨店はここじゃないですよね?」


王子は笑顔だが、冷え冷えとした怒りを感じる。美形が怒ると怖い。


「チッ、顔だけ野郎が。いいよもう!」


体育会系営業マンは、捨て台詞をはき逃亡した。


「秋山くん、ありがとう」


めずらしく眉間にしわを寄せたアンニュイな王子は、本日も髪の毛から爪の先までピカピカでスマートな立ち姿だ。きっと持って生まれたものが違うんだろう。

こんなときはなんだかすごくみすぼらしい気持ちになる。


「上に報告していい?」

「あぁ、うん。いつもは春木先輩が詰めるから未然に防げるんだけど」


責任感あふれる王子に未清算の書類を渡そうとして、ネイルすらしていない荒れた自分の指先に気づきなんとなく指を丸める。


「さっきみたいな暴言も、もしかして初めてじゃない?」


こちらを心配そうにのぞき込む王子と、目が合う。


「まぁ時々いるけど、私のことはいいよ。気にしてない」

「……夏目さんは、綺麗だよ」

「へ?」


王子がまっすぐな瞳で、そんなことを言うから。

なんだかそんな気がしてくる不思議。


「なんて、僕が言うまでもないことだよね!ご、ごめん!」


顔を赤らめて頭を下げる秋山くんは、それすらとても美しくて。

彼は、きっと見た目を褒められることが多かったんだろう。


(背が高くていいわね、モデルさんみたい)

(女の子なのにこんなに背が高くなるなんて、本当にうちの孫かしら)


褒められても貶されても、自分ではどうしようもないことを言われるのは窮屈だ。

そのことを身をもって知っている秋山くんが、励まそうとかけてくれた言葉がなんだかくすぐったくて。


「秋山くんは心まで美しいんだね」


そういうと、秋山君は少し驚いたように照れた。


「そういえば、そのスーツケースは?」

「出張帰り、冬崎部長と春木先輩も一緒に帰ってきたよ」


そういえば最近みなかったような。


「いなかったの気付かなかった?」


こちらの考えを見透かされ、苦笑される。


「沖縄でのシステム検証に半月くらいかかったんだ」

「長かったね、おつかれさま!」

「おかげで日焼けできたよ」


爽やかに笑う王子と別れ、経理部へ戻るとちょうど部長たちも帰ってきたところだった。


「冬崎部長、おかえりなさい!」

「夏目さん、悪いんだけどこれ頼める?皆さんへお土産」

「わっ、インスタで有名なやつ!さっすが部長!」


南国感のある可愛いクッキー缶に、みんなで歓声をあげる。

早速クッキー缶を開けようとすると、お店の住所が書かれた付箋がくっついているのに気づく。


(あれ、この文字―――――)


「どうだ夏目。俺がいなくて、俺のありがたみにようやく気づいたか」

「いえそれは全く。っていうか先輩ちょっと!!」


相変わらず調子のいい春木先輩を、休憩室へ引っ張っていく。


「見てください、この部長のメモ!この間の手紙の文字に似てませんか?!」

「そうかぁ?」

「この2週間手紙が届かなかった理由は、出張で不在だったから!」

「なに、お前。怪文書と文通してたの」


春木先輩は呆れているが、それどころではない。


「手紙の主は、ズバリ部長だったんですよ!あらやだ名推理……自分の洞察力が憎い……」

「あのさぁ、今回は大規模な案件だったから他にも出張してたやつ結構いるだろ」

「でもこの美文字は間違いないですよ!私、何回も読み返したんです!」

「美文字ねぁ」


先輩はため息をついて、裏紙にボールペンでサラサラと「夏目」と書く。


「ほれ」

「えっ!!」


紙に書かれた文字は、手紙の字にそっくりだ。


「どうして」

「まぁその程度の文字、誰でも書ける」

「先輩、意外に達筆だったんですね」

「俺のあふれる才能が怖いだろ?書道部だったからな」


得意げな顔の先輩に、少しがっかりする。


「そうかぁ。部長かと思ったのになー」

「どうする?手紙の主、俺かもよ?」

「違いますね。先輩とは無縁な繊細さと気遣いにあふれてます」

「おいおい、ひとり寂しい後輩のために誕生日プレゼントを買ってきた優しい先輩に向かって」


春木先輩がポケットから取り出したのは、シーサーのついたキーホルダーだ。


「ほい、おめでとさん」

「小学生男子みたいなお土産センスですけど、ありがたく頂戴しますね」

「こいつ、お前が笑っている顔に似てるだろ」


歯をむき出しにして笑うシーサーに、親近感を覚えろというのか。


「あれ、私の誕生日って先輩に言ったことありましたっけ?」

「デスクの卓上カレンダーに、デカデカと花丸で書き込んでるだろ」

「あぁ」

「今時、個人情報を大公開してるやつなんていないからな」

「記念日アピールで有給とりたかったんですけどね」

「期末に生まれたのが運の尽きだな」


そう、誕生日なのに本日も残業確定である。世知辛い。

昼休みもサッと立ち食いソバをかきこみ、席に戻る。


(あれ、月曜じゃないのに手紙……?)


自分のデスクの上に、淡い桜色の封筒と、リボンのついた紙袋が置いてある。

花火の透かし模様が入った便せんを開くと、見慣れた文字が目に飛び込んでくる。


================

夏目さん

お誕生日おめでとうございます

================


袋をひらくと、中からデイジーの花の形をしたハンドクリームが出てくる。


「かっわいー」


手のひらに転がる小さなケースにテンションが上がって、思わず口に出てしまう。

めちゃくちゃ私好みだ。

荒れた手に塗り込むと、青いリンゴの、ほのかに甘くて柔らかい香りが広がる。

ごつくて愛想のない私でも、清楚で優しい女性になれた気がする。


(これが私に似合うと思ってくれる人がいたならうれしい、かも)


結局、どこのだれかも知らない手紙の主。一体、だれなんだろう。



ソファでうたた寝をしているとお腹に、荷物が降ってくる。


「ぐえっ」

「ご主人さまのお帰りだぞ~」

「ハル先輩、ごはんできてますよ」

「ありがとな。今日、夏目の誕生日だったぞ……って、その反応は知ってたか」


ソファから立ち上がり、伸びをする。


「夏目な、手紙の送り主を冬崎部長だと思ってたぞ」

「えっ!」

「あぁ。先輩、書道部のときよく先生の筆跡真似してイタズラしてましたよね」

「手紙、楽しみにしてるみたいだったぞ。いい加減名乗りでろよ」

「でも、まだ」

「このままだと人魚姫になっちまうぞ」

「なんですかそれ」

「横から王子様をかっさらわれるやつ~」


目の前の青年はこちらを見上げ、不敵に笑った。




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